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デザインは、より包括的な時代へ。【Web30年史】2016-17

デジタルデザインの未来をWeb30年史から考える。今回は2016年〜2017年ごろの出来事を中心に振り返ります。

ジョン・マエダのDesign In Tech Report も2015-2016-2017で少しずつ変化していきます。時代は、包括的デザインへと移り変わっていると言っています。

ツール群の盛り上がりによって、アドテク、マーケティングツール。単機能ツールとプラットフォームツールの争いも勃発します。

表現の手法は、デザインシステムやアトミックデザインといった手法が進化することで構造的・システマチックになり、抽象的かつ創造的なアプローチは逆に弱まっているようにも見えていきます。

その頃FOURDIGITは…
いろいろな方々との出会いの中で大手企業との実績ができ、デジタルコミュニケーション分野もサービスデザイン分野も成長していきます。改めてDigital Design という言葉をコアに置くことを決めたのもこの頃です。


M&Aはさらに活発に、日本にも波がくる

ジョン・マエダの2017レポートによると、デザイン会社のM&Aは加速して2004〜2012年の8年間で10社だったリストが2016年の1年で20社になりました。

その中でもシンボリックだったのが、IDEOの博報堂グループとの資本提携でした。デジタルシンキングを提唱したIDEOが博報堂というエージェンシーと手を組むとはなかなか印象的な出来事でした。マイナー出資なので買収とは言いづらいですが、30%取得はなかなか大きいと言えます。

コンサルティング会社がデザインの機能を持ちたがる事象が、デザイン業界の地殻変動の始まりでした。

実際にビジネス活動がデジタル中心になっていくことで、デジタルデザインはこれからもさらにビジネスにおいて重要なものである、ということが顕著になります。


デジタルデザイン業界に技術的な波や人材獲得、業界の競争が激化したこともあり、ちょうどその頃から、日本でも業界の構造変化が起こっていきます。SONICJAM、IMG SRC、IMJ、A.C.O……などなど。が代理店や事業会社など、より大きな資本に合流していきます。

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SONICJAMは結構な衝撃でした。村田さんとは一緒にプロジェクト経験もあったし、あのUNIQLOCKを手掛けたプロダクションでもあり、業界の親しい先輩だったこともあり、ちょっとびっくりしました。

さらにIMG SRCもデジタルクリエイティブ業界では知らない人はいないだろうという会社。Flash時代にトップランナーだったプロダクションが、道筋を変えていくさまを見て、これは大きなことが起こっとる、と感じました。


IMJは、少し違う印象。

アクセンチュアはかねてから世界中のエージェンシーを買収しており、コンサルティングにデザインを補強しまくっていることと、マーケットを奪い取りにいく姿勢だったので、日本で規模が大きい会社を抑えることが目的だったように思えます。

聞いた話なので信じるか信じないかはあなた次第ですが、アクセンチュアは当時の離職率がひどくて採用し続けるするより買収の方がトータル効率がいいだろう、という判断もあったという噂です。まぁそういう噂も憶測されるほど、業界内はざわざわしたものでした。

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このあと次第に見えてくることですが、コンサルティング会社は、コンサルのためにデザインが必要だったのは最初だけで、エージェンシーのマーケットを侵食していったのでした。

これは次の回で触れます。


4種の神器が出揃う

世の中の技術環境はどんどん進化していきます。IoT(モノのインターネット)、クラウド、AI(人工知能)、ブロックチェーン、という技術が4種の神器と言われ始めたのがこのころ。


企業は様々な形で経済活動をしています。

既存の業界はどう変わっていくのかを考えなければならなくなります。旅行産業であれば旅行代理店でなくネットサービスでツアーを組むこともできるし、テレビはYouYubeやNetflixに時間を奪われます。古着はメルカリだし、スーパーマーケットはAmazon、出前はUberEatsです。新聞はもう誰が取っているのか。学習はオンラインでも可能です。

そんな時代の中で、これからの経済活動をどう作っていくべきか。新しい技術で何ができるか、できないか。

ますますデジタル人材は貴重になっていきますし、依存度は高まります。それは、どちらにせよ時代が変わる生き残りの戦いです。デジタル技術による価値変遷のサイクルは今まで以上に早くなっていきました。


デザインのアウトプットをどう見る?

デジタルデザインの役割は、縦にも横にも本当に多岐に渡っていきました。

ざっと並べるだけでも、サービスデザイン・UXデザイン・インタラクションデザイン・UIデザイン・ブランディング・マーケティング・オペレーションツール。アウトプットは、Webサイト・Webアプリケーション・アプリ・LPやバナー・運用のための体制。

そしてそれぞれが何をもって「良い」のかはありません。アウトプット単体としての判断が難しい。ビジネスとして成功したかどうか、効果があったのか、価値があったのか、という色合いがさらに強まっていきます。

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そして、同時に、「単に作る」ことの価値も低減してしまいます。

プロの専門に頼まなくてもブラウザ上でサイト作成ができるWixやStrikingly、もしくは、Creative Market などのサービスは、めちゃめちゃ安価にサイトが作れてドメインも取れるし、そこそこのクオリティで格安、もしくは無料!だったりします。

ニーズが増加するにしたがって、ECもオウンドメディアも動画もあらゆるジャンルでこういったサービスが発達していきました。なので、単に作れること、にはもうあんまり価値がないのです。だけじゃない価値が必要になりました。

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僕も娘がいますが、パソコンやメールの設定もできないのにStrikinglyでサイトを作ってました。レスポンシブでスマホ対応もできています。facebookやtwitterやInstagramで宣伝し、仲間内で動画をつくり、youtubeに上げています。サイトよりも動画の方が見られます。

