13:しんでぃ先輩の写真スタジオ

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はじめに

 今回は鑑賞した映画の分析ではなく、弊学写真学科のしんでぃ先輩のスタジオに伺った際に学んだことを復習がてらまとめることにした。先輩のスタジオでの体験は非常に刺激的なものであり、極めて学習の価値であったため、先輩には感謝しても仕切れない。まずはしんでぃ先輩、お忙しい中本当にありがとうございました!

 キューブリックに憧れて購入した一眼レフも、このままでは単なる宝の持ち腐れになる所だった。勉強しろ!俺の馬鹿野郎!本記事にも間違いがあれば有識者の方々、是非とも訂正のほどよろしくお願いいたします。

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(透明感を出すには被写体の裏から照明を当てる)

合流

 先輩と合流してまず向かったのはダイソー。先輩は撮影素材をダイソーで仕入れることも少なくないそう。被写体数点を購入した後はスーパーにて飲み物も奢っていただいた😂 

 先輩いわく「自分が先輩によくしてもらったのだから自分も後輩を大事にする」とのこと。新型コロナウイルスの影響下で連携の難しい部分はあるが、このような助け合いの連鎖が豊かな社会を作り上げてゆくのだろう。つい先週、僕が映画学科OBの方の呼びかけに乗じてとある映像作品のエキストラに参加させていただいた貴重な体験においても同じことがいえる。公開前の作品のため詳細は伏せておくがどのような機材を用いて、どのような人材が如何に動くのか、プロの現場を間近で観察できるまたとない機会となった。

スタジオ到着

 先輩の家の前にある古民家を利用した先輩のスタジオには黒や白の背景紙ロールや大量の撮影用スタンド、クリップ・テープ置き場、レフ板置き場等があり、素人ながらその機能性の高さに感銘を受けた。

 先輩が高価な撮影・照明機材をご自宅から持ってきてくださり、撮影講習の開始である。また機材を入れるアタッシュケースも非常にカッコよく、僕のテンションが爆上がりしたのはいうまでもない。ガジェット天国・秘密基地に憧れない男などそうそう居ないものである😂

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(先輩のスタジオと僕のNikon D7200)

僕の持参品

 お世話になる相手に土産の一つも持っていくのが礼儀なのだが、今回の私は完全にど忘れしてしまっていた。先輩、申し訳ないです😅

 その代わりに被写体として僕の宝である「高校の友人にもらった骨董品カメラ」を持ち寄らせて頂いた。高校に友人は少なかった(他校には多かった)が、カメラオタクの彼は僕に色々と教えてくれた貴重な存在だった。この被写体はドイツ製のフィルムカメラでWW2直後の産物であり、彼がネットオークションで落札したのを僕にくれたのだ。フィルムを入れても既に実用は不可能だが、非常に頑丈な素材で重厚感があり現在でもなお美しい。被写体としても凹凸やレンズ、マットな部分と光沢のある部分が両方ある金属など、その複雑な造形はライティングの学習にも持ってこいの代物である。

 また今回の撮影は僕がそのカメラオタクの友人に選んでもらった愛機、Nikon D7200とシグマのレンズをそのまま先輩に使っていただいた。高校時代の上野君、諸々本当にありがとう(この夏に僕の新居に遊びにきてくれる予定)!

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(画像右手にあるのがストロボ。起動時にキュイーンと音がする)

1、所有機材の理解

 まずは僕の持っているカメラ本体とレンズの理解から始まった。僕の持っているシグマのレンズは18-200mmの数万程度と廉価ながら、初心者にはもってこいの万能タイプ。本体のNikon D7200は先輩も欲しいレベルで良い機材だとおっしゃっていただいた。またF値の使い方においても、精密な写真撮影を心がけるならば低い方が良いことを教えていただいた。

 ちなみに、フォーカスはピントが合った部分よりも前方がボケやすい。そのため被写体を絞りすぎずに被写界深度に入れるため、ピントは被写体の手前から1/3の部分に合わせる必要があるという。

2、ストロボ撮影

 先輩のスタジオ撮影で用いる照明は撮影した時のみ強い光を発する「ストロボ」と呼ばれるフラッシュ光であり、これには撮影者が光を正確に操ることができるという利点がある。

