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『きみをあらいながせ 〜宮澤賢治作「銀河鉄道の夜」より』 (2007)

※上演ご希望ございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。著作権は宮澤賢治氏及び田口アヤコに、上演権はCOLLOLに帰属します。


【上演記録】


COLLOL『きみをあらいながせ 〜宮澤賢治作「銀河鉄道の夜」より』

王子小劇場
2007年3月9日(金)〜3月13日(火)

http://www.COLLOL.jp/kimiwoarainagase/

みじめなしあわせ

しみついたしあわせ

しがみついたしあわせ

おろかなしあわせ

惚けるしあわせ

交換可能なしあわせ

計算可能なしあわせ

焼却可能なしあわせ

にどともどらないしあわせ

約束しないしあわせ

うそばかりのしあわせ

てにのるしあわせ

捨てたいしあわせ


CAST

《ジョバンニ》
朝比奈佑介………………………
部屋の主
友人A
鳥捕りB

谷口真衣…………………………

秘密を話す人
かほる


《ジョバンニになれない人》
吉田ミサイル……………………
シュールなお母さん
年上の恋人
鳥捕りA
青年
カムパネルラのお父さん


《カムパネルラ》
木山はるか………………………
幼い彼女

ジョバンニ


《カムパネルラになれないひと》
笹岡幸司(進戯団夢命クラシックス)………………
牛乳屋
部屋に訪ねてきた、友人B
鳥捕りC
灯台守
秘密を話す人
ジョバンニ
かほる


《女子》
大倉マヤ…………………
ネットサーフィンをしているお母さん
内職をしているお母さん
OL
ジョバンニ
かほる(姉)

八ツ田裕美………………
牛乳屋
OL
カムパネルラ
男の子
お母さん


《黒い人たち》
甲斐博和(徒花*)………………
通学路にいるおとこ
車掌
友人に弔辞を読むおとこ
やぐらの上で旗を振る男

田口アヤコ…………………………
女子
かほる

大木裕之……………………………
カムパネルラのお父さん


STAFF

words&direction  田口アヤコ

音響演出     江村桂吾

照明       瀬戸あずさ

照明コンセプト  関口裕二(balance,inc.DESIGN)

美術       川島沙紀子

衣裳       川島沙紀子 田口アヤコ

舞台監督     吉田慎一 横川奈保子

制作       COLLOL

制作補     守山亜希(tea for two) 高橋悌 日下田岳史 宮田公一 角本敦

宣伝美術     鈴木順子(PISTOL☆STAR)

記録映像     FOU production


銀河鉄道の夜、をお芝居にします、ということをまわりに言い始めたときに、
破綻、している話なのでむずかしいよね、といわれました、
そして未完、終わっては、いますが、未完成 の 作品です

宮澤賢治さんとお話ししながら、
稽古場でつくっていったら、
こんな作品になりました。


あたしはほんとうにさいわい、とは
あいしあいされていきること、だとおもってるんだけど、、
おとなになるってことは、そこにもどることはむり、ってことで、
おかあさんが、
あたしのことを、
ゆめのようにあいしてくれたじかんなど、
もう、どこかに
どこかにいってしまって、
それでもいきつづけなければならないから、
うまれたら、
しぬまで、いきつづけなければいけないから、
いきてることなんてつらいことばかりである、
それでも、
模倣、
あいされたことの模倣、するために、
あいしてみたり、
家族をつくったり、
こどもを産んでみたり、
しごとにうちこんでみたり、
富をもとめてみたり、


COLLOL
劇作家/演出家/女優 田口アヤコ


*********

『きみをあらいながせ
  〜宮澤賢治作「銀河鉄道の夜」より』   


●学校

先生(谷口):ではみなさんは、
そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていた
このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。

(カムパネルラ 手をあげる
 ジョバンニ 手をあげようとして、やめる)

先生(谷口):ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。

(ジョバンニ 勢よく立ちあがる
 が、答えることができない)

先生(谷口):大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でしょう。

(ジョバンニ、やはり答えることができない)

先生(谷口):ではカムパネルラさん。

(カムパネルラ 答えられない)

先生(谷口):では。よし。
このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、
もうたくさんの小さな星に見えるのです。
ジョバンニさんそうでしょう。

先生(マヤ、笹岡):ではみなさんは、
そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていた
このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。

こどもたち: はい!
(カムパネルラ 手をあげる
 ジョバンニ朝比奈 手をあげようとして、やめる
 ジョバンニ谷口 やめた朝比奈をみる 座る)

先生(マヤ):ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。

(ジョバンニ朝比奈、谷口 勢よく立ちあがる
 が、答えることができない)

先生(笹岡):大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でしょう。

(ジョバンニ、やはり答えることができない)

先生(マヤ):ではカムパネルラさん。

(カムパネルラ木山、ミサイル 立つ 答えられない)

先生(笹岡):では。よし。
このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、
もうたくさんの

先生(マヤ):小さな星に見えるのです。
ジョバンニさんそうでしょう。

ジョバンニ(朝比奈&谷口): 
そうだ僕は知っていたのだ、勿論カムパネルラも知っている、
それはいつかカムパネルラのお父さんの博士のうちで
カムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。
カムパネルラは、その雑誌を読むと、
すぐお父さんの書斎から巨きな本をもってきて、
ぎんが というところをひろげ、
まっ黒な頁いっぱいに白い点々のある美しい写真を二人でいつまでも見た
それをカムパネルラが忘れる筈もなかったのに、
このごろぼくは、朝にも午后にも仕事がつらく、
学校に出てもみんなとも遊ばず、
カムパネルラともあんまり物を云わないようになった、
カムパネルラは気の毒がってわざと返事をしなかったのだ、
じぶんもカムパネルラもあわれなような気がする。

先生:
(笹岡)ですからもしもこの天の川がほんとうに川だと考えるなら、
(マヤ)その一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの
(笹岡)砂や砂利の粒にもあたるわけです。
(マヤ)またこれを巨きな乳の流れと考えるならもっと天の川とよく似ています。
(笹岡)つまりその星はみな、乳のなかにまるで細かにうかんでいる脂油の球にもあたるのです。
(マヤ)そんなら何がその川の水にあたるかと云いますと、
それは真空という光をある速さで伝えるもので、太陽や地球もやっぱりそのなかに浮んでいるのです。
(笹岡)つまりは私どもも天の川の水のなかに棲んでいるわけです。
この模型をごらんなさい。
(マヤ)このいちいちの光るつぶがみんな私どもの太陽と同じようにじぶんで光っている星だと考えます。
(笹岡)私どもの太陽がこのほぼ中ごろにあって地球がそのすぐ近くにあるとします。
みなさんは夜にこのまん中に立ってこのレンズの中を見まわすとしてごらんなさい。
(マヤ)こっちの方はレンズが薄いのでわずかの光る粒即ち星しか見えないのでしょう。
(笹岡)こっちやこっちの方はガラスが厚いので、光る粒即ち星がたくさん見え
その遠いのはぼうっと白く見えるというこれがつまり今日の銀河の説なのです。
そんならこのレンズの大きさがどれ位あるかまたその中のさまざまの星については
もう時間ですからこの次の理科の時間にお話します。
(マヤ)では今日はその銀河のお祭なのですからみなさんは外へでてよくそらをごらんなさい。
(二人)ではここまでです。本やノートをおしまいなさい。


●家・クラシック 朝比奈&ミサイル

朝比奈: お母さん。いま帰ったよ。工合悪くなかったの。

ミサイル: ああ、ジョバンニ、今日は涼しくてね。

朝比奈: お母さん。今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。

ミサイル: ああ、お前さきにおあがり。

朝比奈: お母さんの牛乳は来ていないんだろうか。

ミサイル: 来なかったろうかねえ。

朝比奈: ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。

ミサイル: あああたしもそう思う。おまえはどうしてそう思うの。

朝比奈: だって今朝の新聞に今年は北の方の漁は大へんよかったと書いてあったよ。

ミサイル: ああだけどねえ、お父さんは漁へ出ていないかもしれない。

朝比奈: きっと出ているよ。

ミサイル: お父さんはこの次はおまえにラッコの上着をもってくるといったねえ。
そうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。

朝比奈: うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。

ミサイル: ああ行っておいで。川へははいらないでね。

朝比奈: ぼく岸から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ。

ミサイル: もっと遊んでおいで。カムパネルラさんと一緒なら心配はないから。

朝比奈: …。お母さん、窓をしめて置こうか。

ミサイル: ああ、どうか。もう涼しいからね

朝比奈: では一時間半で帰ってくるよ。


●(現代)今だから言えること 笹岡&朝比奈

笹岡: あのさあ、ちょっと、
今だから言うよ? 今だから言うよ?

