人類は3種類の人間に分かれた #03
原口は、続けた。
「君たちはAIが作り出した、電
脳人なんだよ。 本物の世界を見
たくはないかね?」
本物の世界か……。思いもよら
ない原口の話に、僕の思考は停止
した。この世界が本物の世界では
ないとするなら、僕の一生は何な
んだ?
ふざけるんじゃない。僕は僕だ。
自分の人生は、作られた人生だと
いうのか?
AIとかいう、機械に作られた
人生なのか? いやだ! そんな
人生はまっぴらだ。
僕はすがるように、原口に聞い
た。
「本物の世界に行けるのか?」
「ああ。あんたを連れて行くこと
は可能だ」
僕は俄然、本物の世界を見たく
なった。
「頼む、僕を連れて行ってくれな
いか?」
「わかった。あんたを連れて行っ
てやろう。 ただし、実世界に行
くには、生身の体が必要だ。
あんた達、電脳人は生身の体を
持っていない」
「なんだって? 生身の体を持っ
ていないだと? ほら。僕の体は
ここにある。れっきとした人間だ」
「あのねえ。その体は本物の体じゃ
ないんだ。 AIが作りだした幻
想なんだよ」
と、原口は憐れむように僕に言っ
た。
「実世界に行くには、脳死になっ
た、人間の生身の体が必要なんだ。
適当な体が見つかるまで、待つし
かない。
女の体や、老人の体じゃ嫌だろう?」
「そうなのか? 仕方ない、待つ
よ。あんたはこの世界と実世界を
たびたび行き来しているのか?」
「うん。俺は実世界のある施設に
体を預けて、この世界に来ている。
いつでも、実世界に戻れるんだ」
「実世界の人間は、大勢この世界
に来ているのか?」
「いや、俺以外には、ほんの数名
が来ているだけだ」
「どうして、あんたはこの世界に
来れるんだ?」
「俺の叔父さんは、実世界では、
政界の大物なんだ。いわば、そ
のコネで、電脳世界へ来れるわ
けさ」
「なるほど。それじゃー、実世界
でも、電脳世界でも、犯罪者に成っ
たら困る訳だ」
「まぁ。そういうことだ」
原口はしれっとした態度で言った。
できるだけ早く、僕を実世界に
連れて行くという確約をもらって、
原口のアパートをあとにした。
直ぐにも行きたい気分だったが、
原口の言葉を信じて待つことにし
た。
原口のアパートから、帰路につ
く途中、僕の考えは混乱した。
このまま、実世界に行って、ど
うする? その世界はどんな世界
なんだ?
電脳人の僕が、実世界で暮らせ
るのか?
一度、実世界に行けば、原口の
ような、特殊なコネを持つ以外の
人間は電脳世界に戻れないという。
家に着く頃には、決心がついた。
これからは、偽りの世界ではな
く、実世界で、やってやろうじゃ
ないか。実世界で成功してやろう
じゃないか。
あれから、一か月ほどが過ぎた
だろうか。原口から、メールで連
絡がきた。
メールの内容には、こう書いてあ
る。
「明日、目覚めたら、あんたは実
世界にいる。あんたは、カプセル
の中で目覚めるだろう。
ようこそ、2341年の実世界へ。
ではまた、実世界で会おう」
明日、目覚めたら、この世界と
は、おさらばか? この世界での
両親や、親戚、友達とも会えなく
なるのか。これで、良かったのか?
今更、あと戻りはできない。
AIがこの世界を作ったという
ことを知ってしまった以上、消さ
れてもおかしくない。
この世界の電脳人を消すのは簡
単だ。AIがフラグを立てるだけ
で瞬時に消されてしまう。
例えるなら、録画しておいた動
画をボタン一つ押すだけで、消去
するようなものだ。
多分、明日以降の電脳人の僕は
交通事故か何かで死んだように、
AIに処理されるのだろう。
その辺の操作は実世界の原口が
AIのほうへ、うまく操作するの
だろう。
明日からは、実世界の坂上ケン
タだ。心機一転、実世界でのし上
がってやる
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