団地の遊び 恋愛事情的な話

恋愛事情的な話

 ムーちゃんが、突然言った。「俺、三村のこと好きかもしれない」「そうか」
 なんと答えたらいいのかわからなかったので、フツーに言った。
 自分は奥手だったのか、男女が付き合うとか、そういったものの、意味すらわかっていなかった。
 三村が好き、というムーちゃんの発言は、うん、そうか、で?としか思わなかった。
 まだ小学生なので、付き合う付き合わないとか、そういうレベルではないと思うがーーー少なくとも自分的にはーーーともかくよくわからなかった。
 女に人気のある男、男に人気のある女。そういうのはなんとなくわかるが、それで何がどうなるのだ?そんなふうに感じでいた。
 圧倒的に関心があるのは、川沿いの森に洞窟が見つかった、中はどうなってるんだ?コッチのほうが、人生の全てのように、いや人生のすべてとして、興味を持った。ちなみに、たいした洞窟ではなかった。
 自分は女学級委員山岡しおりと仲が良かったが、付き合ってる、なんてことは一度も思ったことはない。よぎりもかすめもしない。
 すると、学校一番のモテ男の佐久君(仮名)に、君も意外にモテてるんだよ、と言われた。そもそもモテるという意味もあまりわかっていなかった気がするーーーモテてるという実感はまるでない、そう答えたら、山岡がいつも横いるからだよ、と佐久君は言った。
 なるほど、山岡がいるとモテないのか、わけもわからず、そう思った。
 この話を山岡にしたら、笑いながら、意外にモテてるのよ、と言った。意外、という言葉が引っかかるが、何かピンと来ない話だった。自分がバカなのだろう。
 ムーちゃんは三村にフラれた。なんかショックを受けていた。自分に言わせれば、いつも遊んでる友達の一人ではないか、というだけの気がするが、山岡に言わせると、そういうものではないらしい。
 要するに男と女が付き合う、という意味を、全く理解できていなかった。
 確かにテレビドラマなど見ていると、男と女の話が出てくる。それが自分と関係あるとは、まるで思わなかった。
 一番関心があるのは、川土手に洞穴がある、中はどうなってるんだ?コッチのほうが、もはや人生全てを賭けて探検する、というほどのものだった。ちなみにショボい洞穴とも呼べないシロモノだった。
 なんとかとなんとかが付き合ってる、そんな話を聞いた。顔は覚えてるのだが、名前をまるで思い出せない。友達でもなんでもないヤツらである。
 隣町の神社に二人がいるのを、偶然、目撃した。いったい何をやってるんだ?正直な感想だった。
 べつにどうでもいい奴らなので、話しかけもしなかった。
 その話を、山岡と三村夏子にしたらーーーホントに?!どこで?と、ものすごく色めき立ったので、驚いた。女子たちが集まり、みんなで静かにでも楽しそうに噂話する。
 よくわかんないけど女ってこういう話好きなんだなあ、と、この時つくづく思った。
 自分はムーちゃんと一緒に、団地の給水塔って一回上ってみたいよな、どうすれば上れるだらう?と考えていた。
 小学校卒業する前に上ろう、特に意味もなく思っていた。
 団地の公園などで、みんなが集まる。なんとなくダラダラする。三村夏子がいると、ムーちゃんがいなくなった。
 なんで?と山岡に聞いたら、なんかバツ悪いんじゃあない?そもそも、ムーちゃんが三村夏子に何をどう言ったのかハッキリ知らないのだが、なんかそんなものらしい。ずっと友達だったのに、ややこしい話だなあと思った。まあ、時間がたてば大丈夫よ、山岡が言った。
 全然関係ないが、給水塔上りたいけど、どうしたらいい?階段の鉄柵を乗り越えて階段上り、てっぺんの今川焼きみたいな所来たら、きっと鍵かかってるだろうから、よくニュースで言ってる、バールのようなもので(ムーちゃんはこの表現が大好きである)、ドア叩き壊そうって考えてるんだが。
 そう山岡に言ったら、ものすごいあきれ顔をされ、あのね、それって完全に犯罪じゃないの。
 ダメかな?ーーーダメに決まってるでしょ!
 それでも決行したかった。まだあきらめてはいなかった。すると、山岡が三村夏子に話した。
 三村夏子がムーちゃんに、やめなさい、と言った。そしたら、ムーちゃんはアッサリと断念してしまった。そして、二人でベビースターラーメンなんぞを食べている。
 なるほど。これが人を好きになるってことなのかと、バカなりに思った自分であった。
 学級委員Rに言ったら、君だって山岡の言うことは聞くじゃん。いや、それは山岡が怖いからで、力すごく強いし、怒ったら噛みつくし、と言おうと思ったが、やめた。


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