【人道支援チャド】僕にとっての燃料は何か~心理士との対話に見える僕のコア~
みなさんこんにちは
人道支援家のTaichiroSatoです
前回の投稿では、僕のちょっとした緊急現場での苦悩とそれに対するエリィのスカッとする一言を紹介しましたが、今回は僕自身が人道支援の道をひた走るための燃料となっているもの、僕のコアの部分について少し書いていこうと思います。
チャドに来る前、僕はハイチでの活動を終え自分のフィルターを通して見える世界がどんどんと変わりそこに追い付いていけなくなるということを経験しました。
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そんな経験を経て、僕は海外活動中も必ず担当心理士のマキさんと何も問題がなくとも定期的にアウトプットの場所を作るようにしています。チャドの活動中も2か月に一回ほど、電波のいいところでお話しをする機会を作ってもらっています。マキさんとの面談は毎回新しい気づきや振り返りの機会を僕にくれる。そんな彼女とのやり取りから見えたものを自分への記録として今回は記事にしようと思います。
心理士マキさんとのアポを取る
国境付近でのフィールドワークを終え首都へと帰国した僕。
いつも通り、首都に戻ってから3日目に体調を派手に崩し、その後ゆっくりと回復。またいつ出発になるかわからないことと、この情報を誰かに発信することはおそらく今後もないだろうと見当がついた僕は、自分が見たもの、感じた事、振り返りの場所を作るためにマキさんにメールを入れた。
マキさん
少し急ですが、お話の時間をいただけないでしょうか?
佐藤さん
ご連絡ありがとうございます。
是非お話ししましょう!
いつもこんな感じのやり取り1通で、スケジュールをフレキシブルに合わせてくれるマキさん。日本時間とアフリカの相性が悪く、日本時間の勤務時間外なのにも関わらず面談の日程を組んでくれるのであった。
心理士マキさんとの面談
彼女との面談の前半は、僕が一方的に見た事、感じた事、散々話した後、マキさんからちょこっとした補足の質問がくるというのが基本構成。
その時はどう思いましたか?
その時こんなことは考えましたか?
こんな気持ちになりましたか?
ふむふむ。なるほどなるほど。
彼女の頭の中のアルゴリズムをなぞっているのか、マキさんは僕の話を聞きながら彼女のフィルターを通して見えるフィードバックを僕にくれる。
いつもお伝えしていますが、やはり佐藤さんは緊急のお仕事が向いていらっしゃるようです。
マキさんが話始める
うつ病と発症する場所の関係
兵士であるかの有無にかかわらず、紛争地にうつ病の人はいない、そうだ。
ただ、戦争が終わる、もしくは戦地からひとたび離れるとPTSDやうつ病を発症することがある。
僕も今回の活動地で感じた事だが、本当にギリギリの今を生きるかどうかを考えている人たちにとって、人生がどうとか、自分とは何かとか、そんなこと考えている余裕などない。
空腹じゃないように、
安全に眠れるように、
今の場所が命の危険が無い場所であるように、
痛みやその他の苦痛がないように、
明日も生きていられるように、
家族が皆無事でいられるように、
など生理的な欲求をクリアすることすら容易ではないからだ。
そんな中で活動をする人道支援家の我らにとって
以下の2つのタイプの人は緊急支援で疲れてしまいやすいそうだ。
①感情労働の人
②他者評価の人
なぜなら、自分たちの中からエネルギーが放出される一方通行で返ってこないから。言い換えるなら、燃料が補充されないということ。
かなり極端だがどういうことかイメージが湧きやすいようにそれぞれ例を用意してみた。
※あえて極端に書いている。ばかにする意味は含んでいないし、人は誰もが①も②の要素も持っている。もちろんこの僕自身もそうだ。
①感情労働の人
なんでこんな悲惨なことになっているんだー!みんな何とかしたいと思わないのかー!と叫んでみたところで現状は何も変わらない。
②他者評価の人
誰かから認められたい、評価されたいから緊急支援をする。私はこれだけの人を救ったのだからこの仕事は評価に値する。他者評価の場合、誰かから仕事を与えられ、それを如何に達成できたか。これが他者評価としてわかりやすい。緊急支援現場で誰かから与えられた仕事を遂行することは、ほぼないと経験上感じている。如何にその現場で自分に出来ることを自分で見つけ、タスクを作り、解決していく。それを誰かに適切に評価してしてもらうのは、とても難しいことだ。
したがって、①も②も緊急支援の場面では、満たされることはまずないといったところだろう。
僕を走らせるものの正体
では、僕にとっての燃料とはいったい何か。
マキさんはいつものように落ち着いた声と態度で僕に語りかける。
佐藤さんにとっての燃料は、私が推測するに
「自分自身の内部にあるリソースが活かされること」ではないでしょうか。
緊急現場に入って、どんなチームであってもどんな状況であっても客観的に冷静に入っていける。そして、佐藤さんが持っているもの、経験して身に付けたもの、それらを活用して現場をよくしていこうと活動すること。佐藤さん自身のリソースが現場に活かされていると感じることが、佐藤さんを動かす原動力になる。どんな現場でも自分で自分を活かす、これが佐藤さんにとって最高に気持ちがいいことなのではないかとお話を聞いてて感じました。
なるほど。
その通りだと思った。
僕が語学を勉強し、救急に限らずいろんな領域の医療を学び、チームマネジメントを学び経験し、それらをありとあらゆる環境下・チーム下で活かす。そこに僕のやりがいを感じるのかもしれない。
これが僕の燃料なのかもしれない。
自分をその場で活かす方法を見つけ、パフォーマンスを発揮する。
それが直接僕の燃料となる。だから、僕は走れる。
