あの日のロケット
「これまでの人生で、一番思い出に残っている旅行は?」
そう聞かれたら、迷わずに「種子島旅行です」と答える。
2014年10月、僕はひとり、種子島にロケットの打ち上げを見に行った。
僕の好きなアニメ映画の『秒速5センチメートル』。
作中に登場する種子島やロケット打ち上げのシーンを実際に見たくて、日程を合わせ、憧れの鹿児島県・種子島へ行くことにしたのだ。
島に着いたとき、僕は自分の無鉄砲な行動を悔やむことになる。
宿から打ち上げ会場までの交通手段を用意していなかった。車はない。
すでに観光客用のシャトルバスは満席。悩んでいると巡り巡って、同じ民宿に泊まっていたお兄さんが、バイクに二人乗りで連れて行ってくれることに。
旅先の縁だ。ありがとうございました。
当日、お兄さんの背中に捕まりながら、風を切って打ち上げ会場へ向かう。快晴。
会場の雰囲気は、花火大会に似ていた。熱気に包まれ、僕もそわそわしていた。お兄さんが屋台でご飯を買ってきてくれたりした。
数十分か、一時間か待ったころ、会場に流れるアナウンスでカウントダウンが始まった。
20、19、18……
淡々と行われるカウントダウン。
皆、じーっと遠くの発射台を見ていた。
サン、ニ、イチ、ゼロ!
ゼロ!の声に一拍置いて、歓声と拍手。
遠くの発射台から、赤い光と、白い蒸気の塊が空へ昇っていくのが見えた。
太く、力強く、まっすぐに。
僕は圧倒されてしまって、ただ眺めることしかできなかった。
やがて残された蒸気の跡も、青空に少しずつ紛れて消えていく。
今でもあの時の状況と感動を言葉にしきれないことが悔しいけれど、あの日見たロケットには「生一本」という表現が似合う。
純粋で、まっすぐに。
高い青空に向かって、突き進んでいた。
あれから6年。
僕もあのロケットのようになれているだろうか。少しでも近づけているだろうか。
東京の小さな一室から青空を眺めて、時折、あの日のロケットを思い出す。
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