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衛星画像がメディア報道に与えるインパクト

先月下旬にインド洋のモーリシャスの沖合で座礁した商船三井が運航する貨物船から、油漏れが確認されました。会社はプレスリリースを出していますが、写真までは出していません。

地球の反対側のはるか遠い島国で起きたことなので、いくら日本のメディアとはいえよほど大事にならない限り、現地には取材にいかないでしょう。海外メディアの多くも、AFP通信が配信した、陸からの写真を載せている程度です。

そこで公開されたのは、アメリカの衛星企業「Maxar Technologies」が撮影した、上の衛星画像です。

30センチ四方の解像度を実現

Maxar Technologiesは、衛星画像を撮影する民間企業ではトップクラスの性能を誇っています。元々は歴史のある宇宙関係の会社ですが、2017年にDigital GlobeとMDA Holdingsが合併して、Maxar Technologiesになりました。

なんと言ってもその売りは画像の精度です。最も精巧なものでは30センチ四方の解像度の衛星画像を可能にしています。1つの画素が30センチ四方なので、人間の体が2画素で表示される程度でしょうか。

大統領は自分でルールを決められる

そもそもアメリカでは、25センチ四方よりも精巧な衛星画像は、公開するには大統領の承認が必要なので、基本的にそれより精巧な画像が出てくることはありません。

しかし、一度だけ、25センチよりもと言われる解像度の画像が公開されたことがありました。それが、トランプ大統領のツイートです。

ブリーフィングを受けた資料を写メってツイートしたのか、写真の中央部分は光が反射していますし、右上の地図はゆがんでいます。この画像は、大気中の塵などの関係で理論上の限界とも言われる15センチ四方程度の写真と言われていて、25センチ以下なので大統領の承認が必要ですが、その大統領本人がツイートしているので、大丈夫なのでしょう!

情勢が緊迫すると威力を発揮

Maxarと同じような企業で競争しているのが、広い意味での「シリコンバレー」に含まれるサンフランシスコに拠点を置くPlanet Labです。CEOがNASA出身のスタートアップ企業です。

Maxarは数少ない衛星を運用しているのに対し、Planetは100以上の衛星を打ち上げて運用しています。そして、今イチオシなのがSkySat。それまでにもうちょっと高い軌道を飛んでいた衛星の位置を下げて(より地球に近づけて)、より50センチ四方の解像度の写真を実現しました。

今月、レバノンの港で起きた爆発現場の写真は、このSkySatで撮影されています。今年1月、イランの革命防衛隊の司令官がアメリカによって殺害されたことに対する報復として、イランがイラクにあるアメリカ軍の基地を攻撃したときの被害の様子もPlanetが捉えています。

衛星画像がメディア報道にどう役立つかというと、モノは簡単です。かゆいところに手が届くのです。軍事的な緊張が高まっている最中に、現場に入って映像や写真を撮影することは無理ですし、自国の被害を無邪気に公開することもあり得ません。ましてや、「ドローンなら」と思って上空に飛ばせば、一瞬で打ち落とされるでしょう。

こうした意味で、「見えないところが見える」のが衛星画像なのです。日本のメディアでは、まだあまり活用されていないようですが、衛星画像はソーシャルメディアやデジタルパブリッシュメントとの相性がよく、海外メディアでは多様されています(拡大してこそ精巧に見られるので、新聞向きではないと思います)。

ファクトチェックにも

今メディアで精巧にできたフェイク画像が問題となるなかで、ニュー・ヨーク・タイムズは、今年1月にウクライナ機が撃墜された事件で、自分たちが入手した動画を事実かどうか検証するために、衛星画像を活用しました。

入手した動画に映っている建物や物体を、衛星画像から1つずつ丁寧に確認し、動画の真実性の精度を上げています。

衛星画像は、日進月歩の世界で、公開が許されるレベルまでは精度が向上し、活用のバリエーションも増えていくでしょう。今回はPlanetとMaxarを取り上げましたが、Airbusも衛星画像事業に参入し、2社と並ぶようになっています。

日本のメディア報道のおける衛星画像の活用がどんな風に変わっていくのか楽しみです。


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