朝比奈: なに

笹岡: や
どーでもいいんだけど、
なんか おまえのこと、
いいなーって思うこととか
や 思ってたっていうか。

朝比奈: え

笹岡: なんか、うらやましいってゆうかさ、
いやま あれだよ
ゆく川の流れは絶えずして だよ

朝比奈: え なにがっていうか どれがっていうか

笹岡: まあ 昔の
むかしの、ってゆうか、うん。

朝比奈: むかしの?

笹岡: うん、まあ、むかしの。


●風景

谷口:
青白く光る銀河の岸に、銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした。
その天の川のきれいな水は、ガラスよりも水素よりもすきとおって、ときどき眼の加減か、ちらちら紫いろのこまかな波をたてたり、虹のようにぎらっと光ったりしながら、声もなくどんどん流れて行き、野原にはあっちにもこっちにも、燐光の三角標が、うつくしく立っていたのです。遠いものは小さく、近いものは大きく、遠いものは橙や黄いろではっきりし、近いものは青白く少しかすんで、或いは三角形、或いは四辺形、あるいは電や鎖の形、さまざまにならんで、野原いっぱい光っているのでした。ジョバンニは、まるでどきどきして、頭をやけに振りました。するとほんとうに、そのきれいな野原中の青や橙や、いろいろかがやく三角標も、てんでに息をつくように、ちらちらゆれたり顫えたりしました。

ミサイル:
ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすすきの風にひるがえる中を、天の川の水や、三角点の青じろい微光の中を、どこまでもどこまでもと、走って行くのでした。
線路のへりになったみじかい芝草の中に、月長石ででも刻まれたような、すばらしい紫のりんどうの花が咲いていました。カムパネルラが、そう云ってしまうかしまわないうち、次のりんどうの花が、いっぱいに光って過ぎて行きました。と思ったら、もう次から次から、たくさんのきいろな底をもったりんどうの花のコップが、湧くように、雨のように、眼の前を通り、三角標の列は、けむるように燃えるように、いよいよ光って立ったのです。

木山:
がらんとした桔梗いろの空から、さっき見たような鷺が、まるで雪の降るように、ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞いおりて来ました。するとあの鳥捕りは、すっかり注文通りだというようにほくほくして、両足をかっきり六十度に開いて立って、鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を両手で片っ端から押えて、布の袋の中に入れるのでした。すると鷺は、蛍のように、袋の中でしばらく、青くぺかぺか光ったり消えたりしていましたが、おしまいとうとう、みんなぼんやり白くなって、眼をつぶるのでした。ところが、つかまえられる鳥よりは、つかまえられないで無事に天の川の砂の上に降りるものの方が多かったのです。それは見ていると、足が砂へつくや否や、まるで雪の融けるように、縮まって扁べったくなって、間もなく熔鉱炉から出た銅の汁のように、砂や砂利の上にひろがり、しばらくは鳥の形が、砂についているのでしたが、それも二三度明るくなったり暗くなったりしているうちに、もうすっかりまわりと同じいろになってしまうのでした。

笹岡:
窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物が四棟ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼もさめるような、青宝玉と黄玉の大きな二つのすきとおった球が、輪になってしずかにくるくるとまわっていました。黄いろのがだんだん向うへまわって行って、青い小さいのがこっちへ進んで来、間もなく二つのはじは、重なり合って、きれいな緑いろの両面凸レンズのかたちをつくり、それもだんだん、まん中がふくらみ出して、とうとう青いのは、すっかりトパースの正面に来ましたので、緑の中心と黄いろな明るい環とができました。それがまただんだん横へ外れて、前のレンズの形を逆に繰り返し、とうとうすっとはなれて、サファイアは向うへめぐり、黄いろのはこっちへ進み、また丁度さっきのような風になりました。銀河の、かたちもなく音もない水にかこまれて、ほんとうにその黒い測候所が、睡っているように、しずかによこたわったのです。

やつだ:
ごとごとごとごと汽車はきらびやかな燐光の川の岸を進みました。向うの方の窓を見ると、野原はまるで幻燈のようでした。百も千もの大小さまざまの三角標、その大きなものの上には赤い点点をうった測量旗も見え、野原のはてはそれらがいちめん、たくさんたくさん集ってぼおっと青白い霧のよう、そこからかまたはもっと向うからかときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙のようなものが、かわるがわるきれいな桔梗いろのそらにうちあげられるのでした。じつにそのすきとおった奇麗な風は、ばらの匂でいっぱいでした。


朝比奈:
川下の向う岸に青く茂った大きな林が見え、その枝には熟してまっ赤に光る円い実がいっぱい、その林のまん中に高い高い三角標が立って、森の中からはオーケストラベルやジロフォンにまじって何とも云えずきれいな音いろが、とけるように浸みるように風につれて流れて来るのでした。だまってその譜を聞いていると、そこらにいちめん黄いろやうすい緑の明るい野原か敷物かがひろがり、またまっ白な蝋のような露が太陽の面を擦めて行くように思われました。まったく河原の青じろいあかりの上に、黒い鳥がたくさんたくさんいっぱいに列になってとまってじっと川の微光を受けているのでした。

マヤ:
突然とうもろこしがなくなって巨きな黒い野原がいっぱいにひらけました。新世界交響楽はいよいよはっきり地平線のはてから湧きそのまっ黒な野原のなかを一人のインデアンが白い鳥の羽根を頭につけたくさんの石を腕と胸にかざり小さな弓に矢を番えて一目散に汽車を追って来るのでした。まったくインデアンは半分は踊っているようでした。第一かけるにしても足のふみようがもっと経済もとれ本気にもなれそうでした。にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ倒れるようになりインデアンはぴたっと立ちどまってすばやく弓を空にひきました。そこから一羽の鶴がふらふらと落ちて来てまた走り出したインデアンの大きくひろげた両手に落ちこみました。インデアンはうれしそうに立ってわらいました。そしてその鶴をもってこっちを見ている影ももうどんどん小さく遠くなり電しんばしらの碍子がきらっきらっと続いて二つばかり光ってまたとうもろこしの林になってしまいました。こっち側の窓を見ますと汽車はほんとうに高い高い崖の上を走っていてその谷の底には川がやっぱり幅ひろく明るく流れていたのです。


●活版所、労働

家へは帰らず
ジョバンニが町を三つ曲って
ある大きな活版処にはいって
すぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをして
ジョバンニは靴をぬいで上りますと、突き当りの大きな扉をあけました。

中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの輪転器がばたりばたりとまわり、
きれで頭をしばったりラムプシェードをかけたりした人たちが、
何か歌うように読んだり数えたりしながらたくさん働いて居りました。

ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子に座った人の所へ行って
おじぎをしました。

その人はしばらく棚をさがしてから、
「これだけ拾って行けるかね。と云いながら、一枚の紙切れを渡しました。
ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい函をとりだして
向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある壁の隅の所へしゃがみ込むと
小さなピンセットでまるで粟粒ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。

青い胸あてをした人がジョバンニのうしろを通りながら、
「よう、虫めがね君、お早う。と云いますと、
近くの四五人の人たちが声もたてずこっちも向かずに冷くわらいました。

ジョバンニは何べんも眼を拭いながら活字をだんだんひろいました。

六時がうってしばらくたったころ、
ジョバンニは拾った活字をいっぱいに入れた平たい箱を
もういちど手にもった紙きれと引き合せてから、
さっきの卓子の人へ持って来ました。
その人は黙ってそれを受け取って微かにうなずきました。

ジョバンニはおじぎをすると扉をあけてさっきの計算台のところに来ました。
するとさっきの白服を着た人が
やっぱりだまって
小さな銀貨を一つジョバンニに渡しました。

ジョバンニは俄かに顔いろがよくなって威勢よくおじぎをすると
台の下に置いた鞄をもっておもてへ飛びだしました。

それから元気よく口笛を吹きながらパン屋へ寄って
パンの塊を一つと角砂糖を一袋買いますと
一目散に走りだしました。


●(現代)労働 木山&ミサイル

木山: 握手しよう!

ミサイル: え

木山: はい(手を出す 握手する、手をつなぐ)

ミサイル: はい。

木山: なんかさあ、
元気ないよ!

ミサイル: そう、でも ないでしょ

木山: 会社、毎日、行ってる?

ミサイル: あたりまえでしょ

木山: うん

ミサイル: …

木山: 就活とかさあ、
どうしたらいいかなあ

ミサイル: え?

木山: え、なんかそろそろ、
なんか説明会行ったりとかさあ、OB訪問とかさあ、

ミサイル: ああ、そうか、
就活ね

木山: うん

ミサイル: 働くって、
たいへんだよ?

