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ジェトロ 中国営業秘密セミナー Q&A ダイジェスト①

昨日、中国の営業秘密保護に関するセミナーでお話させて頂きました。

7月12日には東北大学の知財セミナーでお話させて頂き、そこから全くの別ネタでのセミナー続きは、正直、しんどかったのですが、やはりこうして多くの方の前でお話する機会を頂けることは、本当にうれしく、ありがたいことです!

また機会があれば、これからも、偏りのない情報、最新の情報を、日本人の弁護士目線でお伝えしていくことができれば、と考えています。

さて、昨日のウェビナーは、タイ、ベトナムの専門家との共同開催でしたが、最後の質疑応答のコーナーでは、中国に関するご質問を多く頂きました。昨日の回答への若干の補足、それから、時間切れで流れてしまった質問について、私が覚えているものを、ここにダイジェストで取り上げたいと思います。

1 中国で営業秘密漏えいが発覚した場合、どのように対応すべきか?

回答:直ちに法律事務所に相談し、事実関係の調査と散逸前に証拠の収集を図ることが肝心です。
そして中国の場合、営業秘密侵害に加えて、その内容を勝手に冒認出願もされるというケースが多いです。
実際に、ある日系企業も、元幹部職員に営業秘密を盗まれてコピー工場を設立され、その内容を実用新案出願されてしまった、という被害に遭われています。
したがって、こうした冒認出願の有無もあわせて確認する必要があります。
詳細は、「中国における営業秘密マニュアル」P.50~で説明しておりますので、そちらをご覧ください。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/besshireiwa.pdf


2 営業秘密漏えい対策とあわせて、先使用権立証の準備も重要だと思うが、何をやればいいか?

回答:これは、特に中国では重要な問題意識だと思います。上述のように、中国では、営業秘密侵害とセットで冒認出願されるという被害パターンが多いからです。こうした冒認出願は、どちらかというと、営業秘密侵害品の宣伝目的でなされることが多いように思われるのですが、権利化されてしまえば、理論的には、被侵害者に対しても権利行使が可能ですから、特に重要な技術を中心に備えておく必要があると思います。
ちなみに、中国の先使用権は、日本と異なり、単に、中国国内で販売または中国に輸入していた、というだけでは先使用権は認められない点に注意が必要です。

先使用権についての説明は、それだけでかなりのボリュームとなりますので、ここではごく簡単な説明にとどめたいのですが、平たく言えば、出願前からその技術を使っていたことの証拠をそろえていくことになるので、基本は、守りたい技術について、確かにその時点で使用(またはその準備)をしていたことを証拠化していく、ということになります。

具体的には、各技術資料等について、タイムスタンプをとっていく、ということがコストパフォーマンス的には最も有効だと思います。
(重要な製造ラインについては、撮影公証を行うことをお勧めしています。)
おそらく、専利権(特・実・意)侵害訴訟において、タイムスタンプ証拠を提出し、かつ、その先使用権の主張が認められた、という事例はまだないのではないかと思うのですが、以下の裁判例を見る限り、専利権の先使用権主張において、タイムスタンプ証拠の証拠能力自体は認められると考えて差し支えないと考えられます。

  1. 最高人民法院(2021)最高法知民終384号
    被告は、タイムスタンプを取得したウェブページキャプチャなどを先使用権証拠として提出したが、その日付が特許の優先日後であったため、先使用権の成立が否定された事例。判決では、優先日後であることのみが指摘され、タイムスタンプの証拠能力等については特に言及されていない。

  2. 広東省高級人民法院(2018)粤民終1614号
    被告は、タイムスタンプを取得した図面の添付ファイル付きメールなどを先使用権証拠として提出したが、その製品名称が被疑侵害品とは別製品であったため、先使用権の成立が否定された事例。判決では、タイムスタンプの証拠能力等については否定されておらず、前提として、タイムスタンプの証拠能力自体は認めたものと読める。

ただし、ここで言っているタイムスタンプは、あくまで中国の聯合信任タイムスタンプ服務中心(Time Stamp Authority)のものであり、日本で取得したタイムスタンプについて、証拠能力が認められるかはかなり不透明です。なお、ここのホームページには、動画等でかなり詳しくタイムスタンプ取得方法が説明されているので、タイムスタンプをとる資料さえ決まれば、現地の法務職員で対応できるのではないかと思います。

問題は、何を証拠化するか、です。
先使用権や公然実施立証の場合、1つの証拠のみで立証が完了するケースはほとんどなく、複数の証拠を組み合わせることによって、その充足性を主張しなければならないことが圧倒的に多いと思います。かかる場合、複数の証拠を切れ目なくつなげることが必要であり(中国では、「証拠のチェーン」と呼ばれます)、裁判では、かかる証拠のチェーンの形成が不十分であるとして、先使用権の成立が否定されるケースが少なくありません。
どのような資料をそろえれば、先使用権の証拠として十分か、これは、ケースバイケースでの判断が必要であり、技術も理解できる専門家に相談したほうが良いと思います。

なお、先使用権制度やその準備について、ジェトロの営業秘密支援事業で行っている研修の方では、より詳しく説明させて頂いています。

3 先使用権立証の準備は、営業秘密保護対策としても有用だと思うが、どうか?

回答:タイムスタンプ等を取得した時点で、確かに、その営業秘密に係る技術を保有していたことの証拠としては有用だと思います。
しかし、営業秘密として保護されるためには、別途、法律上の保護要件(①非公知性、②価値性、③管理性)を満たさなければならない点に注意が必要です。管理性要件の具体的な内容は、セミナー本編でお話したこちらのスライドをご参照ください(1でリンクを張ったマニュアルを執筆した後に、司法解釈の改正がありました。基本的な考えは大きく変わらないのですが、ご注意下さい。)。



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