NWOの狂気の由縁と、ある意味の必然と。

より

上記文抜粋
・・・・・・・・・・・

二つのグローバリズム

はやばやと斜めから見る「タッカー・カールソンのプーチンインタビュー」メモが示されているね、



ツイッター社交界が無闇に盛り上がっているなかでのこの指摘は貴重だね、その正否は保留しても。タッカー・カールソンが「グローバリスト右派の演者」ではないかとあるが、以前からJ SATO氏はカールソンの発言からときに悪いにおいを嗅いでいた、背後にCIAがいるか否かはいざ知らず。

もうひとつ、プーチンがワン・ワールドを推進するグローバリストってのは、さてどうだろう?

重要なのはグローバリズムとは大きく二つの意味があることだ。

巨悪としての世界資本主義。金融資本に裏付けられた少数の金持ちが大半の世界市民を搾取しようとするシステム。マルクスの云うベンサム主義。

(資本制生産様式において)支配しているのは、自由、平等、所有、およびベンサムだけである。Was allein hier herrscht, ist Freiheit, Gleichheit, Eigentum und Bentham. 〔・・・〕
ベンサム! なぜなら双方のいずれにとっても、問題なのは自分のことだけだからである。彼らを結びつけて一つの関係のなかに置く唯一の力は、彼らの自己利益,彼らの特別利得、彼らの私益という力だけである。
Bentham! Denn jedem von den beiden ist es nur um sich zu tun. Die einzige Macht, die sie zusammen und in ein Verhältnis bringt, ist die ihres Eigennutzes, ihres Sondervorteils, ihrer Privatinteressen.(マルクス『資本論』第1巻第2篇第4章)

功利理論[Nützlichkeitstheorie」においては、これらの大きな諸関係にたいする個々人の地位、個々の個人による目前の世界の私的搾取[Privat-Exploitation]以外には、いかなる思弁の分野も残っていなかった。この分野についてベンサムとその学派は長い道徳的省察をやった。〔・・・〕この場合、功利関係はきわめて決定的な意味をもっている。すなわち、私は他人を害することによって自分を利する(人間による人間の搾取) ということである[daß ich einem Andern Abbruch tue (exploitation de l'homme par l'homme <Ausbeutung des Menschen durch den Menschen>)](マルクス&エンゲルス『ドイツイデオロギー』「聖マックス」1846年)

他方、究極の善としての世界史的理念のグローバリズムもある。

例えばカントの世界市民社会(コスモポリタニズム)[eine weltbürgerliche Gesellschaft(cosmopolitismus)]あるいは、世界共和国[Weltrepublik]だね。

諸国家が相互に侵略し征服しようとする絶え間ない戦争から生じる困窮は、最終的には諸国家を次のことへと向かわせるにちがいない。つまり、渋々ながらですら一つの世界市民的体制[eine weltbürgerliche Verfassung]へともたらすか、あるいは、(超大国の存在が多くの場合そうであったように)普遍的な平和の状態は、それが恐るべき専制をともなうがゆえに、自由の別の側面においてよりいっそう危険であるとすれば、戦争による困窮は、諸国家を次のような状態へと強いるにちがいない。すなわち、たしかに一人の元首の下での世界市民的公共体[weltbürgerliches gemeines Wesen]ではないにしても、共同的に協定された国際法に従う連盟[Föderation]という法的状態へ、である。(カント『理論と実践に関する俗言』第三論文「国際法における理論と実践の関係について」 1793)

『永遠平和のために』ではいささか妥協して国際連盟を言い出しているが、現在の国連はまったく機能していないのは周知の通り。

(すべてを失わないためには)一つの世界共和国という積極的理念の代わりに、戦争を防止し、持続しながら絶えず拡大する連盟という消極的な代替物のみが、法を嫌う好戦的な傾向性を阻止できる[kann an die Stelle der positiven Idee einer Weltrepublik (wenn nicht alles verloren werden soll) nur das negative Surrogat eines den Krieg abwehrenden, bestehenden und sich immer ausbreitenden Bundes den Strom der rechtscheuenden, feindseligen Neigung aufhalten, doch mit beständiger Gefahr ihres Ausbruchs].(カント『永遠平和のために』1795年)