木山: え?

ミサイル: え
まあ、でも、
就職、しないとね

木山: うん。(くっつく)


●家・現代 朝比奈&マヤ

朝比奈: ただいま
具合
どう?

マヤ: おかえり、
つかれたでしょ、
きょうは涼しかったから あたしはずっと調子がよかった

朝比奈: 角砂糖、買ってきた。
牛乳にさ、いれたらいいんじゃないかとおもって

マヤ: ああ、あんた先に食べなさいよ
あたしはまだだいじょうぶ

朝比奈: お姉ちゃん、いつ帰ったの?

マヤ: 3時頃だねえ
そこらみんなやってくれた。

朝比奈: お母さんの牛乳、来てないのかな

マヤ: ああ、きづかなかったけど…

朝比奈: 行って取って来る

マヤ: あたしはゆっくりでいいんだから、先に食べちゃいなさい、
お姉ちゃん、トマトでなにかつくってそこに置いてったから。

朝比奈: ん、
お母さん
お父さんさあ、
たぶん、来週くらいに帰ってくるよ

マヤ: そうね、
なんでそうおもうの?

朝比奈: 新聞 今日の新聞に、
今年は 北のほうの漁は儲かってる、って

マヤ: ああそうねえ、
でもお父さん、漁に出てるかどうか
わかんないわ

朝比奈: 漁に、出てるよ
わかんないけど、警察、なんて うそだよ
こないだお父さんが持ってきてくれた、
おおきなカニの甲羅とか、となかいの角とか、
ちゃんと学校の標本室にあるんだよ
6年生なんか
授業のとき 先生がかわるがわる教室へ持ってく

マヤ: お父さん、
つぎに帰ってくる時には
あんたにラッコの上着を持って来るって言ってたねえ…

朝比奈: みんなぼくに会うとそれを言うよ。
冷やかすように言う

マヤ: あんたに悪口を言うの?

朝比奈: うん…でもカムパネルラなんかぜったい言わない、
カムパネルラは、ぜったい言わない。

マヤ: あのこ、
うちのお父さんとあのこのお父さんと、
あんたたちみたいにちっちゃいときからともだちなのよね、

朝比奈: ああ、
だから
お父さん、
ぼくを連れてカムパネルラのうちに、いっしょに行ったよ
あのころはよかったなあ
ぼく学校から帰るとき、しょっちゅうカムパネルラのうちに行った
あいつんち、アルコールランプで走る汽車があって、
レール、7つ組み合わせるとまるくなって、
電柱とか、信号機とかもついてて、
その信号機、汽車が通るときだけ青く光る
アルコールがなくなったときがあって、かわりに石油を使ったら、
缶がすっかり煤けた。

マヤ: そう、

朝比奈: いまも毎朝新聞をまわしに行くよ
でも いつも 家中まだしいんとしてる。

マヤ: 朝、早いからねえ

朝比奈: ザウエル っていう犬がいて、
すごいちっちゃい犬で、
ぼくが行くとついてくるんだ
ずーっと、町の角のとこまでついてくる。
もっといっしょに来ることもある。
今夜は銀河のお祭りだから、
きっと犬もついて行くよ

マヤ: ああそうね、
今晩は銀河のお祭だね。


●祭り

ジョバンニは、口笛を吹いているようなさびしい口付きで、
檜のまっ黒にならんだ町の坂を下りて来たのでした。
坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立っていました。
ジョバンニが、どんどん電燈の方へ下りて行きますと、
いままでばけもののように、長くぼんやり、うしろへ引いていたジョバンニの影ぼうしは、
だんだん濃く黒くはっきりなって、足をあげたり手を振ったり、
ジョバンニの横の方へまわって来るのでした。

(ぼくは立派な機関車だ。ここは勾配だから速いぞ。
ぼくはいまその電燈を通り越す。そうら、こんどはぼくの影法師はコムパスだ。
あんなにくるっとまわって、前の方へ来た。)

とジョバンニが思いながら、大股にその街燈の下を通り過ぎたとき、いきなりひるまのザネリが、
新らしいえりの尖ったシャツを着て電燈の向う側の暗い小路から出て来て、
ひらっとジョバンニとすれちがいました。

「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」


●(現代)祭りの裏側 笹岡&朝比奈

(朝比奈家 前、バイトがいっしょだった友達)

笹岡: たばこ、喫っていい?

朝比奈: ベランダ。

笹岡: ああ、

(笹岡 ベランダで、たばこを喫う 花火の音)

笹岡: 始まった

朝比奈: いいの?

笹岡: え、いいよ

朝比奈: うん

笹岡: なんかさあ、変な話、
また、見られるじゃん、ておもったりさ、
花火なんて、毎年、
でもさ、あーーーあした、死ぬかも、
とかさ。
なんかさあ ぞくぞくする。

朝比奈: え それ ぞくぞくって 意味ちがくない?

笹岡: いいじゃん ぞくぞく、するんだよ

朝比奈: …うん。

(笹岡 部屋の中に戻って来る)

笹岡: バイト、いまなにやってんの

朝比奈: え、CD屋

笹岡: あれ コンビニやめたの

朝比奈: ん

笹岡: え、ちゃんと毎日行ってんの

朝比奈: え、週3とか、
でもたぶんもーやめるよ

笹岡: あ そう

朝比奈: なんかさあ、年下のくせに、先輩ぽいやつとか、
なんか、もーいいやって

笹岡: うん 花火 いいの?

朝比奈: いいよ

笹岡: なんかさあ、ちゃんと、外とか、でたほうがいいよー

朝比奈: え

笹岡: や、

朝比奈: じゃあ行く

笹岡: え

じゃあ(いっしょに行こうとする)

朝比奈: え
いいよ
ひとりで行くから
ついてくんなよ

笹岡: おう

朝比奈: うん

笹岡: あ じゃあ うん たこ焼き 買ってきてよ
(お金渡す)

朝比奈: …(お金を見るけど受け取らない 出て行こうとする、ちょっと立ち止まる)

笹岡: え
帰って 来る?

朝比奈: え?
え?
え なんか、いまおれ、死にそーとかおもった?

笹岡: え
うん
おもった。

朝比奈: 死なないよ


●(現代)祭りの裏側 マヤ&やつだ
(花火の音)

マヤ: 始まった

やつだ: いいの?

マヤ: え、いいよ

やつだ: うん

マヤ: なんかさあ、変な話、
また、見られるじゃん、ておもったりさ、
花火なんて、毎年、
でもさ、あーーーあした、死ぬかも、
とかさ。
なんかさあ ぞくぞくする。

やつだ: え それ ぞくぞくって 意味ちがくない?

マヤ: いいじゃん ぞくぞく、するんだよ

やつだ: …うん。

マヤ: なんか、あれだね、
ひさしぶりに会うっていうのは
あれだ、
話すこと ないね!!

やつだ: え

マヤ: なんかさあ、いま
すんごい沈黙じゃなかった?

やつだ: や じゃあー
どう? 最近。

マヤ: うん。

やつだ: …。

マヤ: なんかさあ、
会社のトイレとかで、
いきなり泣きたくなったりするよ。

やつだ: …。

マヤ: うん。


●牛乳屋・前半 谷口&笹岡

谷口: 今晩は、
今晩は、ごめんなさい。
あの、今日、牛乳が僕んとこへ来なかったので、貰いにあがったんです。

笹岡: いま誰もいないでわかりません。あしたにして下さい。

谷口: おっかさんが病気なんですから今晩でないと困るんです。

笹岡: ではもう少したってから来てください。

谷口: そうですか。ではありがとう。


●牛乳屋・前半 朝比奈&笹岡

朝比奈: 今晩は、
今晩は、ごめんなさい。
あの、今日、牛乳が僕んとこへ来なかったので、貰いにあがったんです。

笹岡: いま誰もいないでわかりません。あしたにして下さい。

朝比奈: おっかさんが病気なんですから今晩でないと困るんです。

笹岡: ではもう少したってから来てください。

朝比奈: そうですか。ではありがとう。


●家・関西弁 木山&マヤ

木山: ただいま
具合
どう?

マヤ: おかえり、
つかれたでしょ、
きょうは涼しかったから あたしはずっと調子がよかった

木山: 角砂糖、買ってきた。
牛乳にな、いれたらええかとおもって

マヤ: ああ、あんた先にお食べ
あたしはまだだいじょうぶ

木山: お姉ちゃん、いつ帰ったん?

