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留袖とキムチとワタシ

朝一(午前9時)で月末に予定している末っ子の結婚式用にレンタルした留袖の柄を選びにブライダルサロンへ。
留袖を着るのは5回目、作ったことはないので全てレンタルだ。
留袖は柄に格付けがあり、立場によって纏って良い柄が変わるので、一回買えばオールマイティというわけにはいかない。
そのへん喪服と異なるので、呉服屋の巧みなセールストークに乗せられるわけにはいかないのだ。
そうは言っても、そんな古臭い決まりを誰がしのごの言ってくるというのか…
地域や家によって異なるローカルルールもあるんだし。

夫は新婦の父より格下にするわけにはいかない(らしい)ので、昨日モーニングをレンタルした。
初めに試着したのはなんだかツンツルテンで、まるでチャップリンみたいだ。
ひとつ大きいサイズを出してもらったが、こちらは少しだぶついて、いかにも借り物という感じになった。
着ていたポロシャツの上から羽織っているのに気づいて、元のチャップリンの方を推した。

私と夫の結婚式・披露宴の時のことを思い出す。
モーニングを着込んだ父は散髪したてだったようで、刈り上げ過ぎた側頭部と後頭部が青々していた。
継母は茶の湯を教えていて、呉服屋で着付けを手伝ったりしていたので当日は自分で着付けた。
けれど留袖は紋があるので、一般の訪問着とは異なり着付けにテクニックがいる。
何度も何度も打ち合わせてみては脱ぎ、帯もいく数回締め直し、大汗をかいて化粧も落ちるほどだった、らしい。
そんな笑い話を、終わった後で義父母から聞かされた。

恙無く周到に準備され、華やかで厳かでもある結婚式・披露宴は、葬儀と同じくリハーサルのないぶっつけ本番だから、意外に悲喜交々のコメディなのかもしれない。


ブライダルサロンの担当者は、裾の柄が比べられるように広げて、五着の留袖を私の前に並べた。
うちピンクの辻ヶ花風の一枚は、てもなく却下した。

四枚のうち、最も地味な柄を選んで鏡の中で顔と見比べた。
可もなく不可もなく。
担当者からは、最新のものであるという、白い雲が黒い線で描かれたモダンな柄を奨められた。
鏡の中に、あたかも自分が主役であるような顔つきの姑がいる。
比較のために、わりと古典的な、橙色の花の模様の境界が曖昧な、流れるような柄行のを合わせてみる。

今一度モダン柄を合わせてみる。
私は何も変わらないのに、着物の柄で私の印象が大きく変わる。
サロンの人はモダン柄を推しているように感じたけれど、私は古典的な方を選んだ。
こういうシーンでよくあることなのだ。
私のセルフイメージは、どうも優しく穏やか、らしい。

✳︎

帰りに開店したばかりのスーパーで食料品と、マツモトキヨシで日用品を買う。

車のトランクに積んだ古新聞やペットボトル、アルミ缶を、廃品回収業者が開設している集積所に持参した。
ここは年中無休の24時間営業なのだ。
少し前から、監視小屋みたいな掘立て小屋で、自家製のキムチを販売しているのを見つけて何度か買った。
所持金が足りるかどうか…
大根と白菜ときゅうりの三種類、一袋いくらだったか、六百何円か?
二つの財布を探ると、647円ある。
車を降りて、小屋を覗いて値段の書かれた張り紙を見ると650円とある。

あら〜3円足りないわ。残念…

と呟く。と、店番の女性が、

いいよ、おまけするよ。

と言ってくれた。
車に戻り財布を掴んで小屋に取って返し、洗いざらいの小銭をカートンに並べた。

いいですか?すみません!

出直すとも言わないのが図々しいと我ながら思う。

いいよ、また、買ってね。

少し、外国語訛りがある。
業者は韓国籍の方なので、おそらく身内なのだろう。

よく来てるんです。お友だちにも薦めてます。

そうなの?ありがとうね!

本当のことである。
とても美味しいキムチなのだ。
会う人ごとに薦めているのだ。
私は大根キムチカクテキが一推しである。

次回買う時に3円をお返しするつもりでいる。
このご時世、買い物をして小銭が足りなくて借りるなんて、なかなか風情のある体験に思う。

そういえば。
彼の国が前の政権のときに、テレビで韓国人ジャーナリストが、「韓国はキムチの匂いがするというけど、羽田に着くと醤油の匂いがするよ」と、言っていたのを思い出す。  
政権が代わってもそれは変わらないだろう。

韓流には関心がなかったが、いつかは韓国に行ってみたい。
車の中に、キムチの匂いが充満した。

※カクテキの画像は るしあ昌さんよりお借りしています。
ありがとうございます♪



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