団地の遊び 先輩

先輩

 あまり先輩後輩という関係は、好きではなかった。それでも、近所の年上年下の奴らとは、意外に遊んでいた。でも、それも、小四ぐらいまでで、それ以降は、同級生ばかりになった。
 その中で、柴田君(仮名)のことは、やけに印象に残っている。
 二つ年上の先輩である。この人は、近所の人ではなかった。確か、団地中央、ストアとかある向こうの号棟だったと思う。
 同じ団地なので、やはり同じ小学校であった。
 学校対抗のリレー大会が、行われることになった。同じ市内の、何校かの、一年生から六年生までの足の速いヤツが、代表として出場する。
 自分は、四年生代表に選ばれた。バカだが足は速かった。
 六年生代表が、柴田君だった。
 柴田君は、いつもニコニコして、ものすごくやさしい先輩だった。
 家に電話がかかってきて、練習したいので、中央グラウンドに来てくれないか?と柴田君が言った。
 リレーとなれば、バトンの受け渡しとか練習をする。運動会では、いつもそうだった。なので、一度ぐらい練習とかしないのだろうか?と思っていたところであった。
 夕方、団地中央のグラウンドに行くと、すでに柴田君がいて、笑顔で迎えてくれる。
 人数が集まる。皆、団地の子供である。よくみんな来るなあと、なんか感心したーーー自分も行ってるが。もうすでに分かりきったバトンの受け渡しの練習をする。順番は、もちろん学年順である。
 三回もやればいいだろう、ようは、確認のため、程度に考えていたら、柴田君は、意外にしつこく練習する。
 もういいんじゃあないか、というぐらい、何度もやった。みんな飽きていた。そして、ここまで真剣にやる大会なのか、テキトーでいいんじゃないか、そう思っていたので、これはまじめにやるもののようだ、と感じ、少しだけ、気を引き締めた。
 それにしても、随分、練習した気がする。低学年の子たちは、親が途中から来ていた。
 大会当日。電車で三つ目の駅の小学校だった。
 確か、先生もいたような気もするが、柴田君がすごく丁寧に熱心にみんなを引率するので、先生の影が薄く思い出せない。
 柴田君は全員の切符を買ってくれて、一年生、二年生は、絶対そばに置いて注意を怠らない。
 目的の駅に着くと、学校を目指す。柴田君は場所を知ってるのだろうか?と思っていたが、無事に着くことができた。
 それにしても、柴田君はいつもニコニコしている。
 学校の運動場に、みんなが集まる。
 四校か五校の児童たちだった。
 そして、いよいよ、自分たちの番になった。
 一年二年三年、トップである。四年の自分が走り、さらに二位との距離を離す。五年が走るときは、すでに、ダントツの一位だった。
 最後、アンカーの柴田君になった。余裕で見ていた。でも、ん?という感じがした。なんか、遅くない?
 やがて、後ろにいた奴らが追い上げてきた。二位以下は団子状態だった。その集団が、一位の柴田君にどんどん近づいている。
 ええっ!?まさかと思った。足遅いじゃん!六年生のアンカーが、一番遅い。信じられない事実であった。
 みんなの悲鳴が上がる。
 柴田君が、ゴボウ抜きに抜かれる。
 そして、アッという間に最下位になった。
 戻ってきた柴田君は、ものすごい荒い息を吐き疲れきった様相でいた。
「みんなごめん」
 しかし、誰も文句は言わなかった。一つには、柴田君に人徳のようなものがあったのかもしれない。最上級生だからかもしれない。
 しかしそれ以上に、一生懸命、いろんな世話をしていた姿を知ってるので、よって一言も文句が出なかったのだろう、と思う。
 それにしても、なぜ足の遅い人が、代表に選ばれたのか、不思議である。まさか、六年生で、一番足が速いのは柴田君だったというのなら、何か問題のような気がする。いや、あきらかに問題といえる。
 学校や団地内で会うと、挨拶するようになった。
 柴田君とは、中学校は別だが、高校は偶然にも、同じになった。
 それはまたべつの話。



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#エッセイ部門


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