マヤ: 3時頃やねえ
そこらみんなやってくれた。

木山: お母さんの牛乳、来てへんのかな

マヤ: ああ、きづかんかったけど…

木山: 行って取って来る

マヤ: あたしはゆっくりでええんやから、先食べなさい、
お姉ちゃん、トマトでなんかつくってそこ置いてったから。

木山: ん、
お母さん
お父さんさあ、
たぶん、来週くらいに帰ってくるよ

マヤ: そやね、
なんでそうおもうん?

木山: 新聞 今日の新聞に、
今年は 北のほうの漁は儲かってる、って

マヤ: ああそうやねえ、
そやけどお父さん、漁に出とうかどうか
わからへんわ

木山: 漁に、出とうよ
わからへんけど、警察、なんて うそやわ
こないだお父さんが持ってきてくれた、
おおきいカニの甲羅とか、となかいの角とか、
ちゃんと学校の標本室にあるねん
6年生なんか
授業のとき 先生がかわるがわる教室へ持ってく

マヤ: お父さん、
つぎ帰ってくる時には
あんたにラッコの上着を持って来るって言うてたねえ…

木山: みんなぼくに会うとそれを言うわ。
冷やかすように言う

マヤ: あんたに悪口を言うん?

木山: うん…でもカムパネルラなんかぜったい言わへん、
カムパネルラは、
気の毒そうに、みとう

マヤ: あのこ、
うちのお父さんとあのこのお父さんと、
あんたたちみたいにちっちゃいときからともだちなんよね、

木山: ああ、
だから
お父さん、
ぼくを連れてカムパネルラのうちに、いっしょに行ったよ
あのころはよかったなあ
ぼく学校から帰るとき、しょっちゅうカムパネルラのうち行った
あいつんち、アルコールランプで走る汽車があって、
レール、7つ組み合わせるとまるくなって、
電柱とか、信号機とかもついてて、
その信号機、汽車が通るときだけ青く光る
アルコールがなくなったときがあって、かわりに石油を使ったら、
缶がすっかり煤けた。

マヤ: そう、

木山: いまも毎朝新聞をまわしに行くよ
でも いつも 家中まだしいんとしとう。

マヤ: 朝、早いからねえ

木山: ザウエル っていう犬がおって、
しっぽがホーキみたいやねん
ぼくが行くとさあ 鼻くんくんして、ついてくる
ずーっと、町の角んとこまでついてくる。
もっといっしょに来ることもある。
今夜はみんなでカラスウリの灯りを川に流しに行くねんて
きっと犬もついて行くよ

マヤ: ああそやね、
今晩は銀河のお祭。


●牛乳屋・前半 朝比奈&やつだ

朝比奈: 今晩は、
今晩は、ごめんなさい。
あの、今日、牛乳が僕んとこへ来なかったので、貰いにあがったんです。

やつだ: いま誰もいないでわかりません。あしたにして下さい。

朝比奈: おっかさんが病気なんですから今晩でないと困るんです。

やつだ: ではもう少したってから来てください。

朝比奈: そうですか。ではありがとう。


●ザネリ

「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」


空気は澄みきって、まるで水のように通りや店の中を流れましたし、
街燈はみなまっ青なもみや楢の枝で包まれ、
電気会社の前の六本のプラタヌスの木などは、中に沢山の豆電燈がついて、
ほんとうにそこらは人魚の都のように見えるのでした。
子どもらは、みんな新らしい折のついた着物を着て、星めぐりの口笛を吹いたり、
「ケンタウルス、露をふらせ。と叫んで走ったり、
青いマグネシヤの花火を燃したりして、たのしそうに遊んでいるのでした。


●走る、

ジョバンニは、なんとも云えずさびしくなって、いきなり走り出しました。
すると耳に手をあてて、わああと云いながら片足でぴょんぴょん跳んでいた小さな子供らは、
ジョバンニが面白くてかけるのだと思ってわあいと叫びました。

ジョバンニは黒い丘の方へ急ぎました。
その黒い平らな頂上は、北の大熊星の下に、ぼんやりふだんよりも低く連って見えました。
ジョバンニは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、
どんどんのぼって行きました。
草の中には、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、
ある葉は青くすかし出され、
ジョバンニは、さっきみんなの持って行った烏瓜のあかりのようだとも思いました。

そのまっ黒な、松や楢の林を越えると、俄かにがらんと空がひらけて、
天の川がしらしらと南から北へ亘っているのが見え、
つりがねそうか野ぎくかの花が、
そこらいちめんに、夢の中からでも薫りだしたというように咲き、
鳥が一疋、丘の上を鳴き続けながら通って行きました。

ジョバンニは、頂の天気輪の柱の下に来て、
どかどかするからだを、つめたい草に投げました。

町の灯は、暗の中をまるで海の底のお宮のけしきのようにともり、
子供らの歌う声や口笛、きれぎれの叫び声もかすかに聞えて来るのでした。
風が遠くで鳴り、丘の草もしずかにそよぎ、
ジョバンニの汗でぬれたシャツもつめたく冷されました。
ジョバンニは町のはずれから遠く黒くひろがった野原を見わたしました。

そこから汽車の音が聞えてきました。
その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え、
その中にはたくさんの旅人が、苹果を剥いたり、わらったり、
いろいろな風にしていると考えますと、
ジョバンニは、もう何とも云えずかなしくなって、また眼をそらに挙げました。

あああの白いそらの帯がみんな星だというぞ。


●(現代)どうでもいいや 朝比奈&谷口、笹岡&木山

女子: あたしさあ、
いまが、いちばん、しあわせ

男子: え
あれ え
なんで 泣くの?

女子: しあわせだから。

男子: え

女子: しあわせだから。


●デジャヴ 谷口&木山、マヤ&やつだ

(夜、二人であおむけで星空をみている)

A   あ、デジャヴ!!

B   え?

A   なんか、

B   え え 空見てるだけじゃん

A   でも、なんか、夢で、
   あ 予知夢?

B   ええー??

A   えー じゃあ、前世で、見た、みたいな。

B   前世って、ないでしょそれは。
   えー前世はね、あれは、信じらんない。

A   そう? え じゃあさあ、来世は?

B   あ、来世はね、あるとおもう。りんねっていうか

A   えー そうか。

B   うん。え、
   生まれ変わりたいよ。

A   そうかー

B   うん。


●銀河鉄道に乗る、カムパネルラ 谷口&木山

カムパネルラ:みんなはねずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。
ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。

ジョバンニ:どこかで待っていようか

カムパネルラ:ザネリはもう帰ったよ。

ジョバンニ:この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。

カムパネルラ:銀河ステーションで、もらったんだ。君もらわなかったの。
おや、あの河原は月夜だろうか。

ジョバンニ:月夜でないよ。銀河だから光るんだよ。
ぼくはもう、すっかり天の野原に来た。

カムパネルラ:おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか。
ぼくはおっかさんが、ほんとうに幸になるなら、どんなことでもする。
けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだろう。

ジョバンニ:きみのおっかさんは、なんにもひどいことないじゃないの。

カムパネルラ:ぼくわからない。
けれども、誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸なんだねえ。
だから、おっかさんは、ぼくをゆるして下さると思う。

ジョバンニ:もうじき白鳥の停車場だねえ。

カムパネルラ:ああ、十一時かっきりには着くんだよ。


●銀河鉄道に乗る、カムパネルラ マヤ&やつだ

カムパネルラ:みんなはねずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。
ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。

ジョバンニ:どこかで待っていようか

カムパネルラ:ザネリはもう帰ったよ。
ああしまった。ぼく、水筒を忘れてきた。スケッチ帳も忘れてきた。
けれど構わない。もうじき白鳥の停車場だから。
ぼく、白鳥を見るなら、ほんとうにすきだ。川の遠くを飛んでいたって、ぼくはきっと見える。

ジョバンニ:この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。

カムパネルラ:銀河ステーションで、もらったんだ。君もらわなかったの。

ジョバンニ:ああ、ぼく銀河ステーションを通ったろうか。いまぼくたちの居るとこ、ここだろう。

カムパネルラ:そうだ。おや、あの河原は月夜だろうか。

ジョバンニ:月夜でないよ。銀河だから光るんだよ。
ぼくはもう、すっかり天の野原に来た。

カムパネルラ:ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。

ジョバンニ:ぼく、飛び下りて、あいつをとって、また飛び乗ってみせようか。

カムパネルラ:もうだめだ。あんなにうしろへ行ってしまったから。
おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか。
ぼくはおっかさんが、ほんとうに幸になるなら、どんなことでもする。
けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだろう。

ジョバンニ:きみのおっかさんは、なんにもひどいことないじゃないの。

カムパネルラ:ぼくわからない。
けれども、誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸なんだねえ。
だから、おっかさんは、ぼくをゆるして下さると思う。

ジョバンニ:もうじき白鳥の停車場だねえ。

カムパネルラ:ああ、十一時かっきりには着くんだよ。


●(現代)あやまる 朝比奈&ミサイル

朝比奈: なんかさあ、
あんとき ちゃんと
ちゃんとっていうか、
んー ちゃんとっていうか、
あやまっとけばよかったなあ っておもうこと
あるよね、

ミサイル: あー んー

朝比奈: んー でもさ、あやまってもさ、
解決は、しないんだけど

ミサイル: かいけつ?

