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【観劇レポ】鮮やかな闇 ミュージカル「ファントム」

ミュージカル観劇レポ「ファントム」大阪公演です。

ガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」を原作としたこの作品。「オペラ座の怪人」と言えば、日本では劇団四季がやっているミュージカルが有名で、人物や設定、展開なども一部共通しますが、基本的には同原作の別作品。
数奇な運命か、2023年7月現在大阪・梅田の西側では四季のオペラ座、東側の梅田芸術劇場ではこの「ファントム」が上演され、2つのオペラ座が出現しております。

四季のオペラ座が大好きな僕ですが、こちらのオペラ座もしっかりチェックしておかなければ。ちなみにこちらのオペラ座は、宝塚でも上演されている作品です。

公演日はイープラスの貸切公演で、1階センター3列目で観劇しました。「ジキル&ハイド」しかり「マリー・キュリー」しかり、今年の僕のチケ運はどうかしている…。感謝永遠に…。

人間・ファントム

四季のオペラ座とあえて比べると、こちらの作品ではファントムの人間味によりフォーカスされています。ヒロインであるクリスティーヌとの関係だけでなく、母や父の愛もあるのがポイント。四季の方は「母にも嫌い抜かれ」ていて、それがまた哀しさを増大させるのですが、こちらはこちらで愛を感じるがゆえの辛さもあります。

今回の公演でファントムを演じるのは城田優。ちなみに本作の演出、そしてシャンドン伯爵役も演じる「1人3役」。凡人にはちょっと意味が分からない。
そんな離れ業はさておき、彼のファントムは純真な子どもそのもの。大きな体、整ったお召し物が、より彼の内面の子どもっぽさを増幅させるような気もします。あどけなさを感じる喋り方、ジェットコースターのような感情の起伏、そして一方で豊かで彩のある声。「オペラ座のファントム」であると同時に、「人間エリック」であることに説得力を感じます。最期も「人間として」最期を迎えるというのが明確で、どこかファンタジックなフィナーレを思わせる四季版怪人とは一線を画す存在です。

一方で、美しさ、とりわけ音楽に心惹かれるのは四季版と共通。仮面の下の醜さゆえの美しさへの憧れ。そして最大にしてただ一つの大きな闇である素顔を、クリスティーヌに見せた時の反応を目の当たりにしての絶望。後にエリックは「見せた自分も悪い」と言っていますが、いや、これは100%クリスティーヌに非があると思いますよ、僕は。
自身最大のコンプレックスを、いわば心の奥を見せたのにこの仕打ち。歌と愛を与えたクリスティーヌがラウルに取られて怒り狂う怪人も哀しく辛いですが、このエリックは同情とか共感じゃなくただただ可哀そうで心引き裂かれる。この城田エリックの慟哭シーン、筆舌しがたい迫力でした。そして凶行に走る彼の姿もまた、人間の闇の部分を体現するのだと思います。

エリックは地下で暮らしていますが、元支配人のゲラール(岡田浩暉さん)が、それはもうがっつりサポートして育てています。後に彼はエリックの父だと分かり、そしてエリックはとうにそれを気付いていたということで、父と子の愛が描かれる。愛の形は違えど、ゲラールもまたエリックを愛していたことは事実であり、それゆえに最後の引き金を彼が引く。親子だと判明する前から、二人のやり取りはまさに親子喧嘩のような印象を持たせていて、ストーリーの演出もわかりやすかったです。
ステージと席が近かったのでまじまじと見てたのですが、岡田さんの憂いを帯びた表情が、めちゃくちゃ渋かった。終盤のエリックとのシーンも涙なしには観られないところです。

夢追うクリスティーヌ

真彩希帆ちゃん演じるクリスティーヌ。四季版クリスは「どこか夢をみているような」不思議ちゃん要素がありましたが、こちらはオペラ座の舞台で歌うことを本当に夢見る少女。劇中歌「home」は本作の代表曲ですが、夢を追う美しさと健気さを感じるクリスティーヌ像です。

四季版ではエリックと父ではなく、クリスと父の方がフォーカスされているという点で違いがあって面白いなと感じました。だからこそかもしれませんが、父に重ねて怪人を慕ってしまう四季クリスと、純粋に音楽で繋がりを感じるこちらのクリスと、純粋さの種類が違うようにも感じます。

またクリス役がエリックの母・ベラドーヴァも演じるため、より彼女の母性、無償の愛の在り方を感じさせます。ベラドーヴァとクリスが違うのは、エリックの素顔を始めてみた瞬間から受け入れられるか否か。クリスも最終的には彼の素顔を受け入れられる(ように見えた)のですが、ここが無償の愛たる生みの母との違いなのかなあ。エリックの生い立ちを聞いたうえでの「お顔を見せて」は、同情や哀れみも含まれているような気がする。

