見出し画像

UNIQLOCKが成功し、デジタルクリエイティブは加速していく。【Web30年史】2006-07

デジタルデザインの未来をWeb30年史から考える。今回は2006〜07年頃の出来事を中心に振り返ります。

2000年代前半から始まったFlashによるWebクリエイティブの盛り上がりが最高潮に達し、プロモーション・マーケティングにおいてもデジタルが新しい役割を担っていました。SEOやWeb広告も伴い、「デジタルマーケティング」という言葉が、華やかなクリエイティブの裏側で進行していきます。

その頃FOURDIGITは…
40人ぐらいの規模になって、小さい軍団から組織的なマネジメントが出来始めていました。僕自身はマネジメントに参加しつつ、Flashチームを率いていました。ちょっと色気を出して、たまに雑誌に事例が掲載されたり、アワードにエントリーしていた頃です。


デジタルクリエイティブの世界

カンヌライオンズ(カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)は、広告世界で誰しもが憧れる賞であり、クリエイティブの世界最高峰ともいえます。カンヌ専門家もいるぐらいで、とてつもなく華やかな世界。

そのカンヌに1998年からサイバー部門ができています。

ちょっと振り返ると、98年はiMacが発売され、家庭にもインターネットが本格的に浸透していった頃。権威のあるカンヌがサイバー部門で賞をつくった=そこにハイレベルのクリエイティブをアウトプットするだけの価値があるということ。

そして4年後、2002年にサイバー部門で日本のチームが金賞を取りました。知る人ぞ知る、WWFのFlashのインタラクティブバナーというやつです。

画像1

博報堂 プレスリリースより

今となってはバナー広告にそんな賞が!?という感じだが、その頃は広告がインタラクティブであるということ=さわれる広告、そのものが新しかった。広告にさわることができる、そのちょっとしたことが、今までにできなかった新しい体験だったのです。


このWWFバナーは、パズルになっていて、動物をはめていくとピースが足りなくなるんです、そのピースは絶滅した鳥である、というもの。単に動くとか、ゲーム性があるだけでなく、メッセージ性もあり、高い評価を受けました。僕も見たときはハッとさせられました。

画像2

その2002年のバナー広告での金賞から、
前回取り上げた2004年「ecotonoha」がインターネット部門のグランプリ。


そして2007年。

「UNIQLOCK(ユニクロック)」が、なんとカンヌライオンズだけでなく、クリオ、ONE SHOWなどの世界三大広告賞を獲得する。

おおお、なんかすごいことが起こってますか?という感じだった。


当時、Web2.0の流れで、個人ブログを持つ人が増えていました。
ブログサービスもたくさんあったし、ブログとアフィリエイトで飯を食うみたいなブロガーも出てきました。発信力のあるブロガーはトラフィックを持っているため、メディアのような役割も担っていきました。


ブロガーの力が強まっただけでなく、個人発信や個人購買において「ロングテール」という概念も広まりました。物理的な制約のないネットスペースには、TOP10%のトラフィックを持っていなくても、10%が取らないニッチなトラフィックを広く抑えれば勝てる、というもの。Amazonの戦略で有名になりましたが、これはメディアにも使われました。

個人のブログのトラフィックを集約できるものがあれば、大きなトラフィックにも対抗できるはず……!

画像3


こうして、ブログ時代&ロングテールにマッチしたものとして、「ブログパーツ」なるものが生み出されました。

ブログの空いているスペースに時計やらニュースやら本日の運勢占いなどの部品を取り付ける。その部品となるのがブログパーツというものだった。ブログパーツは、ブログやサイトにソースコードを埋め込むだけで機能し、ブログを盛り上げる役割をしていました。

ブログや個人サイトをやっている側は、占いやちょっとしたバナーをつけることで、単にエントリー記事だけでなくブログに来訪してもらうきっかけや演出をつくり、ブログファンをつくるためのメリットがありました。


逆にブログパーツを提供する側は、占いやニュースなどのコンテンツを個人ブログに提供することで、メーカーやサービスの発信源にもなったし、トラフィックの誘導にもなりました。そうやって企業はブログパーツを提供することで、ブランディングやトラフィック獲得のために活用するようになっていきました。


ちょっと前置きが長くなりましたが、そのブログパーツとして大ヒットと言えるのが「UNIQLOCK」だった。当時かなりの個人サイトにUNIQLOCKのブログパーツが貼られていきました。

いわゆるデジタル時計なんですが、時を刻んでいくアニメーションがあり、5秒ごとにユニクロのウェアで踊るクールな動画が流れる。当時はまだ珍しかったWeb専用動画が撮られ、作り込まれたものが時計に組み込まれている。ダンスも綺麗、絵としてもクオリティが高く、モーションも見ていて気持ちがよくいつまでも見ていられる。ツールであり、プロモーションでもあったが、自分のブログに貼ってみよう、と思わせるものでした。

