喫茶店をなぜ懐かしく思うのか
わたしは名古屋出身で生まれながらの喫茶店っ子だ。
1歳の時に両親が撮影したビデオ映像を見ると、喫茶店の前で早朝、まだ開かないのかと言わんばかりに偉そうにドアを叩いている。
おそらく小さいながらに喫茶店のコーヒーや生クリームの香り、地元の人が通い合う中で形成された空気を記憶していて、居心地がよかったのだろう。
名古屋という場所は地元意識が強く、地域のコミュニティを重視する。関東でもなく、関西でもない、どこか仲間外れにされた自尊心や自立性なのか、異国を排除するようなナショナリズムすら感じることがある。
そんな地域で生まれた「喫茶」文化は、おそらくそうした中で独特の地域コミュニティの場とされて根強く残ってきたように思う。
わたしの地元だった大須という街では、喫茶店は数軒あり、なかでも「コメダ珈琲店」には中学校の帰り道なんかでも寄っていた。
コメダ珈琲店は、今や、少しレトロだけど洗練されたメニューや店内の雰囲気が人気。都内のどこに行っても見かけないことはないくらいになっている。
ただ、もうかれこれ50年くらい、コメダは名古屋では新聞読んでるおじさんしかいないような激シブな喫茶店だった。それもつい10年ほど前までずっとそんな感じだった。そのことは多くの人はあまり知らないと思う。
商店街を歩いて途中にある、こう言ってはなんだけれど、地方に行くとどこにでもあるようななんてことのないお店だった。
ちょうど2000年に入るころ、わたしは大学入学のため東京に上京し、あっという間に都会の雰囲気に呑み込まれていった。スタバやおしゃれで流行の最先端を走っているようなカフェの新規出店は東京は特に早い。
すっかり喫茶店に足を運ぶことはなくなった。
そして数年経つと、東京の生活に慣れてしまい、不思議と地元名古屋を外側から眺めてみることでコメダやスガキヤなどが恋しくなることがあった。
名古屋で長らく続いてきたコメダのイメージはとても古びていながらも、シロノワールや、ブーツ型の容器入ったソーダ水、ローカルフードと呼ばれるものは何十年も続いてきたものだ。それらが急に思い出して懐かしくなる時期があった。
2008年頃だろうか、そのころたしか、名古屋飯と言われる味噌カツやひつまぶしなど、都内でも流行がはじまった時を同じくして、コメダがポッカコーポレーションと資本提携というニュースが走り、とても驚いたのを覚えている。
これはもしかすると、東京の街にもお店が増えていくのではないか?という期待をした。わたしが大好きだった地元の喫茶が再現される。名古屋のローカルフードが東京でも魅力を感じてくれるかもしれない、皆に愛されるようになるという誇らしい気持ちに近かった。
そして2016年に東証一部上場、予想をはるかに超えて出店数は伸び続けて、現在は800店舗以上に増え続けている。
いま都内で見かける多くのコメダはとてもきれいだ。そして、新聞を読んでいるおじさんだけではなく、若い人も入りやすいように洗練された雰囲気作りの工夫がされている。
そのこともあってか、特に都心のコメダとなると人も多く、入るために列をなしていることすらある。シロノワールや、コーヒーについてくる豆も健在で、店頭メニューもかわいらしくPRされているため、好んでみんな注文しているよう。
ほらやっぱりシロノワールはいいでしょ!と自慢したい気持ちになる。
こんなに流行るなんてほんとうにすごい。
ただ、ひとつの違いを思うだけ。
それらは実際にその出店地域のコミュニティの場でもなければ、店として自然と生まれたメニューや内装ではなく、どんな人にもみんなが利用しやすいよう共通してきれいに整えられた「カフェ」であるということだ。地域だけではなく多くの人に。
喫茶店の空気感、不思議と感じる居心地の良さは、地域コミュニティで作られた文化がそのままお店の雰囲気やメニュー構成に自然と反映されていたのだろうと思う。おおげさかもしれないが、その一つ一つに意味があるのだ。
なぜアイスコーヒーがステンレス製のマグカップで出されるのか。
なぜコーヒーにおやつの豆がついてくるのか?
名古屋に行った時にはぜひ元祖コメダに立ち寄って、それらの理由を肌で感じて味わってみて欲しい。長らく地元で形成された「喫茶店」だったんだということがよくわかると思う。
わたしも名古屋に帰ったら早朝に、やってますか?とドアを叩いてみたいと思う。
<TAEKO>
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