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日本の大学遠隔授業で決定的に欠けている問題点と解決策 Identifying Problems with Japanese Distributed Learning Models and Possible Solutions

Having taught courses in distributed learning format for 17 years, I have noticed a sort of fiasco among the Japanese higher education, which, to the surprise of many in the world, did not allow online lecture as a fulfillment of required course delivery up until spring of 2020. Many, if not all faculty members rushed to quick adoption of Zoom or similar software to deliver their lectures as necessary replacement for face-to-face lectures.  There appears to be lack of leadership from administrators or even the Ministry of Education (MEXT) regarding the national strategy of critical catching up with advanced course managements available in the rest of the world. 

世界中を巻き込んだ2020年春の教育機関閉鎖により、世界の高等教育機関がキャンパス閉鎖、急速にオンライン化を迫られました。当方勤務先であるセントラルフロリダ大学も3/11に学長から全キャンパス閉鎖と、5日後の3/16からは全ての授業を100%オンライン化しろという命令が出ました。ほぼ3カ月間、全く大学には通勤していませんが、全ての授業はオンラインにて行っています。文科省の指導で、オンライン授業は通常授業の一環と見做さないという通達があったため、日本の高等教育のオンライン授業は、基本的にこの春まで存在せず、日米両国の大学で教鞭をとる機会のある当方から見ると、日本のオンライン授業インフラは、米国比20年は遅れてしまっています。 逆に、2020年春の問題で、その後進性が広く経営陣、教職員、学生に知れ渡った点では、一気に前進する機会になるかもしれません。 

しかしならば、日本では学長や副学長、理事長のリーダーシップで、対米国比20年遅延するオンライン教育インフラを一気に改善しようという話や動きがあまり無く、路頭に迷った教員が自ら、ZOOM等を利用して、今迄のFace2Faceの授業形態(「毎週何曜日の何時に、どこどこキャンパスの何号室に全員集合すれば先生が知識を教えてあげよう」:600年前の足利学校から続くモデル)をお互い自宅に居ても授業出来るように努力するという、教員の自主的解決策に任せているように見えます。別の言い方をすれば、各教員の熱意と努力での試行錯誤は称賛されるべきである一方、学長・副学長・理事長、そして高等教育行政担当の立法・行政担当の皆さん、どうして20年遅れの日本の高等教育インフラを一気に世界水準に引き上げる折角の戦略的機会に気づかないのかという部分を指摘したいと思います。

これは遠隔授業センター理事を兼任している米国博士教員の観点からすれば、日本が根本的な改善をして一気に世界水準に追いつく機会を高等教育のリーダーシップ不在でみすみす逃している状況なのですが、実は説明は付く事象ではあります。

「自分が経験・理解していない事を承認するのは難しい」

一般論ですが、「モノサシは自分より長いものを計測できない」という話があります。文科省の通達で今迄オンライン教育が認められていなかったという事は、文科省だけでなく、その通達を順守する全ての日本の高等教育機関で一切オンライン教育がなされていなかった、経験者が居ないという論理的な推測が出来ます。 すると、自分が経験していない、つまり理解出来ない事を積極的に承認するのはかなり勇気が要ります。と言う訳で、通常の稟議・協議書を回して認可を取るシステムでは新進気鋭の誰も経験していない新たな事を承認するのは極めて困難な事が理解出来ます。

明治維新直後の時代は、欧州諸国に比較して圧倒的に日本が遅れているから、とにかく追いつくためには、欧米の方式や知見を取り入れようというコンセンサスがあったために、数年前までちょんまげ、帯刀の日本人でも新しいものをドンドン導入出来た訳です。 この遠隔授業システムは、その前提で世界で一番進んでいる米国systemを導入してそこから学んで、自主開発をした方が、はるかに効率が良いほどに日米差があります。今回はそれらをご紹介します。

「日本の現状:蒸気機関車をデイーゼル機関車に付け替えた状況」

現在の日本の大学は「対面教育(足利学校モデル)が2020年春に妨害されたため、一時的な避難措置として、中央政府・文科省や大学経営陣の容認(黙認?)の下、各教員レベルでZOOM等を利用した対面授業を試行させている」状況に見えます。
世界との比較による日本教育知識移転モデル劣後を回復する戦略的機会という把握や発想が感じられず、「各教員の負担や追加労働力で危機を乗り越えるまでがんばれ」という場当たり的発想で、教員各人の労働力負担は事務的な手続きと新規ソフトウエア利用試行錯誤分が上乗せされている状況にも見えます。

