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朗読『春は馬車に乗って』


noteでの投稿、最初は何にしようかなと考えまして、
朗読した『春は馬車に乗って』を朗読するにあたって考えたことを残そうと思います。


あらすじ

語り手である彼とその妻が庭先の景色を眺めている。
季節は秋から冬へと移っている途中。
彼らは海に近い家に二人暮らし。妻は肺を病んでいて、彼はその看病をしている。
妻の病気が治らないだろうことに気づきつつも、二人は死を迎えるまでの穏やかな時間を過ごす。


彼と妻

読む前にちょいとネットで調べたところ、横光利一には実際に看病していたキミという妻がいて、その内容からして彼の実体験がかなり反映されていると思われました。

キミはまだ若く(17才)、実家との折り合いもつかず実家から家出してくる形で横光利一のところへ来たそうです。ロマンチック!

末永く幸せに…なると思いきや、今度は横光の母親とキミさんの仲があまり良くないという展開、その後母が亡くなりキミが肺病で亡くなるというのも物語で語られている通りです。
この物語が彼の視点で進んでいくところから見ても、「彼と妻」は、ほぼ「横光利一とキミ」だと思いました。

彼と妻のすれ違い

彼は賢く理知的な人物ですが、妻も負けず劣らず頭の良い女性です。
彼が複雑なものの言い方をしてもちゃんと理解した上でストレートに言い返すので良いケンカ相手という感じでした。お似合いの夫婦。

それが、妻のタイムリミットが近づいてくるにつれて…

自分が死ぬまでに彼の心に自分を刻んでおきたい妻VS妻の死から逃げられない夫

という構図になってしまい、二人が賢いのもあってケンカばかりしてしまいます。
実際、彼が「檻の中の理論」と呼ぶ妻の明瞭すぎる思考が彼の看病疲れの要因の一つでもあるくらいでした。

ただ妻の方が死というゴールが見えている分、甘えたり怒ったり、彼を振り回して自分への愛を確認することに迷いがないなと思いました。
それに対して、妻が唯一言った本音「淋しいの」をスルーしてしまう彼。看病疲れって恐ろしい。


死を待つこと

考察してみて改めて振り返ると、ひたすら彼の辛さがしみます。
病気が進んでいく過程もリアルでした。
現在家族の看病や介護をしている方は沢山いると思うので、きっとすごく共感できるお話なのではと感じました。


個人的な話で言えば、私も昨年祖母をガンで亡くしまして。
見つかった時はもう手術を受ける体力も無かったので、最期まで穏やかに過ごそうというのが家族の方針でした。

私は実家から出ていることもあり介護に関わることは無かったのですが、亡くなる2ヶ月くらい前に一度だけ「会いたい」と言われて会いに行ったことがあります。

祖母は良くも悪くもキャラの濃ゆい人で、私は正直苦手で、会うと緊張するような相手でした。

それが会ってみたら信じられないくらい穏やかになっていて、本当に仏さまみたいになっていて、それを思い出すと今こうして書いていても不思議な気持ちになります。

亡くなってしばらく経ちまして、改めて考えた時に思ったのが、
「大切な人が亡くなった瞬間よりも、その死を待っていた時間のほうが辛かった」
ということでした。

この作品を読んでいてもだんだん「彼」が疲弊してくるのが辛かったです。
疲弊は体力的な話でもあるし、妻のためにできるだけのことをしようと思ってはいても「死」というゴールを前にその際限が無くなってしまい、どこまでやっても後悔するのではという不安感のことでもあります。


スイートピーの花束

季節が少しずつ春へと移り変わり、二人のもとにスイートピーの花束が持ち込まれます。
彼が花束を渡した時、すでに妻は亡くなっていたのではないかなと思います。
この場面は棺桶に花を詰める葬式の場面を思い起こさせました。

彼の心の中にいる妻と対話して、最後に妻の穏やかな顔を見れてよかった。
物語は終わりですが、明日から妻の見えなくなった日常をまた彼が生きていくことを想像しました。



朗読の感想


この作品、実は知らなくて、横光利一のことも全然知らなくて。
BlueskyというSNSでリクエストをお願いしたところ、初めて教えてもらった作品です。

今まで20分以上長いのを朗読したことがなかったので、40分以上あるこの作品に二の足を踏んでいました。
何回かに分けて読もうかと思ったんですが、内容的にこりゃあ一気に読まないと良さが伝わらん!と頑張りました。
結果的に二人の物語を自分の中で映画みたいに見ながら朗読できたので、この作戦は良かったと思います。

ただ今振り返ると妻側に肩入れしすぎた反省があります。
自分が女性だからというのと、妻のほうが緊急性が高くて身体を持っていかれる感覚があったからです。

男性の朗読だったり、ドラマとしてしっかり配役分けされた作品を見たらきっとまた違う感想がでてくるかなと思います。

とにかく、私のなかで小さな挑戦をした作品でした。頑張ったわたし!
聴いていただけたら嬉しいです。

互ひとみ






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