最終的にはこの世界共和国=世界市民社会は、構成的理念ではなく統整的理念だと言うようになる。

世界市民社会[eine weltbürgerliche Gesellschaft (cosmopolitismus) ]のようなそれ自身到達され得ない理念は、構成的理念[konstitutives Prinzip](人間のきわめて生き生きとした作用と反作用のまっただ中にある平和の期待)ではなくて,単に統整的理念[regulatives Prinzip]にすぎない。すなわち、それを目指す自然的性癖があるという根拠のある推測がまんざらでもないような,人類の使命としての理念を熱心に追究するたあの統整的理念にすぎないのである。
aber allgemein fortschreitenden Koalition in eine weltbürgerliche Gesellschaft (cosmopolitismus) sich von der Natur bestimmt fühlen: welche an sich unerreichbare Idee aber kein konstitutives Prinzip (der Erwartung eines mitten in. der lebhaftesten Wirkung und Gegenwirkung der Menschen bestehenden Friedens), sondern nur ein regulatives Prinzip ist: ihr als der Bestimmung des Menschengeschlechts nicht ohne gegründete Vermutung einer natürlichen Tendenz zu derselben fleißig nachzugehen.
(カント『実用的見地における人間学』1798年)

この構成的理念[konstitutives Prinzip]/統整的理念[regulatives Prinzip]についての柄谷行人の注釈を貼り付けておこう。

僕はよくいうんですが、カントが理念を、二つに分けたことが大事だと思います。彼は、構成的理念と統整的理念を、あるいは理性の構成的使用と理性の統整的使用を区別した。構成的理念とは、それによって現実に創りあげるような理念だと考えて下さい。たとえば、未来社会を設計してそれを実現する。通常、理念と呼ばれているのは、構成的理念ですね。それに対して、統整的理念というのは、けっして実現できないけれども、絶えずそれを目標として、徐々にそれに近づこうとするようなものです。カントが、「目的の国」とか「世界共和国」と呼んだものは、そのような統整的理念です。

僕はマルクスにおけるコミュニズムを、そのような統整的理念だと考えています。しかし、ロシア革命以後とくにそうですが、コミュニズムを、人間が理性的に設計し構築する社会だと考えるようになりました。それは、「構成的理念」としてのコミュニズムです。それは「理性の構成的使用」です。つまり、「理性の暴力」になる。だから、ポストモダンの哲学者は、理性の批判、理念の批判を叫んだわけです。

しかし、それは「統整的理念」とは別です。マルクスが構成的理念の類を嫌ったことは明らかです。未来について語る者は反動的だ、といっているほどですから。ただ、彼が統整的理念としての共産主義をキープしたことはまちがいないのです。それはどういうものか。たとえば、「階級が無い社会」といっても、別にまちがいではないと思います。しかし、もっと厳密にいうと、第一に、労働力商品(賃労働)がない社会、第二に、国家がない社会です。(柄谷行人「生活クラブとの対話」2009年)

統整的理念については詰め将棋の事例を示してもいる。

カントは、ある種の超越論的仮象は、実践的に有益であり、不可欠だと考えた。その場合、彼はそのような仮象を「理念」と呼んだ。ゆえに、理念とは、そもそも、仮象である。

例:詰め碁や詰め将棋では、実戦でならば解けないような問題が解ける。それは詰むということがわかっているからだ。サイバネティックスの創始者ウィーナーは、自ら参加したマンハッタン・プロジェクトで原爆を作ったあと、厳重な情報管理をしたという。それは原爆の作り方を秘密にすることではない。原爆を作ったということを秘密にすることだ。作れるということがわかれば、ドイツでも日本でもすぐにできてしまうからだ。いわば、原爆の作り方が構成的理念だとしたら、原爆を必ず作れるという考えが統整的理念である。

