【皮膚がエルム街の悪夢】…中学生
ニキビはとても手強い敵である。
僕は中学生の頃、大量のニキビに悩まされていた。
右頬のニキビが治る前におでこに発生し、おでこのが治る前に鼻先に発生する。皮膚科に行って薬を貰っても全く改善されなかった。
医者からは
「ニキビはストレスが原因でもあるから溜め込まないようにしてください」
と言われたがその理論でいくと、ニキビがストレスでニキビが発生してることになるので、僕の顔からニキビが消えることは一生ないのだ。
夢の永久機関人間として誰か偉い人に研究してもらって、1人でも多くのニキビに悩んでる人のために役立ててもらうしか、僕のニキビの価値は無かった。
そんな悩みを抱えた中学2年生の夏、僕はCMでやっていた薬に挑むことにした。
その薬は〈軟膏タイプで寝る前にニキビ部分にちょこんと塗って、時間がたつとニキビ菌となる脂を吸い取り、ニキビは綺麗さっぱりなくなる〉という優れものだ。
ありとあらゆる手を尽くしていた僕には奇跡のような薬だった。僕はその薬を気になる箇所にちょこちょこっと塗りぐっすりと眠った。
ワクワクして朝起きると布団にべったりと軟膏がついていて、僕のニキビにはなんの変化もなかった。
寝相の問題だなと気づいた僕はその夜、昨日よりも慎重に軟膏を塗り、慎重に眠った。
翌朝起きてみるとやっぱり布団に軟膏がべったりついて、ニキビに変化はなかった。
寝る姿勢に気を使った分むしろ増えていた気がする。
この困難を乗り越えなければまたニキビで悩む日々、夢の永久機関人間に戻ってしまうと思った僕は必死に知恵を絞り、ある結論に至った。
《ニキビこんなにいっぱいあるんだから、ちょこちょこじゃなくてべったりと顔に塗ればいんじゃね?》
僕は天才だった。早速、気になってる右頬、鼻付近に大胆にしっかりと塗った。
翌日朝起きた僕は、見事な作戦を思いついた過去の自分を褒めながら顔を洗った。
と同時に激しい痛みに襲われた。
軟膏を適量よりも多く塗ったせいで、取らなくてもいい脂分まで吸い取ってしまい、皮膚が乾燥しカピカピになってしまったのだ。
例えるなら、冬場に唇が乾燥して大きく口を動かすと切れてしまう、あんな状態だ。
見た目もその部分だけくすんで変色していて、まるで『エルム街の悪夢』に出てくるフレディ・クルーガーのようになってしまった。
範囲が狭いのでフレディ・小クルーガーということにしよう。
小クルーガーとなった僕は全く治らない皮膚のために、また医者に行くことにした。
ニキビで悩んでた患者が別の問題で大変なことになっていたので、医者も困惑していた。
とりあえず、良い軟膏を処方してもらった。
どんな効果があるのかは知らないけれど、もう人の言うことを素直に聞くことしか小クルーガーにはできることがなかった。
しかし、処方された軟膏を塗っても皮膚は良くならなかった。むしろ、良くならないストレスで更にニキビは増えた。
そんな生活にも慣れてきた頃、家族で海に行くことになった。
僕は《絶対に顔に染みるのになんて恐ろしい計画を立てているのだ》と思ったが、海で遊ぶのは大好きなので行くことにした。
『火垂るの墓』のせいたが節子の汗疹をタオルで拭うシーンを思い出しながら、僕は皮膚を海水につけた。
少しヒリヒリするけれど、気持ち良くもあった。
砂浜で待ってる母が「お腹すいたやろ、カルピスも冷えてるよ」と呼んでくるのを待ちながら、皮膚をずっと海水に晒していたら、なんと今までの苦労が嘘のように、すっかりと良くなっていたのだ。
更に他のニキビも少し良くなっていた。
僕は海に行く計画を立ててくれた家族に感謝して、久々にぐっすりと眠ることができた。
次の日あの海水パワーを忘れられない僕は、ぬるま湯に塩を混ぜて顔を洗った。
皮膚を激痛が襲った。
CMの軟膏の失敗から、僕は何も学ぶことができていなかった。
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