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短編小説

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TAGOが執筆した小説作品。ホラー、SF、恋愛、青春、ヒューマンドラマ、紀行文などいろいろ。完全無料。(113作品 ※2022/10/1時点) ※発表する作品は全てフィクションで… もっと読む
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2020年4月の記事一覧

初心者が1年間で短編小説100作品を書けた理由。

想像もつかなかった。 小説を書いた記憶といえば、今から15年くらい前に少し通っていた芥川賞作家の小説教室で提出した数作品だけ。そんな数えるほどしか書いたことのない小説初心者の自分が、1年間で100作品もの短編を書くことになるなんて。 これから書く話は、何年も書き続けている手練れの書き手や文学賞を目指すレベルの方の参考にはなりませんが、僕のような駆け出しの人が続けていく上ではちょっとだけ参考になるかもしれません。 初めてnoteに小説を投稿したのは、2019年4月23日。

『白詰草』(短編小説)    #同じテーマで小説を書こう

思いを寄せている人がいた。 下校時、廊下の窓ごしにサッカーをしている彼の横顔を見るのが私の日課だった。真剣な眼差しでグラウンドを走り回るその姿を目で追いながら「今日も頑張ってるね」と心で呟く。 まるで校庭の傍らにひっそり咲く白詰草の花のように。彼と同じ世界にいながらも自分を消していつもつつましく私は存在していた。自分に自信のない私は遠くから表舞台を見つめるだけ。彼は決して届かない存在。彼と話すのはおろか、視界に入るのも怖かった。 そう、あの

『私の知らない夫』(短編小説)

「ねえ・・・」 「・・・」 「ねえ? ねえってば! 」 「ん? 」 「もうっ、さっきから呼んでるのに、ぜんぜん聞こえてない」 「ああ、悪い悪い」 「毎日スマホばっかり見てるじゃない・・・」 ここのところずっと、夫の様子がおかしい。暇さえあれば、スマホをのぞき、指で何かの文字を打ち込んでいる。急にテンションがあがったり、攻撃的になったり、時には涙もろくなったりする。 「ちょっと最近おかしいよ」 「なんで? 」 「食事の時も、子どもの面倒を見ている時も、ずっとスマホを触

『先輩』(短編小説)

交差点の信号が青になった。帰路を急ぐ人の群れが一斉に動き出す。ワンテンポ遅れて僕たちも横断歩道へと歩き出した。 「先輩、軽くお茶でもしていきません? 」 「いいけど、また何かの相談? 」 「ま、まあ・・・はい。・・・ほら、あそこに見える赤煉瓦の喫茶店とかどうですか」 「うんいいね、あそこにしよう」 カランカランとドアベルの音を鳴らして店内に足を踏み入れる。そこには昭和のまま時間が止まったような世界が広がっていた。琥珀色のランプ。艶のあるメローなジャズピアノの音