第二章　21世紀へ #01

　僕は、新たな希望と夢に燃えて、
新天地の21世紀へ旅立つことにし
た。

　タイムトラベルは、時間旅行客
だけのものではない。

　遠い過去の時代に行われた刑罰
の「島流し」と同じような意味合
いで、人口抑制という名のもと、
囚人も過去の世界へ飛ばされてい
た。
　日本人の場合は縄文時代とか、
罪の重さに比例して、遥か過去の
時代に飛ばされた。
　この場合は、もちろん、片道キッ
プという、時間旅行となる。

　しかし、もの好きな連中の中には、
自ら進んで、片道切符の時間旅行
をする者もいた。

　この頃の時間旅行といえば、一
般の旅行客は時間旅行代理店に行
くことから、始まる。

　家の近くの時間旅行代理店へ歩
いて行ってみた。

　店に入り、カウンター内の奇麗
なお姉さんに声をかけた。
「あのう。21世紀へ行きたいんで
すが……」

「いらっしゃいませ。では、こち
らへどうぞ」
　店の奥のパーティションで区切
られた場所へ案内された。

「時間旅行アドバイザーの森田で
す」
　店員は僕に椅子を勧めて、ホロ
グラム装置を指差した。
「21世紀の何年ごろに致しましょ
うか？　ここにパンフレットの
ホログラムが有ります。　年代別
に分かれていますが、ご覧になり
ますか？」

　事前に、ある程度は調べてきた
が、いちおう聞いてみた。
「そうですねぇ。　では、2011年
の日本なんか、いいですね」

「2011年ですかぁ。この年は、東
日本大震災が起きた年ですねぇ。
あまり良くありませんね。あまり、
お勧めできませんが……」

「そうですか。それでは、2021年
頃にしようかな？」

　すると、またまた店員の森田は、
渋い顔をした。
「お客さま。2020年から、コロナ
という疫病が全世界で流行って、
人がコロコロ死んでいます」

コロナだから、コロコロか？
笑えない。奇麗な顔に似ず、不謹
慎なことを言う店員だ。

「僕は、ＡＩが世に出る以前が
良いと思ってるんです。あまり古
い時代だと、生活が不便なので
そこそこの時代で良いんですが」

「それでは、2025年はいかがでしょ
う。　この頃は、ワクチンも開発
され、コロナも治まっています。
ＡＩは世に出ていますが、まだま
だ発展途上ですからね」

　2025年のホログラムを見せて貰
い、ここに決めた。
「じゃぁ。2025年でお願いします」
　店員は満面の笑みを見せた。
「誠にありがとうございます。
片道ですか、それとも、何日間の
ご滞在ですか？」

　片道だと、店員に告げると、
「では、お客様の情報登録を致し
ますので、パンツを脱いで、お尻
を出してください」と言った。

　店員は右手に、スキャナーのよ
うな物を持っている。

　さっき、この女性は何と言った？
聞き間違いか？
「あのう？　お尻ですか？　ここ
でパンツを脱ぐんですか？」

　店員はニコニコしながら、
「はい。どうぞ」と言いながら、
スキャナーをかざしている。

　僕はズボンは脱いだが、さすが
に、若い女性の前でパンツは下ろ
せなかった。

「早くなさってください」と、せ
かされた。

　それでも、パンツを履いたまま、
店員にお尻を向けて、もじもじ、
していた。
　そんな僕を見て、店員は、じれっ
たく成ったのか、僕のパンツに手
を掛けて、ズリッといっきに下げ
てしまった。
　僕のお尻は店員の目の前に、ま
る出し状態だ。
　店員は僕の右の尻たぶにスキャ
ナーを押し当てた。
「あっ！」と僕が声を上げると同
時に「ピッ！」とスキャナーが鳴っ
た。
　情報登録は済んだようだ。

「はい。これで、坂上様の登録は
済みましたので、旅行にあたって
の注意事項などを、ご説明させて
頂きます」
　僕は、店員によって、ずり下げ
られたパンツをそそくさと上げ、
ズボンを履き、店員の説明を聴い
た。

　店員の話す内容を要約すると、
こうだ。

　最も重要なことは、時間旅行は
未来へは、行けないという事だ。
　過去への時間旅行のみ、許され
ていた。

　次に大事なのは、過去の世界で
現地人に自分がタイムトラベラー
だと、ばれてはいけないというこ
とだ。

　万が一、ばれるような事があっ
た場合は、即座に時間旅行管理局
の、職員が現地に派遣され、旅行
者は抹殺されるので、くれぐれも、
注意するようにと言われた。

　本人が過去の自分に会うという
事を避ける為、時間旅行は200年
以上前の過去に限られていた。

　それと、同じような意味あいで、
旅行者のご先祖にかかわる事も禁
じられていた。

　一通りの説明を受けた僕は、一
週間後に、時間旅行に旅立つ事に
なった。

　来週には、21世紀の世界に居る
のかと思いながら、代理店をあと
にした。

つづく