ある理想やデザインによって社会を強引に構成するような場合、それは理性の構成的使用であり、そのような理念は構成的理念である。しかし、現在の社会(資本=ネーション=国家)を超えてあるものを想定することは、理性の統整的使用であり、そのような理念は統整的理念である。仮象であるにもかかわらず、有益且つ不可欠なのは、統整的理念である。(第一回 長池講義 講義録 柄谷行人 2007/11/7)

この「統整的理念としての世界共和国」観点からは、プーチンがワン・ワールドを推進するグローバリストであるのは、ある意味で当然だよ。彼は日々、ロシア連邦内部で他民族との共存の仕方、その統合のあり方を考えざるを得ないポジションに20年以上いるのだから、それを世界にも適用しようとする理念としての視点を持っていない筈がない。それがコスモポリタニズムの「夢」であろうと(プーチンの理念は理性の暴力としての構成的理念ではけっしてないから気づきにくいが)。

日本は嘴の黄色い愛国者ばかりが跳梁跋扈しているから、まったくワカンネエかもしれないがね。

故郷を甘美に思うものはまだ嘴の黄色い未熟者である。あらゆる場所を故郷と感じられる者は、すでにかなりの力をたくわえた者である。だが、全世界を異郷と思う者こそ、完璧な人間である。
The person who finds his homeland sweet is a tender beginner; he to whom every soil is as his native one is already strong; but he is perfect to whom the entire world is as a foreign place.
(サン=ヴィクトルのフーゴー『ディダスカリコン(学習論)』第3巻第19章)

※追記

と記したところで実にすぐれたまとめが上がっているので貼付。

J Sato@j_sato Feb 10, 2024

タッカー・カールソンが、プーチンのインタビューから得た5つのポイント:

#1 - プーチンは西側諸国の拒絶に「非常に傷ついている」

  • NATOの要諦はロシアを封じ込めることだろう。プーチンはこれに傷ついている"

#2 - "ロシアは膨張主義国ではない"

  • そんなことを考えるのはバカだ。ロシアはすでに大きすぎる。世界最大の国土だ。人口は1億5000万人しかいない。

  • 天然資源は十分すぎるほどある。彼らは天然資源で泳いでいる。彼らの考えでは、人口が足りない。だから、彼らがポーランドを占領したいという考えは、なぜそんなことをしたいんだ?彼らは安全な国境を望んでいるだけだ。

#3 - プーチンはウクライナの和平を望んでいる可能性が高い

  • プーチンは、ウクライナの和平を望んでいることを認め、それを手放しで口にした。彼はそれを何度か口にした。繰り返しになるが、私が気づかなかったところで嘘をついているのかもしれないが、彼はそれを言い続けていた。

  • "実のところ、1年半前に和平交渉、あるいは和平交渉開始による和平交渉の一部、ある種の和解案がテーブルの上にあったという、圧倒的な証拠があるのだが、英国のボリス・ジョンソン元首相がバイデン政権に代わってそれを頓挫させ、ゼレンスキーとウクライナ政府にこの交渉に入らないよう説得した。つまり、これは既成事実のようなものだ。イスラエル人はそこにいた。彼らはそれを明らかにした。それが起きたのだ"

#4 - ロシアへのクリミア放棄要求は非常識だ

  • 米政府高官は、ロシアがクリミアを放棄することが条件の一部であると公言し、私にも言った。

  • "プーチンは、クリミアが問題になれば、核戦争も辞さないだろう"

  • "平和の条件がプーチンがクリミアを放棄することだと本気で思っているのなら、あなたはまるで狂人だ!"

#5 - 米政府による外国の政権転覆は良い結果を招いてきていない

  • "我々は変人によって運営されている。大統領とあの毒舌バカ、ビクトリア・ヌーランドだ。ああ、プーチンを退陣させるんだ。それでどうなる?"