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教員の観点からすると、足利学校モデル(通常の教室授業)を遠隔リアルタイム授業モデルに変換すると、蒸気機関車をデイーゼル機関車に付け替えたぐらいに大進歩・大躍進を感じると思います。終着駅でいちいち機関車を転車台に載せる必要なく、石炭や水を途中駅で補給する必要もない訳です。経営陣側からのサポートが無いにもかかわらず、苦境を新形態で乗り切った教員の皆様に達成感や高揚感があるのは当然ですし、称賛に値します。

で、まだあまり表面には出てきていないですが、客車に乗っている乗客である学生の観点からすると、実はダイヤ(時刻表)も同じ時間で授業が行われ、次の授業には教室から教室に移動しなくてはならず、(物理的移動ではなく、ZoomからZoom)、また宿題・課題の類は各教員によってメイル添付でワード送れ、エクセル送れ、参考資料は各先生からリンクやPDF添付ファイルで送られてくるという、実は乗客(学生)の立場からすると、蒸気機関車時代から教員の想像するほどには便利になっていないのです。 

では、利用者(学生)の観点からして、何が物足りないのか? また教員の立場からして、デイーゼル機関車に付け替えた以上にもっと便利な、自分達の事務負担を減らすような教育インフラは無いのか? これについて実例をみてみましょう。


「1. 最新版のLMS-CMS導入による大学内教育共通インフラ構築による学生利便性確保」

一部の日本の大学では導入されている所がありますが、オンライン教育の最も基本的な教育インフラはLMS-Learning Management System, also known as CMS- Course Management System の全大学内導入です。こういう決断は学長・副学長(米国大学)、或いは理事長(日本の大学?)レベルでないと下せないと思います。

LMS-CMSが導入されると、(1)紙全廃(2)学生(乗客)の利便性向上が全大学レベルで可能となります。勿論、教職員の利便性も向上しますがそれは後で述べます。

学生から見ると、大学全体でのLMS-CMSが無い(米国大学ではあり得ない状況)というのは、面倒な状況であり、敢えて例えるならば、「全国統一規格無の私鉄だらけで、お互いに共通切符やプリペイドカードが無い状態で乗換えを強いられる状況」。授業から授業に移動する度に、この授業はこのソフト、このリンク、宿題管理もそれぞれの教員にメイルで確認するというイメージで、発展途上国の市場(闇市)を歩くような感覚です。ところが、大学全体でLMS-CMSが導入されると、各学生が履修しているコース全てがダッシュボードと言う一つのページに行くだけで全て一覧出来ます。その同じページに各授業の宿題・課題の提出日が明示され、そこをクリックすれば、宿題・課題の内容がさっと見れます。(画像1参照)。

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イメージとしては全ての鉄道の予約や乗換えが一つのページに表示されている状況。 ここに全ての宿題課題、授業内容から参考資料まで全てにアクセス出来ますし、課題提出もこのシステムで出来ます。いちいちメイル添付とか、20年前の教育インフラで行われていたような無駄な作業は不要です。

宿題管理と言えば、カレンダーに全ての宿題提出日一覧表があったら、旅行やインターンシップ等が組みやすいですね。はい、それも出来ます。

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各宿題課題がみれるだけでなく、実際にクリックすると、その課題宿題が全て詳細が確認出来、時間があるならばそこで作業も提出も可能です。(画像2参照)

では、実際にコースの一つのページを見てみましょう。(画像3参照)

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各コースの内容は当然異なりますが、レイアウトや機能は全て共通のフォーマットを使っていますので、学生からすると、最初の学期に授業取れば、後は卒業まで各コースの機能については迷う事がありません。わたくしの大学院生向け応用統計学の授業のページですが、左側にメニューが並んでいますね。これは各コース同じ形なのです。日本中何処に鉄道で旅行しても、皆同じ基準で精算機や自動改札があれば迷うことなくスムーズに旅行が出来ますね、それと同じ感覚です。学生への利便性はこうして確保出来る訳です。

