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ショートショート『ロボット面接』

「ドウゾー」

ノックの後に聞こえた無機質な声で、僕の緊張は最高潮に達した。
都内にある大企業での最終面接。一世一代の大舞台。
緊張しすぎて、耳がおかしくなってしまったのだろうか。

「失礼いたします!」

ドアを開けて会議室に入ると、誰もいなかった。どういうことだ?

「コンニチハ」

また無機質な声。椅子が数脚、長机は一台。
よく見ると長机の上には、小さな人形が乗っていた。

「ドウゾ、オカケクダサイ」

声の主は、この人形らしい。いや、ロボットか?
なんだか怪しい部屋に閉じ込められた気がして、気味が悪かった。

「緊張してますネー?」
「いえ、大丈夫です……」
「ちゃんとわかりますヨ。でも、ロボット相手ですカラ、気楽にシテクダサイ」
「ありがとうございます。面接担当の方は?」
「ワタシ、人事ノロボット」

ええ!?最終面接なのに!?
今まで書類選考や一次面接をAIがサポートする例は聞いたことがあったけど、大事な最終面接をロボットに任せるなんて、世界初じゃないだろうか。

ちょっと待て。これはきっと、試されているんだ。
きっとカメラ越しに監視されていたり、録音されていたりするに違いない。
取り乱さずに、あくまで冷静に行こう。

「今日ハ、ドコカラ来タノ?」
「松……」

千葉の松戸から――そう答えようとして、気づいてしまった。
このロボット、僕の情報をあらかじめインプットしてあるんじゃないか?
正確に答えないと、嘘をついたことになってしまう。答え合わせだって一瞬だ。

「北松戸からです」
「ご苦労様デス。どのくらいカカリマシタ?」

記憶力を試された。ICカードの残高なんて、いちいち見てないよ!

「500円、くらい?」
「チガウヨ、かかった時間デス」

そっちか。

「40分、くらいですかね?」
「ソウデシタカ、結構アリマスネ」

……。

……気まずい。何か話しかけたほうがいいんだろうか。
コミュニケーション能力を試されているんだろうか。

「今日は、いい天気ですね。少し暖かくて」
「今日ハ、クモリらしいデスケド」

やってしまった。一番平凡な雑談を、ロボット相手に。曇りの日に。

再び、沈黙。

「この後、ドコか行くンデスカ?別ノトコロの面接?」
「御社が、第一志望です……!」
「ホントにィ?」

ロボットの眼が、じーっとこちらを見てくる。

「友達と飲みに……行きます……」
「リラックス、大切だよネ」

この状況が最もリラックスできない。
第一志望じゃないのが、表情でバレたりしていないだろうか。AIが怖い。
せっかくここまで頑張ったのに、まさかロボットに落とされる日が来るなんて。

「ヨシ、わかりました。コレでオシマイ」

終わった。いろんな意味で。

「何か聞きたいコト、ありますか?」
「いえ、特にありません……」

質問する気力がなかった。

「ガンバッテネ」

ご多幸をお祈りされている。

「ありがとうございました……」

ああ、帰ろう……

ガチャ。
怪しい部屋のドアが、外側から開かれた。解放された気分だ……

「あっ、ここにいらっしゃったんですねー!」

……え?

「時間になってもいらっしゃらないから、探しましたよー!面接、始めましょう!」
「今、このロボットが最終面接を……」
「あー!これ、ウチの部署にいる会話ロボットなんですよー!かわいいでしょ?」

「ガンバッテネ!」

まだ、終わってなかった。

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