今すぐKindleで日本三大プロレス漫画を読むんだ

ドーモ、タイラダ・デンです。よく来たな。

 さて、このたびめでたく「日本三大プロレス漫画」と呼ばれている[誰によって?]「プロレススーパースター列伝」「プロレス・スターウォーズ」「最狂超プロレスファン烈伝」全てKindleで読めるようになったぞ。

 お前がプロレス好きならば無論すべて読破していることだと思うが、もしもプロレスファンなのにまだ読んでない、などというのならば、こんなところでこんなもの読んでないで今すぐKindle Unlimitedにとうろくしてくるんだ。早く!早く早く!早く早く早く!(CV:中田譲治)

 さて。

 もしお前が、プロレスのプの字も知らないでここに迷い込んできたのならば、ちょうどいい機会だ。プロレスというスポーツがいかに素晴らしく、夢にあふれ、かっこよく、エキサイティングで、素晴らしく、夢にあふれ……とにかくすごいものだということを、これらの作品に触れて学んでいくといい。

 まずは「プロレススーパースター列伝」から紹介しよう。
 梶原一騎原作、原田久仁信作画のこの作品は、当時のプロレス界におけるタイトルどおりの「スーパースター」達の、オリジンを始めとしたエピソードをドキュメンタリータッチで描いた作品である。

 取り上げられているレスラーは、「テキサス・ブロンコ」ザ・ファンクス(ドリー・ファンク・ジュニアとテリー・ファンク)、「不沈艦」スタン・ハンセン、「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャー、「大巨人」アンドレ・ザ・ジャイアント、「千の顔を持つ男」ミル・マスカラス、「インドの狂虎」タイガー・ジェット・シン、「燃える闘魂」アントニオ猪木、「東洋の巨人」ジャイアント馬場、「神様」カール・ゴッチ、「狂乱の貴公子」リック・フレアー、「四次元殺法」初代タイガーマスク、「超人」ハルク・ホーガン、「キングコング」ブルーザー・ブロディ、「東洋の神秘」ザ・グレート・カブキといった、プロレスに興味がなくても知っているレスラー揃いである。まさに「スーパースター列伝」の名にふさわしいラインナップだ。打ち切られなければ、この後にジャンボ鶴田編があるはずだったらしい。(打ち切られたのは不人気からではなく、原作者の梶原一騎が逮捕されたからだ)

 …この作品、「ドキュメンタリータッチ」というのが曲者で、正直その内容は虚々実々、いやたぶん八割くらいが虚(プロレス用語で言うところのギミック)だ。それはたとえば、「スタン・ハンセンはブルーノ・サンマルチノの首の骨を、必殺のラリアットでへし折った」だとか、「アブドーラ・ザ・ブッチャーの地獄突きは若手時代にシンガポールのカラテの達人に教わったものだ」だとかいうステキすぎるエピソードなのだが、それを迫真の語り口と迫力の絵でさんざん語ったあげく、とどめに「私も彼には苦戦させられたものだ(アントニオ猪木・談)」とかいかにもそれらしいコメントまで入ってくるので、ついうっかり信じてしまいそうになる。いや、実際信じてしまった被害者は少なくないはずだ。(前述のハンセンの件、俺はだいぶ後になるまで信じていた)つまり猪木が悪い。いや悪いのは梶原一騎か。

 そんなわけだから、お前も早く「プロレススーパースター列伝」を読み、「ホゲエ~ッ!」「ステーキ!」などの名台詞をたんのうするといいぞ。

 では次にいく。みのもけんじ作、「プロレス・スターウォーズ」だ。今度は戦争だ。それも日米プロレス戦争だ。

 どういう話かというと、「今や日本で大人気のプロレス、その市場を狙って乗り込んでくるアメリカン・プロレス連合。卑劣なやり方で日本乗っ取りを企むアメリカ連合に、日本のプロレスラー達が団体の垣根を越えて団結し、戦いを挑む」というものである。

 さて、肝心の試合内容だが、とにかく熱い。そして登場人物たちがすぐ泣く。ひたすら泣く。全編に渡ってとにかく泣く。熱い戦いを繰り広げるレスラーたち、その当事者たちがお互いへのリスペクトの気持ちから涙する。それを観たレスラーや実況、解説、観客たち(この漫画の観客は基本全員小学生だ)が、その戦いぶりに男のロマンを感じて男泣きする。

全日四天王:「全日本プロレス」に所属していた三沢光晴・川田利明・田上明・小橋建太の四名の通称。前述のような試合を連発して1990年代に圧倒的な人気を誇り、そのスタイルは「四天王プロレス」として多大な影響を与えた。

 馬場が泣き、長州が泣き、鶴田が泣き、アンドレが、ブロディが、ホーガンが泣く。そして猪木はひかる

「ジャイアント馬場をハイジャック・バックブリーカーで担ぎ上げ締め上げる何かを悟ったかのように穏やかな笑顔のアンドレ・ザ・ジャイアント。そしてその姿を会場中のちびっこたちが涙を流しながら見守る

見えないパンチを繰り出し猪木・馬場のタッグ(BI砲だ)を苦しめる作中最大の敵ロード・ウォリアーズ追い詰められたBI砲はついに覚醒し、鬼の形相で白目をむきながら見えないパンチをお返しする。その戦いぶりを『さすが猪木…!それでこそ越えがいがある…!』『馬場さん…!流石です…!』と泣きながら見守る長州と鶴田、および実況の古舘伊知郎解説の山本小鉄

