見出し画像

【観劇レポ】ありたい姿に魂燃やす ミュージカル「ラ・マンチャの男」

観劇レポ遠征編・ミュージカル「ラ・マンチャの男」横須賀公演です。

松本白鸚が半世紀以上演じ続けてきた「ラ・マンチャ」。昨年「ファイナル公演」と銘打って公演されましたが、流行り病のせいで多くの公演が中止に。きっと、これでは終われない…と誰もが思ったことでしょう。

今回の公演は「奇跡」。ファイナル公演の復活により、今回の公演が決定。白鸚さんは御年80歳。これを奇跡と呼ばず何と呼ぶのでしょうか。

というわけで、日帰り弾丸で遠征観劇。チケットは4階席ではありますが、縦に長い劇場なので見切れもほぼなく、楽しめました。

舞台人の生き様

80歳という年齢にして、演出と主役を演じる松本白鸚。半世紀以上に亘り演じ続けたこのラ・マンチャの男。4階席ではありましたが、その表情や情熱はダイレクトに伝わってきました。

セリフ(滑舌)はさすがにやや覚束なく感じるところもあり、ところどころ聞き取れないところもありましたが、声のハリやボリュームは、年齢なんて感じさせない、舞台に立ち続ける俳優の勇ましいお姿。歌舞伎も含め、常に舞台に生きてきた人の生き様そのものでした。

主人公は「己を名士ドン・キホーテと信じる田舎の老紳士キハーナを演じるセルバンテス」と、実質3人の人格を演じる役どころ。この3キャラクターは別人ながら重なるところのあるものですが、そこに松本白鸚という舞台人が重なることで、筆舌しがたい無二の存在に見えました。

半世紀以上、ドン・キホーテを演じているのですから、もはや白鸚さんとドン・キホーテは不可分なのかもしれません。

完全に余談ですが、ちょうど観劇の少し前に、祖母が天国へ旅立ちました。白鸚さんと同じ傘寿の年齢でした。「この年齢なのに舞台できてすごい!」と、年齢ばかりを称賛の理由にするのは違うと思うのですが、そんな事情もあってなおさら、自分の人生に魂を燃やし続ける姿に心打たれたのかもしれません。

白鸚とともに魂燃やすキャストたち

白鸚を支えるのは従者サンチョ・駒田一、キハーナが姫と慕う娼婦アルドンザの松たか子。歌唱力が半端ないこのお二人、白鸚を「支える」という気持ちもあるとともに、白鸚とともに舞台で命燃やすような熱演。 

駒田さんは何度も別作品で拝見してますが、こういうコミカルな役はピッタリ。コミカルなのに歌もめちゃうまいという反則名優。ストーリー中でもそうですが、カーテンコールで白鸚さんを支え、傍に侍る姿は、役と駒田さん自身の両方の心を感じる姿でした。

松さんは初めての観劇でしたが、劇場いっぱいに美しい声と激情を響かせる美声は圧巻。歌はアナ雪のエルサのイメージが強かったですが、ハイトーンはもちろん、中音域の響きがホントに圧倒されて、4階席でも震えました。さすが、ディズニー映画の吹き替えで主役をやる方なだけはあるというもの。歌舞伎ファンからすると、親子共演というのもグッとくるものがあるでしょうね。

他のキャスト陣は、今回初めて拝見する方が多かったですが、結構ベテランに近いメンバーが多いのではないでしょうか。白鸚さんに続く最古参メンバーで宿の主人を演じ続ける上條さんも、白鸚さんと同じくキャストに支えられながら舞台に立っておられました。

カーテンコールは1回のみでしたが、カーテンコールは出入りで忙しないので、体力的に何回もするのは難しいのでしょうね。

音楽

表題曲でもある「ラ・マンチャの男」を始め、スペインを感じる情熱的なサウンドが特徴的。この歌自体は狂気の歌とも捉えられますが、徐々に高まってサビで突き上げるサウンドに興奮感を覚える曲。

アルドンザの「同じことさ」「アルドンザ」なんかは松さんの歌唱力も相まって迫力満点。ミュージカルの醍醐味と言っても過言ではない、感情が劇場の四方に撒き散らされるような感じ。

ストレートプレイも多い今作ですが、刑の宣告を待つだけの囚人たちが、セルバンテスの脚本を通じて、「何か」が変わったような雰囲気を感じるラストシーンは、心に迫るものがありました。

あるべき姿

ストーリーは、主人公セルバンテスが囚人たちを巻き込んで、自身が作った脚本を演じるというもの。現実と想像、さらに物語の中の妄想も混じっており、なかなか初見では理解が難しいお話です。

空想に生き、気狂いだと言われてもなお、自分のあるべき姿を貫こうとするキハーナ(セルバンテス)の姿は、滑稽でしょうか。
鏡の魔術で真実の自分の姿を見て、希望も熱意もなくしたキハーナの姿は、哀れでしょうか。

現実から逃げてばかりではいけませんが、現実と向き合うばかりでもいけない。自分のあるべき姿、ありたい姿を、ある意味演じ続けることも、あり姿のために苦悩や荒波を越えようとする様も、清らかで美しい生き様なのではないでしょうか。

伝説を観た

千穐楽ではありませんが、ファイナル公演ということで、カテコで「応援ありがとうございました」というメッセージ看板が吊るされました。ラ・マンチャ自体は誰かにバトンを受け継いでいかねばならない作品だと思うので、ぜひ次のドン・キホーテに現れてほしいです。

そして半世紀以上に亘ってドン・キホーテを演じ続けた松本白鸚という舞台人の姿は、今後もラ・マンチャを公演するたびに語られる…いや、観た僕らが語り継がないといけません。

おまけ:遠征

これっきり、これっきり、もう、これっきりですか?にはしたくない、ここは横須賀。2023年初の遠征は、初めて横須賀に訪れました。

雨のうえに、日帰りだったことや、この日に身内の不幸の報せがあったりと、心落ち着けて羽根を伸ばす旅とはできなかったのですが、米軍基地の膝下ということでアメリカンな町並みを感じる港町は海外気分を味わえました。

余談ですが、初めて生の米軍人を見ました。

観劇前に、港町なので海軍カレーを

追い打ちをかけるように、帰りの新幹線が人身事故でしばらく止まるという悲劇もありましたが、次回は横浜も含め、ゆっくり観光したいなと思います。また来るよ、神奈川。


というわけで、2023年初の観劇遠征「ラ・マンチャの男」でした。観劇ラッシュの中、伝説のファイナルを観れてよかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?