知のバトンをつなげられない世界

人間は色々な知を何世代もかけて掘り下げていっていると思うのだが、その限界がどこかで来るのではないかなと漠然と考えており、ある意味、知のバトンを次の世代に引き継ぎきれない時が来るのではと思っている。Twitterに以前つぶやいたときに、なるほど、的な反応も割とあったので、何が目的という訳でもないが、とりあえず考えをダンプしてみようと思う。

思えばそう最初に考え始めたのはたぶん大学院の頃だったような気がする。応用物理・数学系の大学院に進んでいたのだけれども、自分がその時思っていたのは、今、大学院で学んでいるような事はとても大事だと思うし、ここまで学べばもっとみんな数学とか物理の面白さも分かるし意味も分かると思うのだけれど、なかなかそうはいかないのかな、と思った時。そう思いつつも、それを共有できる人がとても少なかった、ある意味研究室の人くらいしかいなかった事に端を発するような気がする。いや、それとも、助教授の人が、こういう大学院教育は必修化すべきかどうかという議論をしてきた時に考えたのだろうか。正確なタイミングは分からないが、いずれにせよ大学院の時だと思う。

改めて自分の身の回りを振り返ってみると、田舎出身だったこともあるのだけれども、中学校の同期は半分も大学に行ってない。まあ中学はさておき、高校の同期であってもその後大学に進んだ人も、大学院まで進んでいる人はまあ、正直半分もいないのは確実だろう。それどころか、認知している限りで言えば、半分どころか、10人に1人くらいではないだろうか。そして大学院に進んだ人も何人かいるけれども、専門分野が同じ方向の人はまずいない。同じ理系の分野であってもそうなのだ。そして、その個々人が更に進んだ先に、博士課程に進む人、かつそれの先に、大学の先生になったり研究を続けていく人がいるわけだ。自分は修士で卒業してこの先はまあいいかと思ってしまった人なわけで、更にその先に進んだ人からすると更にそう考えているかもしれない。

研究を突き進める方向に進んでいったその人たちに思いをはせると、その人達は、何等かの研究テーマを持って研究を進めると思うのだが、更に次の世代に思いをはせた時に、その世代は先人の内容を理解してから更にその先を考える事が多いだろう。そしてその更に次の世代はその先にいくためにその先人の知見を知ったうえで積み重ね、その次の世代は・・・と、そう思うと、そのオフセットがどんどん積まれていった先の未来で、知の習得の限界があるというか、知のバトンをいつか渡しきれない時が来るのではというか、本当に限られた人にしかその知を共有するレベルに届かない未来が来るのでは、という思いがある。

ある意味今でもその境地に達している分野はあるのかもしれない。アカデミックな分野は非常に営業的な要素を含んでおり、ある人に言わせると「教授は営業である」との事なので、研究することの経済的な合理性がない分野においてはもう進歩することもなく、そこに到達する人すらいないという意味では、知のバトンを継承できていない所もあるだろう。とはいえ私が考えているのはそれよりもどちらかというと、人間の知能の限界として、何かを習得していく事そのものが負担になっていった先に更に何かの研究結果を残していくという事を積み重ねた先の話で、ある意味ブロック遊びで言えばピースを積み重ねていくのだけれどもそのピースまで移動する事そのものに時間がかかるので、その先のピースを置く事自体がどこかで人間的な限界が出来るのではというか、そういう事をイメージしてしまうのだ。

その未来は、ある意味、人間としての知の境界・知の輪郭線が出来てしまった世界になるのだろう。そうなった時、そこから先に行くのは、人間ではいきつけないので、人間ではないものに託さざるを得ない。人間が到達し得るなら先ほどの話からそこから更に先があるという事なので、ここはロジック的にそうならざるを得ないというか、そういう限界の世界があった時の話となる。

そう考えると、もしかするとその世界、つまり、知のバトンをつなぎきれなくなった先の世界は、AIのような人間以外の存在にしか行きつけない世界になるのだろう。仮にそういう世界があるとするとその世界はその世界で興味深く、思索のし甲斐がある世界に感じる。まず、その領域までAIが到達した所を人間としては正確に判定できないというか、判定できる人も世の中にいないか、いても数人レベルで自分より先に到達したと感じるレベルという事だ。でもそれは正しいかどうかを言い切れはしない。人類の英知の極致である人たちでさえそう感じるような結果をAIが出してきた時に、人類は果たしてどのようにその結果を扱うのだろう。

哲学に疎い自分が色々思索を巡らせる前に、そもそもこの問いは人類にとって初めての問いなのだろうか。どこかで自分と同じ問いをして、そこに対して一定の境地に達した人に会えると嬉しいなと思う。

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