見出し画像

ちょっと笑った知財事件—中国2022年度知的財産権行政保護典型事例より―

今年もこの季節

毎年、中国では、4月になると、各所から、典型事例の発表があります。例えば、最高人民法院(最高裁に相当)からは、①「中国裁判所十大知的財産権事件及び50の典型知的財産権事例」が、知識産権局(特許庁に相当)からは、②「知的財産権行政保護典型事例」や③「専利覆審無効十大事件」が発表されます。

平たく言えば、①は、前年度の知的財産権に関する民事・行政・刑事訴訟判決の中から、②は、前年度に知識産権局で扱った知的財産権の行政紛争に関する裁決等の中から、③は前年度の無効審判事件や拒絶査定不服審判等に関する審決の中から、それぞれ、意義あるものとして裁判所又は知識産権局が選んだものです。

事務所のニュースレターを書こうと、これらの報告を読んでいたら、ちょっとくすっと笑ってしまった事案があったので、こちらに書きたいと思いました。

日本法との違いについて補足

ここで少し補足すると、中国では、特許権、実用新案権、意匠権の3つの権利をまとめて専利権と称し、かつ、これらの専利権の侵害行為に対しては、民事訴訟のほか、行政機関によって、差止めの処分を求めることが可能です。
このように、民事訴訟に加えて、行政機関による救済ルートがあることが、日本法との大きな違いの1つです。

自画自賛?な「典型意義」

私は、もちろん業務上の必要性から、これらの報告書は全て読み、判決もなるべく全て当たるのですが、たまに面白いなと思うのが、①に書かれている、「典型意義」。
要するに、最高人民法院が、その事案を選んだ意義があわせて記載されているのですが、例えば、2021年に発表された、2020年度の「シャープ他対OPPO事件」では、

「本件は、グローバルな『禁訴令』を発布して、『反禁訴令』の解消に成功し、中国司法機関の明確な態度を表明した。企業が公平な国際市場競争に参加するため、有力な司法保障を提供し、中国が「国際知的財産権規則」の追従者から「国際知的財産権規則の指導者」へと転換したことを示す重要な意義を有する。」

・・・なんかものすごい自信ですよね。
ちなみに、この中国の「禁訴令」が、その後、WTOに協議申立てが提出されるなど、国際的な非難の的となったことは周知のとおりです。
具体的な判決を取り上げて年度報告として発表すること自体、日本にはないですけど、何というか、自画自賛的な評釈も、日本人の感覚からすると、不思議な感じがしますね。

なお、この事件の概要などは、下記の別論文の3.1.2に書いているので、ご参考まで。

ちょっと笑った特許詐称事件

少し前置きが長くなりましたが、今回、私がちょっと笑ってしまったのは、②の「知的財産権行政保護典型事例」に掲載されていた、特許詐称事件。
↓のP.10に掲載されている事案ですが、
https://www.cnipa.gov.cn/module/download/downfile.jsp?classid=0&showname=2022%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E7%9F%A5%E8%AF%86%E4%BA%A7%E6%9D%83%E8%A1%8C%E6%94%BF%E4%BF%9D%E6%8A%A4%E5%85%B8%E5%9E%8B%E6%A1%88%E4%BE%8B.pdf&filename=94639048a8d44fcdab178dcb39caa7da.pdf

ある中国企業が販売していた砂糖菓子(健康効果をうたったもの??)について、特許詐称の疑いがあるとの通報があったことが端緒。当局の担当者が現場で、まさに、この商品をライブコマース中の被疑者を発見!この商品には3件の特許がある(うち2件は商品とは無関係)とライブ配信でうそぶいていたそうで、その場で証拠が保全されて、翌日、行政事件として立件⇒処罰(違法所得約7万2千元の没収、及び約10万元の罰金)されたようです。

得意げに特許を誇示して商品を売るライブ配信現場に当局の担当者が現れるって、その場面を想像して、なんだかちょっと笑ってしまいました(私だけ?)。
とはいえ、宣伝に使われた特許は実在のものですので、特許権者からすればいい迷惑です。

日本企業は冒認と広告法に注意

日本の特許法にも、虚偽表示を禁止する規定がありますが、普段あまり聞かないですね。
しかし、中国ではこの特許詐称事件はちょくちょく見かけます。特許などの知的財産権を持っている、ということを、最大限、宣伝に使うわけです。

日本企業が中国で製品の模倣などの被害に遭う場合、それとセットで、冒認で実用新案等の出願がなされるというパターンが非常に多いです。
その意図は、何らか知的財産権を取って商品の宣伝に使おう、というもので、自社のHPやアリババ店舗などに、その冒認権利の登録証を張っていたりするケースがとても多く見受けられます。
真の権利者に権利行使するという可能性は、一般的には高くないように、私は思っているのですが、一応、カウンターとして注意は必要かと思います。

また、特許などを宣伝に使う、ということで言うと、中国では、広告法にも注意する必要があります。例えば、日本企業の場合、日本でのみ特許を取っている場合についてはどうなるのか?など、いくつかの論点を含む問題なのですが、これについては、また別の機会にご説明できればと思っています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?