朝比奈: や、なんか
とりあえず あやまる
ごめん。

ミサイル: え?

朝比奈: あ

そんな、たいしたことじゃ、ないんだけどさ

ミサイル: うん

朝比奈: うん

ミサイル: 悪いと、おもってる?

朝比奈: え

ミサイル: おもってるなら、いいよ

朝比奈: …うん


●鳥捕り マヤ&やつだ+ミサイル

ミサイル: ここへかけてもようございますか。

マヤ: ええ、

ミサイル: あなた方は、どちらへいらっしゃるんですか。

マヤ: どこまでも行くんです。

ミサイル: それはいいね。この汽車は、じっさい、どこまででも行きますぜ。
わっしは、鳥をつかまえる商売でね。

マヤ: 何鳥ですか。

ミサイル: 鶴や雁です。さぎも白鳥もです。

マヤ: 鶴、どうしてとるんですか。

ミサイル: 鶴ですか、それとも鷺ですか。

マヤ: 鷺です。

ミサイル: そいつはな、雑作ない。
さぎというものは、みんな天の川の砂が凝って、ぼおっとできるもんですからね、
そして始終川へ帰りますからね、
川原で待っていて、鷺がみんな、脚をこういう風にして下りてくるとこを、
そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっと押えちまうんです。
するともう鷺は、かたまって安心して死んじまいます。
あとはもう、わかり切ってまさあ。押し葉にするだけです。
そら。
どうです。すこしたべてごらんなさい。
そうそう、ここで降りなけぁ。


●(現代)うらやましい 笹岡&朝比奈、谷口&木山


A: え、でも
いいよね。

B: あーーー うん まあ

A: だってさ、
あ−でも わかんないけど。

B: え なにが?

A: どっちが いいか とかはさあ
わかんないでしょ

B: んー でも
うらやましい ってのはあるよやっぱり

A: うん

B: あーでも
やだなやっぱり。

A: そう?

B: うん

A: いやでもどーかなー

B: うん。

A: うらやましい。
いやでもどーかなー


●(現代)別れた。 マヤ&やつだ

やつだ: どおなの最近は
うまくやってるの?

マヤ: あー んーと、
別れた。

やつだ: え え あれ? あそっか。

マヤ: あ、でもまだ、
調整中、てゆうか、

やつだ: え?

マヤ: なんか、なじませてる、ってゆうか。
んー なんてゆうんだろ、
あれだね、

やつだ: うん

マヤ: や、こーゆうのはさあ
じかん、かかる、ね

やつだ: うん…

マヤ: 死んじゃえばいいのに。

やつだ: え

マヤ: やー うそうそうそ。

やつだ: 大丈夫?

マヤ: ん
いやー
だいじょーぶだいじょーぶ、だいじょーぶ


●鳥捕り 谷口&木山+笹岡、朝比奈、ミサイル

鳥捕り(朝・笹・ミ): ここへかけてもようございますか。

ジョバンニ: ええ、

鳥捕り(朝): あなた方は、どちらへいらっしゃるんですか。

ジョバンニ: どこまでも行くんです。

鳥捕り(ミ): それはいいね。

鳥捕り(朝・笹): この汽車は、じっさい、どこまででも行きますぜ。

カムパネルラ: あなたはどこへ行くんです。

鳥捕り(ミ): わっしはすぐそこで降ります。わっしは、鳥をつかまえる商売でね。

ジョバンニ: 何鳥ですか。

鳥捕り(笹): 鶴や雁です。

鳥捕り(朝・ミ): さぎも白鳥もです。

ジョバンニ: 鶴はたくさんいますか。

鳥捕り(ミ): 居ますとも、さっきから鳴いてまさあ。

鳥捕り(朝): 聞かなかったのですか。

鳥捕り(笹): そら、耳をすまして聴いてごらんなさい。

ジョバンニ: 鶴、どうしてとるんですか。

鳥捕り(朝・笹・ミ): 鶴ですか、それとも鷺ですか。

ジョバンニ: 鷺です。

鳥捕り(ミ): そいつはな、雑作ない。
さぎというものは、みんな天の川の砂が凝って、ぼおっとできるもんですからね、

鳥捕り(朝): そして始終川へ帰りますからね、

鳥捕り(笹): 川原で待っていて、鷺がみんな、脚をこういう風にして下りてくるとこを、
そいつが地べたへつくかつかないうちに、

鳥捕り(朝・笹・ミ): ぴたっと押えちまうんです。

鳥捕り(朝): するともう鷺は、かたまって安心して死んじまいます。

鳥捕り(ミ): あとはもう、わかり切ってまさあ。押し葉にするだけです。

ジョバンニ: 鷺を押し葉にするんですか。標本ですか。

鳥捕り(笹): 標本じゃありません。みんなたべるじゃありませんか。

カムパネルラ: おかしいねえ。

鳥捕り(ミ): おかしいも不審もありませんや。

鳥捕り(朝・笹・ミ): そら。

鳥捕り(笹): いまとって来たばかりです。

ジョバンニ: ほんとうに鷺だねえ。

カムパネルラ: 眼をつぶってるね。

ジョバンニ: 鷺はおいしいんですか。

鳥捕り(笹): ええ、毎日注文があります。

鳥捕り(朝): しかし雁の方が、もっと売れます。
雁の方がずっと柄がいいし、第一手数がありませんからな。

鳥捕り(朝・笹・ミ): そら。

鳥捕り(朝): こっちはすぐ喰べられます。どうです、少しおあがりなさい。

鳥捕り(ミ): どうです。すこしたべてごらんなさい。

ジョバンニ: ええ、ありがとう。

カムパネルラ: 鷺の方はなぜ手数なんですか。

鳥捕り(笹): それはね、鷺を喰べるには、天の川の水あかりに、十日もつるして置くか、

鳥捕り(朝): そうでなけぁ、砂に三四日うずめなけぁいけない。

鳥捕り(ミ): そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられるようになるよ。
そうそう、ここで降りなけぁ。

カムパネルラ: どこへ行ったんだろう。

ジョバンニ: あすこへ行ってる。

木山&マヤ:
と云った途端、がらんとした桔梗いろの空から、
さっき見たような鷺が、まるで雪の降るように、
ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞いおりて来ました。
するとあの鳥捕りは、すっかり注文通りだというようにほくほくして、
両足をかっきり六十度に開いて立って、
鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を両手で片っ端から押えて、布の袋の中に入れるのでした。
すると鷺は、蛍のように、
袋の中でしばらく、青くぺかぺか光ったり消えたりしていましたが、
おしまいとうとう、みんなぼんやり白くなって、眼をつぶるのでした。
ところが、つかまえられる鳥よりは、
つかまえられないで無事に天の川の砂の上に降りるものの方が多かったのです。
それは見ていると、足が砂へつくや否や、
まるで雪の融けるように、縮まって扁べったくなって、
間もなく熔鉱炉から出た銅の汁のように、砂や砂利の上にひろがり、
しばらくは鳥の形が、砂についているのでしたが、
それも二三度明るくなったり暗くなったりしているうちに、
もうすっかりまわりと同じいろになってしまうのでした。
鳥捕りは二十疋ばかり、袋に入れてしまうと、急に両手をあげて、
兵隊が鉄砲弾にあたって、死ぬときのような形をしました。
と思ったら、もうそこに鳥捕りの形はなくなって、

鳥捕り(ミ): ああせいせいした。

ジョバンニ: どうしてあすこから、いっぺんにここへ来たんですか。

鳥捕り(笹): どうしてって、来ようとしたから来たんです。

鳥捕り(朝): ぜんたいあなた方は、どちらからおいでですか。

鳥捕り(朝・笹・ミ): ああ、遠くからですね。


●切符

「切符を拝見いたします。」

「これは三次空間の方からお持ちになったのですか。」

マヤ: 何だかわかりません。」

「よろしゅうございます。南十字へ着きますのは、次の第三時ころになります。」

ミサイル: おや、こいつは大したもんですぜ。こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける切符だ。
 天上どこじゃない、どこでも勝手にあるける通行券です。
 こいつをお持ちになれぁ、なるほど、こんな不完全な幻想第四次の銀河鉄道なんか、
 どこまででも行ける筈でさあ、あなた方大したもんですね。


