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エンタープライズSaaSを考える① ~ポジショニング編~

RightTouch代表取締役の長崎です。

カスタマーサポート市場において複数のSaaSプロダクトを展開しています。
当社プロダクトのメインターゲットは大手金融/通信/インフラ/メーカーなど、所謂エンタープライズ企業(以下、EP)です。「Day1からエンタープライズ」を掲げ、プロダクトリリース後すぐにEPに進出しました

当社のお客さま(一部抜粋)


初速良く事業成長を遂げ、公開できる情報だと1年半前の情報にはなりますが、リリース後9ヶ月でARR1億円を突破しており、現在もT2D3のペースで成長しています。

2023年2月(1年半前のもの)のプレイドの決算資料


国内において、エンタープライズど真ん中を行くSaaSがまだまだ事例が少ないので、微力ながらEP SaaSにおける事業/組織の考え方を発信していきたいと思っています。

  1. ポジショニング

  2. 新規事業開発 / プロダクト

  3. セールス

  4. 組織設計(前半 / 後半)

当記事は第一弾の「ポジショニング」についてです。
EP SaaSにとって「ポジショニング」は本当に肝で、RightTouchが初速良く成長できた要因として最も大きいのは「ポジショニング」だと断言できます。また初速だけでなく、複数事業展開による中長期的な成長可能性を鑑みても、ポジショニングは非常に重要です。


EP SaaSのポジショニングの必要条件

結論から話すと、当社はポジショニングにおいてこの3つを強く意識していました。

  1. Zero Replace:既存システムのリプレイスがほぼ発生しない

  2. First Domino:次のプロダクト領域の進出においてレバレッジが効く

  3. Case Driven Growth:顧客事例をテコにして成長する

それぞれ説明します。

※ あくまで当社のポジショニングをベースに説明します。「いや、うちの市場だと当てはまらないよ」という側面もあるかもしれないので、そこはご承知おきください!

Zero Replace

基本的にEPを攻める際、「最初」のプロダクトは既存システムのリプレイスが発生しない領域(Zero Replace)が良いです。


理由はシンプルなのですが、EPの既存システムには大量のデータが入っていたり、詳細なワークフローが定義されていたり、ゆえに複雑なカスタマイズが施されているケースが多く、リプレイスコストがめちゃくちゃ高いからです。

期待Benefit  > Replace Cost

上記が実現しないと導入が進まないのは前提として、何の実績もないスタートアップは信頼がないゆえに「期待benefit」が実態より低く見積もられるので、高い「Replace Cost」を超えるのは至難の技です。 もし仮に導入できたにしても、導入リードタイムが非常に長くなってしまい、アーリーフェーズに資金的な体力としても厳しくなってしまいます。

では「SMBで実績軽く作ってからEPに進出」という方針もありますが、プロダクトで求められる要件も違いますし、Go to Marketする上で持つべき組織能力も異なるので、EPを狙いたいなら最初から狙えるのがベストだと思います。
ここの考え方は市場特性に依存しており、Vertical性が強い市場ほど「SMB→EP」が不向きであることが多い気がします。(ここは話すと長くなるので割愛します)。

少なくともカスタマーサポート領域では、SMBとEPで顧客課題/投資度合/トレンドなどに大きな断絶がありました。ゆえに最初からEPにピンを立ててプロダクトを作っていきました。
長くなってしまいましたが、いずれにせよ「Day1からEP」を狙うのであれば、大きめのリプレイスがかからない領域からエントリーすべきだと思います。

RightTouchのケース

zero replaceでエントリーできる領域をどう見つけたのか?当社は「問い合わせ前」という領域に目をつけました。
詳細の説明は省きますが、既存のシステムは「問い合わせが来たあと」に集中していました。

各企業はお客さまの自己解決(= 問い合わせせずとも自分で問題解決できる体験)を促したいものの、現在実施している打ち手、例えばサイト上にFAQを掲載するだけ等だと不十分だと感じていました。

  • 顧客の問い合わせの「要因」はサービスやWeb側、つまり「問い合わせ前」にあるのに、その要因がサポート部門からは完全にブラックボックス

  • 仮に「要因」を把握できたとしても、その要因に合わせた改善をする仕組み/武器がサポート部門にはない

このあたりに焦点を当てて「差は問い合わせ前にある」というメッセージでプロダクトをローンチしました。「不可逆な流れが何か?」を見極めるのはポジショニングにおいて非常に重要ですが、サポートの仕事の範囲が「問い合わせ前」まで広がることに当社はBetしました。

既存システムを真正面からリプレイスしていないが、既存の「手法」を一部アップデートし、結果としてコンセプトが受け入れられ、比較的短いリードタイムでEPへの導入が進みました。

First Domino

first dominoは「中長期的な事業拡大が可能なポジショニングか?」という観点です。

前述のように”zero replace”でいけるカテゴリーを見つけられると、うまく市場にエントリーできる一方で、それだけだと概して「事業が持つTAMが十分に大きくない」ケースが多いです。ゆえにある程度高い山(SaaSだとARR100億円以上)を登ろうとすると、どこかで既存システムに対しても正面を切って戦うべき局面が来ると思います。

