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なぜ広告なしで50万人のフォロワーが集まるのか? 「映え」より「なじむ」で熱狂を生む、インスタマーケの最前線

VAZ代表の森泰輝が、識者との対談を通じて「SNSマーケティングの真髄」を探っていく連載ブログ「森泰輝のSNS道場」。今回の対談相手は、インスタグラムのマーケティングに強みを持つ株式会社FinTの大槻祐依さんです。

FinTは運営する自社メディア「Sucle(シュクレ)」のInstagram総フォロワー数が50万人を超え、運用を代行するアカウント数は50を突破。大槻さんは、若者の心を掴んで離さない“熱狂を生むインスタマーケ”の第一人者です。

そんな大槻さんに、Instagramのアカウントのフォロワーを増加させる方法から、広告運用にとどまらない活用術、顧客とのリレーションシップのつくり方まで、「有料記事にしたほうがいいのでは?」と恐縮するくらい根掘り葉掘り伺いました。

信用なき情報に見向きもしない若者と、検索エンジン化するInstagram

森:自社メディア「Sucle」のInstagram総フォロワー数が50万人を超えるなど、SNS運用に強みを持つ企業として、FinTさんの話をたびたび聞いていました。今日は、SNS運用のノウハウについて、根掘り葉掘りお伺いできればと思っています。

大槻:光栄です。こちらこそ、よろしくお願いします。

森:現在は、企業のSNS運用代行が主たる事業だとお伺いしています。まずは、SNS運用事業を立ち上げるきっかけについて教えてください。

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大槻 祐依(おおつき ゆい) / 株式会社FinT 代表取締役CEO
早稲田大学在学中に学内のビジネスプランコンテストなどがきっかけで起業に興味を持ち、2015年からベンチャーキャピタルのEastVenturesでインターンを開始。シンガポールへの交換留学などを経て、Candleで動画メディアのPMを務める。2017年3月にFinTを創業。女性向けメディア「Sucle(シュクレ)」とInstagramを中心とするSNSマーケティング事業を展開する。

大槻:もともとは、フィンテック領域で事業を展開していました。企業名の由来は、「ファイナンス(Finance)にヒント(hint)を」で、FinT(フィント)なんです。

しかし事業は軌道に乗らず、「Sucle(シュクレ)」というメディア(Instagramマガジン)運営にピボット。フィンテック事業がうまくいかなかった一方で、メディアは順調に成長し、少しずつ認知を得られるようになりました。

フォロワーが10万人を超えた頃だったと思います。「アカウントの伸ばし方を教えてほしい」とか「コンサルしてほしい」とか、相談の声を多数いただくようになりました。そのとき、「もしかすると事業になるかもしれない」と思ったんです。

実績づくりを兼ねて3つのアカウント運用してみたところ、全てのアカウントが2ヶ月以内に1万フォロワーを達成しました。「広告もキャンペーンもツールも使わず、日々の運用だけで」です。

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森 泰輝(もり たいき)/ 株式会社VAZ代表取締役社長
1990年和歌山県生まれ。2015年VAZを設立、数年で国内最大級のインフルエンサープロダクションとなる。 2019年に「Forbes 30 Under 30 Asia 」Media, Marketing & Advertising部門選出。

森:2ヶ月以内で1万フォロワーは相当なスピードですね!そこからSNS運用を事業化されたと。

大槻:そうです。SNSマーケティングの需要は日に日に高まっていて、そのニーズの高まりを追い風にして事業が成長しています。

現在はInstagram以外にTwitterアカウントの運用もしていて、広告やキャンペーンを利用せず、ゼロから50万フォロワーのInstagramアカウントを育てた実績もあります。

森:なぜSNSマーケティングのニーズが高まっているかも、改めてお伺いしたいです。

大槻:SNSが検索エンジン化していることが大きな要因です。

従来の情報収集の手段は、GoogleやYahoo!など、いわゆる検索エンジンだったと思います。ただ、デジタルネイティブの若者たちは、検索結果に出てくる「誰が書いたかも分からない情報」を信用しません。

一方インフルエンサーやYouTuber、もしくは知人や先輩など「誰がレコメンドしているか」を非常に重要視します。

SNSは、そうした時代変化の中で、検索エンジンとしてのポジショニングを確立しました。信頼に足る誰かのレビューがあふれているからです。

こうして、インターネット上における若者の購買活動の中心がSNSになったことで、SNSがデジタルマーケティングの一丁目一番地になりつつあります。

検索エンジン、広告媒体、CSセンター。知られざるInstagramの世界

森:「GoogleにくわえてSNSで検索する」など若者の動向が変化しているとのことですが、運用担当者の視点に立つと、トレンドをキャッチアップするのは大変だと思います。大槻さんが得意とするInstagram運用では、どのような変化が起きているのでしょうか。

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大槻:ユーザーに選ばれる企業アカウントのパターンが、大きく分けて二つになっています。メディア型とホームページ型です。

