afterコロナのビジネスの課題 #21
先日、入山章栄さんのオンラインセミナーを受ける機会があったので、その中で話をされていた内容をご紹介しつつ、コロナ前後のビジネスの課題について考えてみたいと思います。
ちなみに現在、入山章栄さんの書かれた「世界標準の経営理論」という本を読んでいますが、知的好奇心が刺激されるとても面白い内容なので、全部読み終えたら感想を含めてレビューしたいと思います。ただ、800ページを超える分量があるので、読み終わるには少し時間がかかりそうですが笑。
1.コロナ前後のビジネスの課題
入山さんは、コロナ前後で企業経営の課題が大きく変わることはなく、元々の課題がより加速されるだけだと指摘します。
細かい点で言えば、テレワークが促進され、働き方改革がより進んでいく状況や、人と会うことを前提としたビジネスモデルが変革を迫られるなど、コロナ前後でビジネスの課題が変化するように思えますが、大きな枠組みとしては変わらないということです。
どのような枠組みかということですが、まず、現代のビジネス環境を整理してみます。
企業経営を取り巻くキーワードは、
不確実性
変化のスピードの早さ
人口減少社会→マーケットの縮小
だと思います。これは、
これまでの常識が通用しない
常に変化への対応が必要
生産性の向上が必要
という課題があることを示しています。
つまり、新しい価値の創造、イノベーションが必要だということです。イノベーション無くして、今後企業は生き残れないという環境にあり、このことはどの業界でも基本的には同じで、コロナ禍があってもなくても変わることはないというわけです。
そして、コロナ後は、さらにその状況が加速することになります。
2.イノベーションに取組む企業が勝ち組になる
イノベーションの本質は「既存の知と知の組み合わせ」です。これは、「アナロジー」と言ってもいいと思います。
前述の「世界標準の経営理論」にも「知の探索・知の深化の理論」として紹介されていますが、この理論では、企業経営は「知の探索」と「知の深化」のバランスで成り立っているとされます。これを「両利きの経営」といいます。
この「両利きの経営」について、入山さんは、
イノベーションは、一見関係ないもの同士を組み合わせることで生まれるため、「知の探索」(exploration)が必要なのです。そして、その組み合わせの結果、儲かりそうなところがあればそこを深掘りしていきます。これが「知の深化」(exploitation)です。知の探索と知の深化をバランス良くできる企業では、イノベーションを起こせる確率が高くなります。これを「両利きの経営」(Ambidexterity)といいます。
と説明しています。
前回の投稿でも書きましたが、「知の探索」とは、自分から離れた「遠くの知」を探索することをいいます。それを自分の持っている既存の知と組み合わせることで、イノベーションが起こるというわけです。
一方で、「知の深化」とは、「技術を磨く、今までやってきたことを極める」ことで、事業をビジネスとして収益化していくためには必要なこととされます。しかし、新たな知との組み合わせがなければ、単なる現状肯定となり、いずれは廃れてしまうことになります。
この点について、入山さんは、
現状を深掘りすれば少しは利益が得られてしまうため、企業は「知の深化」に偏る傾向がある。「知の深化」に偏り、「知の探索」が行われなくなると中長期的なイノベーションが枯渇する。これが「競争力のわな(Competency Trap)」と呼ばれるものです。
と説明されていました。
このように、「知の探索」を行わず、「知の深化」ばかりやっている企業は、現状肯定(現状維持)に陥ってしまい、「能力のわな(Competency Trap)」という状態になります。日本の多くの企業がこの状態にあり、変化に対応できず、苦しんでいると思います。
3.知の探索とは
では、「知の探索」とは、具体的どのようなことか、その例を、入山さんの話から引用します。
「トヨタ生産システム」は、日本の自動車生産と米国のスーパーマーケットの仕組みという、関係のない2つの視点が組み合わされて生まれたシステム。伝説の技術者と言われるトヨタ自動車工業の元副社長・大野耐一氏が米国のスーパーマーケットの方式を知った際に、モノや情報の流し方が自動車生産に応用できると考え、組み合わせたものとされている。
TSUTAYA(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)。こちらはCDレンタルに消費者金融の視点を取り込んだ形。創業者の増田宗昭氏は、消費者金融のビジネスを見て、CDシングルのレンタルビジネスが成功すると予想したという。TSUTAYAが創業した当時のCDシングルは1000円程度。CDを1000円で仕入れて、3日間100円で貸せば、元金1000円の1割を取れることになる。
このように、自分から遠く離れたところにある「知の探索」の結果得られた知見をうまく既存の知に取り入れることで、新たな価値を生み出しています(イノベーション)。
人や組織には認知限界があり、基本的に目の前の狭い部分しか見えていないので、意識的に視野を広げて、遠くを探索する必要があります。
では、継続的にイノベーションを起こすにはどうすればいいのでしょうか?入山さんは、そのための仕組みを社内に構築しなければならないとして、
個人レベル→一人ダイバーシティ、失敗を恐れない
戦略レベル→オープン・イノベーション(他業態とのアライアンス)、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)投資
組織レベル→組織を「知の探索部門」と「知の深化部門」に分けること、組織内のダイバーシティ
人脈レベル→SNS等の弱い結びつき
のそれぞれでどうするかを考える必要があると指摘します。その上で、
日本でダイバーシティが進まないのは、その必要性が腹落ちしていないため。同質の人間同士の集まりはどちらかというと「知の深化」を強化する。
弱い結びつきには、副業も有効
働き方改革は「知の探索人材」のためにある
DX(デジタル・トランスフォーメーション)も「知の深化」の時間を減らし、「知の探索」に多くの時間を割くためにある。
「知の探索」はAIにはできない。人間の仕事。
として、人・組織、I T面からの仕組み作りの重要性を強調していました。
4.センスメイキング理論
「知の探索」には時間もコストもかかるので、失敗も多くなります。だから、なぜそれが必要なのかについて、ステーク・ホルダーの共感・腹落ちが重要になります。
これが、前述の「世界標準の経営理論」にも出てきた「センスメイキング理論」です。
センメイキング理論とは、一言で言えば、「納得・腹落ち」の理論です。なぜそうするのかということについて、ステークホルダーの納得・腹落ちを得て、それを集約していくプロセスの理論です。
正確性よりも、集団・組織の納得・腹落ち感を重視する考え方です。
DXも従業員の共感・腹落ちなく進めると、より混乱が生じて、期待する効果が得られないだけでなく、マイナスの効果さえ生じさせかねません。
5.コロナ後のリーダーシップ
このことから、コロナ後の世界では、特にミッション、ビジョン、バリューを語る企業リーダーの発信力(ストーリーテラーとしての力量)が問われることになります。
これも変化の激しい現代には必須のリーダーシップの要素ですが、コロナ後はよりその重要性が加速化されると思います。
リーダーの発信力の重要性は、最初の投稿でも指摘しています。
6.まとめ
コロナ前後のビジネスの課題を入山章栄さんのオンラインセミナーを踏まえ、考えてきました。
コロナ前後でビジネスの課題の大枠は変わらないものの、コロナ後はさらにそれが加速されるということでした。
そして、その加速される課題をまとめると、
現代のビジネス環境で勝ち組となるには、イノベーションが必要であり、それを継続するためには、それらの取り組みについてのステークホルダーの納得・腹落ち(センスメイキング)が重要で、そして、その納得・腹落ちのストーリーを語ることのできる(ストーリーテラーとしての)リーダーが求められる
ということになるかと思います。