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【観劇レポ】運命とは何か ミュージカル「キングアーサー」

観劇レポ。ミュージカル「キングアーサー」兵庫公演です。

アーサー王伝説をモチーフに、運命と人の営みを描いた作品。日本では今回が初演となります。

キャストはこちら。撮影時、キャスボが豪華仕様やなと思いました。カッコいい・・・!

写真付きキャスボって貴重じゃない?

音楽とダンス

フレンチロックミュージカルということで、バッチバチにカッコいい。音楽は生演奏じゃなかった気がする(少なくともオケピはなかった)けど、大迫力のドラマチックでエッジの利いた音楽。どこかケルティックな感じもあって、西洋ファンタジーにピッタリな雰囲気でした。

そしてその音楽を彩る豪華キャスト。ミュージカルだから当たり前と言われるかもしれませんが、単純に歌が「うまい」というか、声に強さがあるキャストが多い気がします。バックミュージックに負けない声の芯とでも言いましょうか。これだけ歌がうまいキャストが揃えばそりゃあ大満足ですよ。

ロックミュージカルということでダンスもロック。中世の西洋ファンタジーなので殺陣もありますが殺陣はもちろん、ダンス振り付けもバッチバチにカッコいい。動物的なしなやかさ、機械的なメリハリ、そして大人数での一糸乱れぬ空気感。
パンフレットを見て納得したのですが、今回のアンサンブルさんたちはボディパフォーマンスに長けた方が多く、人数も多めなのでステージの迫力が非常に大きかった。「♪報いを受けなさい」とか鳥肌が立ちました。

ちなみに。殺陣とか剣捌きにカッコよさを感じるあたり、僕も男の子なんやなと思いました。ポルノグラフィティもミュージカルも、女性ファンが多いのでね…。

キャラクターとキャスト

様々なパターンのあるアーサー王伝説の中から、アーサーが王になり、王としての決意を抱くに至るまでを描いたお話。

主人公・アーサーは浦井健治さん。実は浦井さんを拝見するの初めてなんです。井上芳雄・山崎育三郎と並ぶミュージカル界のプリンス。王道主人公にピッタリなお声とスタイル。威厳のある王というより、どこか庶民的で普通っぽさを感じられるキャラクターづくりが魅力的でした。ちなみに他のキャラがWキャストも多い中で、主人公なのにシングルキャスト。おつかれさまです…。

普通の青年から突然王になるという序盤。そこから少しずつ王としての振る舞いや決断をしていきながら成長する過程が、この物語の主軸。こういう物語の中で、主人公っぽい浦井さんが主人公を演じているのに、なぜかこの主軸が前に出すぎていないように感じられたのが不思議な感じでした。これは僕が陰のあるキャラクターに惹かれがち(今回で言うとモルガンやメレアガン)というのもあるかもしれない。
ラストシーンでの振る舞いは、序盤とはすっかり変わって、清濁併せのんだうえで王という運命を切り開く姿が見え、醸す雰囲気も全く違いました。まさにストーリーに合わせて纏う空気を換えたような感じ。

復讐に燃えるモルガンは安蘭けいさん。2019年の「ビリー・エリオット」以来。運命への復讐に燃えながらどこか余裕のある怪しい雰囲気は魔女。そしてパワフルな歌。低音が映える女優さんですよね。

アーサーの父の不義を恨み、関係者全員の不幸を願う物語の悪役。ヴィランらしいキャラクターではありますが、「運命」という大きなテーマの中では、この物語のもう一人の主人公なのかなと感じました。最後のシーンでアーサーに諭されて去っていく時、恨みと呪いを抱え続けるか、恨みの根源にある愛の方に目を向けるか、彼女の答えは明確にされず、僕は前者から徐々に後者に移り変わっていくのかなと思いますが、どうでしょう。

闇堕ちしていくメレアガンはWキャスト・伊礼彼方さん。彼方さんの歌は、まさに音楽に抱かれるよう。ゾクゾクする。耳が妊娠するかと思った(は?)。圧倒的声量と音域。高音ファルセットですら爆音。ロックな音楽との相性も良く、メレアガンの場面はライヴかな?という感じでした。

努力と才能、そして人望もあった彼が、なぜ聖剣エクスカリバーに選ばれなかったのか。真っ当に生きてきたのに、ぽっと出のアーサーに王の座を横取りされ、闇堕ちしていく。真面目な人ほど闇堕ちした時は恐ろしいもの。結局モルガンに利用されて散ってしまいますが、「真っ当に生きることが必ずしも幸せとは限らない」というのが、人の世の遣る瀬無いところ。
ちなみにメレアガンは、原典には出てこないキャラクターだそうです。

秘密の愛に揺れる王妃グィネヴィアはWキャスト・宮澤佐江さん。ポップな歌い方やなと感じていたところ、元AKBの方なんですね。若手の女優さんやとばかり思っていました。歌ももちろんですが、演技もいいなと思いました。ラストシーンの潔さは凛としていてかっこよかったです。