●青年、姉と弟、苹果

青年、かほる、タダシ(大木、田口、甲斐 & ミサイル、マヤ、やつだ)登場

田口、甲斐: 「何だか苹果の匂がする。僕いま苹果のこと考えたためだろうか。」
「ほんとうに苹果の匂だよ。それから野茨の匂もする。」
俄かにそこに、つやつやした黒い髪の六つばかりの男の子が
赤いジャケツのぼたんもかけずひどくびっくりしたような顔をして
がたがたふるえてはだしで立っていました。
隣りには黒い洋服をきちんと着たせいの高い青年が
一ぱいに風に吹かれているけやきの木のような姿勢で、
男の子の手をしっかりひいて立っていました。
青年のうしろにもひとり十二ばかりの眼の茶いろな可愛らしい女の子が
黒い外套を着て青年の腕にすがって不思議そうに窓の外を見ているのでした。

ミサイル: ああ、ここはランカシャイヤだ。いや、コンネクテカット州だ。
いや、ああ、ぼくたちはそらへ来たのだ。わたしたちは天へ行くのです。

田口、甲斐:
「あなた方はどちらからいらっしゃったのですか。どうなすったのですか。」
燈台看守がやっと少しわかったように青年にたずねました。

ミサイル: 氷山にぶっつかって船が沈みましてね、

やつだ、マヤ、谷口、朝比奈、笹岡、木山
「氷山にぶっつかって船が沈みましてね、
 わたしたちはこちらのお父さんが急な用で二ヶ月前
 一足さきに本国へお帰りになったのであとから発ったのです。
 私は大学へはいっていて、家庭教師にやとわれていたのです。

 ところがちょうど十二日目、今日か昨日のあたりです、
 船が氷山にぶっつかって一ぺんに傾きもう沈みかけました。
 月のあかりはどこかぼんやりありましたが、霧が非常に深かったのです。
 ところがボートは左舷の方半分はもうだめになっていましたから、
 とてもみんなは乗り切らないのです。
 もうそのうちにも船は沈みますし、私は必死となって、
 どうか小さな人たちを乗せて下さいと叫びました。
 近くの人たちはすぐみちを開いてそして子供たちのために祈って呉れました。

 けれどもそこからボートまでのところには
 まだまだ小さな子どもたちや親たちやなんか居て、
 とても押しのける勇気がなかったのです。

 それでもわたくしはどうしてもこの方たちをお助けするのが
 私の義務だと思いましたから前にいる子供らを押しのけようとしました。

 けれどもまたそんなにして助けてあげるよりは
 このまま神のお前にみんなで行く方が
 ほんとうにこの方たちの幸福だとも思いました。

 それからまたその神にそむく罪はわたくしひとりでしょって
 ぜひとも助けてあげようと思いました。

 けれどもどうして見ているとそれができないのでした。

 子どもらばかりボートの中へはなしてやって
 お母さんが狂気のようにキスを送り
 お父さんがかなしいのをじっとこらえてまっすぐに立っているなど
 とてももう腸もちぎれるようでした。

 そのうち船はもうずんずん沈みますから、
 私はもうすっかり覚悟してこの人たち二人を抱いて、
 浮べるだけは浮ぼうとかたまって船の沈むのを待っていました。
 誰が投げたかライフブイが一つ飛んで来ましたけれども
 滑ってずうっと向うへ行ってしまいました。
 私は一生けん命で甲板の格子になったとこをはなして、
 三人それにしっかりとりつきました。

 どこからともなく賛美歌の声があがりました。
 たちまちみんなはいろいろな国語で一ぺんにそれをうたいました。
 そのとき俄かに大きな音がして私たちは水に落ち
 もう渦に入ったと思いながらしっかりこの人たちをだいて
 それからぼうっとしたと思ったらもうここへ来ていたのです。」

ミサイル: この方たちのお母さんは一昨年没くなられました。
ええボートはきっと助かったにちがいありません、
何せよほど熟練な水夫たちが漕いですばやく船からはなれていましたから。

笹岡: なにがしあわせかわからないです。
ほんとうにどんなつらいことでも
それがただしいみちを進む中でのできごとなら
峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。

マヤ&田口: 燈台守がなぐさめていいました。

ミサイル: ああそうです。
 ただいちばんのさいわいに至るために
 いろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。

笹岡: いかがですか。こういう苹果はおはじめてでしょう。

ミサイル: おや、どっから来たのですか。立派ですねえ。
 ここらではこんな苹果ができるのですか。

笹岡: いや、まあおとり下さい。どうか、まあおとり下さい。

ミサイル: どうもありがとう。どこでできるのですか。こんな立派な苹果は。

笹岡: この辺ではもちろん農業はいたしますけれども
 大ていひとりでにいいものができるような約束になって居ります。
 けれどもあなたがたのいらっしゃる方なら農業はもうありません。
 苹果だってお菓子だってかすが少しもありませんから
 みんなそのひとそのひとによってちがったわずかのいいかおりになって
 毛あなからちらけてしまうのです。

マヤ&田口: にわかに男の子がぱっちり眼をあいて云いました。

やつだ: ああぼくいまお母さんの夢をみていたよ。
お母さんがね立派な戸棚や本のあるとこに居てね、
ぼくの方を見て手をだしてにこにこにこにこわらったよ。
ぼく おっかさん。りんごをひろってきてあげましょうか って云ったら眼がさめちゃった。
ああここさっきの汽車のなかだねえ。

ミサイル: その苹果がそこにあります。このおじさんにいただいたのですよ。

やつだ: ありがとうおじさん。
おや、かおるねえさんまだねてるねえ、ぼくおこしてやろう。
ねえさん。ごらん、りんごをもらったよ。おきてごらん。

マヤ&田口: 姉はわらって眼をさましまぶしそうに両手を眼にあててそれから苹果を見ました。
男の子はまるでパイを喰べるようにもうそれを喰べていました、
折角剥いたそのきれいな皮も、くるくるコルク抜きのような形になって
床へ落ちるまでの間にはすうっと、灰いろに光って蒸発してしまうのでした。


●(現代)弔辞

君はもういない、という事実は
声をかけても帰ってこない事実は
事実でしかなくて
だからそれは同時に
とても夢のようで
夢の中のようで

そうあって欲しいと願う僕には
チエというものが足りないのだろうか。

ああそのしなやかな胸を焼け
ああそのやわらかな黒い目を焼け
ああその細い喉を焼け

ああすべて
焼いて

ボクの欲しかった全てを
ボクが欲しがった全てを

あの、ごう、とおとのする炎が
せめて
せめて君を
明るくともして
ひかりに

メクラの人間にでも、道を、照らせるように。

今、君はほろほろと崩れるだけで。
だから、いつかもう一度君が
かたちを変えて僕の前に現れるなら
それを強く、強く願うのだけれど
そうならば僕は
君が
もうなにも言わなくてもいいように
僕は僕の耳を潰して

そろりと

抱いて

それだけ

あたたかくて幸福でゆっくりと

なにか
母鳥が子鳥に歌うようにそっと
なにか
大きな川を越える電車の中のように心地よく
なにか


●わたり鳥

川は二つにわかれました。
そのまっくらな島のまん中に高い高いやぐらが一つ組まれて
その上に一人の寛い服を着て赤い帽子をかぶった男が立っていました。
そして両手に赤と青の旗をもってそらを見上げて信号しているのでした。
ジョバンニが見ている間その人はしきりに赤い旗をふっていましたが
俄かに赤旗をおろしてうしろにかくすようにし
青い旗を高く高くあげてまるでオーケストラの指揮者のように烈しく振りました。

すると空中にざあっと雨のような音がして
何かまっくらなものがいくかたまりもいくかたまりも
鉄砲丸のように川の向うの方へ飛んで行くのでした。
ジョバンニは思わず窓からからだを半分出してそっちを見あげました。
美しい美しい桔梗いろのがらんとした空の下を
実に何万という小さな鳥どもが
幾組も幾組もめいめいせわしくせわしく鳴いて通って行くのでした。

「鳥が飛んで行くな。ジョバンニが窓の外で云いました。」
「どら、」カムパネルラもそらを見ました。

そのときあのやぐらの上のゆるい服の男は
俄かに赤い旗をあげて狂気のようにふりうごかしました。
するとぴたっと鳥の群は通らなくなり
それと同時にぴしゃぁんという潰れたような音が川下の方で起って
それからしばらくしいんとしました。
と思ったらあの赤帽の信号手がまた青い旗をふって叫んでいたのです。

「いまこそわたれわたり鳥、いまこそわたれわたり鳥。」

その声もはっきり聞えました。
それといっしょにまた幾万という鳥の群がそらをまっすぐにかけたのです。


●発破、賛美歌

マヤ: カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、
 どこまでもどこまでも一緒に行こう。
 僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば
 僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。

やつだ: うん。僕だってそうだ。

マヤ: けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。

やつだ: 僕わからない。

マヤ: 僕たちしっかりやろうねえ。

やつだ: あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ。


●(現代)秘密を話す 甲斐、ミサイル、笹岡、朝比奈

(ミサイル家での飲み会)

甲斐: わかった
じゃあー じゃあー
俺の、ひみつを、発表します!!