緊急支援の現場で患者にありがとうと言われることは、ほとんどない。
僕自身もそこにやりがいを感じているわけではない。
帰国後も僕は自身のUPDATEを続ける。
語学、医療、なんでもあらゆる分野で何か自分にプラスになるものを継続して入れていく。その理由が、ここにあるのだと思う。
いくつもの言語ができること、
様々なジャンルの医療への理解があること、
いろんな国で多様なメンバーと働くこと、
自分に出来ることが増えること=より多くのリソースを内側に持つことは、自分のパフォーマンスレベルを上げるだけでなく、誰とでもどんな場所でも自分を活かす方法を見つける助けになる。
どんな場面で自身リソースを活用して現場に活かすこと、これこそが僕のエネルギーなのだ。
僕の生まれ持った特性
この世に天才がいるかどうかは僕にはわからないが、生まれ持って得意、不得意はやはりあるのだと思う。マキさんは僕と数年関わるうえでこんなことを伝えてくれた。
佐藤さんの生まれ持って備わっているものって
抽象的なことを具体化する力
なのではないでしょうか。というか、佐藤さんはそこが好きなんですね。
これはもちろんトレーニングをして上手になってきていることもあるでしょうけど、もともと持っている能力であると思います。
そして、ぐしゃぐしゃしてよくわからないことを、見える化して、具体的に実現していく。この過程が佐藤さんが「気持ちいい」と感じることなんだなと思います。
僕は深くうなずくだけで、言葉にならない。まったくその通りだ。
消防士の中に、まれに教わっていなくても放水する場所がわかる人がいる。全体をみて自分の目指すべきところがスッとイメージすることが出来る人、わかってしまう人がいるのだそうだ。
これは生まれ持った特性らしい。
更にはこんな研究もあるらしい。
脳内物質のセロトニンの量が多い人は、抽象的なものを具体化する力が高いと言われていて、「抽象事象→具体化」を想像する力も高い。まだ研究途中だそうだが、研究結果を見てみたいものだ。
マキさんからの質問
ふと話の流れでマキさんからこんな質問を受ける。
佐藤さんは今までの経験で、内的リソースを使うことでポジティブなフィードバックをもらった経験はありますか?
難しい質問だと思ったが、ふと社会人3年目の救命救急センター時代を思い出した。
当時僕は、新人でもなく中間層ともいかない若手看護師で、新人のサポートをしつつ、先輩たちの目を見ながら働いていた。
僕は比較的、先輩たちとのやり取りが上手なタイプの人間で、若手看護師皆から恐れられる先輩がいたとしても僕は案外平気だった。
今でもそうだが基本的に僕自身が誰かのことを苦手だなと思うことはない。
そんな僕は、職場内で一部から「潤滑油」と呼ばれていた。
今となれば笑い話だが、お局さんをその日一日ご機嫌にし、後輩たちを恐怖のどん底から解き放つ。結果的にその日の職場が円滑になるように調整を無意識なのか意識的なのかわからないがしていた。あくまで僕にとっては特別なことでなく、自然にやっていたし僕の特技ともいえることだと思う。
結果的に全体がwin-winになればいい。全体のストレスが下がればいい。
そう思ってやっていた。
そんな僕の若手時代のエピソードを聞きながら、はぁーなるほど、そうですか、そうですか。と、クイズに正解したかのようにニコニコしながら、マキさんはうなずきを繰り返していた。
新しい僕のチャレンジ
国境付近で、よく問題が起こる。
そこでの緊急支援は、多言語が入り交じり混乱が生じる。
そのような状況下で、これをする、あれをする、といった誰かが与えてくれるような仕事はない。
ただそこには、
たくさんの危機に瀕している人たちと
サポーターの僕らがいるだけだ。
ゼロからイチを作る。
とても力のいる作業だ。
僕の内なるリソースをフル活用し
その場所に
困難に直面する人たちの
そして、僕自身の
「生きる道」を見出す
それが僕の燃料となって
僕は今よりもっと遠くまで走れる
いつの日か、この世界から人道的な緊急事態が無くなればいい。
しかし、僕が活動を続ける近未来、
少なくとも僕の国際医療人としてのキャリアの間は
人道危機は無くならないだろう。
実は、緊急支援の中でも特に緊急度が高い人道危機に対応するスペシャルチームがある。超緊急を専門とするプロフェッショナル集団。僕たちは、彼らをE-deckやE-poolと呼んでいる。
世界中から選ばれたほんの一握りの人達がそれぞれの職種の人道危機のプロとしてポジションを持ち、世界中どこでも、いつでも駆けつける。
高い専門性とリーダーシップ。多言語使用と経験が求められ、誰でも入れるわけではない。
僕にとっては、今よりもう一段階ギアが上がることになるが、
今回のマキさんとの面談で見えたもの。
僕の特性と僕を走らせる燃料。
更なる人道支援のプロとして
E-poolのチームリーダーなる
ここを、今後の目標にしていこうと決意する
今後の僕に注目してもらいたい。
※投稿内容は全て個人の見解です。
最後まで記事を読んでいただきありがとうございます!
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また次回お会いしましょう。
Best,
Tai
✎2022年5月より✎皆さんの「知らない世界🌎」を少しでも身近に感じてもらうきっかけになったら幸いです。
みんなで応援し合える場所づくりとして「🏝Naluプロジェクト🏝」サークルを立ち上げました!また、国際看護師をサポートするSNSコミュニティ「🌏NurseTerminal✈🌎」(通称ナスタミ✈)も仲間と一緒に立ち上げています。
https://instagram.com/nurseterminal
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