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ロボット劇作家の作品

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尾崎太祐が書いた脚本・小説をまとめたマガジンです。すぐ読める掌編が多めです。
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2020年11月の記事一覧

明日もいい日

11月22日。 ”今日は何の日でしょう?” 昼前に起きると、ダイニングテーブルの上にメモ置きがあった。 三連休でも彼女は早くから仕事みたいだ。接客業とカレンダーは反比例。 メモの右下には「ごはん温めてね」とも。 葉子は、ほんとに優しい。 冷蔵庫の中から、フレンチトーストを取り出し、レンジで温める。 葉子の優しさを口に運びながら、問題の答えを考える。 なにか大事な用事を忘れていただろうか。それとも記念日? やばい、何も思い出せない。 同棲生活は、こういう小さなすれ違い

忘れてもいい夢

「夢ってさー、なんですぐに忘れちゃうんだろ」 電話の向こうから、ぶつぶつ聞こえてくる。 俺に聞くなよ調べろよ、と言いたいところだが。 「寝てる間に、記憶の整理をしてるからでしょうよ」 「覚えとかなきゃいけない夢、あると思うんだよね」 「まあ、そうかなあ」 この手の話に付き合うと、たぶん長い。 なので、俺は適当に相槌を打ちながら、参考書を進める。 「印象あったのになあ」 「忘れてんじゃん」 「起きた時、輪郭は覚えてたのよー」 「忘れてもいいような夢だったんじゃないの」

あきふくかぜ

11月も折り返しを過ぎたのに、今日は暖かい。 窓を開けると、外は強い風が吹いていた。 こんな日に吹く風のことを、なんて呼ぶんだろう。 「秋風」だとちょっと味気ない。「晩秋の嵐」か、それとも―― そんなことを考えながら、ふわっと。 何年か前のこの季節にいた、きみを思い出す。 「今度の三連休、どこか行こうよ」 誘ってきたのは、きみだったはずだ。 マーマレードを乗せたトーストを器用に食べながら、僕に尋ねる。 「山登って、紅葉でも見ようか」 「なにそれ。オジサンみたい」

ショートショート『ロボット面接』

「ドウゾー」 ノックの後に聞こえた無機質な声で、僕の緊張は最高潮に達した。 都内にある大企業での最終面接。一世一代の大舞台。 緊張しすぎて、耳がおかしくなってしまったのだろうか。 「失礼いたします!」 ドアを開けて会議室に入ると、誰もいなかった。どういうことだ? 「コンニチハ」 また無機質な声。椅子が数脚、長机は一台。 よく見ると長机の上には、小さな人形が乗っていた。 「ドウゾ、オカケクダサイ」 声の主は、この人形らしい。いや、ロボットか? なんだか怪しい部屋に

ショートショート『売らない女』

はあ……疲れた。 終電を待つホームで、背後から声をかけられた。 「お兄さん、ストレス、溜めてるね?」 ヤベ、独り言漏れてたか? 振り返ると、女性が俺を見ていた。 「顔の色に出ています。休んだほうがいいよ」 自分では意識していなかったが、顔色が悪いらしい。 「お悩みがありますね?」 ぐいぐいと質問してくる女は、カタコトだった。 もしかして、そういう店のキャッチ? 疲れてるところに付け込まれるパターン? 休むってそういう隠語か? 「すみません。そういうの、大丈夫なん