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フェローシップや次世代研究者挑戦的研究プログラムに採択された博士課程の学生は開業届を出して個人事業主になろう

自分は某国立大学の博士課程の大学院生です。
博士課程は研究が大変なだけではなく、経済的にも色々苦労することが多いですよね。

そんな中、2021年度から博士課程の経済支援として文科省による科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業、JSTによる次世代研究者挑戦的研究プログラムがはじまりました。本制度により、年額180万円以上の経済支援が得られます。2021年度のフェローシップ採択者は約1,000人、次世代研究者挑戦的研究プログラム採択者は約6,000人らしいです。
(参考:日本学術振興会の特別研究員は約4,200人、博士課程在学者数は約75,000人)

本記事はこれらに採択された約7,000人、もしくは今後応募する人が税金で優遇されるための記事になります。

研究に従事している人達は、特に税金の仕組みに対して苦手意識がある人が多いのではないかと思います。
僕自身もこれまで税金に関する知識は全く無く、フェローシップや次世代研究者挑戦的プログラムは今年度から始まったものなので学振以外に参考記事も無く、本記事の結論に辿り着くまでにかなり時間を要しました。そのため、今年度採択された同期や今後採択される後輩が同じような苦労をしないよう、頑張って書き残すことにしました。

僕が採択されたのはフェローシップの方ですが、今年度から始まった次世代研究者挑戦的研究プログラムも似た制度なので、同じものとして扱い述べていきます。


まずは結論

フェローシップ事業、次世代研究者挑戦的研究プログラムは日本学術振興会の特別研究員(DC)と支援制度はかなり似ているのですが、所得の扱いが異なります。
それに伴い、フェローシップや次世代研究者挑戦的研究プログラムに採択された人は開業届を出して個人事業主になることで、経費計上可能な対象が増え、青色申告特別控除ができて税金が優遇されるという結論に至りました。

※僕自身、2021年から2023年までの3年間毎年確定申告を行いましたが、特に税務調査も無く、同様の手続きをしている周りの人達も税務調査でお咎めがあった等の連絡は頂いておりません。

本記事では、それに至った理由と、採択者は具体的に何をするべきかについて説明していきたいと思います。 

自分の採択されたフェローシップと収入状況

2021年度、僕の採択されたフェローシップは、大阪大学フェローシップ創設事業「分野横断イノベーションを創造する情報人材育成フェローシップ」になります。

本フェローシップに採択されると、年額200万円の研究活動支援金と年額50万円の研究費が博士課程の3年間貰えます。研究活動支援金は収入として自分の口座に振り込まれるもので、研究費は大学を経由して研究のためにだけ使用できます。フェローシップの種類によって金額は多少異なりますが、大きな差は無いかと思います。本記事では、フェローシップから年額200万円の研究活動支援金がもらえることを想定して話を進めます。
僕はこれに加えて、研究室内のRAとして年額40万円と学外でのシステム開発や論文紹介等の業務委託により収入を得ています。また、日本学生支援機構の第一種奨学金を年額146万円受給しています。(学振特別研究員だと受給できませんがフェローシップは何故か受給できます)

学振(DC)とフェローシップとで所得の扱いの違い

では本題を述べていきます。
冒頭でも述べましたが、学振とフェローシップの所得の扱いの違いを端的に述べると、学振(DC)の所得は給与所得、フェローシップの所得は雑所得になることです。

学振(DC)の研究奨励金としての所得について

まず、学振(DC)について確認していきます。学振(DC)の研究奨励金としての収入は、雇用関係が無いにも関わらず給与所得扱いとなり、給与所得として源泉徴収が行われます。また、学振の事務を通して受給額の3割程度を経費計上できる制度(実質の給与所得控除)が存在します。経費計上できる対象に関しては学振の事務で確認がなされます。

そもそも、日本学術振興会と特別研究員(学生)とでは雇用関係が無いのに給与所得として扱われるという不思議な話ですが、何故かそのようになっています。この不思議な点について調べた記事も存在し、とても分かりやすかったので興味のある方はぜひ目を通してみてください。

フェローシップの研究活動支援金としての所得について

次に、フェローシップでの所得について確認していきます。
フェローシップからの研究活動支援金は雑所得になると採択者向けの資料には書かれています。もちろんフェローシップと採択者との間で雇用関係はありません。学振の給与所得との違いを簡潔に説明すると、事務側で源泉徴収が行われず、経費計上する際も確定申告の際に自身で行う必要があります。経費計上についてはフェローシップ側から説明がほとんど無いので自分の裁量でやるしかありません。
学振と比べると源泉徴収をやってくれなかったり、経費計上の手続きをやってくれなかったりとフェローシップ採択者へ扱いは雑ですが、逆にこれは自分で自由にできるということです。

フェローシップ採択者が開業届を出して個人事業主になる利点

給与所得としてではなく雑所得として扱われるフェローシップの研究活動支援金ですが、これは個人事業主になることでフェローシップからの研究活動支援金を雑所得ではなく事業所得として受け取ることが可能なはずです(少なくともこれが可能かを決めるのは大学側ではなく税務署)。

元々雑所得として扱われますと言われたものが事業所得として扱われるかついてですが、そもそも所得の種類は雑所得だと判定される前に事業所得か否かが判定されます。
研究活動支援金が事業所得として判定されるかについて、個人事業主として研究活動を行うことで少なくとも3年間、その後も研究職として継続的に収入を得られる見込みがあり、生活費を賄える程度に収入があるため、研究活動支援金は事業所得(研究職)として判断されるのに十分な根拠があると考えられます。