  • カダフィを退陣させ、殺害を許したとき、リビアで何が起きた?サダムを裁いたイラクで何が起きたか?これらの国は崩壊し、二度と再建されることはなかった。

  • アフガニスタンでは、中央政府を倒したが、彼らは戻ってきた。今もタリバンが政府を運営している。指導者をやっつけるのは(米国には)とても簡単なことだが、その実績はせいぜい点々たるものだ。事態が好転するとは限らない。そして、世界最大の国土を持ち、世界最大の核兵器を持つロシアに対してそれを行うのは、それが良い考えだと思うなら、あなたは麻薬をやっているようなものだ。


@VigilantFox

Tucker Carlson’s 5 Key Takeaways from the Putin Interview:


#1 - Putin is “very wounded” by the rejection of the West.


• “That’s the whole point of NATO, I guess, is to contain Russia. And Putin is wounded by this.”


#2 - “Russia is not an expansionist power.”


• “You have to be an idiot to think that. Russia is too big already. It’s the biggest landmass in the world. They only have 150,000,000 people.”


• They’ve Got more than enough natural resources. They’re swimming in natural resources. They don’t have enough people, in their view. So, the idea that they want to take over Poland, why would you want to do that? They just want secure borders.”


#3 - Putin likely wants peace in Ukraine


• “He was willing to admit that he wants a peace deal in Ukraine and sort of give it away and just say that out loud. He said it a couple of different times. Again, maybe he’s lying in ways I didn’t perceive, but he kept saying it, and I don’t know why he would say it if he didn’t mean it.”


• “As a matter of fact, there is evidence, overwhelming, that there was a peace deal, or part of a peace deal with the beginning of peace talks, a settlement of some sort on the table a year and a half ago that the former prime minister of Great Britain, Boris Johnson, scuttled on behalf of the Biden administration and convinced Zelensky and the Ukrainian government not to enter into these talks. I mean, that’s kind of an established fact. The Israelis were there. They revealed this. That happened.”


#4 - Demands for Russia to relinquish Crimea are insane.


• “U.S. officials have said on the record and have said to me and are telling a bunch of people that part of the terms have to be Russia giving up Crimea!”


• “Putin would go to war, nuclear war, if it came down to Crimea.”


• “If you really think that a condition of peace is that Putin is going to give up Crimea, then you’re like a lunatic!”


#5 - The U.S. has a poor track record with regime change.


• “We are run by nutcases. The President and that poisonous moron Victoria Nuland. ‘Oh, we’re going to depose Putin.’ Well, then what happens?”


• “What happened in Libya when we deposed and allowed, you know, Qaddafi to be murdered? What happened in Iraq when we brought Saddam to justice? Those countries fell apart, and they never been rebuilt again.”


• “In Afghanistan, we took out the central government, and they came back. It’s still run by the Taliban. So, our track record of knocking out the leader, which is very easy to do, is spotty at best. Things don’t always get better. And to do that to Russia, the largest landmass in the world with the largest nuclear arsenal, you’re on drugs if you think that’s a good idea.”

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抜粋終わり

この「統整的理念としての世界共和国」観点からは、プーチンがワン・ワールドを推進するグローバリストであるのは、ある意味で当然だよ。

室町・戦国の乱世で、「天下統一」を唱えて実行した信長は、きっと「狂人」とされるでしょうな。
もっというと秀吉や家康は、それを押し進めたが、その発想自体が、実は日本人にはそれまでなかったのかもしれない。
「昔からの「天皇」を仰ぐ統一国家」・・・などいうけど、実は「天皇」を象徴也元首とする土人の酋長の連合体・・てのが、織豊政権以前の日本の天皇の現実だった・・。

彼は日々、ロシア連邦内部で他民族との共存の仕方、その統合のあり方を考えざるを得ないポジションに20年以上いるのだから、それを世界にも適用しようとする理念としての視点を持っていない筈がない。それがコスモポリタニズムの「夢」であろうと(プーチンの理念は理性の暴力としての構成的理念ではけっしてないから気づきにくいが)。