メディア型のアカウントは、自社商品に絡めた情報を発信することで、毎日見てもらうタイプのアカウント。たとえばシャンプーブランドであれば、髪の毛に関する情報を定期更新し、そこで自社商品を知ってもらう形です。

一方ホームページ型は、タグ付けされることを目的とするアカウントです。たとえばインフルエンサーが自分の使っているバッグを投稿する際に、タグ付けしてもらうために存在します。ファンはタグづけされたアカウントを見にいき、そこで購買活動をします。ですから、定期的に見てもらう必要はありません。どちらかというと、ブランドに多いのがこちらのパターンです。

森:扱う商材によって、どちらのタイプと相性がいいのかが変わってくると。

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Sucleは姉妹アカウント含めて総合フォロワー数50万人を突破し、インスタ運用代行事業での運用アカウント数は50を突破。

大槻:そうです。たとえばアパレルは、比較的商品数が多く、コーディネートにも幅があるので、ホームページ型でも認知が高まりやすい。しかしコスメは、商品数や利用用途が限られるので、メディア型と相性がいいんです。商品紹介はそこそこに、肌ケアの情報を定期配信してフォロワーを獲得するのが是です。

ただ、もちろんホームページ型のアカウントであっても、定期的な更新を行います。単にフォロワーを集めるためではなく、カスタマーセンターとしての役割を担うためです。

森:カスタマーセンターですか……?

大槻:ホームページ型でのアカウント運用に成功している事例として、顧客とのコミュニケーション窓口としてSNSを利用しているブランドがあります。Instagramのストーリー機能を使って質問や困りごとを募り、回答をシェアする。すると、ファンがつくだけでなく、拡散してもらえるので認知を獲得しやすいんです。

また、オンラインで接客できるのも魅力。体系の悩みなどをヒアリングした上で、推奨サイズを個別にDMのやり取りをしているブランドもあります。そうやってコミュニケーションをとりながら、濃いファンを獲得できるのがSNSなんです。

森:Instagramは広告媒体であり、CSセンターにもなっているんですね。

大槻:そうなんです!

“映える”よりも“なじむ”を意識すると、アカウントが急成長する

森:SNSを活用したマーケティングの魅力について理解できましたが、とはいえフォロワーを獲得するのは簡単ではありません。単刀直入にお聞きしますが、Instagramのアカウントを伸ばすには、どのような施策を打てばよいのでしょうか。

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大槻:Instagramの世界観に「なじむ」投稿を徹底することです。一時期「インスタ映え」という言葉が流行りましたが、本来Instagramは、個人が撮った写真を共有し合うアプリ。つまり、“わりとリアルな世界観”が好まれます。こだわりの綺麗な写真よりも、リアルさのある写真の方が親しみやすく、伸びやすいんです。

しかし多くのブランドは、とにかく綺麗で再現性のない写真をアップしがちです。でも生活になじんでいないので、伸びない。また、真似して投稿されることもないので、UGC(User Generated Content)も発生しません。

森:以前お話を伺ったドミノ・ピザの小山さんも、似たことをおっしゃっていました。ドミノ・ピザの投稿は、誰もが真似できる発信をしているそうなんです。そうすることでUGCが発生し、「ピザを食べたい」「新商品が美味しい」という意見があふれていくのだとか。

大槻:おっしゃる通りです。

たとえばインフルエンサーを利用して顔写真付きの写真を投稿しても、多くの人にとって顔写真を投稿するのはハードルが高く、UGCが増えていくことはありません。また、きらびやかな装飾とともに写真を投稿しても、それを持っている人が少ければ真似しようがない。

結局、自己満足で終わってしまいます。「綺麗な写真だけど、リアリティがある」という絶妙な温度感が大事なんです。

公式感がですぎたらダメだけど、公式感がなさすぎてもダメ。その間を取ると、ファン獲得につながる“共感を生む投稿”になります。

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大槻:また、フォロワーを増やすことだけが「伸びる」ではないことも覚えておいていただきたいです。ユーザーがアカウントをタグづけして写真を投稿する習慣があれば、極論フォロワーが少なくても、売上を上げ続けることができるからです。

投稿から直接ECサイトへアクセスできる「ショッピング投稿機能」により、投稿者のタグからアカウントの投稿に遷移し、投稿からECサイトへと移行すれば、そこで購入してもらうことができます。

フォロワーが1,000人ほどでも、タグづけされることが多いのであれば、売上はぐんぐん伸びます。目的によって、「伸びる」の意味は違ってくるんです。

Instagramのアカウントを伸ばす「中の人」を育てる方法

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森:企業がInstagramを運用するにあたり、どのようにして担当者を育成すればいいのかも気になります。これは企業秘密かもしれませんが、FinTではどのようにしてプランナーを育てているのでしょうか。

大槻:今日は包み隠さずお話ししますよ(笑)。入社して最初にやってもらうことは、とにかく伸びているアカウントを見てもらうことです。世界観がどのようにしてつくられているのかを徹底的に研究し、ユーザーに好まれる投稿や、コミュニケーションの取り方を知ってもらうんです。