次に実際にこのコースの各州別に何を勉強するのか、授業ノートや統計解析練習用データはどういうものがあるのか、それもModule(週次別授業内容)ページに行けば、全て初日から最終週分まで全て自由に閲覧できるようになっています。(画像4参照)。

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当方の授業の場合は、社会人学生とホテルやテーマパーク(デイズニーやユニバーサルスタジオ)、ホテル管理職の現役勤労学生が多いので、足利学校方式やZoom方式の同じ時間に全員集合という形態が取れないので、ストリーミングビデオ方式で録画し、その録画とシンクロしてノートやスライドが自動的に動いていく方式を過去10年ほど利用しています。(画像5参照)

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「録画方式:対話・会話が出来ないのでは? 出来ます(笑)」

「知識移転」を目的とする高等教育ですが、足利学校モデル(対面式)やZoom方式での緊急避難モデルでは、実は学生、消費者側の認識する利便性はそう劇的に変化していないのです。授業録画方式の利点は、学生側の利便性が最高レベルになり、まさにオンライン教育の消費者側の利便性がしっかり確保出来る点です。これは、日本の大学が米国大学型の有給インターンシップ制度を実行したり、或いは日本の大学の弱点である継続教育(社会人教育)を今後強化したいという場合には避けて通れない課題です。

そこで時々出てくる質問が、「録画方式でどうやって批評的発想や対話を確保するのか、無理じゃないの?」という質問です。これ、問題なく出来るのです。皆様Facebookで議論が白熱したポストを見たことがありますか?あれって、ポストしている方々、PCやスマホの前に張り付いてリアルでチャットのように反応しているのでしょうか(笑)? それが分かれば、教員の仕組みや環境形成で、学生同士や教員との対話は面白いようにはずみます。少しだけでも議論ポストした学生には点をあげるよ、(これが議論誘発の環境形成の一手法、あとは興味深い課題の話題を先生がポストするのも手法)とすると、幾らでも議論ははずみます。(画像6はその例)。

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「2. 最新版のLMS-CMS導入による教員側情報収集能力・授業改善能力向上」

では教員側にはメリットはあるのでしょうか? 大いにありますが、これが日本にあるLMS-CMSの弱点であり、米国systemの圧倒的強みです。

LMS利用オンライン授業により、対面授業では把握不能なきめ細かい各学生の管理データが取得出来るのです。それは足利学校モデルでは全く比類不能な程のレベル。この部分が日本では誰も理解出来ていないように見えます。

笑い話に近いですが、本当によく起こるケースですが、学生が急に擦り寄ってきて、「Dr. Haraの授業を一生懸命勉強したのによくわかりませ~ん」という事があります。足利学校モデルの場合は授業を聞きに来ていたか程度は出欠確認出来るでしょう。しかし、今学期累計でこの授業のどの授業、どの週にどの程度の時間を実際に使っていたのかが、全ての学生についてデータが取られているのです。足利学校モデルで、対面の好感度と巧みなマーケテイングで要領良くかわしてきた学生は、当方式では安易に化けの皮が剥がれる訳です(笑)。データがありますから。(画像7参照:学生名は消してあります)

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また、足利学校モデルやそのインフラを継承して、授業の部分のみを近代化(デイーゼル機関車に替えた)Zoomリアルタイムモデルでは、学生名簿程度は有っても、エクセルベースの点数表は教員が自分で手入力しているケースがまだあるかもしれません。LMS-CMSの環境下では、学事部(Registerer's Office)で授業料を支払った学生名簿が自動的に各コースの成績管理表に入ってくるので、教員は名簿作成不要、且つ、全ての課題に点数を付けた時点で自動的に表計算にシステム側で入力され、合計点や進捗状況まで教員側で見れて、且つ、学生側にも「貴方のこのコースでの進捗状況はこうです」というのがリアルタイム表示される環境です。(画像8参照)

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「試験の効果性を統計解析で自動判定し教員にフィードバック」

試験の目的は、勉強した学生とそうでない学生とを峻別し、後者には個別に問題点を早めに教えてあげる事で、改善(落第防止)を促す事です。

米国のLMS-CMSは、教員が使ったテスト結果を統計解析して、「この質問はあまり効果なかった」、「この質問は良く勉強した学生を峻別するのに効果的だった」という所まで正にAIで教員にフィードバックしてくれるのです。全ての試験問題について、且つどの学生がどの回答を選んだかも含めて全て定量処理が瞬時にされてしまうのです。(画像9参照)。幸いにして、多くの方々のお陰で、幾つかの日本の大学の一部でもLMS-CMSが導入されていて、使わせて頂きましたが、元が米国のシステムは恐らく15年程度前の基本設計のを使っているので、教員側への定量データ収集と解析というレベルには至っていない印象です。