ワン・ワールドに抵抗するのは、別の形のワン・ワールドを想定しないと、いけない。

中華帝国が、そもそも戦国時代に七国を滅ぼして統一を目論んだが、それが果たして「悪」とだけ言いえるのか・・・

まあそう意味で、フランスとかが中華びいきで秦贔屓だろうね・・・

で、今「世界」を統一する思想なり概念なり、無いよね・・・「自由と民主主義」も、西洋が深めることなく、「強盗」に使うことしか考えなかったので、少なくともしばらくは無理だろう。

だが、「天下統一」や「世界統一」は、容易に悪い夢に替わるものだし・・・。

より

上記文抜粋
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金融資本は狂気の母

岩井克人の『貨幣論』は次の文で終わる。

……わが人類は労働市場で人間の労働力が商品として売り買いされるよりもはるか以前に、剰余価値の創出という原罪をおかしていたのである。それは、貨幣の「ない」世界から貨幣の「ある」 世界へと歴史が跳躍しための「奇跡」のときのことである。その瞬間に、この世の最初の貨幣として商品交換を媒介しはじめたモノは、たんなるモノとしての価値を上回る価値をもつことになったのである。貨幣の「ない」世界と「ある」 世界との「あいだ」から、人間の労働を介在させることなく、まさに剰余価値が生まれていたのである。 そして、その後、本物の貨幣のたんなる代わりがそれ自体で本物の貨幣になってしまうというあの小さな「奇跡」がくりかえされ、モノとしての価値を上回る貨幣の貨幣としての価値はそのたびごとに大きさを拡大していくことになる。
金属のかけらや紙の切れはしや電磁気的なパルスといったものの数にもはいらないモノが、貨幣として流通することによって日々維持しつづける貨幣としての価値モノとしての価値をはるかに上回るこの価値こそ、歴史の始原における大きな「奇跡」とその後にくりかえされた小さな「奇跡」において生みだされた剰余価値の、今ここにおける痕跡にほかならない。それは、「天賦の人権のほんとうの楽園」であるべき「流通または商品交換の場」が、すでにその誕生において剰余価値という原罪を知っていたという事実を、今ここに生きているわれわれに日々教えつづけてくれているのである。
「貨幣論」の終わりとは、あらたな「資本論」の始まりである。(岩井克人『貨幣論』第5章「危機論」1993年)

ここにある剰余価値が前回示したようにフェティッシュであり、つまりフェティッシュとはノアの洪水以前からあるんだよ、

資本主義の歴史は古い。それは「ノアの洪水以前」においてすら、商人資本主義というかたちで存在していた。
古代における商業民族は、マルクスの言葉を借りれば、「いろいろな世界のあいだの隙間にいたエピクロスの神々のように」生きていたのである。たとえばフェニキア人やギリシャ人は、地中海を舞台にして小さな船をあやつり、遠く離れた地域のあいだの商品交換を仲介していた。かれらは、村と村、都市と都市、国と国との隙間にはいりこみ、一方で安いものを他方で高く売り、 他方で安いものを一方で高く売る。二つの地域の価格の差異がそのままかれらの利潤となったのである。
価格の差異を仲介して利潤を生みだすーー古代の商業民族が発見したこの原理こそ、まさに資本主義を「現実」に動かしてきた普遍原理にほかならない。資本主義とは、その意味で、世界がひとつの価格体系によって支配される閉じたシステムでは「ない」ことをその生存の条件とすることになる。実際、古今東西、価格の差異があるところにはどこでも資本主義が介入し、そこから利潤を生みだし続けてきたのである。
そして十八世紀の後半、資本主義はイギリスの国民経済の内側に共存する二つの価格体系を発見する。ひとつは市場における労働力と商品との交換比率(実質賃金率)であり、もうひとつは生産過程における労働の商品への変換比率(労働生産性)である。生産手段から切り放されている労働者が二番目の比率からは排除されているのにたいし、生産手段を所有している資本家はこの二つの比率のあいだをあたかも遠隔地交易の商人のように行き来できることになる。もちろん、そのあいだの差異がそのまま資本家の利潤になるのである。そして、この差異は、農村からの過剰な労働力の流出によって実質賃金率が労働生産性より低く抑えられているかぎり、安定的に存在し続けるものである。
これが、産業資本主義の原理である。それは、商人資本主義といかに異質に見えようと
も、差異が利潤を生み出すという資本主義の普遍原理のひとつの形態にすぎないのである。
(岩井克人「資本主義「理念」の敗北」1990年『二十一世紀の資本主義論』所収)