それでは個人事業主となり研究活動支援金を事業所得として受け取ることで得られる利点について説明していきます。

1.経費計上可能な対象が増える。

1つは経費計上可能な対象が増えることです。
個人事業主となり自宅を事務所として登録することで、家賃や光熱費等を部分的に経費計上することが可能となります。(もちろん自宅でも研究している人に限られますが。)
また、無職(学生)の雑所得のための経費よりも、個人事業主の研究員の事業所得のための経費とした方が、経費として認められる対象が多いです(税理士さんがそう言っていました)。
僕の場合は、フェローシップの研究活動支援金も学外の業務委託で得られた収入も個人事業主としての研究員の事業所得とし、それに伴う経費を同様にまとめて経費計上することができる利点も存在します。

2.最大年額65万円の青色申告特別控除が可能にになる。

そしてもう一つ、こちらの方が重要なのですが確定申告の際に青色申告が可能になります。それに伴い、最大65万円の青色申告特別控除を受けることができます。つまり、65万円分の収入に所得税が課せられなくなります。所得に応じて住民税、国民健康保険料の額も決められるため、僕の場合、年額15万円程度支払う金額が変化します。

青色申告と言われても意味が分からない人が大半だと思うので、簡単に確定申告について説明しておきます。
個人事業主の確定申告には、青色申告、白色申告の2種類の選択肢が存在します。個人事業主とならない場合は青色申告の選択肢は無く、自動的に白色申告となります。青色申告と白色申告の違いを簡潔にまとめると、青色申告は記帳が大変になりますが白色申告よりも節税面で多くの利点があることです。その中でも一番の利点として、最大65万円の青色申告特別控除を受けられることが挙げられます。詳しい違いについては以下の記事がとても分かりやすくまとまっているため、詳細はこちらをご覧下さい。

青色申告についての説明を部分的に抜粋したものを以下に載せておきます。

青色申告とは、日々の取引を記録するために一定の帳簿を備え、記帳し、その記録に基づいて確定申告を行う制度です。青色申告をするためには、「正規の簿記の原則に従って作成された帳簿」の備え付けが義務付けられており、簿記の形式は「複式簿記」か「簡易簿記」のどちらかになります。

誰でも青色申告ができるわけではありませんが、事前に「開業届」と「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。提出をしないと自動的に白色申告者になってしまいます。

https://www.freee.co.jp/kb/kb-blue-return/blue-white-difference/

フェローシップに採択されたら実際に何をすれば良いか

では最後に、これらを踏まえた上で実際に何をすれば良いかについて説明していきます。

①フェローシップに採択されたら税務署に行き、採択日を開業日として開業届、青色申告承認申請書を提出しましょう。
青色申告承認申請書は開業日から2ヶ月以内に提出する必要があります。
既にフェローシップに採択されてから2ヶ月以上経ってしまった人は、今年度は青色申告承認申請書の提出を行うことができなくなりますが、過去に遡って開業届を出すことは可能です。開業届と来年度の青色申告承認申請書を提出しましょう(僕自身も気づくのが遅かったためこちらになりました)。

また開業届の際、僕は職業欄には「研究員」、事業の概要欄には「人とコミュニケーションを行うロボットの研究開発」としました。
これであなたも個人事業主になれます。
開業届についての分かりやすい記事についても以下に載せておきます。

②これ以降確定申告までにやることは、経費になりそうなものの領収書はしっかり取っておくことです。

2月16日から3月15日が確定申告の期間です。忘れずに確定申告を行い、経費にできそうなものはできるだけ経費にしましょう。
確定申告を行う際にはe-Taxというインターネット等を利用して電子的に手続が行えるシステムを用いると年額65万円の青色申告控除を受けられます。(使用しないと年額55万円)
また、e-Taxを使用するにはマイナンバーカードとそれを読み込むICカードリーダーが必要になるため、事前に申請をしておきましょう(マイナンバーの交付には時間がかかるのでお早めに)。

確定申告をする際には、Freeeというクラウド会計ソフトが便利です(回し者ではありません!)。

④研究活動支援金の支給終了のタイミングで、事業所得としての収入が減り確定申告の手間が上回ったら事業廃業届を出しましょう。

基本的にやることは以上になります。

おわりに

フェローシップ事業や次世代研究者挑戦的研究プログラムは今年度始まったばかりで、まだ制度として曖昧な部分が多いです。そのためボーッとしていると税金で優遇される機会を逃してしまうかもしれません。
博士課程という険しい道を進む仲間が、難解な税金の仕組みを理解した上で研究に専念できれば幸いです。

謝辞

本記事の執筆にあたり、税金の仕組みを教えて頂き記事内容の相談に乗って頂いたエストニアのかもめさん、文章表現について相談に乗っていただいた大阪大学石黒研究室の教員、税金に関する記載内容が適切であるかご確認下さった税理士事務所リヒト会計様に深く御礼申し上げます。

--更新履歴--
2021/12/23
研究活動支援金が事業所得となる根拠を加筆しました。
事業所得とすることで経費計上可能な対象が増えることが税理士さんに確認できたので、その旨を追記しました。
青色申告をする際はFreeeというクラウド会計サービスが便利であることを追記しました。
2024/03/31
3年間確定申告をしてきましたが、自分も周りの人間も税務調査を受けておらず、お咎め無しだったことを追記しました。


まとめるのにとても苦労したので投げ銭箱を置かせて頂きます。
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