団地の遊び 食べ物

食べ物

 団地暮らしの時、よく食べていたものは何か、ということをあらためて考えてみる。
 朝食は、トーストが多かった。クノールのコーンポタージュスープが大好きだった。まだ、カップスープというものが、なかった、と思う。なので、小さな鍋でグツグツやる。
 スープの中の小さいシイタケが、とてつもなく、おいしかった。愛しいぐらいに、美味かった。
 時々、白ご飯の時がある。納豆にウズラの卵を入れたのを、まずいのを無理して食べさせられた。吐いた。湿疹が出た。
 生卵が食べられないということが、わかったのは、この時である。
 今、現在、アレルギーやらなんやらで、この世の八割ぐらいのものが食えないが、この時代はもう少し食べることができた。
 給食があまり食えなかったのは、そのへんが原因だと、間違いなく思っている。
 昼は、学校にいる時は、マズい給食である。
 家にいるときは、ラーメンをよく食べた記憶がある。この時代、まだカップ麺は、それほど流通してはいなかった、と思う。
 袋のインスタントラーメンが、まだ主流だった。ただ、昼に食べるのは、なんとか麺(生麺?)と書かれた、なんかちょっと高そうな、多少は本物のラーメン屋に近いような、そんな感じのものをよく食べた記憶がある。
 相当、ウマいと思った。醤油でも味噌でも、なんでもうまかった。今でも、味を思い出せる程に、なんとも言えずに、美味だった。あの匂いは、永遠に忘れられずに、脳に残るだろう。
 キャベツとか、なんかのっけて食べるときもあった。焼豚などというシャレたものは、のっけた記憶は一ミリもない。
 このラーメンの商品名は、まったく思い出せない。高そうに感じただけで、実際はそんなに高くはなかったろう。
 夕食で、一番思い出深いのは、クジラのステーキである。真っ黒であった。それなりに厚みもある。これを、気取ってナイフとフォークで食べた。
 なんでそんなことをしたかというと、ステーキを食べてる気分になりたいからである。この時代、ステーキは、高価だった。ビフテキと言っていた頃である。
 要するに、団地住まいの庶民が、おいそれと食べられるものではなかった。実際、団地にいた時、ステーキを食べた記憶なんぞは、まるでない。ていうか、本当に一回もなかったのだと思う。
 なので、貧乏人が、少しでもステーキ気分を味わいたいがための、ナイフとフォークである。
 ハンバーグもよく食卓に並んだ。大きさは、ファミレスの普通サイズぐらいだろう。それにジャガイモ二切れ、人参一個。こんなものである。味噌汁。
 昭和の時代、少なくとも自分の家はオカズは、たいがい一品だった。それに味噌汁、漬物。ほかの家も、たいがいそうだったのではないか。
 牛肉は高価な時代で、実際食べた記憶はまるでない。当時、牛肉を使った料理は、ほぼ、すき焼きだったように思う。
 これは、昭和のドラマでも見ればわかる。
 話はまたラーメンに戻る。子供時代、一番好きだった食べ物はラーメンのような気もする。
 店屋物、要するに出前、今で言うデリバリー。どこかの中華屋、いわゆる町中華の店のラーメンは、すさまじく、おいしかった。
 あきらかに、インスタントなどとは違った。出前のラーメンを食べるときは、異常にテンションが上がった。しょうゆラーメンである。
 ところでこの時代、自分の記憶する限りにおいて、とんこつラーメンというものはなかった。いや、正確にはあるにはあったのだろうが、少なくとも、自分の生活圏において、とんこつを見たことはない。
 多分、とんこつというものの、存在すら知らなかった。ヘタすると、二十代になっても知らなかったかもしれない。
 しょうゆ、みそ、塩、この三つが、ラーメンだった。
 ラーメン大好き小池さんが、ラーメン食べてるのを見るだけでも、なんだか楽しかった。
 ところが、大人になるにつれラーメンは食べなくなる。飯物ばかりが多くなった。
 団地自治会長の息子高橋は、何歳になっても、麺類ばかり食べ、一日一麺と言っている。しかし、自分は、なぜだか、食べなくなった。
 高校の学食で、なんか久しぶりに、ラーメンでも食べるかという気になった。この頃、もはや麺類は進んで食べることをしない、方向性に向かっている時であった。
 そのラーメンライスはまずかった。ラーメンをオカズにご飯を食べる。そのご飯がオムライスみたいに赤かった。ところが色だけで、まるでケチャップの味はしない。そしてその味噌ラーメンは、なんとも形容し難い、妙な味だった。結局、かなり残した。
 麺類を食べなくなったのは、これが決定打という気がしてくる。まったく食べないわけではないのだ。ただ、日頃のメニューから、麺というものは、八割なくなった。
 大人になった学級委員Rは、自分的には、まるで理解不能のことを言っている。
「人生で一番うまかったのは、給食だよ」

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