ここでの利潤ってのは剰余価値なんだから、冒頭の文を別の方で言い換えただけだ。

・・・この過程の全形態は、G -W - G 'である。G' = G + ⊿ G であり、最初の額が増大したもの、増加分が加算されたものである。この、最初の価値を越える、増加分または過剰分を、私は"剰余価値"[Mehrwert (surplus value)]と呼ぶ。この独特な経過で増大した価値は、流通内において、存続するばかりでなく、その価値を変貌させ、剰余価値または自己増殖を加える。この運動こそ、貨幣の資本への変換である。

Die vollständige Form dieses Prozesses ist daher G -W - G', wo G' = G+⊿G, d.h. gleich der ursprünglich vorgeschossenen Geldsumme plus einem Inkrement. Dieses Inkrement oder den Überschuß über den ursprünglichen Wert nenne ich - Mehrwert (surplus value). Der ursprünglich vorgeschoßne Wert erhält sich daher nicht nur in der Zirkulation, sondern in ihr verändert er seine Wertgröße, setzt einen Mehrwert zu oder verwertet sich. Und diese Bewegung verwandelt ihn in Kapital. (マルクス『資本論』第一篇第二章第一節「資本の一般的形態 Die allgemeine Formel des Kapitals」)

⊿ Gっていう記号が剰余価値であり、これが商品ーー事実上は貨幣、というのは《すべての商品と関係しあう一中心としての商品、すなわち貨幣》(柄谷行人『マルクスとその可能性の中心』)だからーーに付着してんだ。

商品のフェティシズム…それは諸労働生産物が商品として生産されるや忽ちのうちに諸労働生産物に取り憑き、そして商品生産から切り離されないものである。[Dies nenne ich den Fetischismus, der den Arbeitsprodukten anklebt, sobald sie als Waren produziert werden, und der daher von der Warenproduktion unzertrennlich ist.](マルクス 『資本論』第一篇第一章第四節「商品のフェティシズム的性格とその秘密(Der Fetischcharakter der Ware und sein Geheimnis」)

貨幣フェティッシュの謎は、ただ、商品フェティッシュの謎が人目に見えるようになり人目をくらますようになったものでしかない[Das Rätsel des Geldfetischs ist daher nur das sichtbar gewordne, die Augen blendende Rätsei des Warenfetischs.] (マルクス『資本論』第一巻第ニ章「交換過程」)

この貨幣フェティッシュと商品フェティッシュの底にあるのが資本フェティッシュであり、事実上の金融資本の姿だ。

利子生み資本では、自動的フェティッシュ[automatische Fetisch]、自己増殖する価値 、貨幣を生む貨幣が完成されている。
Im zinstragenden Kapital ist daher dieser automatische Fetisch rein herausgearbeitet, der sich selbst verwertende Wert, Geld heckendes Geld〔・・・〕

ここでは資本のフェティッシュな姿態[Fetischgestalt] と資本フェティッシュ [Kapitalfetisch]の表象が完成している。我々が G - G´ で持つのは、資本の中身なき形態 、生産諸関係の至高の倒錯と物件化、すなわち、利子生み姿態・再生産過程に先立つ資本の単純な姿態である。それは、貨幣または商品が再生産と独立して、それ自身の価値を増殖する力能ーー最もまばゆい形態での資本の神秘化である。
Hier ist die Fetischgestalt des Kapitals und die Vorstellung vom Kapitalfetisch fertig. In G - G´ haben wir die begriffslose Form des Kapitals, die Verkehrung und Versachlichung der Produktionsverhältnisse in der höchsten Potenz: zinstragende Gestalt, die einfache Gestalt des Kapitals, worin es seinem eignen Reproduktionsprozeß vorausgesetzt ist; Fähigkeit des Geldes, resp. der Ware, ihren eignen Wert zu verwerten, unabhängig von der Reproduktion - die Kapitalmystifikation in der grellsten Form.
(マルクス『資本論』第三巻第二十四節)