笹岡: え え
なになに わかったって

甲斐: あのー すんごいまえに、
冷蔵庫に入れてあったプリン、
食べた!!

朝比奈: え そんなの ぜんぜんひみつじゃないでーす

ミサイル: え それさあ、
おれがすっごいさがしてたやつだよね??

甲斐: そうでーす

笹岡: うわ ひど

朝比奈: ちょっとまってちょっとまって
もっとさあ、
こう、こころのひみつをさあ、

ミサイル: なに「こころのひみつ」って

甲斐: え それは あれだよ
じつは、マゾです!とかそういう、

朝比奈: いやそーゆうんじゃなくてさあ、

笹岡: はい
こないださあ、
すごい、
ひとを、
きずつけたんだよ

甲斐: え
なんかすっごいうそついたーとかそういうこと?

笹岡: えなんかそういうんじゃなくって、
なんか、

朝比奈: え かのじょ?

笹岡: ちがう
なんかさあ、かのじょとかだったらまだいいってゆうか、
 
ミサイル: ああ、

甲斐: え、でもわかんないけどさ、
そういうのは、もう
しょうがなくない?

笹岡: え

朝比奈: うん。


●(現代)秘密を話す やつだ、マヤ、木山、谷口

(マヤ家での飲み会)

木山: わかった
じゃあ、あたしの、ひみつを、発表します!

谷口: なになに わかったって

木山: あのー すんごいまえに、
冷蔵庫に入れてあったプリン、
食べた!!

やつだ: えー そんなの ぜんぜんひみつじゃなーい

マヤ: え それさあ、
あたしがすっごいさがしてたやつだよね??

木山: そうでーす

やつだ: えーちょっと
もっとすごいひみつ発表してよー

木山: えーじゃあー
こないだ
キセルしました!

マヤ: え あたし キセルって言ったら
京都までキセルしたことあるよー

木山: えーそれはすごいやばい

谷口: えーえーそんなんできるんだ

やつだ: え、じゃあ
万引きしたことありまーす

木山: あ それはある
小学校のときとか

谷口: なんかあたしけっこう最近、
するっと、入れちゃったことがある

マヤ: え

谷口: なんか化粧品とか、
なんか、するっと。


●(現代)祭りの裏側 木山&ミサイル

(花火の音)

木山: 始まった

ミサイル: いいの?

木山: え、いいよ

ミサイル: うん

木山: なんかさあ、変な話、
また、見られるじゃん、ておもったりさ、
花火なんて、毎年、
でもさ、あーーーあした、死ぬかも、
とかさ。
なんかさあ ぞくぞくする。

ミサイル: え それ ぞくぞくって 意味ちがくない?

木山: いいじゃん ぞくぞく、するんだよ

ミサイル: …うん。

木山: なんか、あれだね、
ひさしぶりに会うっていうのは
あれだ、
話すこと ないね!!

ミサイル: え

木山: なんかさあ、いま
すんごい沈黙じゃなかった?

ミサイル: や じゃあー
どう? 最近。

木山: うん。

ミサイル: …。

木山: なんかさあ、
会社のトイレとかで、
いきなり泣きたくなったりするよ。

ミサイル: …。

木山: うん。


●ぼくたちいっしょにいこうねえ、 笹岡&朝比奈

笹岡: カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、
どこまでもどこまでも一緒に行こう。
僕はもうあのさそりのように
ほんとうにみんなの幸のためならば
僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。

朝比奈: うん。僕だってそうだ。

笹岡: けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。

朝比奈: 僕わからない。

笹岡: 僕たちしっかりやろうねえ。

朝比奈: あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ。

笹岡: カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。

朝比奈: ジョバンニが

二人: ジョバンニが斯う云いながらふりかえって見ましたら
そのいままでカムパネルラの座っていた席に
もうカムパネルラの形は見えず
ただ黒いびろうどばかりひかっていました。

ジョバンニはまるで鉄砲丸のように立ちあがりました。

そして誰にも聞えないように窓の外へからだを乗り出して
力いっぱいはげしく胸をうって叫び
それからもう咽喉いっぱい泣きだしました。

もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。


●(現代)あやまる マヤ&やつだ

マヤ: なんかさあ、
あんとき ちゃんと
ちゃんとっていうか、
んー ちゃんとっていうか、
あやまっとけばよかったなあ っておもうこと
あるよね、

やつだ: あー んー

マヤ: んーー
解決は、しないんだけど

やつだ: かいけつ?

マヤ: や、なんか
とりあえず あやまる
ごめん。

やつだ: え?

マヤ: うん。

やつだ: いいよ

マヤ: え

やつだ: いまさら。

マヤ: うん

やつだ: あのー
聞かなかった、ことにする

マヤ: え

やつだ: もう、

マヤ: …

やつだ: どっちでもいいや。


●カムパネルラのお父さん 笹岡&朝比奈&谷口+ミサイル

やつだ:ジョバンニはまるで夢中で橋の方へ走りました。
河原の水際に沿ってたくさんのあかりがせわしくのぼったり下ったり、
向う岸の暗いどてにも火が七つ八つうごいていました。
そのまん中をもう烏瓜のあかりもない川が、
わずかに音をたてて灰いろにしずかに流れていたのでした。
「ジョバンニ、カムパネルラが川へはいったよ。」
「どうして、いつ。」
「ザネリがね、舟の上から烏うりのあかりを水の流れる方へ押してやろうとしたんだ。
 そのとき舟がゆれたもんだから水へ落っこったろう。
 するとカムパネルラがすぐ飛びこんだんだ。そしてザネリを舟の方へ押してよこした。
 ザネリはカトウにつかまった。けれどもあとカムパネルラが見えないんだ。」
「みんな探してるんだろう。」
「ああすぐみんな来た。カムパネルラのお父さんも来た。けれども見附からないんだ。
 ザネリはうちへ連れられてった。」

ジョバンニはみんなの居るそっちの方へ行きました。
町の人たちに囲まれて
青じろい尖ったあごをしたカムパネルラのお父さんが
黒い服を着てまっすぐに立って右手に持った時計をじっと見つめていたのです。
下流の方は川はば一ぱい銀河が巨きく写ってまるで水のないそのままのそらのように見えました。

「もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」

「あなたはジョバンニさんでしたね。どうも今晩はありがとう。」

ジョバンニは何も云えずにただおじぎをしました。

「あなたのお父さんはもう帰っていますか。」

ジョバンニはかすかに頭をふりました。

「どうしたのかなあ。ぼくには一昨日大へん元気な便りがあったんだが。
 今日あたりもう着くころなんだが。船が遅れたんだな。
 ジョバンニさん。あした放課後みなさんとうちへ遊びに来てくださいね。」

そう云いながら博士はまた川下の銀河のいっぱいにうつった方へじっと眼を送りました。


●家・クラシック マヤ&やつだ

ジョバンニ:お母さん。いま帰ったよ。

お母さん:ああ、ジョバンニ、お仕事がひどかったろう。今日は涼しくてね。わたしはずうっと工合がいいよ。

ジョバンニ:今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。

お母さん:ああ、お前さきにおあがり。あたしはまだほしくないんだから。

ジョバンニ:お母さんの牛乳は来ていないんだろうか。

お母さん:来なかったろうかねえ。

ジョバンニ:ぼく行ってとって来よう。

お母さん:あああたしはゆっくりでいいんだからお前さきにおあがり

ジョバンニ:ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。

お母さん:あああたしもそう思う。
お父さんはこの次はおまえにラッコの上着をもってくるといったねえ。

ジョバンニ:みんながぼくにあうとそれを云うよ。ひやかすように云うんだ。
けれどもカムパネルラなんか決して云わない。

お母さん:あの人はうちのお父さんとはちょうどおまえたちのように小さいときからのお友達だったそうだよ。

ジョバンニ:あのころはよかったなあ。
ぼくは学校から帰る途中たびたびカムパネルラのうちに寄った。
カムパネルラのうちにはアルコールラムプで走る汽車があったんだ。
レールを七つ組み合せると円くなってそれに電柱や信号標もついていて
信号標のあかりは汽車が通るときだけ青くなるようになっていたんだ。
いつかアルコールがなくなったとき石油をつかったら、罐がすっかり煤けたよ。
いまも毎朝新聞をまわしに行くよ。けれどもいつでも家中まだしぃんとしているからな。
ザウエルという犬がいるよ。しっぽがまるで箒のようだ。
ぼくが行くと鼻を鳴らしてついてくるよ。ずうっと町の角までついてくる。
もっとついてくることもあるよ。
今夜はみんなで烏瓜のあかりを川へながしに行くんだって。きっと犬もついて行くよ。

