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町内会

昨夜は近所の神社の祭りだった。
この家を建てた38年前町内会に入ったときに自動的に氏子になっていて、毎年5000円の神社費と初穂料や神宮大麻のお札代だの支払っている。
私はこれの他に、毎朝ウォーキングの帰りにお参りして小銭を賽銭箱に投入している。

コロナが5類になり3年ぶりのお祭りは、歌やダンスのゲストを迎え露店も立つ盛大なものだったらしい。
近隣の氏子の家族と、その知り合いや親戚縁者が招かれたのか、けっこうな賑わいだった。
交通整理の制服を着た人が出ているほどだった。
昨日は終業式後、昼前から夜6時過ぎまでの学童勤務でくたくたに疲れていたので、帰りがけに横目で確認しただけだった。

祭りの数週間前に、わが町内会(たった二世帯!)の自治委員をしているウチに、神社の総代らしき人物が祭りのポスターを持参され、どこかに貼ってくださいと仰った。
極小町内会のどこにも貼り付ける場所がないので、仕方なくウチの玄関の上り框にある小さい床の間の、私のキルト作品の上に重ねて掛けておいた。

その時に、ポスターの詳しい内容を確認しなかった。
ゲストが来ることと花火が上がる二点は目の隅に入った。

さて祭り当日昨夜、学童の帰りにセブンイレブンに寄り、よく朝の食パンとパック詰めのサラダを数点買い求めた。
これら広げて夕飯を済ませれば今日のミッションは完了だ!
玄関を上がり力尽きてよろけながら部屋に入ると、先に帰っていた夫が風呂から上がったパジャマ姿でソファに座りいう。

祭りの抽選券はなかったか?

自分の形相が瞬く間に大魔神の如く、豹変したのを自覚する。
この期に及んで何故、そのようなややこしい難問を、この汗まみれの疲れ果てたボロ雑巾のような妻に投げかけるのか?

抽選券?なにそれ、それは一体なにするものぞ。

塞ぎたい耳で聞くところによれば、我が町内会のもう一つの世帯住民である隣の家のご主人が先ほど訪ねて来られ、祭りの抽選券を所望されたという。

抽選券、ちゅうせんけん、チュウセンケン…

全く身に覚えがないのである。
とんでもない言いがかりである。
私が着服したというのか!?

いやいやいや、誰もそんなことは言ってない。
心当たりがないと、どうにも被害者意識が高まるものである。

買ってきたものを放り出し、町内会の文書の束を探る。
農協のATMから神社費を振り込んだ時に、抽選券が出てきたのか?
来るわきゃない。

ポスターを持参された方から受け取ったのか?
そんな覚えはない…
いくら物忘れが進行しているとはいえ、そんな金目になりそうなものを預かって忘れるほど悟り切ってはいない。
なにせ景品はニンテンドーのスイッチだ。
当たればメルカリで転売だ。

どうもそれ、もらってないみたい…

それならその旨、隣家のご主人に知らせてやらないと、お子さんたちが待っているかもしれないと夫はいう。

隣家はすでに祭りに出向いているらしく、電話の向こうからざわめきが聞こえる。
4月に我が町内会の住民になった隣家の、近隣に関する情報源は小学校に通うお子さんたちである。
抽選券というのが、果たしてほんとうに配布されたのかどうか、ご主人も半信半疑なのである。

そして私も、そんなものかほんとう配布されたのか、半信半疑の身の上だから、お互いに確信のないあやふやな会話になる。

いやあ、そういうものがあるらしいって、子どもと妻がいうので、一応聞いてみたんですが…

そういうものを受け取っていないんですけど、なんだか申し訳ないです…

いや、こちらこそ、そんなことで伺ってすみませんでした。

いえいえ…

もごもごもご。

猛烈に疲れてお腹が空いていたので、抽選券のことは頭から追いやって、セブンのサラダで晩酌してお風呂に入って寝た。


よく朝、神社の参道の脇に住むウォーキング馴染みの女性と出会った。

昨夜のお祭りは賑やかでしたねえ…

私は行きませんでしたが…通り掛かりました。

ごにょごにょ話していてふと思い出した。

そういえば、抽選があったようですね?

ああ、ありましたよ、外れましたが。

抽選券というのが、配られたのですか?

(町内の)神社委員の人が、ずいぶん遅くなってから配られましたよ。

配られる、というなら、一般的には
「神社委員の人に配られる」のように受け身になるのだけれど、この地域では語尾を〜られる〜とし、敬語にするのだ。

ポスターを配られた時にですが?

いんや、あの時より遅くにですよ。
◯◯町内のIさんとこも遅かったと言ってました。

ウチはもらってないようなんですが…

他のところでも、もらってないという町内がありましたよ。

はあ、そうですか…

ウォーキングから戻り、朝のテレビ体操を終えてソファでくつろいでいる夫にその旨話す。

兎にも角にも、他でももらってないところがあったのは朗報(?)であった。
これで、隣家への申し訳が立つ。

もはやこうなっては、抽選券が配布されなかった原因を探るのは困難である。
主催の神社に苦情を言うのもお門違い、総代に言っても分担して配布したであろうから、ウチに来るべき人が誰だったのかを突き止めなくてはならない。
仮に突き止めても、今更抽選のやり直しはできないだろうししないだろう。
突き止めることそのものに意味がないのである。

私は夫に言う。

町内会なんてものは、そもそも市がやるべきことを手弁当で市民にやらせるために作られたものなのだ。
いつ頃からか知らないが、グリコのおまけのように漏れなく、神社の氏子という特典(?)ついている。
それらが正しく機能するには、近隣同士の交流がなくてはならない。

道端で出会って、

今度祭があるねえ。あるねえ、盛大みたいだね。

花火も上がるねえ。上がるね、何年ぶりだね。

抽選券もらったかい?ああ、うちにも来たよ、どうせ当たらんけど。

だねえ?わっはっはっは

とかなんとか、茶飲み話で情報は補足され拡散される。

登録町内会は年一回一世帯あたり五百円の報酬が自治会長に支払われる。
一世帯から町内会を作ることができるが、二世帯以下の町内会は市に登録されない。
市がその存在を認めていない極小町内会なんてのは機能しないし、存続になんの意味もない。
神社費を含む年間一万五千円相当の諸雑費をただ捨てているようなものなのだ。

だから町内会など解散しよう?
と再三いうが、夫はしない。町内会活動にまったく関心がないにも関わらず。
いっそ市の方から解散命令を出してくれれば、渋々というていでやめるんだろうな。



※金魚の画像はNORiさんよりお借りしています。
ありがとうございます♪




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