この資本フェティッシュG - G´は、資本論2巻にも次の説明がある。

貨幣-貨幣‘ [G - G']・・・この定式自体、貨幣は貨幣として費やされるのではなく、単に前に進む、つまり資本の貨幣形態、貨幣資本に過ぎないという事実を表現している。この定式はさらに、運動を規定する自己目的が使用価値でなく、交換価値であることを表現している。 価値の貨幣姿態が価値の独立の手でつかめる現象形態であるからこそ、現実の貨幣を出発点とし終結点とする流通形態 G ... G' は、金儲けを、資本主義的生産の推進的動機を、最もはっきりと表現しているのである。生産過程は金儲けのための不可避の中間項として、必要悪としてあらわれるにすぎないのだ。 〔だから資本主義的生産様式のもとにあるすべての国民は、生産過程の媒介なしで金儲けをしようとする妄想に、周期的におそわれるのだ。〕

G - G' (…) Die Formel selbst drückt aus, daß das Geld hier nicht als Geld verausgabt, sondern nur vorgeschossen wird, also nur Geldform des Kapitals, Geldkapital ist. Sie drückt ferner aus, daß der Tauschwert, nicht der Gebrauchswert, der bestimmende Selbstzweck der Bewegung ist. Eben weil die Geldgestalt des Werts seine selbständige, handgreifliche Erscheinungsform ist, drückt die Zirkulationsform G ... G', deren Ausgangspunkt und Schlußpunkt wirkliches Geld, das Geldmachen, das treibende Motiv der kapitalistischen Produktion, am handgreiflichsten aus. Der Produktionsprozeß erscheint nur als unvermeidliches Mittelglied, als notwendiges Übel zum Behuf des Geldmachens. (Alle Nationen kapitalistischer Produktionsweise werden daher periodisch von einem Schwindel ergriffen, worin sie ohne Vermittlung des Produktionsprozesses das Geldmachen vollziehen wollen.)
(マルクス『資本論』第二巻第一篇第一章第四節)

この生産過程の媒介なしの金儲け妄想としての資本フェティッシュの典型が、利子生み資本としての金融資本だ。

利子生み資本全般はすべての狂気の形式の母である[Das zinstragende Kapital überhaupt die Mutter aller verrückten Formen] (マルクス『資本論』第3巻第24節)

というわけで現在ならユダヤ資本に代表される金融資本は狂気の母だよ、仮にG -W - G 'という形で、Wという商品が媒介されていてもこの商品はなんでもいいんだ。


商品の項には現在なら、軍産複合体における武器、医産複合体におけるワクチンなる生物兵器、環境産業複合体における気象危機「兵器」、食産複合体における昆虫「兵器」等々が入るな。

この2020年代に入って歴然と露顕したのはこれら官僚産業複合体のSF戦争機械だね。

問題は、戦争機械がいかに戦争を現実化するかということよりも、国家装置がいかに戦争を所有(盗用)するかということである [La question est donc moins celle de la réalisation de la guerre que de l'appropriation de la machine de guerre. C'est en même temps que l'appareil d'Etat s’approprie la machine de guerre]〔・・・〕

国家戦争を総力戦にする要因は資本主義と密接に関係している「les facteurs qui font de la guerre d'Etat une guerre totale sont étroitement liés au capitalisme ]。

現在の状況は絶望的である。世界的規模の戦争機械がまるでSFのようにますます強力に構成されている[Sans doute la situation actuelle est-elle désespérante. On a vu la machine de guerre mondiale se constituer de plus en plus fort, comme dans un récit de science-fiction ;](ドゥルーズ &ガタリ『千のプラトー』「遊牧論あるいは戦争機械』1980年)