 ストロボ撮影時には先述の通り強い光が伴うため、ISO(取り込む光の量)は100など小さい値にしなければならない。そうすることによって写真の画質が飛躍的に向上するからである。

 F値は被写界深度(ピントの深さ)と明るさに影響するものであり、その数値が大きいほどボケは少なく、明るさは暗くなる(強い光源が必要になる)。

 シャッタースピードは手ブレや被写体ブレ、同調速度(ストロボの一瞬の強い光を取り込めるシャッタースピードの限界)を考慮して1/60が基本である。先輩曰く一応シンクロ限界速度は1/250であるが、ストロボとカメラの相性や、閃光時間の問題があるため1/60と、余裕を持った数字にしているのだという。

3、ライティング

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 画像1;これが環境光のみの被写体。

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 画像2:メイン照明を直接被写体に当てている状態。僕の様な素人にはこれで十分のように見えるのだが、被写体のレンズ部分に光源の跡がくっきり写ってしまっている。またシャドーで塗りつぶされている部分も多く、これでは不自然なのだ。

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画像3:被写体のレンズ部分に注目していただきたい。乳白色アクリルをストロボとの間に挟むことで照明光が散らばり、自然な光と化しているのがわかるだろう。

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画像4:第二のストロボを左側から当てることで、被写体左側におけるシャドーを起こしている。「シャドーを起こす」ことが、ライティングの意義なのだという。そして「ソフトボックス」を用いて光源の周囲を囲うことにより、効果的に被写体へ光を当てることができる。

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画像5:メインライトと左側からのライト。そして最後に背景を作ってゆく

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画像6:背景のライティングには「ソフトボックス」の完全に周りを覆っていないバージョンである「ディフューザー」を用い、間接的に光を当てるリフレクター(レフ板)を用いて背景にグラデーションをもたらしている。また被写体下方部のシャドーを起こす役割も果たしており、これで被写体の可視部分のシャドーを全て起こしたことになる。

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画像7:ライティングの完成

4、写真芸術の瞬間性

 私はこれまで映画至上主義、つまり第七芸術こそが最も優れた芸術形態であり、写真は映画の下位互換だと本気で考えていた節があった。しかし、私のその軽薄な思い込みは先輩との出会いによって粉々に打ち砕かれたのである。

 第六芸術と呼ばれる写真の特質とはその「瞬間性」にある。第七芸術が生まれた背景にはE・マイブリッジの馬の連続写真を撮ることでその動きを観察するという目的があったのだが、これは第六芸術の特質である「瞬間性」を表象する事例だといえる。なぜなら「馬の歩行時に両足が地面から離れるのか」という疑問は肉眼や通常の映像では解決不可能なものであり、写真の中のその瞬間でしか確認できないものであるからだ。

 また先輩の得意分野であるスタジオにおけるストロボ撮影とは、さらにその瞬間を自分で生み出すことを可能にする。定常光や動画を用いず、時間を切り取ることで線や面ではなく「点」の表現を生み出すことができる。このような本質を的確に体感させてくれる人材など稀有な存在ではないだろうか。 

最後に

 先輩の機材組みはテンプレートに拘らず、被写体それぞれに合わせて即興で組み合わせるフレキシブルな職人技である。様々なスタンドや照明、カメラ、遮光材を複雑に組合せてできるセットはそれ自体美しいものであり、先輩のその器用さは私には到底できないもののの様に思われた。しかし、先輩は孤独に地道にコツコツとあの暗く無機質な空間でトライアンドエラーを続けるという、血の滲む様な努力を重ねてきた優秀な人間であって神ではない。我々も弱音ばかり吐く訳にはいかないのである。私たちの正解はいつだって、やれることをやる他ないのである。

 別次元の世界にいる先輩と出会うことができた日芸に感謝すると共に、独立自尊の精神を持って弛まず孤独に努力する精神を持たねばならないという覚悟を持った今回の勉強会。シナリオだけでなく、早く撮影の勉強を進めなければという焦りを喚起させられた。先輩の啓蒙に応えられる日が来る様、ゼロから突っ走っていく。皆様、今後も暖かい目で見守ってくださると光栄です。最後にもう一度。しんでぃ先輩、貴重な体験を本当にありがとうございました!


 


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