実際にRightTouchにおいても「問い合わせ前」の領域だけだとARRベースで数十億はいけるが、数百億は難しい、という見立てがありました。それもあって(それだけではないですが)当社もコンパウンドスタートアップ戦略を取っていて、複数プロダクトで事業を展開し、事業が持つTAMを徐々に拡大しています。
このようにまるでドミノ倒しのように事業を展開していく上で、「最初の事業でどのポジションを取る?」というところが”first domino”です。

良い”first domino”の条件として1つあるのが、事業進出しやすい「隣接点」が複数あるか?という点です。

不可逆な流れとして、顧客企業には「できるだけall in oneのプロダクトを使いたい」という欲求があります。まさにコンパウンドスタートアップがトレンドの根本にある、「SaaSのリバンドル化」の流れです。この流れに沿って顧客企業に

「御社は(最初のプロダクトに隣接する)XX領域のプロダクトは出してないんですか?」

と何度も言ってもらえる状態を作れてたら、それは良いポジショニングである可能性が高いです。

弊社も以下の図の通り、問い合わせ前に特化した「RightSupport」を初期プロダクトとして出して拡大し、1年半後に「問い合わせ前のデータ」を活用した電話体験を作る「RightConnect」をローンチしています。

実際にRightConnectは顧客企業からのニーズも非常に大きく、RightSupportを導入頂いた企業さまは軒並みRightConnectを検討しています。

また、もう1つ大事な点としては、最初のプロダクトで独自性のあるMOATを作っておけば、そのMOATとの掛け合わせで作ったプロダクトも独自性のあるものになるということです。RightConnectも、RightSupportが強みとして持つ「問い合わせ前データと顧客接点」を十二分に活かし、他社には簡単に模倣されないプロダクトになっています。

今後も強みを活かしつつ、コンパウンドスタートアップとして事業を複数展開していく予定です。繰り返しにはなりますが、EPでAll in Oneを一足飛びに作るのは難しいです。ただ理想のfirst dominoを見つけ、そこから綺麗にドミノ倒ししていけば、見える景色がどんどん変わってくると思います。

コンパウンドスタートアップにおける事業の考え方は以下記事にも書いているので、お時間ある方は読んでみてください。


Case Driven Growth

Caseとは「顧客事例」のことで、Case Driven Growthは顧客事例でレバレッジをかけて成長することを指します。
EPにおいては良い顧客は非常に重要です。実際、EPとSMBで違う特徴を持っています。

RightTouchにおけるEPリード獲得の考え方については弊社奥泉の記事を参考にしてください。

また”Case”の前に大前提として、ターゲットを小さく絞りきることが重要です。EPマーケットに向き合って事業を進めていく過程で、ターゲットど真ん中じゃない顧客から興味を持っていただくケースも多いと思います。そんなときに絞りきる。当社の目標も純粋な売上高やMRRだけでなく「ターゲットセグメントの受注数/額」に置いていました。

つまり”Case”と言っても、絞りきったターゲット企業のCaseである必要があります。
具体的にRightTouchでは、事業開始前から以下のようなターゲットセグメントを定義していました。

当社が初期に狙っていたのが右上に位置する「次世代CS型」セグメント。彼らは自己解決促進に関する取組を一定以上しつつ、単なるコストセンターではなく「顧客体験」も重視している企業群。カスタマーサポート業界の中だと、比較的最先端を走っている、いわゆるアーリーアダプターです。

EPだと顧客企業の裾野が狭いので各社の距離が近く、アーリーアダプターの声がインパクトを持ちます。当社は「次世代CS型」企業の獲得に、全営業リソースを集中させていました。

そしてカスタマーサクセスが持つ指標としても、初期は「解約率」や「NRR」ではなく「事例数」をKPIにしていました。「解約率」や「NRR」は遅行指標であるため初期指標として不向きである一方、「事例数」はPMFを試す指標としても良いし、何よりEPにおいて顧客獲得に強く効くためです。
上記のような工夫を施し「次世代CS型」企業の獲得と事例リリースに成功し、実際に当社では以下のように”Case Driven”で事業が成長しています。

  • あらゆるセミナーで、「次世代CS型」企業さまがエヴァンジェリストとなって話してくれる

  • 「次世代CS型」企業さまのコンタクトセンターに多数の企業が訪問し、RightTouchプロダクトの検討を進めてくれる

  • 「銀行業界のXX社が入れてるならそこと同じことがしたい」で次の受注につながる


第一弾の「ポジショニング」に関する投稿は以上になります。
次回はEnterprise SaaSにおける「新規事業開発」について書きたいと思います。

RightTouchはエンタープライズ市場中心に急速に事業成長しており、一緒に働ける仲間を熱烈募集しています。
Enterprise SaaSおもしろそうと思った方、RightTouch自体に興味を持ってくれた方、ざっくばらんな雑談やカジュアル面談からでも大歓迎です。


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