ただし、太古から、それこそウェブデザインが隆盛を極めた時ですら、ホームページビルダーなどの簡単に作れるツールは存在しますので、プロフェッショナルサービスとして付加価値を提供する必然性はゼロにはなりません。



デジタルビジネスの発展

ちょっと話は変わって、スタートアップでは常識の Unit Economics という考え方があります。

顧客の生涯価値(LTV)と顧客の獲得コスト(CAC)を計算して将来の業績を見通していくものです。裏を返せば、獲得効率、再購買や継続を定量的にデータを見ながら改善活動をやっていることになります。

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デジタルビジネスは、顧客のデータはすべて残ります。いつ何を買ったのか、いつなんて答えたのか、いつ広告を見たのか、いつのイベントに来訪していたか、といったデータです。

それぞれのプロセスの中で顧客体験を最適化をすることで事業が最大化していきます。このようなサブスクリプション型のビジネスが大きく成長していきました。

つまり、ビジネス全体のメカニズムを方程式化して、ボトルネックを見つけ、定量的な結果計測と定性的な課題解決を繰り返し、最善を見つけるというデザインオペレーションが効果を発揮します。一発ですごいものをドーンではない。


一時代のように、大きな花火をどーーんと上げて、空を見上げた人にものを売るスタイルはもう古い。定量化できない不確実性は次第に許容されなくなっていくことになり、クリエイティブも効果の高いものに自動的にチューニングされます。

いや、あくまで、悲観的な話ではなくて、ビジネスやユーザーにとって何が価値があるのかを見据えてデザインしなければいけません。

方程式を変えるのか、変数をなくすのか、変数を最大化するのか。


SaaSツール初期時代

企業のマーケティング活動や広告宣伝は、データ取得や管理面にコストを割いていくことになります。顧客それぞれが「いつ何を……」といったデータを利用して最適化するためのプロセスの構築です。

それまでのコンテンツドリブンを包み込み、ユーザーのふるまいを計測してどうにか自社のサービスを最大化できないか、と考えていきます。方程式を紐解いて変数をなくしていく作業です。

そこで、そういった高度な分析やデータ取得を代わりにやってくれるのが、SaaSツールです。Salesforce やAdobeのマーケティングクラウド、といったプラットフォーム型や、単体CRM、マーケティングオートメーション、高度なCMS、広告分析ツール、Karteなどの行動分析、データ可視化ツールのTableuなどです。

大手はみんなマーケティングクラウドって言葉で、プラットフォームを提供しはじめました。

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SaaSツールは大手から浸透していったように思えます。

何でもできそうなツールたちをぶん回すのはツールベンダーでなく、クライアント側になります。誰か向き合う人がいると成功するのですが、どうもそこがうまく回ってないように見えました。

「あれ導入したけど上から言われただけ(怒」「あのツールのことは言わないで(涙」みたいな話も聞きましたし、「導入したけど使えないからオペレーションしてほしい」といったことも起こりはじめます。

やるべきことは分かっていて予算もあるが、実際にそこに向き合うリソースが各所で足りてないか、向き合うリソースまで必要なのだと追いついてなかった。


インターフェイス&ビジュアルデザインシステム

ちょっと話は変わってインターフェイスやビジュアルの話です。

インターフェイスは、ボタンやらナビゲーションやらプルダウンやらインプットエリアやらが必要となりますが、それらのインターフェイスパーツとトーン&マナーを一連のシステムとして作り上げたのが「デザインシステム」と言われます。

AppleのHuman Interface Guidelineが近いかもしれませんね。

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ここ混同しがちなんですが、有名なマテリアルデザインはフラットデザインの概念から質量や物理的な概念を付け足したものです。

それがさらに、上記のUIパーツがシステム化されているデザインシステムとなりました。フラットデザインは、フラットであること=ビジュアルデザインの概念で、それを提唱した最初のデザインシステムはメトロUI(Microsoft)と言われていました。


 このようにデザインシステムとデザインの概念を組み合わせて、ブランドのガバナンスを整えようとすることが増えました。

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Microsoft が次に2017年に提唱したのが、Fluent Design Systemです。

Systemとついているのが親切ですね。Fluent Designの概念は、2次元を超越してるというか、違和感のない平面の使い方と空間の感じさせかたが大きい違いだと思います。

他にもデザインシステムと呼べるものはたくさんあります。IDEOがやったBostonの街のデザインシステム、メルカリのデザインシステム、Densoのデザインシステム、コミュニケーションを主体としたアウトプットでもインターフェイスがある以上、デザインシステムは構築します。

明示的になったことで、プロダクト方面では、アトミックデザインの考え方などと組み合わさっていきました。


FOURDIGITもプロジェクトで作成しますが、このように公開するのは珍しいですよね。Web標準をきっかけに爆裂進化するフロントエンド。デザインシステムやアトミックデザインによって論理的に組み合わされていくインターフェイスデザインやビジュアルデザイン。

どう作るか、どう実装するか、実際に作ること自体も、ビジネスオペレーションや規模に合わせて進化していきました。


次回予告

2018-2019年、コンサル VS エージェンシー。マーケツールの隆盛。熾烈になるツール導入抗争。それに振り回されてしまう企業。デジタル界隈はデザインというより仕組みの方に力点が大きく置かれていく時代に突入します。旧ウェブデザインの時代は終わりを告げ、ジョナサン・アイブはAppleを去っていきます。そして、社会はインスタ映えなどでSNSとのパラレルワールドが意識されはじめるのでした。

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