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真夏の海が見たい、それだけ。

結婚してから、ひとりきりで遠くへ出かけることはほとんどなくなっていた。
どちらかが友だちとごはんに行くぐらいで、行き先も大体繁華街だ。
僕も妻もシフト制の仕事をしていて、お互いの休みは原則合わせるようにしている。
だから、ひとりきりで遠くへ出かけることはほとんどなくなっていた。
そんな発想も起きなかった。

結婚してから、ふたりの時間が多くなり、ひとりの時間が減っていった。
特にこれは僕の方が割合強く、パート時々個人事業主な妻は自分だけの時間を持っている。
それに不満があったわけではないけれど、気がつくと読もうと思って買っていた積ん読が山になっていた。
何かを書いたり表現しようにも、インプットの量が確実に減っていたのは自覚していたし、そのための時間が欲しかったのは事実だ。

ふとSNSで、「普通列車のグリーン券を買って、ただ乗るだけ」というプチ旅行をしている人の投稿を見た。
なるほど、電車であれば車の運転と違って移動中は自分で自由に過ごせる。
グリーン券なら、特急や新幹線に乗るよりも割安だ。

ちょうど妻が出勤し、僕が公休というタイミングが昨夜見つかった。
今日だ。
妻が出勤するタイミングで出かけて、お昼ぐらいに帰ってきて買い物をして行こうかと話し、出かけることにした。

行先の候補は、

  • 小田原・熱海

  • 鎌倉~江ノ島

  • 木更津

といった、海沿い。
夏のキラキラした海が見たかった。
潮の香りが嗅ぎたかったわけではないが、どこまでも広がる青を見たかった。
普段ビル群の隙間を縫って出勤しているからか、スケールの大きな場所へ行きたかったのかもしれない。
あるいは、夏の海というエネルギーの塊を、窓ガラスという盾を一枚挟んで受け取りたかったのかもしれない。

朝の東京駅に着いた時、あと15分で熱海行きが来ることがわかった。
乗り換えなしで片道2時間を確保できることをスマホの乗換案内アプリで知り、すぐにグリーン券を買った。

平塚を過ぎたあたりから下り電車の前方左手にはオーシャンビューが広がり始め、国府津から先はもう見たい景色だけが広がっていた。
電車が軽やかにかけていく音が気持ちよくて、気が付けばイヤフォンを外していた。
思っていたのは真夏の海が見たい、それだけ。

熱海駅に着いて朝9時から空いている駅ビルで地元のお土産をいくつか買い、来た道を折り返した。
ニューサマーオレンジなんていう果物があることを、この旅行で初めて知った。

海から線路一本分遠くなったからか、東海道線の線路よりも道路の方が海に近いことを今更ながら知った。
一人で出かけてきて最後に思ったのは「あの道を二人で車に乗って走りたいな」という、結局ひとりを手放すアイデアだった。

#わたしと海

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