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巨匠映画監督は、可愛い。

巨匠映画監督がいる。
彼らは誰も彼もがフレンドリーでなんなら、ちょっと可愛い。「誰が?」という声もあろうが、“全員”だ。メディアが創りたがる、偏屈で横暴で頑固な創造主がいたとして、その人が巨匠の地位を獲得できるのか、と。集中度は常人外れ、覚悟は侍のごとし、生き様は風のままに。なんて愛おしい巨匠たち。許されるなら、抱きしめたい。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 最近のはなし 』

わたしは社交的ではないしそもそも、創作活動以外の趣味も持たない。そのために、かなり限定された人間関係の中にある。誰とも話さずに一日を終えることも珍しくないのだが、とにかく、忙しい。慌ただしくて騒々しく、穏やかな日々とは無縁な“心の中”を生きている。自分が向上していると勘違いできる「インプット作業」は、快楽だ。取捨選択にこそ、注力したい。「アウトプット」は、限界まで少なくしたい。質を高めたいためだがそもそも、その考え方が古い。覚悟を決めて、推敲していない記事を発信するところから練習させてもらっている次第。それでも処理できない情報と課題には、優先順位をつけなければならない。現在の最優先は、2日間放置してしまった“ぬか床”の世話だ。焦る。

さて、はじめよう。

『 プライドと偏見 』

「プライド」が気にかかる。
辞書を引いてみれば、“自尊心”とある。自尊心とは、自分自身を尊重する気持ちのことだ。なんだか気にかかる。よどんだ生活臭のような古さを感じる。

「自分を幸せにできないで、他人を幸せにできるか!」という名台詞に、何度か遭遇してきた。その度にわたしは、同じ生活臭を感じた。彼らは輝いていて、活力に溢れ、誰もを幸せにしそうな演出ができていた。実際に他人を幸せにしているのかどうかは、知らない。

わたしは、かつて現場に入らせてもらった(※スタッフ未満野次馬以上程度)世界的な巨匠の言葉を想い出す。

「タクシーに乗って、駅まで、って言う。運転手が車を走らせて、駅に着く。ね? でもさ、運転手がその日の気分で“快晴の海を眺めながら行こう”とかだったらさ、困るよ。運転手は、楽しまない」

これは、わたしが19歳の時、「映画監督って、楽しいですか?」などという滑稽な質問に、答えて頂いたときのセリフ。

含蓄深い。がしかし、よくできている話だなぁ。最初は乗客だった感情移入の対象がやがて、運転手だった自分に帰結する。しかも、ハンドルを握るラストカットの表情はやけに、カッコいい。

わたしは、命とトレードオフで生み出される映画が、好きだ。
自らを優先し、尊重する人間をアーティストだとは想わない。

『 巨匠とまんじゅう 』

“巨匠”とは、芸術分野の大家を指す。好きな単語だ。そこには重厚さと、不動の覚悟を感じる。巨匠が発する言葉ひとつひとつはそのまま“作品”であり、対面している人々の心情を串刺しにする。

以前、雲間から太陽が現れる瞬間を待つ、撮影現場のシリアスな空気があった。撮影スケジュールは逼迫しており、誰もが沈黙している。

「重いね。」

巨匠の一言に一堂、唇を結んで頷き、雲を見上げていた。たまたま巨匠の傍らにしゃがんでいたわたしは、記録さん(スクリプター)が巨匠に差し出した“まんじゅう”へのコメントだと気付いていた。

巨匠の言動は、重い。

『 巨匠YouTuber 』

1年前、コロナ禍のさなか、巨匠が新作短編をYouTubeから発信した。YouTubeチャンネル「DAVID LYNCH THEATER」は軽々と映画界に受け止められ、以降、Vimeoと両立で巨匠たちが次々と続いている。

自尊よりも作品を優先する巨匠だからこそ、時代に則した進化を続ける。

わたしは多くの映画人と同じように、プライドに縛られていたように想う。
創作活動の最終目的を忘れて、“監督然”として過ごすスタジオ生活に満足しながら、心地よさを感じていたことに気付いた。

