どうして今、社会人がAIやデータサイエンスを学ぶとよいのか
AIやデータサイエンスといったキーワードが、人材や学び直しといった文脈で使われることが増えてきました。この記事では、社会人がデータ活用について学ぶことがどう繋がるのか、時代背景と一緒にみていきたいと思います。
AI、データサイエンスが力を発揮する時代に
まず背景として、コンピュータや通信環境の発達というものがあります。身の回りを見ても、スマホはここ10年くらいで当たり前のものになりました。通信環境も、ここ10数年で圧倒的に良くなってきています。それにより、蓄積されるデータの量も爆発的に増えています。
扱えるデータの量が増え、コンピュータの性能も上がると、これまで試すことができなかったビッグデータを用いたアルゴリズムを試すことができるようになりました。いわゆるAI・機械学習のブームです。
そうすると色々な仕事で、これまで勘や経験で行ってきた業務を、データに基づいて推論することで、もっとよい結果が出るということがわかってきました。そこで、色々な企業で、これまでたれ流しになっていたデータをきちんと蓄積し、データに基づいて色々決めていこうという動きが加速しています。
そしてこの動きはコロナ禍の影響でリモートワークが進んだこともあって、更に加速しようとしています。
データ化・データ活用の加速
IoT機器やAIの発展により、身の回りのことがどんどんデータ化されていきています。IoT機器のセンサーやAIのカメラ等の発達で、これまで垂れ流しになりデータとして扱えなかったものを、データとして蓄積できるようになりました。データ化されたということは、それをAI等でさらに分析することができるということです。これは企業にとっても新しいビジネスチャンスで、データを活用した様々なサービスが生まれてきます。
ここではスポーツを例に、データ化xデータ分析の例をみてみたいと思います。例えばラグビーでは、2004年からトップリーグの全試合のデータを収集しています。パスやキックなど通常のプレー項目はもちろん、タックルの部位やラインアウトの参加人数・ジャンパーなど、1試合あたり約2,000以上もの膨大なプレーデータを取得、データベース化し、あらゆる角度から分析を行っています。(ラグビー国内リーグ開幕!データで見る 注目選手は!?)
選手の動きをトラッキングする技術も進んできています。これまでどの選手がどのような動きをしたかの情報は、消えていってしまうか、録画したとしても人間がデータ化する必要がありました。最近はセンサーの発達により選手を自動でトラッキングしたり、AIの発達によりカメラの映像から自動で動きを取得することも可能になってきています。位置や動きの情報をデータ化することで、これまで出来なかったデータ分析ができるようになり、戦略立案に活用されています。(バスケ放送映像からAIで追跡データ、ディズニー傘下ESPNが汎用ツールで実現)
KKD(勘・経験・度胸)からDD(データ・ドリブン)な仕事・働き方へ
では、データ活用が進むと私たちの働き方にはどんな影響が出てくるのでしょうか。
これまでの多くの仕事では、勘・経験・度胸に基づいて行うことが多かったと言われています。データ化されてない状態での仕事は、属人的な経験が物を言うことが多いと言うこともできるでしょう。
一方、データ化が進むことにより、根拠に基づいた決定をすることが可能になります。企業運営のために必要な意思決定を、データを元に判断し実行することが可能になるのです。これをデータドリブンといいます。
データ活用が進むことにより、仕事はどんどんデータドリブンになっていくと考えられます。
ここからは、データドリブンな事例をいくつかみていきます。
ワークマン
データドリブンの1つ目の例はワークマンです。
ワークマンは職人さん向けの作業服専門店で、国内の店舗数はユニクロを超えるほど展開されています。このワークマンが、ここ最近ワークマンプラスという見せ方で展開しています。
ワークマンはもともと低価格・高機能が強みの、職人向けブランドでした。
それを、低価格なアウトドアショップとして内装をスタイリッシュにして展開したのです。作業服専門店がアウトドアショップになったイメージのギャップが話題を生み、1店目は開業半年で計画比2.2倍の売上を達成することになりました。
ポイントは、ワークマンプラスで扱っている商品は、すべてワークマンでも扱っているということです。商品は同じで、売り方を変えただけで客層が大きく拡大しました。
この成功には様々な努力や要因がありますが、そのうちの1つがデータドリブンなアプローチと言われています。
ワークマンはもともとは完全にアナログな会社で、データも社内にはほとんど存在しない状況でした。どれだけ在庫があるのかというデータすらなく、業務の多くは、発注なども含めて基本的に勘と経験に基づいて行われていました。
しかし、ワークマンプラスという新しい事業を始めるためには丼勘定では通用しません。そのため、アナログワークマンからデジタルワークマンへと変貌する、データ経営のプロジェクトが始まりました。
まず行ったのは、全ての社員がEXCELでデータ分析をできるようにすることです。このプロジェクトを推進したリーダー曰く「EXCELがよいのは、自分で考えるようになるから。AIはたちどころに結果を教えてくれる。だからこそ社員が考えなくなってしまう。」とのことで、一人ひとりがしっかりとデータに向き合うことの大切さを強調しています。その結果、データに基づいて在庫管理や発注ができるようになり、社内で自動発注のアルゴリズムを作成できるまでになりました。
データ経営により、出世できる人のタイプも変わってきました。社内の価値観が変わり、これまでは顔が広くてコミュニケーションが得意なタイプが部長になっていたのが、在庫を数字でつかめるような、データ分析が得意なタイプが部長になっていくようになりました。データ分析力が、部長の必須条件になったのです。
