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夜ごと巨体の女房と戦い。

「 今の 食生活を続けている限り、 もう 一生 透析に 戻ることはないでしょう!」

そりゃ、 お父さんの 尿素窒素と クレアチニンの値は、 本当に微妙に 上昇はし 続けている。

だけれども、 退院して5年、 毎月 の 血液検査を続けてきて、 一定時期から 落ち着き始めた 検査結果を見て、ガジ 先生が お墨付きをくれたのだった。

時にはお父さんは やらかす。
お茶漬けを 2杯食べてしまい、 顔がパンパンにむくんだり とか。
血圧も 150まで上がったりとか。

けれども お父さんは、 テレビでどんなに 美味しそうなものが 放映されていようが、 もう「 ラーメン食べてみたいな」 とか「 カレー 食いてーな」 とか、 前のように 一切言わなくなった。

血管は完全に 復活して、 腕からの採血は一発。
CV ポートも もう、 いらないんじゃないかと言われている。

お父さんは日々、 読みたい本や 雑誌、 関心のあるニュースなど、 スマートフォンで 延々と 読み耽っている。

新しい動画を 次々と検索し、 かっこいいバンドや、 面白い 格闘技の チャンネル、 台湾や韓国の歌謡曲、 いろんな 国の子供たちや 小さな動物たち、 疲れ果てて 眠たくなるまで 検索しまくって 追いかけている。

どうしても私は、 隣に お父さんがいなければ そわそわとしてしまい、 寝落ち 寸前まで お父さんと 居間にいる。

私が寝落ちると、
「 やばい! おい!! 布団 行け布団!!」
お父さんが寸でのところで 私を布団に連れて行く。

いつも私ははじめ、 頭だけ、 お父さんの布団に乗せているのだが、 じりじりと お父さんの陣地に侵攻していき、 お父さんを圧迫 する。

そんなわけで 結果的に、 お父さんは 布団 から落ち、 布団と 整理ダンスの間に挟まり、 さらに転がってくる 私に圧迫されながら、 畳の上で寝るはめになる。

今気温が上がっているからいいが、 冬場はいつも 私に布団を取られ、 お父さんは 凍えながら 私の布団に移り、 この陣取り合戦で 疲れ果てて 眠ることが多かった。

そんな中、 お父さんにぴったりとくっついて寝ている 私の 頭の中は、 もうとんでもない お花畑な、 ちょっとセクシーな、 お父さんとの 夢ばかりである。

たちが悪いことに、 私は お父さんを圧迫しながら 時折目を覚まし、 お父さんを確認し、 夢の話をベラベラ喋る。

そして私は、 お父さんと 密着して眠っている、 それに 満足して、 さらに 体をくっつけて、 そうやってお父さんを圧迫する。

私のこの 確認行為があるため、 お父さんは 夜ごと 私から逃げられず、 諦めて最後は 布団から落ち、 畳の上で寝ることになるのだ。

私の頭の中は さながら 我々 の 新婚さん みたいな夢ばかりである。
お父さんは 私のこの虐待に もう諦めて、 朝起きてから 少しだけ 冗談めかして ぼやく。

我が家の、 恐ろしい 夜の惨劇 である。

私だけ頭の中がハッピーハッピーな、 夜を戦う お父さん、 その実態。

こんな夜を過ごせるのも、 ここまで お父さんが 回復してくれたからである。

今の私の お父さんへの甘ったれ ぶりときたら、 普通の男の人だったら 音を上げて 夜逃げするような、 加減を知らないものである。

お父さんは実に辛抱強く、 痩せて小さくなった体で、 170cm 近い 身長の 57キロの 巨体の 女房に、 そんな趣味なんかないのに 圧迫されまくって 眠る。

戦う男、 お父さん。

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25歳 上の夫(令和5年、77歳。重篤な基礎疾患があります)と私との最後の「青春」の日々を綴ります。

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