希帆ちゃんは直近「ジキル&ハイド」でもお見かけしたばかりですが、本当にまあお声がきれいでお肌もきれいで…。微笑みながら歌う姿はまさに天使、いやティターニア。そしてベラドーヴァを演じるときの、特に出産のシーンでのダンスは超絶かっこよかった。え、何このギャップ尊い。

同じく夢を追うという点では、本作のヒール役であるカルロッタ(皆本麻帆さん)もまた、夢を追う人であり、クリスティーヌと対比的。やり方を間違えただけで、彼女もまた夢を追い続けた人だと思うと、やってることは中々に非道ではありますが、夫婦の様子を含めてどこか憎めない。
四季のカルロッタは(怪人から演技を真面目にやれと言われるものの)名実ともに一応プリマドンナですが、本作のカルロッタはとてもプリマドンナと言うには及ばない、残念な声の持ち主です。あえて歌を下手に歌うって案外難しいし、結構喉を酷使する発声の気がしますが…プロってすごいですね…。

ラウルとシャンドン

オペラ座のパトロンであり、クリスティーヌの恋のお相手である存在。四季ではラウル子爵、本作ではシャンドン伯爵(大野拓朗さん)と役どころが少し異なります。クリスティーヌと幼馴染でもないです。

ラウルは「ミュージカル界の三大ダメ男」とも揶揄されるところがあり、やることなすこと裏目に出てしまうイメージですが、クリスとラウルの仲が深まれば深まるほどに怪人を狂わせる、というポイントがあります。
本作ではシャンドンとクリスの恋模様によって、エリックは嫉妬というより諦めや切なさを感じる印象です。四季では怒り狂ってシャンデリア落としてますからね。エリックはバラを一輪置いて帰るのですから…え、切な。

エリックの内気さや陰りを、シャンドンの爽やかさや気品、オトナの余裕が間接的に際立たせるような印象を受けました。シャンドンが大人であればあるほどに、エリックの子どもらしさも際立ちますね。

四季ラウルと比べると、物語の内容上、出番はそれほど多くはない印象ですが、クリスティーヌとのキスシーンは「長くない?」と思うくらい濃かった。エリックは嫉妬しなくても僕が嫉妬するわ。希帆ちゃんと大野くんの身長差もちょうど良く見えるからさ、余計にさ、クウッッ!

演出

こちらのオペラ座は初見だったので驚いたのですが、開幕前からプレショー的な演出がなされていて、客席との絡みもある、エンターテイメント性の高い演出でした。
警官役の人が「怪しい人見ませんでしたか?」と客席に確認したり、迷子を捜す母親が客席に訪ねて来たり、オレンジのジャグリングで会場を沸かせたり。そしてその平穏な風景から、ダークなオーバーチュアに転じて、キャスト陣がファントムと同じように顔の右側を抑える。素直にカッコいい演出!好き。このシーンに限らず、アンサンブルさんたちのダンスもカッコよかった。パンフ見返しながら思いましたが、そもそもアンサンブルキャストが豪華なんだよな…。

そして客席に降りての演出も多い。ちょうどセンターブロックを挟んでゲラールとエリックが会話したり、アンサンブルキャストが縦横無尽に登場したり。クリスティーヌも客席から登場しました。流行り病でこうした演出のある作品も、演出変更を余儀なくされていたり、そもそも公演中止も多かったりしましたが、少しずつかつての姿を取り戻しつつあるのを感じました。

旧演出を知らないのですが、全体的にエンタメ要素といいますか、舞台を広く使って観る側に「おっ」と思わせる演出が多いのは、演出家・城田優の演出なのですかね。

舞台以外でも、会場ロビーにカラフルな街灯が並べられるなど、お楽しみ要素が多いと感じました。

まとめ

というわけで「ファントム」の観劇レポでした。四季の怪人の得体の知れなさや哀しみ、あるいはすべてを語りきらない美も好きなのですが、こちらのファントムの人間味、光と影、ストーリーの説得力も心惹かれた作品でした。

ちなみにイープラス貸切公演だったので、カテコのあとに少しだけご挨拶がありました。舌が全く回っていない城田くんを見ると、本当に全身全霊で公演をされていることが伝わります(それを笑顔で見つめる希帆ちゃんもかわいかった)。
幕が降りるタイミングで、イープラスのポーズ(ウルトラマンみたいなやつ)を「イープラス!!」と言いながら元気にやってくれる希帆ちゃん、かわいかったです。ありがとうございます。最後に城田&希帆でイープラスポーズしてくれるのもかわいかったです。ありがとうございます。

この作品は珍しく、大阪公演始まりです。9月の東京公演千穐楽までまだまだ旅路は長いですが、無事に公演が成功に終わりますように。特にクリス役はWキャストだったところ、希帆ちゃんシングルでやるようなので切に、無事に。

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