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担任教師に「お前が泣いてくれれば皆の心は動くんだ」って言われた

涙を流す女は、好きですか?
こんにちは、田口鈴です。

私の予想ではきれいなおねえさんは皆好きだが、ただただ涙を流すアラサー女は嫌いだと思う。
また田口の自虐が始まったと思ったでしょう。違うね。なんてったって田口の涙は人の心を動かす力を持っているからね。

その確信を得たのは中学2年生の時のこと。

私は校内合唱コンクールのクラス委員だった。その頃はまだ優等生と呼ばれていた時期で、何かを仕切ることを頼まれたり、自らその役目を担うことも多かった。

それなりに仕切って、それなりに練習に参加してもらって、本番を無事迎えられればそれで良かった。しかし、ある男だけは違った。


それは、担任のK。
彼は燃えていた。燃え盛っていた。この熱い情熱が要らぬ事件を引き起こす。

ある日、女子だけが調理室に呼ばれた。約20名の女子生徒に、Kが切り出した。


「最近、男子のことどう思う?」
どうした。ガールズトークに花を咲かせるつもりか。
その濃い目のソース顔には似合わない発言に不快感を抱いていると、


「あいつら、真剣に練習に参加していないだろ。」
ああ、そっちね。しかし、私はそこまで男子が不真面目だとは思っていなかった。


「俺に考えがあるのよ。」
こういう台詞に出てくる考えって大抵惨敗で終わる気がする。


「まず練習が始まったら女子の誰か一人が泣き出して、男子は驚く。女子皆で男子を責める。男子は反省し、心を入れ替えて練習してくれる。どう?」
開いた口が塞がらなかった。だがKは本気のようだった。


静まり返った調理室にクエスチョンマークが20個浮かんでいた。Kは続ける。

「じゃあ誰が泣くか、だな。」
皆賛成だと思ったらしい。今すぐ泣いたろか。


沈黙が続いた。皆チラチラと目は合うが、何も言い出さなかった。
そしてまさかの行動に出た女子が。


それは、私だ。
「私がやろうか。」と言った。
田口の脳内はお花畑かと思ったあなた。あながち間違いではない。


私はKに恋をしていたのだ。
Kの役に立つかもしれないと思った。まさに盲目。コイスルオトメはリスクを顧みない。


そんなこんなで練習の時間がやって来た。緊張していた。
Kが私にアイコンタクトを取る。さらにドキドキが止まらなくなる。アホすぎる。


よし、泣こう。私の中の女優スイッチがオンになった。


1分後には泣いていた。涙を流せた。周りの女子は驚いていた。本当に泣くのかと。しかし自分は全く驚かなかった。何故なら私は女優だから。

男子は動揺していた。作戦通りに、大丈夫?と心配して来た女子2人に連れられ、廊下に出る。
教室内では、優等生の私が泣いたことで、数人の男子がこれからはもっと真面目にやろうぜと発言していたらしい。


成功だった。
中には演技と見破っていた男子もいたが、私の女優としてのキャリアがスタートした日だった。そして愛しいKに自分を印象付けられた最高の日だった。

誰かがぼそっと呟いていたが、Kは金八先生に憧れていたらしい。生徒の心に残るような教師になりたかった少年の茶番に付き合わされた日でもあった。

帰り際、どうやら女優スイッチをオフにすることが出来ていなかったようで、茶番は終わったのに急に泣き出してしまった。それも今では納得が行く。オフに出来なかったのではなく、私は常に女優なのだと。生涯女優なのだと。


生涯茶番の間違いか。
田口鈴でした。

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