データ経営の文化が醸成されていく中で、仕入れの完全自動化システムの開発も行われました。こういったシステム開発では一般的に、AIやシステム開発を専門とするベンダーにまとめて依頼することが多いのですが、ワークマンでは需要予測の仕組みはあくまでもEXCELで内製し、できたものをシステム化するというやり方にこだわりました。これも、自分で原理がわからなければいけないという考え方からきています。
最後に、徹底的なABテストを行いました。ABテストというのは、AパターンとBパターンという2つの比較対象物を用意して、どちらの方が成約率が高いかなどを測定する手法です。元の立地や売れ行きがバラバラのワークマンプラスを同時にリニューアルオープンし、全面改装がいいのか、部分改装でも十分なのかなどデータに基づいて改装手法を絞り込んでいきました。
このようにワークマンでは、データを元に自分たちで徹底的に考え、施策に落としていくことにこだわりました。それがワークマンプラスでの成功に結びついたと言えるでしょう。
Uber
もう1件、ワークマンとは少し対象的な例をみてみたいと思います。Uberはアメリカ生まれの配車サービスです。タクシー会社に勤めていなくても自分の車に客を乗せてドライバーとして働くことができるサービスで、日本で行うと白タクになってしまうのですが、世界的には類似サービスも合わせて大ヒットしています。
ドライバーはいつでも自分の好きな時間に自分の車をつかって働くことができます。ドライバーはアプリを起動するとお客さんを見つけることができ、ユーザーはアプリを起動することで近くのドライバーを見るけることができます。
アプリ上で目的地までの経路や金額も確認できるので、ユーザーは安心して利用できる仕組みになっています。支払いまで含めてアプリで完結するので、言葉が通じない海外旅行などの際も重宝します。
このUberでも、データを活用した様々な仕組みが導入されています。
ここでは、Uberが取り入れているデータドリブンな仕組みを3つほど紹介したいと思います。
まず1つめは、需要予測です。データに基づき、どこにどれだけお客さんが居そうかを予測します。タクシーの需要が発生しそうな時間と場所にドライバーを導くことができれば、お客さんはより少ない待ち時間で車に乗れますし、ドライバーはより稼ぐことができます。
こちらのサイトから、ドライバー向けのUberのアプリ画面を確認することができます。このエリアに行けば稼ぎが1.6倍になるという表示がされているのが分かると思います。AIが、どこにいくとどれだけ儲かりそうか教えてくれるので、ドライバーはそれに従って運転することでより稼ぐことができるようになります。
2つめは、配車の最適化です。データに基づき、配車までのユーザーの待ち時間が全体で最適・最短になるように、配車を最適化します。ユーザーとしては待ち時間が少ないドライバーを見つけてくれる機能といえますし、ドライバー的には、AIが自動でお客さんを見つけてくれる機能とも言えるでしょう。
3つめは、需要と供給に応じた価格の自動設定です。ユーザーのタクシーに対する需要があり、ドライバーが近くに少なければ、運賃が高くなり逆の場合では安くなります。これはデータに基づいて決定されます。ドライバーにとってはAIが自動で価格交渉し、運賃を決めてくれる機能ともいえるでしょう。
このように、Uberではデータに基づいてドライバーを支援するAIがたくさん搭載されています。ドライバーはAIの指示に従って運転するとAIがお客さんを見つけて価格交渉をしてくれるので、乗せてナビ通りに運転すれば稼げる仕組みになっています。
創る人、使いこなす人、使われる人
ここまでワークマンとUberの例をみてきました。ワークマンでは全社員がデータの基礎を学び、自らEXCELを使って解析をしていました。需要予測のソフトを作った際も、専門家に丸投げするのではなく、自分達で解析しEXCELで需要予測ができるようにした上で、システム化しています。データの基礎を学び、自分の頭で考え、売上向上という目的に向かって活動しています。
一方、Uberの運転手は基本的にAIの指示に従い、AIの手足のように動いています。いつか自動運転が実用化されたら、まっ先にいらない人員になってしまいます。AIが指示する際には理由はセットになっておらず、ただ与えられた結論に沿って動く形になります。これに関しては、運転手達がUberを相手に、アルゴリズムの説明責任を求めた訴訟にも発展しています。(英国のUber運転手らがアルゴリズム説明責任をめぐりUberを提訴)
この先、データ化した時代に仕事をしていく上で、どちらも私たちにとってありうる未来です。使いこなす人を目指すには、データに関する基礎知識が必要です。
AI、データ活用という、これからの時代の武器
スマホを含むコンピュータが普及し、通信環境が発達することで、より多くのデータが蓄積されるようになりました。更に、AIの目や耳の発達や、IoT機器により、これまでデータ化されていなかったことが、どんどんデータとして蓄積されるようになってきています。
そんな中色々な仕事で、これまで勘や経験で行ってきた業務を、データに基づいて判断・実行することで、もっとよい結果が出るということがわかってきました。それに伴い、企業によるデータ活用の機運が高まることで、更にデータ活用が進み、データ化、データ活用のサイクルが加速しています。
データ活用が進んだ世界では、AIやデータを活用できるかが仕事を進める上でのカギになります。データをうまく活用して仕事をするためには、データの基礎を学び、自分の頭で考え、目的に向かって活動することが大切です。
そうでないと、AIの指示に従い、AIの手足になる働き方になるかもしれません。
データ活用を強力な武器として、これからの時代を生き抜いていきましょう。