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遠藤周作『沈黙』感想(ネタバレ有り)

遠藤周作の著作はどれも重い。『海と毒薬』、『悲しみの歌』、『白い人・黄色い人』、そして『沈黙』を読んだが、読後にスッキリ晴れ晴れとした気持ちになった事がない。まあ私が読後にずん、とくるものを好んで読んでるからなのだが、人に遠藤周作を勧めると高確率で難色を示される。「暗くて難しいんでしょ」と。そうだよ(大同意)

遠藤周作について語り合える人が現実世界にいないので、インターネットの海にダラダラとした感想を投げ捨てておこうと思う。


以下、『沈黙』のネタバレがあります。この超有名書にネタバレもクソもありますか?と私も思いますが、一応書いておきます。



ストーリーだけは知っていた。高校生の時に現代文の便覧かなんかで紹介されていたのを読んだからだ。その時は、神が答えないなんて当たり前じゃん?だって神はいないんだもの。とガチガチの無神論者の考えで頬杖をついていた。

元々、『海と毒薬』は大学生の頃に読んでいて、大学四年の春には長崎に行き遠藤周作記念館に寄った。遠藤周作の人となりなどはなんとなくわかり、でも『海と毒薬』以外は読んだことなかったので、海の眺められる記念館で思い浮かべたのは『海と毒薬』のイメージの海であった。
あの、すべての悲しみを含んだような海。

『沈黙』を読んだ今では、また違う海のイメージが浮かぶようになる。『海と毒薬』の寂しい海とはまた違った、荒々しく、残酷な海である。『沈黙』を読んだ方ならわかると思うが、海岸で磔刑になったモキチとイチゾウの精神と肉体を海は容赦なく削り取った。死にゆく信者を追いかけたガルペを飲み込んだ。

長崎の海は、沖縄の海のように明るいエメラルドグリーンでなく、もっともっと深い緑色をしている。遠藤周作記念館も、断崖絶壁に建っていてそこから見える海は激しい海である。遠藤周作の表現で唸ったのが、「針のような海」という言葉である。私がこれまでぶち当たらなかっただけで、このような表現をする人は他にも居るのかもしれないけれど、あの流動的な海を針と表現することは含みが多いと同時に直接的な表現にも思えて感動した。
遠藤周作も海を見ることが多かったのかな。海を「終点」のように書いている気がする。

遠藤周作記念館に併設している海の見える図書館
天気はあまり良くなかった。


遠藤周作の表現でもう1つ震えたのが、「鼾(いびき)」のシーンである。いびきのような声が実は信者たちの拷問に耐える声だったとわかった時のロドリゴの絶望は如何程だったろう。私は拷問を受けている人の声を聞いたことがないけれど、いびきと言われると想像もしやすいし、睡眠=リラックス=いびきの連想のなかに急に「拷問」を差し込まれる恐ろしさも感じることができる。凄い。

長崎に行った時に、日本二十六聖人記念館に訪れて、ドイツで見たキリスト教と全然違うことに驚いた。ドイツでもキリストに対する信仰じゃなくて、聖遺物に対する信仰が過激化してしまった事例などを見たけど、長崎のかつてのキリスト教はそれどころじゃないなと思った。
キリストが坊主だったり、ロザリオがほぼ仏教の数珠みたいだったり、、、
全く別物の「キリスト教」を信じていて、信じるしかなくて、という過去があったのだろう。
この点はロドリゴも驚いており、フェレイラも指摘していた。
私は「元々のキリスト教じゃないキリスト教を信じてたら騙されていたような気持ちになるし、宗教は生きていくために信じるもので、死ぬために信じるものではない」と考えており、それを父(こちらも無神論者)に伝えたところ、「私たちは神を心から信じてないからそう思ってしまうけど、死にたい時に生きるための支えになってくれた神を踏みつけるくらいなら神のために死んだ方がマシだと思うのでは?」と言われ、それもそうか〜と思った。
それでも私は、人間が作った「神」という概念のために戦争が起こったり人が死んだりするのに疑問を持っている。人間の言い訳のために宗教があるように思う。


『沈黙』を読んで、キリスト教を信じるとはどういうことなのかを、またキリスト教自体に含まれる矛盾のようなものを考えるきっかけになった。
遠藤周作は人の暗部みたいな、他人には言わないことの塊の部分を描くのが本当に上手い。(誰目線?)

映画の「Silence」も素晴らしいと評判だし、見なきゃとは思っているがなんたって暗いし怖いしで全然見る気になれない。気分がハイの時じゃないと受け止めきれないと思う。


余談
私は「日本で好きな都道府県は?」と聞かれた時に大体長崎と答える。長野など風景が綺麗な県も好きなのだが、長崎は風景も綺麗だし歴史もあるし本当に魅力的な県なのだ。
長崎にはもう何回も行っているが、その度最初に原爆資料館に立ち寄り、その後に他の場所の観光をすることにしている。
なんとなく、礼儀だと思ってそうしている。



おわり


ティソ


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