グィネヴィアは中々感情移入のしづらいキャラクター。見ようによってはただの不倫女になってしまいますが、でも世の中にごまんとあふれるニュースを見ていると、これも人の営みとしてあることやんなあとも思います。

湖の騎士・ランスロットはWキャスト・太田基裕さん。アーサーに憧れる名高い騎士で好青年。白銀の衣装もあいまって、アーサー王よりプリンス。その爽やかさと実直さ故、アーサーの信頼高い騎士でありがら、王妃グネヴィアと不倫関係になってしまう。

キッラキラの王子様という感じで、アーサーへの忠誠とグネヴィアへの恋心との間で揺れ動く。2幕中盤の「♪Wake up」は不気味にファンシーな楽曲の中、グネヴィアへの想いを選択して聖杯捜索を打ち切るランスロットの行く末を暗示するようで、作品を通して一番気味が悪いシーンでした。幕引きも爽やかで終始キラキラ王子。この役出来るのアクターは、きっと限られますね…。
今回の座席は1階の後方だったのですが、ランスロット登場のシーンでオペラグラスを掲げた人が多い当たり、太田くんの人気がうかがえる。

運命の元にアーサーを導く魔導士・マーリンは石川禅さん。禅さんも僕お初なのです。安定感のある壮大なお声が魔導士というキャラクターとマッチしていたと思います。ケイとの掛け合いもかわいい。

ある意味で諸悪の根源はマーリンとも解釈できるストーリーの中、人なのか人でないのか、不思議な立ち位置にいるキャラクター。アーサーが割とすんなりマーリンの過ちを許したのは、アーサーにそう思わせる何かがマーリンにも感じられたのかなと。
1幕開演直後、客席端から登場されたのはびっくりしました。「エリザベート」の婚礼のシーンもそうでしたが、客席演出も復活してきましたね。

アーサーの義兄であるケイ(東山光明さん)、忠臣ガウェイン(小林亮太さん)は、それぞれ作品の緩と急を担う臣下というイメージ。クライマックスに向けてダークになっていくストーリーの中で、三枚目であるケイは本当に癒し。一方でガウェインは騎士団をまとめ上げる役ということもあって、殺陣シーンを含め作品のカッコいい場面を引き締めてくれる。

アーサーが名前だけでなく、実の王になっていく過程を支える二人。今回はどうしてもアーサーやメレアガン、モルガンに注視しがちだったのですが、再演等あるならこのお二人の様子もしっかり見てみたい。二人の様子から見えるアーサー王が、観客からも見える気がします。
余談ですが、ランスロットやガウェインは鎧を着ているので、お辞儀ができないんですね。カーテンコールで気付きました。

アンサンブルさんたちは、前述の通りパフォーマンスが素晴らしく、舞台の空気を一気に変える力を持っています。中々に動き回るので本当にすごい。前々から僕はアンサンブルの作る雰囲気が好きと言い続けていますが、今回のキングアーサーカンパニーを見て改めて思いました。

最後に鹿。作品を知らない人はなんのこっちゃだと思うのですが、マーリンの使い見たいな感じで出てくる2体。セリフも歌もないですが、二人がいることで一気にファンタージ感が増す。アーサーの傍に佇む妖精のような存在。

鹿は工藤広夢さん。「マタ・ハリ」のピエールで拝見して以来気になっている俳優さんです。立派な角の装飾があるわけでもなく、髪の毛が角っぽくなっているだけで、比較的シンプルな衣装ですが、後ろ足を蹴る仕草など動きが動物のそれなんですよ。ちょっと感動しちゃった。奈良公園にいる鹿じゃなくて、神聖な神の使いの鹿という雰囲気も感じさせる、神秘的な身体表現です。
狼は長澤風海さん。アーサーの剣・エクスカリバーを携える使い。もうね、立ち姿が狼。まさに一匹狼です俺、みたいな雰囲気がムンムンに出てる。四足歩行じゃないのに狼を感じられるってすごいですよね。だって姿が狼やもん(しつこい)。

まとめ

今年の観劇は、オペラ座の怪人、エリザベート(配信)と、何度か見たことのある作品から始まったので、実質初見の作品はキングアーサーが最初でした。

正直、期待していた以上に良かったです。日本初演ということもありますが、もっと大きな劇場でやっても良かったのに、と思うくらい良かった。

ハッピーエンド…とは言えないストーリーですが、人生における選択とその結果にどう向き合うか、普遍的なテーマを扱った作品だと感じました。そして歌、音楽、ダンス、アクロバットに殺陣と、エンタメとしてのミュージカルの髄も凝縮された作品じゃないかなと思います。

題材は有名ですし、歌とストレートプレイのバランスも程よいし、ダンサブルで煽情的なはっきりした楽曲も多いので、ミュージカルの入り口にもオススメ

ちょうどこのnoteをまとめている最中、3月終わりに配信があるとの情報解禁がありました。もう1回観れるやん!Wキャストのもう片方の組み合わせを見るか、もう一度同じキャストで見るか、両方見るか…。

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