森:YouTuberチャンネルを伸ばす手法と一緒ですね!「チャンネルの伸ばし方を教えてください」という質問に対して、僕はいつも「人気チャンネルを上から順に500個登録してください」と答えています。なぜなら、プロダクトアウトの視点でチャンネルを伸ばすのは不可能に近いからです。

大槻:同感です。まず一流との差を知らなければ、何から始めていいのかすら理解できませんから。その上で私たちは、ユーザー視点に立つことを徹底しています。

先ほど森さんが「プロダクトアウトの視点でチャンネルを伸ばすのは不可能に近い」とおっしゃりましたが、実際多くの運用担当者はプロダクトアウトの視点でアカウントを運用しています。そのため、ユーザーが欲する情報と“ズレている”んです。

大槻:私たちはその“ズレ”が生まれないよう、ターゲットとなるユーザーがフォローしそうなアカウントも研究し、情報収集の仕方まで踏み込んで考えています。

また、エンドユーザーに近い社員が運用を担当するようにもしています。そうすることで、限りなく“ズレ”を減らすことができるんです。

森:Instagramをはじめ、YouTubeやTikTokなどSNS全般に言えることとして、「ユーザーが求めているものが正義であり、あなたにとって面白いものが正義ではない」のは真理ですね。

大槻:ユーザー視点がないと、広告的な投稿をしてしまったり、すぐにキャンペーンを打ったり、フォローし続けたくなるアカウントではなくなってしまうんです。

たとえば弊社が運用をサポートさせていただいている「わたしの節約」は、広告やキャンペーンをほとんど実施せずに50万フォロワーを獲得しました。

広告なしでフォロワーを獲得できた理由は、ユーザーのヘイトを生む投稿を一切せず、フレンドリーな投稿を地道に続けてきたからです。今では熱狂的なファンが付いています。

熱狂的なファンづくりが、SNSマーケティングの真価

森:SNSマーケティングの真価は、熱狂的なファンをつくれるところにありますよね。つまり、ペイド思考(テレビCMや新聞広告など有料媒体中心の宣伝広告)を脱せずにプロモーションを打ち続けたところで、SNSが持つパワーを発揮することができません。

またSNSマーケティングは、成果が出るまで時間がかかります。一方有料広告は、「これだけの費用をかけたら、こんな効果が出る」ということがある程度データで分かるので、なんだかんだ後回しにされてしまうんです。

本腰を入れて地道に運用すれば大きな効果が出るけど、それを定量的には示しにくい。また、結果出るまでに時間がかかる。ゆえに、決済を取るのが難しかったりするんですよね。

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大槻:SNSは広告とは対照的に、積み上がっていく資産だということを理解することが大切だと思います。成果が出るまでに時間がかかりますが、数万人のフォロワーがいるということは、お金をかけずにいつでもアプローチできるファンがいるということ。

また広告を打った際に、商品を検索したユーザーの受け皿になってくれます。そこで磨き込まれた世界観を見せることができれば、ファンになってくれる可能性もある。SNSの利用者は今後も増えていくので、未来を見据えたマーケティングをするのであれば、私は早く手を打つべきだと思っています。

森:たとえばPRコンテンツを制作する制作するときに、KPIをInstagramのフォロー数やフォロー率に置いてみるのも面白い気がします。その場で購入してもらうのは難易度が高いですが、フォローを促し、定常的にコミュニケーションを取ることは難しくない。未来に繰り返しキャッシュポイントをつくれる可能性もあります。

大槻:たしかに!「〇〇で検索」といったCMがよくありますが、検索ではなくInstagramのフォローを促すのもいいなと感じます。もちろんCMじゃなくても、購入を迫るのではなくフォローしてもらうだけなら、ユーザーからしてもアクションがしやすいはず。

森:今後、大規模なキャンペーンに頼るペイド思考のマーケティング一択では、ユーザーを獲得することができなくなります。日常的に人々の時間を奪う——つまり顧客との接点を持ち続けなければ、SNS時代を生き残れなくなる。

そうした背景もあり、SNSマーケティングは間違いなく、新時代の主たるマーケティング手法になっていくでしょう。しかし、まだまだアイデアが少ないのも実情です。

大槻:たしかにアイデアは考え尽くされていないと思います。たとえばマスメディアとSNSの上手な組み合わせも、まだまだ考えられていません。その要因として、SNSの力が軽視されているということもあるでしょう。

しかし私たちは、SNSが秘める可能性の大きさを知っている。Instagram運用の第一人者として、今後SNSマーケティングを牽引していければと思っています。

編集協力:オバラ ミツフミ(@ObaraMitsufumi


Misfitsの森泰輝です!誰もがSNSのパワーを享受できる未来に向けて事業を創っています。書いてほしい記事のリクエストがあれば教えてください!