お母さん:そうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。

ジョバンニ:うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。

お母さん:ああ行っておいで。川へははいらないでね。

ジョバンニ:ああぼく岸から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ。

お母さん:もっと遊んでおいで。カムパネルラさんと一緒なら心配はないから。

ジョバンニ:ああきっと一緒だよ。


●牛乳屋(後半) 谷口&笹岡

甲斐:
ジョバンニは眼をひらきました。
もとの丘の草の中につかれてねむっていたのでした。
胸は何だかおかしく熱り頬にはつめたい涙がながれていました。

ジョバンニはばねのようにはね起きました。
町はすっかりさっきの通りに下でたくさんの灯を綴ってはいましたが
その光はなんだかさっきよりは熱したという風でした。
そしてたったいま夢であるいた天の川も
やっぱりさっきの通りに白くぼんやりかかり
まっ黒な南の地平線の上では殊にけむったようになって
その右には蠍座の赤い星がうつくしくきらめき、
そらぜんたいの位置はそんなに変ってもいないようでした。

ジョバンニは一さんに丘を走って下りました。

ジョバンニ: 今晩は、

牛乳屋: はい。
何のご用ですか。

ジョバンニ: 今日牛乳がぼくのところへ来なかったのですが

牛乳屋: あ済みませんでした。
ほんとうに、済みませんでした。
今日はひるすぎうっかりしてこうしの棚をあけて置いたもんですから
大将早速親牛のところへ行って半分ばかり呑んでしまいましてね……

ジョバンニ: そうですか。ではいただいて行きます。

牛乳屋: ええ、どうも済みませんでした。

ジョバンニ: いいえ。


甲斐: ジョバンニはまだ熱い乳の瓶を両方のてのひらで包むようにもって牧場の柵を出ました。


●ジョバンニは

ジョバンニはまるで夢中で橋の方へ走りました。

ジョバンニはかすかに頭をふりました。

ジョバンニは何も云えずにただおじぎをしました。

ジョバンニはもういろいろなことで胸がいっぱいで
なんにも云えずに博士の前をはなれて
早くお母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと思うと
もう一目散に河原を街の方へ走りました。

ジョバンニは眼をひらきました。

ジョバンニはばねのようにはね起きました。

ジョバンニは一さんに丘を走って下りました。

ジョバンニは叫びました。

ジョバンニはわくわくわくわく足がふるえました。

ジョバンニはまだ熱い乳の瓶を両方のてのひらで包むようにもって
牧場の柵を出ました。

ジョバンニは橋の袂から飛ぶように下の広い河原へおりました。

ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思いました。

ジョバンニはああと深く息しました。

ジョバンニが胸いっぱい新らしい力が湧くようにふうと息をしながら云いました。

ジョバンニが斯う云いながらふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座っていた席にもうカムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。

ジョバンニはまるで鉄砲丸のように立ちあがりました。

ジョバンニはまるで夢中で橋の方へ走りました。

ジョバンニはどんどんそっちへ走りました。

ジョバンニが云いました。

ジョバンニは眼をひらきました。

ジョバンニはばねのようにはね起きました。

ジョバンニは一さんに丘を走って下りました。

ジョバンニは叫びました。

ジョバンニが胸いっぱい新らしい力が湧くようにふうと息をしながら云いました。


● カムパネルラのお父さん 谷口+大木

もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。

あなたはジョバンニさんでしたね。どうも今晩はありがとう。

あなたのお父さんはもう帰っていますか。

どうしたのかなあ。ぼくには一昨日大へん元気な便りがあったんだが。
今日あたりもう着くころなんだが。船が遅れたんだな。
ジョバンニさん。あした放課後みなさんとうちへ遊びに来てくださいね。


●さそりの火(かほる&ジョバンニ)

かほる: あら、蝎の火のことならあたし知ってるわ。

ジョバンニ: 蝎の火ってなんだい。

かほる: 蝎がやけて死んだのよ。
その火がいまでも燃えてるってあたし何べんもお父さんから聴いたわ。

ジョバンニ: 蝎って、虫だろう。

かほる: ええ、蝎は虫よ。だけどいい虫だわ。

ジョバンニ: 蝎いい虫じゃないよ。僕博物館でアルコールにつけてあるの見た。
尾にこんなかぎがあってそれで螫されると死ぬって先生が云ったよ。

かほる: そうよ。だけどいい虫だわ、
お父さん斯う云ったのよ。
むかしのバルドラの野原に一ぴきの蝎がいて
小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。
するとある日いたちに見附かって食べられそうになったんですって。
さそりは一生けん命遁げて遁げたけどとうとういたちに押えられそうになったわ、
そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、
もうどうしてもあがられないでさそりは溺れはじめたのよ。
そのときさそりは斯う云ってお祈りしたというの、
ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、
そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。
それでもとうとうこんなになってしまった。
ああなんにもあてにならない。
どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉れてやらなかったろう。
そしたらいたちも一日生きのびたろうに。
どうか神さま。私の心をごらん下さい。
こんなにむなしく命をすてず
どうかこの次にはまことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。
って云ったというの。
そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって
燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。
いまでも燃えてるってお父さん仰ったわ。ほんとうにあの火それだわ。

ジョバンニはまったくその大きな火の向うに
三つの三角標がちょうどさそりの腕のように
こっちに五つの三角標がさそりの尾やかぎのように
ならんでいるのを見ました。
そしてほんとうにそのまっ赤なうつくしいさそりの火は音なくあかるくあかるく燃えたのです。


●さそりの火(ラスト)

 蝎の火のことならあたし知ってるわ。

 蝎がやけて死んだのよ。
 その火がいまでも燃えてるって
 あたし何べんもお父さんから聴いたわ。

 むかし
 バルドラの野原に一ぴきの蝎がいて
 小さな虫やなんか
 殺して たべて 生きていて、
 ある日いたちに見附かって食べられそうになった、
 さそりは一生けん命遁げたけど
 とうとういたちに押えられそうになって、
 そのときいきなり前に
 井戸があって、
 その中に
 落ちてしまった、
 もうどうしてもあがれないで
 さそりは溺れはじめた、
 そのときさそりは斯う云って祈った、
 わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、
 その私が いたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。
 それでもとうとう
 こんなになってしまった。
 どうしてわたしは わたしのからだを
 だまっていたちに呉れてやらなかったろう。
 そしたらいたちも一日生きのびたろうに。
 神さま。私の心をごらん下さい。
 こんなにむなしく命をすてず
 どうかこの次には
 まことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。
 いつか蝎は
 じぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって
 燃えて
 よるのやみを照らしているのを見たって。
 いまでも燃えてるってお父さんが言ってた。


●きれいだねー

♪イエスタデイ

Yesterday all my troubles seemed so far away
Now it looks as though they're here to stay
Oh I believe in yesterday
Suddenly
I'm not half the man I used to be
There's a shadow hanging over me
Oh yesterday came suddenly
Why she had to go
I don't know she wouldn't say
I said something wrong now I long for yesterday
Yesterday
love was such an easy game to play
Now I need a place to hide away
Oh I believe in yesterday


イエスタデイ

きのうね、
あたしのいろんなぐちゃぐちゃが
もうどっかにいっちゃったようなきがしたんだ
いまはここに、ある、ような、きがするけど

うん、
あたしきのうは信じてた

突然
まえの自分のはんぶん、になっちゃったような
きがして
そこにはあたしの影だけがぶらさがってて、
そう きのう、突然、来た

なんで彼女はいっちゃったのかな?
わかんない なんにも、彼女、いわなかった、し、
あたしなんか
まちがったことを言ったりしたんだろうか?
きっと、ずっと、のこる、昨日、

きのうはね、
愛 ってのは かんたんにプレイできるゲームだった、
いまはあたし どこかに隠れたい。

そうあたし、きのうは信じてたんだ
きのうは信じてたんだ。


(終)

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