UNIQLOCK はさらにスクリーンセイバーも提供して個人のPCの画面をユニクロの広告に変えてしまったのです。すごい。


そして、世界中で評価されるデジタルクリエイティブというのはすごいことだった。日本のデジタルクリエイティブは注目度が高まったし、UNIQLOCKの成功でグローバルに名を知らしめることになりました。

こちらの20thスペシャルサイトの対談でUNIQLOCKを担当したSONICJAMの村田さんが当時を振り返っています。

ビジネスとの接合と企業側メディアの発展

2007年のユニクロは、2000年前後のフリースブームのあと。「安い」印象のブランドから「安くて質が良い」に変わりつつあったとき。そのブランドの転換をデジタルの世界でも実行していた。

ユニクロの公式にもあるように、デジタルクリエイティブ面で成果を出すことは、インターネットを通じたグローバル・プロモーション展開にもフィットしていた。ユニクロはデジタルプロモーションに力を入れていて、ユニクロの案件は花形案件の印象が強かったし、数多くの目立ったデジタルクリエイティブを生み出していくのでした。

画像4

UTLOOP tha.ltdより

UNIQLOCKの成功もあり、Webメディアは、テレビや新聞や雑誌やラジオやそういったものの中で地位を得て、そしてそれが「新しい表現場所」として上り詰めていきます。

ユニクロのように、TVCMとWebなどのあらゆるプロモーションが分断されず統合されていったのもこの頃からです。

デジタルの活動が、消費者に対する影響力が増えていったため、企業側も部署を作ってデジタルマーケティングや、自社の発信プラットフォームを作ったりと活動を増やしていくことになります。


ただほとんどの企業は、まだWeb担当者がいるわけでもなく、IT部門や情報部門が兼務するところから。そういう企業側のニーズが高まっていき、「Web担当者フォーラム」や「マーケジン」といったWebマーケティングの専門Webメディアも始まりました。

既存の広告メディアもデジタル事例を多く取り上げることが当たり前になっていき、クロスメディア、バイラルマーケ、SEOなども、ビジネスとして専門的になっていきます。Web施策はクリエイティブの成功とブランドの促進に対して貢献している事例を燃料とし、発展の方向性を多彩に広げていく。

画像5


RIA・Webアプリケーション

Webがプロモーションやインタラクティブメディアと言われ華やかな世界観がある中、Webアプリケーションという側面も同時に進化中。中心的なツールであったFlashは、Action Scriptという言語で開発できる。ブラウザ上で動くソフトウェアのようなものも作ることができました。

当時のWebアプリケーションは、Flashベースで提供されているものがかなり多かったのではないかと思います。

Webサイトでもいわゆるプロモーションではなく、ツール的機能を搭載したものが増えていきます。例えば、当時のFWAを受賞した積水ハウスのDESIOというサイトは、間取りや家のパーツを組み合わせてプランが見れるようなもの。


プロモーション活用だけでなく、いわゆる業務用のアプリケーションをFlashで提供することも増えていく。RIA(Rich Internet Application)と言われ、今のWebサービス、SaaSの原型のようなものがはじまっていました。

画像6

FWA より

Flashベースのツールでサービス提供をしていたスタートアップもあったし、Flash開発を簡単にするためのソフトウェアも発売されました。

Flashは他にもモバイル用(ガラケー用)のFlash liteなど、対応の幅を広げていくことに。


当時はモバイルのWeb閲覧も当たり前になり、3キャリア用にサイト構築する必要がありましたが、まだまだだいぶ原始的で、文字と絵文字で構成されていることがほとんどでした。

画像7

NTT docomo Webサイトより

上のキャプチャは、現在のNTTdocomo Webサイトに掲載されているガラケーの画面ですが、当時もそこまで大きく変わりません。文字、テキストリンク、絵文字、背景、軽い画像、といった構成。もしかしたら見たこともない人もいるかもしれませんがスマホサイトとは全然違いますよね。


こういう状況だったので、PC・モバイルの体験はかなり切り離されたものだったのです。動画やアニメーション、インタラクティブ性で発展していくPC主体のWeb体験。テキストやモビリティをベースにしたWeb体験。それぞれ役割があり切り離されていましたが、電波などのインフラ、デバイスの進化とともに、モバイルのトラフィックも無視できないレベルまで成長していきます。

モバイル・クリエイティブ・アプリケーション。あらゆる方向にデジタルが進化していく中で、またもや、デジタルの世界に大きな変化が起ころうとしていました。あれです。


次回予告

2007年になったころの話。iPod、iPod touch、モバイルマーケットの成長。そんな伏線のあとに、Appleのイベントでスティーブ・ジョブズのポケットから出てきたのが「iPhone」だ。これがモバイルWebやモバイル体験のあり方を根底から変えてしまった。それに応じてデザインマーケットも大きく変化していくことになるのでした。

記事一覧:デジタルデザインの未来をWeb30年史と考える