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学習をヒトの生態として捉える:「進化教育学入門」レビュー①


こんばんは、駆け出し眼鏡です。今回は、「進化教育学入門」という書籍を読んだので、感想を書いていきます。

★★★☆☆

初めてみる論旨展開が非常に面白かったものの、「動物行動学」の知見の面白さや深さに対して、「教育学」への応用が浅く根拠が示されていなかったのが残念でした。「進化教育学」が定義的に学際領域である以上、「動物行動学」の知見を教育に応用するだけでなく、「教育学」の知見を踏まえて検討し、実証するところまでやってもらいたいところです。

以下、読書ノートです。

学習とはなにか
本書では、学習を下記のように定義しています。

「学習」という現象は、おおまかには次のように説明することができます。「個体が、外部の情報を入力して、脳内の神経系に変化を受け、行動や思考などのパターンが、新たに形成されたり、変更されたりすること」(p.16-17)

言い換えると、学習とは「入力に対して脳が変化して、何かしらのパターンが出来上がること」ということです。学習が行われたときには、実際に脳の神経回路は変化しているらしく、冗談じゃなく人間は学習によって「変わって」いるそうです。


準備された学習
そして筆者によると、生物にはそれぞれある学習専用に用意された神経回路が備わっていて、「準備された学習」と呼びます。

「素早く成立しなかなか消去されにくい」ような、その動物本来の生活のなかで、生存・繁殖上、有利になるような学習については、脳内、その学習に専用の神経回路が備わってると考えられ、心理学では「準備された学習」と呼ばれています。(p.35)

これは例えば、あるサルに「蛇は危険な動物である」という情報を学ぶための回路が用意されていると仮定します。そのサルは生まれてすぐに蛇を見ても怖がりません。しかし他のサルが蛇を怖がっている様子をみると、その回路が形成され「準備された学習」が起き、それから「蛇は危険な動物である」ということを学びます。

ここで出てくる疑問は、「準備された学習」を用意するくらいなら、遺伝的に学んでいればいいのでは?というものです。蛇が危険だとわかっているなら、最初からその情報を入れておくべきです。

しかし実際には、このサルが生まれた場所によって、蛇の大きさや色は異なります。そこで準備された学習を利用することで、生存に有利になるようになっているのです。


さらに、この準備された学習は動物の種によって異なります。なぜなら、準備された学習は生存・繁殖に有利になるための学習なので、それを脅かすものが違えば、用意される回路も異なるわけです。

学習は、動物が、自分の生存・繁殖を有利にするための様々な認知特性、あるいは形質の1つである。したがって、どのような情報を取り込んでどのような学習をするか、という傾向や方向性は、動物のそれぞれの種で決まっている(p.52)

例えば人間の場合、100人程度の集落での狩猟生活が生物学的な本来のあり方だそうです。この場合、コミュニケーション能力が非常に重要になります。共感力が生存にも繁殖にも重要な要素になるわけです。

人間が、進化的に適応した社会は、おおよそ100人以下の、互いに顔見知りでいられる個体からなる閉鎖的な社会であると、動物行動学では考えられています。さらに、そのような社会でヒトが、生存・繁殖をうまくやり遂げるためには、さまざまな場面で、他人が「何を感じ、どう考えているのか」を推察できる能力がとても重要だったと考えられます。(p.81-82)

一方で、この主張からは今の時代に、他人が「何を感じ、どう考えているのか」を推察する能力が落ちていくことも予想されます。インターネットで膨大な人数とコミュニケーションをとることを迫られている現代人は、この推察する能力が必要ではなくなる可能性も高いのです。


ここまでが本書の前半の内容を自分なりに必要なところだけまとめたものです。実際はこの後、筆者が大学の授業にこの知見をどう応用したかが記載されています。

この後、「課題専用モジュール」というこれまた面白い概念が出てくるので、そちらはまた別の機会に紹介します。

本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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