「監督!」と呼ばれることが目的で、肩書きを捨てられない人がいる。
「いちおう、女優です」と言いたくて、美貌の追求を怠らずに基礎も知らない人がいる。「製作中」と言いたくて、スタジオに籠もっている自分は、甚だダサい。

プライド、その逆を生きることが、映画監督なのかもしれない。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:スペインの映画産業を強化する方法と留意点

スペインが、かつて“映画の国”として知られていた活況を取り戻しつつある。昨年5月にスペイン政府は、海外での大規模な撮影に対する優遇を実施した。今年3月には、スペインの映画制作を強化するために、AVS(研究用途)ハブとして19億ドル(2,070億円)を搬出。またDisneyをはじめとする外国企業のスペイン進出を促進する、税制優遇措置を設けた。同国メジャーのパルマ・ピクチャーズCEOが語る。「スペインではますます多くの作品が創られるでしょう。大手が参入して大きな施設を建設することも、必然だと理解しています」映画撮影に重要な検討事項であるロケーションとコスト効率について、スペインはその両方を満たしているといえる。問題は、演者やIPの確保だ。「才能を維持することは、映画の鍵です。課題は重要です。私たちはそれを実現するための議論に、いくらでも時間を割き、達成します。言葉よりも、行動がものを言うのです」NETFLIXを代表するグローバルな配信業者たちにとって、各国ローカルの市場を征服することこそが最重要になってきている。一方で各国は、他国に進出する野心に燃えている。各国の映画業界はこのギャップを混同している。世界的な作品と、自国のローカル作品の製作方法に違いは無いはないというが、業界の認識違いは根強い。スペインの映画産業は、米国および英国との連携に依存している。 - MAY 02, 2021 VARIETY -

『 編集後記:』

地味なニュースながら、実に意味深い。

「他国で成功したい映画業界」と「その国の中で制作して欲しい来訪救世主」の図だ。

日本もまったく同じ状況下にあることを、忘れるわけにはいかない。Disney+以外、NETFLIX、HBO Max、Amazon Prime Video、Apple TV+他にも続々、“各国ローカル”を征するべく、進出してくる。

彼らが欲しているのはその国固有の実力であり、完成後の配信で獲得したいのは、制作国でのヒットだ。しかしどこの国も一様に、他国での成功を夢見ている。

とはいえ、言いなりに受注を続けていれば発注国に業界のハンドルを握られることになる。だがその成果は確実に、業界を潤し、技術を向上させ、後人の育成に寄与する。しかし業界は自立する機会を逸して、他国からの製造工場に成り下がることは必至。

歯がゆいジレンマだ。この状況の中に明確な答えは、無いただし、どんな状況にも動じず、自国の映画業界を堅持しつつ、国際展開を目論むことは可能。

「インディペンデント」が牽引することだ。

巨大な豪華客船である業界はこの嵐に気付かないまま、沈むかもしれないしかし、そこから脱したインディペンデントの、ちいさなちいさなゴムボートはどうか。回りを見回して欲しい。そこには既に、沢山のゴムボートが揺れている。

豪華客船は沈もうとも、すべてのゴムボートが同時に沈む可能性は低い。怪我しようとも、たかが小さなインディペンデントの戦士数名。手を取り合ったなら滅ぶことなどあり得ない。

巨大なチャンスから見捨てられたインディペンデントかもしれないしかし、他国の状況に左右されることなく、自国の業界を守り抜く力はある。
戯言に聞こえるだろうか。では、余談を一つ。

「ハリウッド」という映画村を知っているだろうか。そこには世界中から膨大なインディペンデントが集結し、世界最大のメジャーを支えている。メジャーたちは世界を牽引し、リーダーの元でマーケットを発展させ続けている、という話。

メジャーを牽引するリーダーたちはまた、「インディペンデント」だ。

正しく恐れながら大海へ漕ぎ出すべく今日も映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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