中編小説 夏の香りに少女は狂う その20
これまでの話は、こちらのマガジンにまとめてあります。
***
キャンプ場の温泉施設は、管理棟のすぐ近くに建てられていた。
露天風呂はなく、内湯のみだが、大きな窓から大自然が一望できる。
「あー、めっちゃ気持ちいい…」
明美が、広い湯舟で手足を伸ばした。
「今日、けっこう暑かったもんなぁ」
リンは、浴槽の縁に腰かけて、湯につかる前に髪をまとめている。
その姿が、明美の目に入った。
「リン、どうでもいいけど…」
「ん?」
言い淀んだ明美に、リンは小首をかしげる。
「なんか、色っぽくなったなぁ」
「えっ…?」
一瞬、義之とのことがバレたのかと、リンは焦った。
「いやでも私、胸とかちっさいし。明美のほうが大きいやん」
焦りをごまかすように、リンは早口で言う。
実際、明美のほうが体は発達していた。
背も高く、バストもヒップも、リンのそれよりははるかに「大人の女性」のものである。
「いや、体がどうとか、じゃなくてさ。雰囲気が変わったなぁと思って」
まじまじと明美に見つめられ、リンはどぎまぎした。
「気のせい気のせい」
ごまかすように曖昧に笑い、リンは湯舟に肩までつかった。
***
ところ変わって、こちらは男湯。
「あー、ええわ。これ、めっちゃ気持ちいい…」
義之は、ジェットバスの水流を腰に当て、目をつぶる。
「主任、何オッサンみたいなこと言ってんすか」
湯舟の縁にもたれながら、拓巳が呆れる。
「おぉ?オッサンで悪いか。これが気持ちええねん」
「主任て、見た目は悪くないのに、なんか残念なとこありますよね」
「おいコラ、どこらへんが『残念』やねん。10文字以内で書け」
義之が、横目で拓巳をにらむ。
血行が良くなっているのか、その目元がほんのり朱に染まっていた。
「国語のテストやあるまいし」
呆れながらも、拓巳は義之の横顔をちらりと見る。
やはり、男にしてはきれいな顔だ、と思った。
ふと、先日義之と酒を飲んだことを、思い出した。
『俺からしたら、嫁さんより拓巳のほうがよっぽどかえらしわ。素直やし、優しいし』
そう言って、拓巳のネクタイを引っ張った、義之。
…あの顔はヤバかった。
今でもそう思う。
義之の、とろんとした目。
自分を誘っていたかのような、妖しい視線。
再び、ジェットバスを満喫している義之を、見る。
さらりとした黒髪、少し日に焼けた細いうなじ。
そして、首筋から鎖骨…
「あ、やば」
思わず声が漏れてしまった。
「ん?拓巳どしたん?」
義之が、こちらを振り返る。
「あ、いや、何もないっす」
慌ててごまかそうとしたが、勘の鋭い義之は見逃さなかった。
「さては…」
義之は、きれいな顔に悪魔の微笑みを浮かべ、湯の中で拓巳に近寄ってくる。
「あっ、ちょっ、主任!!」
義之の手が、拓巳の股間に触れた。
「えええ。まさかと思ったら、ほんまに勃っとったとは」
「主任…セクハラですよ、セクハラ」
拓巳の顔が、真っ赤に染まる。
「何を妄想してたんか知らんけど、まぁ若いってことやなぁ」
言い訳のようにつぶやくと、義之は湯舟を出て、洗い場へと向かった。
『何を妄想してたんやと言われても、なぁ…』
拓巳のそれは、義之の手に触れられた結果、さらに硬度を増しつつある。
『いや、ない。これは何かの間違いや。だいいち俺、明美ちゃんが気になって…』
そこまで考えて、拓巳はハッとなる。
ショートヘアーが良く似合う、活発な女子高生の姿が、拓巳の脳裏に浮かんだ。
(義之と拓巳が酒を飲む話はこちら)
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