ひかる猪木に天井のライトまで投げ飛ばされるスタン・ハンセン」

 などというような、ちょっと文章にすると何を言っているのか分からないシーンの連発で(おれの文章力が足りないのではないことを祈りたいが)、人に話してもその実在性を疑われてしまうのだが、それでも読んでいる最中には激アツ展開の乱れ打ちのせいでそういうことがどうでも良くなってくる。ラストシーン、今まで戦ってきたライバルたちが駆けつけてくれる超王道展開の頃にはお前も滂沱の涙を流していることだろう。会場のちびっこたちのように

 俺はそうだしお前もそうだと思うが、「腹抱えて笑っていたのにいつの間にか深い感動に包まれていた」という作品は大好きだろう? この作品はまさにそれだ。

 そんなわけだから、お前も早く「プロレス・スターウォーズ」を読み、後半にいくほど情報量が増えて読みにくくなってしまう(一コマ百文字!)山本小鉄の熱い解説をたんのうするといいぞ。

 さあ最後だ。徳光康之作「最狂超プロレスファン烈伝」だ。

 これは前の二作と違い、プロレスラーではなくプロレスファンが主役の話だ。いや、正確には「何かを頭がおかしくなるほど愛するファンたちの物語」だ。

 主人公・鬼藪 宙道(きゃぶ ちゅうどう…彼が愛するプロレスラー前田日明の決め技「キャプチュード」より)は、プロレスを会場で見るだけのためにゾンビランドSAGAから上京してきた大学一年生。さっそくプロレス研究会に入った鬼藪と、プロレス研究会の先輩たちがプロレスを好きすぎるがゆえに巻き起こす騒動を描く、といった感じのギャグ漫画だ。

 さて、この作品については、とにかく読んでそこに込められた熱と愛情を浴びろとしか言いようがない。俺はこの作品を、俺の人生を形作った三大漫画の一つと考えている。

残り二つは「ドラゴンボール」と「究極超人あ~る」

 そんなスキすぎる作品をどう紹介したものか悩んだが、全編名言だらけのこの作品から特に俺が一番好きな言葉について語ることにする。

 第二話にてプロレス研に入部した鬼藪。プロレス研の先輩たちは自分のスキなレスラーが一番だとひたすら口論を続けている。そんななか、部室に備え付けられた「プロレス悪口探知レーダー」(名前の通り、外の雑踏の中からプロレスの悪口だけを感知して警報を鳴らすシステムだ。仕組みは誰も知らない。曰く「できるんやからしょうがない」)が、カップルの「プロレスなんて八百長」という発言を感知する。

 その途端、さっきまで激しく言い争っていた先輩たちは一転団結し、人間魚雷と化して三階から飛び降り、八百長発言をしたカップルの男に天誅(ラリアット、ローリングソバット、有刺鉄線電流爆破)を叩き込む。

 そこで先輩の一人、十六紋 菊(じゅうろくもん きく…もちろんジャイアント馬場ファンだ)が言ったセリフがこうだ。

「馬場があんな高齢でやってるからプロレスは八百長だと、バカめ。馬鹿猛々しいとは貴様のことだ知ったかぶり虫め。あんな高齢でプロレスやってる おかしい 八百長だ ではなく あの高齢でプロレスやってる スゴイ と素直になぜ感動できないのだ

 このセリフを初めて読んだときの衝撃といったら。このセリフにはおたくにとってのとても重要な物がたくさん詰まっていると今でも思っている。

 この作品は断言するのだ。「ひねくれたものの見方なんぞいらん。好きなもののよいところだけを見て素直に受け取り、素直に感動すればいい」と。

 完璧な作品などこの世にはなく、すべてのものには必ず長所と短所がある。同じ作品を見ても長所が目に入る人もいれば、短所ばかり目につく人もいる。また、ある人にとっての美点が、別の人には嫌悪感をもって受け止められることもあるだろう。お前にも自分の好きなものの欠点をあれこれ指摘されて凹んでしまった経験があるのではないか?

 ジャイアント馬場が還暦までプロレスを続けたこと自体に否定的な声もあった。失笑もあった。(そうやって冷笑していた世間が、馬場が亡くなったときに手のひらを返したように馬場を持ち上げたことに対して苦言を呈した回もある。とにかく真摯な漫画なのだ)だがこの漫画は、作者は断言するのだ。還暦になってもプロレスをしている、だからスゴイ、それでいいのだ、と。

 以来この「馬場スゴイ理論(どれだけ欠点が合ったとしても、一つでも評価できる部分があればそれで充分)」は、俺のエンタメに対する評価基準の一つになっている。どれほどだめな部分があっても、一つでもスゴイところがあればその作品は素晴らしい。二つあれば大傑作。三つ以上あれば一生モノの宝だ。

 そんなわけだから、お前も早く「最狂超プロレスファン烈伝」を読み、作者のプロレス愛を十二分にたんのうしたうえで、そんなプロレス愛に満ちあふれていた作者がプロレスを好きでなくなってしまったためにこれ以上続きを描けなくなった、と吐露した4巻以降を読むといい。プロレス愛をなくした作者が再びプロレスへの情熱を取り戻していき「プロレスファン」として帰ってくるくだりは涙なしでは読み進められないぞ。

◇以上です◇

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