ライカの呪いと1938年製のレンズ
こんにちは、フォトグラファーの吉田タイスケです。久々のノートがまたライカの話ですいません(←誰に謝ってるんだ)。
↑先日ミラノでの初M型体験以来、ライカM型のカメラを使ってみたいという想いは募り、ついに先月、パリのライカストアでM10-Dをお迎えしてしまいました。 2018年にライカが発売したM型デジタルカメラで、背面にはなんと液晶がありません!
つまり、撮った写真をすぐに見られないんです。まず、この「撮っても見られない」っていうのが最高。これはフィルムカメラにも通じますが、「撮ったものを見られない」んじゃなくて、「撮ったものを今すぐ見なくてもいい」んです。すぐに画像を見たくなる欲望(苦しみ)から解放されているんです。スバラシイ!
フィルム時代は「撮ったらすぐに確認できるカメラ」というのが夢だったのに(ポラロイドは別として)、夢のデジタル時代になって「すぐに見たくない」というのもおかしな話ですが、、、。
この辺はいずれ深堀りするとして、M10-Dでさっそく試写してきましたので、写真をいくつかご覧ください。撮影地はパリ、レンズはElmar 35mm f3.5。ライカが最初に作った広角レンズで、1938年製です。果たして、86歳おじいちゃんレンズの実力は。
いやー、すごい!とても86年前のレンズとは思えない。もうこれでいいじゃん、と思えてしまいます。
続いて2013年から発売されているレンズ、Apo-Summicron M50mm f2との作例です。
こちらもまた、エルマーとは違うベクトルでいいですね。写っているものはクリアなのに、一枚水のフィルターを通して眺めているような湿度感があります。
ここから先はライカM型にどうたどり着いたのか、決して安くはない「背面液晶のないカメラ」を買うことを家人にどう説明したのか、M10-Dの魅力と今回試写に使用したレンズ二本の描写の話になります(←長いって)。お時間とご興味のある方はお付き合いください。
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ライカの呪い
そもそも自分がライカを使い出したのは、仕事の機材をミラーレス機に移行するタイミングで、「いつかは(一度は)ライカ」を思い切って実行に移したのが始まりでした。そう、それが全ての間違いでした←オイ。
このSLシリーズ(先代のSL2)からライカ病が始まって、『ブログやちょっとした日常の撮影には、やはりコンパクトカメラがよかろう、ライカQ3なら仕事のサブカメラとしても使えるしな、、』と血迷い、Q3を導入。
シチュエーションを問わず、容赦ない写りのQ3。
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SL→Qと来たら、次に控えているのはM型です。むしろ他社はもう作っていない(フルサイズは)、ライカの象徴ともいえるレンジファインダーカメラを使わずして、ライカを語るべからず。一度は使ってみたい。
しかし、「仕事にM型がどう役立つというのか」「M型で何を撮るのか」「M型でしか撮れない写真があるのか」という家人の質問に対して、ワタシは答えに窮します(←しっかりして)。
たしかに、仕事には直接役立たないかもしれない(特に撮影スピードが要求されるものには)。現在のシステムにわざわざ付け加えて持ち出すのは、機材の重量が増えるだけだし、、。
基本「ライカでしか撮れない写真というものはない」と思っています。たくさんの写真の中から「ライカで撮った写真」を区別できないのと同じことです。
では、なぜライカなのか。
家人に対してM型を買うことが仕事のモチベーションに影響するとか、プライベートでも写真に対する興味が深まるとか答えてたんですが、話しながら自分でもふと気がついたことがありました。
そうだ、そんなことじゃなくて、これは言ってみれば呪いとか恋みたいなものなんだと。
家人に向かって叫びます。始まってしまったからには終われない、このままではライカちゃんとお別れさえできない。もう行き着くところまで行くしかないんだってばよ!←は?ライカちゃん?もうわけがわからない。
つまり、M型を実際に使わないことには「ライカで撮ると何か違うんじゃないか」という呪縛から逃れられないんです。現時点でライカから他社に移ったとしても、またM型以外のライカでお茶を濁しても、「ライカ=M型」という呪いに一度でも触れた人は、M型を使わずしてその呪いを解くことはできません。そう、このノートを読んだあなたも、、(ぎゃー!)。
このM型=呪い説に納得してもらって(?)、M10-Dはウチに来ることになりました。今後はM型レンズの呪いが始まることも知らず、、、(もう助けて、ここから出して!)。
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さて、Leica M10-Dですが、実際に使っている人の情報がほとんどありません。購入前の自分のようにM10-Dを検討している人のために書いておくと、後悔することはないので、運良く良品に出逢えたら即購入してください(そもそも売っていないし)。自分も予備にもう一台欲しいくらいです(いつか修理できなくなる時のために)。今まで買ったカメラの中で、いちばん気に入っています。
巻き上げレバー風サムレストも実用的で、本革ボディの質感も他のM10シリーズとは違います。背面液晶がないことにもメリットしかなく、おかげで撮影体験はフィルムカメラと感覚的に変わりません。
どうしても必要なら、Leica Fotosアプリを通してすぐに撮影画像を確認したり、細かい設定を変えられます。M10-Dはこの「アプリとの連携」がうまくいかない、繋がらないと悪名高いんですが、いやいや、現在のファームウェアでは100%繋がりますのでご心配なく。
個人的には、フィルムカメラも撮ってスキャンしてデータ化するならそれはデジタル映像であり、デジタルカメラとの違いは「撮影体験」にしかないのではないか、と考えています。
じゃあ、「撮影体験とは何か」については、また改めていつかのnoteに書いてみたいです。
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作例で使用した二つのレンズについて。
・Elmar 35mm f3.5
「エルマーに始まり、エルマーに終わる」とはライカ使いの方々からよく聞くフレーズ。ライカが1925年に最初に市販したレンズがElmar 50mm f3.5であり、それに続いて発売された、初の広角レンズがこのElmar 35mmです。
絞り開放で撮ればハイライトにヴェールをかけたかのようで、絞れば全体がシャープに解像するオールドレンズ。86年前のレンズとは思えないほどヌケも発色もよく、良い感じに周辺光量が落ちるので、中心の主題が引き立ちます。歪曲収差(建物などの直線が歪むこと)も少なく、撮っていて気持ちがいいレンズです。それに何と言っても、それってレンズキャップ?と言いたくなるくらい薄くて小さいのが最高です。
・Apo-Summicron M50mm f2
ライカM型用の純正レンズは、エルマーとこのアポズミクロンの2本しか現在持っていません。2013年の発売当時、ライカの技術の粋を集めて作られた究極のレンズと言われ、いわゆるレンズの収差が徹底的に抑えられたレンズです。しかもたった300gほどの小ささのマニュアルレンズに。たしかに、瑞々しいまでによく写ります。上品で端正なバランス。そしてなんだろう、空気感という言葉では足りず、おおげさに言えばモノの魂まで写し出すような、深さを感じる表現をしてくれるレンズです。
しかし、「究極のレンズ」を買っておけば、もうレンズ沼とやらも縁がないだろうと思ったワタシは浅はかでした。
周辺が流れても、逆光で全体が白っぽくなっても、色が浅くても、伝えたいことが伝わるレンズが良いレンズであり、それぞれがそのレンズにしかない持ち味を持っているんです。
結局レンズもまた、使ってみなければわからないという沼。
M10-Dとの旅は始まったばかり、という話でした。
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