1990年以降に知的教養を積んだマルクスの死以降の世代はかなりのインテリでもマルクスのマの字も掠っていない連中がほとんどだがね、

マルクスは間違っていたなどという主張を耳にする時、私には人が何を言いたいのか理解できない。マルクスは終わったなどと聞く時はなおさらだ。現在急を要する仕事は、世界市場とは何なのか、その変化は何なのかを分析することである。そのためにはマルクスにもう一度立ち返らなければならない。

Je ne comprends pas ce que les gens veulent dire quand ils prétendent que Marx s'est trompé. Et encore moins quand on dit que Marx est mort. Il y a des tâches urgentes aujourd'hui: il nous faut analyser ce qu'est le marché mondial, quelles sont ses transformations. Et pour ça, il faut passer par Marx:(ドゥルーズ「思い出すこと」死の2年前のインタビュー、1993年)

とはいえいまさらキミたちにマルクス読めってのはムリだろうからな、時間がかかって。いや30年以上読んでるはずのマルクス学者だってまともなのはほんのひと握りだよ。とすれば日本語なら柄谷行人と岩井克人しかないね。この両者は立場の違いが大きくあって、どちらも資本主義を放っておくととんでもないことになるという面では同じだが、前者は資本主義ーー資本国家ネーションの結婚としての資本主義ーーの終わらせ方を模索、後者は資本主義は終わらない、貨幣システムや法人システム等の変革の模索だ。そうだな、この二人だったら10年ぐらい首を突っ込んだらイケルんじゃないかね(?)、でも「ごく標準的な」頭でだぜ、柄谷曰くの《知的に無惨な、そしてそのことに気づかないほどに無惨な状態に置かれている》日本の学者アタマだったらゼーンゼンだめさ・・・実際、蚊居肢子の「標準的な」頭で日本のマルクス主義者の論文読むと、殴ってやりたくなるヤツばかりだからな。ま、21世紀という知的退行の世紀のごくふつうな「知的に無惨な」頭の人は柄谷も岩井もアキラメタほうがいいよ。

私は歴史の終焉ではなく、歴史の退行を、21世紀に見る。そして21世紀は2001年でなく、1990年にすでに始まっていた。科学の進歩は思ったほどの比重ではない。科学の果実は大衆化したが、その内容はブラック・ボックスになった。ただ使うだけなら石器時代と変わらない。(中井久夫「親密性と安全性と家計の共有性と」初出2000年『時のしずく』所収)

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抜粋終わり

結局、大国は、現時点においての、「世界のなんからの秩序」を求める。

それが「覇権」であったりするし、「統整的理念」だったりする。

始皇帝が、中華を統一して「統整的理念」ができたので、元やくざの劉邦が、再統一を果たした。

考えりゃ、幕末維新なら、江戸や信長・秀吉以前なら、なんから東国で幕府は自立し、なんら「徳川東国皇帝」に成っていたかもしれない。

それができなかったのが「統整的理念」で「日本は一つ」になっていたから。

で、果たして、「自由・民主主義」で、世界を統合できるか・・・。否でしょう。少なくとも、それを呼号してきた、西欧・アメリカは、宗教や民族の違いで殺しまくり差別してきたのだから、「自由・民主主義」でするのは、ほぼ不可能になった。

そもそもプーチンや習近平が、そこまでの「統整的理念」を出しては無い。

少なくとも、プーチンや習近平の考えの「良質」なところは、少なくとも、欧米のやり口の「一つの考えを押し付ける」のではなく「多宗旨で共存しましょう。むろん殺し合うのなら叩き潰すけど」って江戸幕府までの「神仏習合の多宗旨の共存」と一緒です。

私は、現状では、プーチン・習近平のラインを押すが、

だが、「天下統一」ならぬ「世界統一」は、容易に悪い夢に替わる・・・。

のだし、欧米文明の「背乗り・すり替え」で、いつなにが化け物になるかもしれない。

もう少しいうと、西欧の「自由・民主主義」も「まっとうな熱意」も有ったかもしれない。でもその思想・宗教に「オカシナ」ところがあったのが、毒となり、それで「民主主義・人権」は河豚となり統合させる概念では無くなった・・・・・。

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