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中国初の「パテントリンケージ」訴訟判決 ①

1.はじめに

北京知識産権法院の発表によると、2022年4月15日、中国初の「パテントリンケージ」制度に関する訴訟の第一審判決が出されました。
特許権者は、日本の中外製薬であり、同社敗訴の判決です。
 今回の判決は、専利法改正後初となる判決であり、今後の実務上の参考になると思われましたので、まだ判決全文が公開されていないですが、北京知識産権法院の発表などをもとに、事案の概要をご紹介したいと思います。

2.中国における「パテントリンケージ」制度の概要

「パテントリンケージ」とは、一般的には、後発医薬品(いわゆる「ジェネリック」)の薬事承認時に先行医薬品に係る特許権の抵触性を考慮するシステムのことです。
 各国において、その具体的な制度、運用は異なりますが、日本の場合には、特許法上の明文規定はなく、大きく①厚、生労働省が、先発医薬品メーカから任意提出される特許情報に基づき後発品の薬事承認時に判断し、
さらに、②後発品の製造承認後、薬価収載までの間における当事者間の事前調整の、二段階での運用がなされています。

 これに対して中国では、2005年に制定された「薬品登録管理弁法」[1]第11条において、薬品登録申請人が、自己または他人の中国専利及びその権利帰属状態についての説明を提供し、他人の専利権侵害とならないことの声明を提出しなければならないことなどが規定されていましたが、
2021年6月から施行されている改正専利法において、パテントリンケージに関する明文規定が設けられるとともに、関連法規が新たに制定され、よりシステマティックな制度として整備されました。

3.専利法及び関連法の規定・制度概要

 専利法の規定によれば、先・後発医薬品に係る特許権侵害問題は、裁判所または行政部門に抵触性の判断を求めることができるとされています。

(専利法の規定は、ジェトロさんの和訳条文参考になります)

第七十六条 
薬品発売承認審査において、薬品発売許可申請者と関連専利権者又は利害関係者は、登録出願された薬品に係る専利権について紛争が生じた場合、関連当事者は人民法院に提訴し、登録出願された薬品の関連技術方案が他人の薬品専利権の保護範囲に含まれているかどうかを判決するよう請求することができる。国務院薬品監督管理部門は規定された期限内に、人民法院による発効した判決により、関連薬品の発売許可を一時中止するかどうかの決定を下すことができる。
薬品発売許可申請者と関連専利権者又は利害関係者は、登録出願された薬品に係る専利権紛争について、国務院専利行政部門に行政裁決を請求することもできる。
国務院薬品監督管理部門は国務院専利行政部門と共同して、薬品発売の承認と薬品発売許可申請段階の専利権紛争解決の具体的な係合弁法を制定し、国務院に報告して承認を得てから施行する。

ジェトロ HP
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
 

 このように、専利法の規定によれば、先・後発医薬品に係る特許権侵害問題は、裁判所または行政部門に抵触性の判断を求めることができるとされています。
 もともと、中国における専利権侵害紛争は、裁判所への提訴(司法ルート)と知識産権局への行政法執行申立て(行政ルート)のダブルトラックとなっていますが、パテントリンケージにおいても、このダブルトラックが維持されているということです。

 そして、それぞれに関して、
・裁判所による審理については、最高人民法院から①司法解釈(「登録申請された医薬品に関連する専利紛争民事事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定」、以下、「①司法解釈」といいます。)が、
・行政部門による審理については、②国家知識産権局から「医薬品専利紛争早期解決メカニズム行政裁決弁法」(以下、「②行政裁決弁法」といいます。)が、制定されました。

・また、上記専利法76条3項に規定される「具体的な係合弁法」として、国家医薬品監督管理局及び国家知識産権局の連名で、「医薬品専利紛争早期解決メカニズム実施弁法(試行)」(以下、「③実施弁法」といいます。)が、制定されました。

これらの関連法を含めた、パテントリンケージの大まかな枠組みは次のとおりです。

②に続きます。

[1] 同法は、2007年及び2020年に改正されています。

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