短編小説 土曜日の朝 【BL】15年後の同窓会 その4
これまでの話は、こちらのマガジンにまとめてあります。
***
「ん-、頭痛い」
翌日、唯志が目を覚ましたのは、午前9時を回っていた。
「俺、昨日…」
どうしたっけ?と唯志は昨夜の記憶を探る。
かなり酔っていたことは、覚えている。
で、向井に送ってもらって…憲司に部屋まで連れてきてもらって…
憲司の手首をつかんで。
狭い布団で、一緒に眠った。
「何やってんねん、俺…」
布団の上にあぐらをかいて、唯志は頭を抱えた。
酔っていたとはいえ、恥ずかしすぎる。
憲司は、唯志のことが好きだという。
だが唯志は、まだそこまでの域には達していない。
だが…
憲司の体温は、妙に落ち着くものがあった。
腕枕をされたのも、何となく覚えている。
それが、心地よかったことも。
「とりあえず、水飲んでこよう…」
喉が渇いて仕方がない。
唯志が立ち上がりかけた、その時。
「起きれ、唯志」
ガラリとふすまが開き、憲司が部屋に入ってきた。
その手には、スポーツドリンクのペットボトル。
「とりあえず、これ」
ペットボトルを、唯志に差し出す。
さすが、気の利いた男である。
「サンキュ」
唯志はキャップを取ると、一気に喉に流し込んだ。
そして、「ふぅ」と息を吐く。
「唯志、とりあえず、脱げ」
腕組みをして、憲司は言い放った。
「へっ!?なんで!?俺、まだそれは無理…」
唯志はうろたえた。
きれいに整えられた眉が、八の字になっている。
「四の五の言わんと、脱げ」
憲司はなおも、詰め寄る。
そして、唯志のアンダーシャツをまくり上げた。
「ちょ、待って、いやまだ、ほら…あの…気持ちの準備、てやつが…」
唯志の頬が、真っ赤に染まる。
「…アホか。洗濯や!!!」
そのままアンダーシャツを引っ張り、憲司は脱がせることに成功した。
「お前昨日、酔っぱらって帰ってきたあげく、風呂入らんと寝てしもたやろ。そやから洗濯できてへんねん!」
「なんや、洗濯かい。ややこしい言い方しやがって」
唯志は、大きなため息をついた。
「ん?ほなヤってもよかったんか?」
憲司がニヤリと笑う。
「いや、そうとちゃうけど」
唯志はローテーブルの前に座ると、タバコを1本取り出し、火を点けた。
裸の背中に、朝日が当たる。
「それ一服吸うてからでいいから、シャワーやっとき。着替え、風呂場のとこに置いとくから」
それだけ言い残し、憲司はシャツを手に部屋を出た。
***
「あー、サッパリした」
髪を拭きながら、唯志はリビングに入る。
この日は二人とも仕事が休みなので、Tシャツにハーフパンツというラフな格好だ。
「唯志、朝メシ食える?食えるんやったら、パン焼くし」
憲司の姿は、リビングに続く台所にあった。
「あー、無理。昨日、飲みすぎたわ」
唯志は、どすんとソファに腰かけた。
「…やろうな。だいぶ酔ってたみたいやなぁ」
そこで、ニヤリと憲司は笑う。
「なかなか、可愛かったけどな」
「おいっ」
再び昨夜のことを思い出し、唯志は手で顔を覆った。
「とりあえず、スムージーくらいやったら喉通りそうか?」
「スムージー?何それ」
どうやら唯志は、スムージーなるものを知らないらしい。
「ん…今バナナと、缶詰のミカンがあるから、それをミキサーにかけるねん」
「要するにミックスジュースやないかい」
唯志は再び、髪を拭き始めた。
***
「で、唯志」
ローテーブルにスムージーの入ったグラスを置き、憲司は唯志の隣に腰を下ろした。
「ん?」
先ほどまで髪を拭いていたタオルを首にかけ、唯志が振り向く。
そして、スムージーをひと口飲んだ。
「あ、うまい」
素直に、感想をつぶやく。
「昨日のアレは誰やねん」
憲司の眉が、ぴくりと跳ねあがった。
「昨日の…アレ…あぁ、向井のことか」
それがどうかしたか?唯志は続ける。
「そうそう。あいつ、唯志のこと狙ってんで」
腕を組み、さも憤慨したように憲司は言った。
「えええ!?それはないやろ?あいつは俺の後輩で部下やで?」
驚いた唯志が、スムージーのグラスを手に固まる。
「向こうはそうは思ってへんな。おそらく、それ以上を狙ってるはずや」
「なんでわかるねん。少なくとも、あいつは憲司みたいに俺に迫ってきたりせぇへんで?」
とりあえずグラスをテーブルに置き、唯志は憲司の顔を見上げた。
悔しいが、男前であると思いながら。
「俺にはわかる。昨日の夜、唯志を送ってきてくれた時、あいつの目が普通とちゃうかった」
「憲司…」
唯志は、困ったように眉を下げる。
その様子に、憲司はため息をついた。
「ま、それだけ気になる、てことや。唯志のことが、好きやからな」
憲司は、唯志の肩に手をかけ、引き寄せる。
そして形のいい薄い唇に、軽く口づけた。
「あ、そや、憲司…」
多少目をそらしながら、唯志はつぶやく。
「ん?」
「あの、さ…夜…」
相当言いづらいのだろうか。
言いかけて、唯志はスムージーをひと口飲んだ。
「夜?」
憲司は怪訝そうに、唯志の顔をのぞきこんだ。
だが唯志は、さらに顔をそむける。
「その…一緒に寝ぇへん?」
見ると、唯志は首まで真っ赤になっている。
「いや、昨日さ…ちょっといいな、て思ったもんやから」
ソファの上で、唯志は背中を向けた。
よほど、恥ずかしいのだろう。
「唯志…お前それって…」
一瞬、憲司は期待する。
「いや、ちゃうで。まだ、その…体の関係とかは無理やけど。一緒に寝てたら、なんか安心できるねん」
背中を向けたまま、ぼそぼそと唯志は言った。
「あのな…一緒に寝て、ヤるのは無理とか。俺、生殺しかい」
憲司は、盛大なため息をつく。
「…そこは、ごめん。もうちょい待って。今、色々考えてるとこやねん」
唯志は背中を向けたまま、ソファの上で膝を抱えた。
「考えてる、ねぇ…。まぁええわ。唯志がそう言うんやったら、そうしよか」
「うん…ありがと」
まだ恥ずかしいのか、唯志は背中を向けたままだ。
「とりあえず、今日はダブルの布団買いに行こか。シングルの布団に、男2人は狭いやろ」
憲司はそう言って笑うと、唯志の体を背後から包み込んだ。
「ま、先に洗濯物干してくるわ」
体を離し、憲司は洗濯機へと向かう。
その足取りは、どこか軽そうに見えた。
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