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「遠隔授業の戦略性」

最後に、元気の出るアドバイスを。

日本の大学の弱みは継続教育(社会人教育)インフラと申し上げましたが、足利学校モデルと緊急避難Zoomモデルでは、社会人のニーズに合致していないのです。当方が勤務する大学の修士号、10年前は足利学校モデルで60名程度しか在籍していなかったのです。ところがオンライン授業でも同じ学位(ホスピタリテイ経営修士号)が取れるようにしたら、現役社会人学生を中心に志願者が増えて、現在は180-200名のプログラムになっています。

離島や中山間地の多い日本では「教育の機会均等が実は平等に存在しない」という点、今迄は日本でそれに気づいていた人は少なかったと思います。ホテル産業や観光の現場に従事する方々、家庭のある女性や、シングルマザー、或いは大学の無い離島や中山間地に居る人達は、教育意欲や意識はあっても600年続く足利学校モデルから日本の高等教育が離別できないせいで、機会が均等になかった訳です。それが2020年春の事件でそれに気づいた人が増え、またZoomで組織的サポートないのに必死に対応した各教員の方々も、遠隔教育への意識が変わったのではと推察します。 後は教育行政や学長・副学長・理事長等の経営陣の方々が明治維新時代のような気構えで20年遅れの日本の教育インフラを一気に世界レベルに押し上げるかの決断だけです。両国のLMS-CMS使った経験から言えば、米国のシステム(日本語対応しているそうです)を導入すれば、オンライン教育インフラは完璧に対応可能となり、また既存の足利学校モデル型授業も紙全廃が可能となります。

ここまで問題が明確化しており、且つ解決策もそう複雑でない(予算取って世界最高水準のLMS-CMS導入するだけ*)件なので、日本の高等教育インフラが一気に世界水準に上げられる可能性は高いです。

LMS-CMS の大学全体の導入は、イメージとしては全国中に同じ線路幅のインフラ整備投資し、ソフト側も利用者(学生)から見た利便性を確保するのと同じです。一旦そのインフラがあれば、乗換えも接続もスムーズに出来、一か所のウエブに行くと全ての路線の時刻表、乗換案内、料金表が見れて、購入・決済・精算何でもそこで出来るというイメージ。その共通基本インフラがあれば、車両は各自が自由に造れる訳です。リアルタイム(Zoom)オンライン式、ストリーミングビデオ方式(録画型)、また知識移転方法としては、蒸気機関車(足利学校型対面授業)が好きな人でも、紙全廃で点数管理も自動化とか、テストはLMS-CMSを利用するとか、美味しい所がつまみ食い出来る、自由度が多い教育インフラです。

(*注:実際は遠隔授業サポートセンターとFaculty Developmentの二つの事務サポート組織の強化又は立上げが必要ですが、まずはトップの決断が一番大事だと思います)

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Bye for Now 終わり。

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「筆者のオンライン教育に関する略歴」

2003年、Cornell 大学ホテル経営学部にてLMS(Learning Management System)利用開始した当初2名の一人。Blackboard)。セントラルフロリダ大学内で「遠隔授業教員資格」取得(2005年)、「ストリーミングビデオ授業教員資格」取得(2007年)同、遠隔授業センターの教員理事の一人。
2013-2016年、Canvas Network により、世界観光機構(UNWTO)の支援も受けてMOOC(Massive Open Online Course) 4年間で3800名、世界中に授業配信した実績あり。
現在担当の全ての授業はオンライン形式。累積オンラインコースは過去17年で約70講座。
Data Analysis for Hospitality & Tourism Managers(大学院応用統計学)Hospitality Finance, Tourism Industry Analysis (観光産業の経済効果計算:4年生及び大学院, International Events (4年生)
米国大学研究系博士教員で、実際に米国大学正規単位オンライン授業経験があり、大学経営企画側の最新事情も分かっている日本人の一人。


大変恐縮でございます。拙文、宜しくご笑納頂ければ幸甚です。原 忠之(はらただゆき)