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朝ドラ「おかえりモネ」にハマったら見ておきたいNHKドラマ3作

  現在(2021年10月)NHKで放送中の104作目の連続テレビ小説(朝ドラ)「おかえりモネ」は、最終章・気仙沼編に入り、最終回まで残り3週間となりました。「おかえりモネ」について何かnoteで書きたいなあと思い、まずは、「おかえりモネ」にハマった人に見てほしいNHKドラマ3作をあげてみることにしました。
 ドラマ好きの方にとっては「もう見たよ」という作品ばかりかもしれませんが、その点はご容赦ください。まだ見ていない方向けに「おかえりモネ」との共通点にも触れながら紹介したいと思います。

透明なゆりかご

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 まずは、2018年にドラマ10の枠で放映された「透明なゆりかご」を紹介します。漫画家・沖田×華による、産婦人科の看護師見習いの高校生が主人公の漫画を原作とする、数々の賞を受賞したドラマ10史上最高傑作と評価されている作品です。

 「おかえりモネ」との共通点は、もちろん、主演・清原果耶、脚本・安達奈緒子ですが、その他にも、蒔田彩珠、マイコといった俳優や、「おかえりモネ」に携わったNHKの制作陣も、「透明なゆりかご」に関わっています。つまり、ドラマ「透明なゆりかご」の主要なメンバーが、ノウハウや人材を朝ドラに持ち込んで作った作品が「おかえりモネ」なのです。
 朝ドラ以外のNHKドラマの枠で、評判になった作品を制作したチームが、後に朝ドラ制作に携わったケースは、他の朝ドラ作品でもあります。そうした経緯を知っていたドラマファンの視聴者、また、朝ドラ「あさが来た」「なつぞら」で清原果耶の演技力の高さを知っていた朝ドラのファンからは「おかえりモネ」の放送の前から「朝ドラ史上に残る傑作、良質な作品になるに違いない」という高い期待、前評判がありました。
 「透明なゆりかご」の具体的な内容に踏み込むと、ネタバレになってしまうので、このnoteでは差し控えます。代わりに、NHKの「透明なゆりかご」ホームページに掲載されている「ドラマのみどころ」にある、安達奈緒子の「脚本家のことば」を引用したいと思います。実はこの内容は「おかえりモネ」にも、そのままあてはまる内容です。

沖田×華さんが描く漫画の世界は独特で、その表現は秀逸です。絵のタッチは一見ふんわりと単純で時に笑いも誘いますが、描かれる事象はリアルで辛辣で、ずっしりと胸を打つのに読む人を嫌な気持ちにさせません

同じ内容でも間違った方法で表してしまったら、受け取る人々を深く傷つけてしまう恐れがある、それを絶妙なバランスで描ききっているのが、この『透明なゆりかご』という作品です。

  この記述は原作の漫画に対しての感想ですが、実際に作成されたテレビドラマの方も同様です。かなりしんどい現実が描写されて、心に深く突き刺さって涙を誘いますが、不思議と嫌な気持ちはあまりならなくて、むしろ深く考えさせる思いの方が先にきます
 この絶妙なバランス感覚は、「おかえりモネ」を見た方には分かるでしょう。「透明なゆりかご」の制作で培われたノウハウが、「おかえりモネ」にも引き継がれているのです。
 東日本大震災をテーマとして扱う際にも、10年前とはいえ、生々しい記憶がまだ残っているため、「受け取る人々を深く傷つけてしまう」ことは絶対に避ける必要があります。その上で、東日本大震災がもたらした影響について、視聴者に色々と考えてもらう作品にしたいと考えたのでしょう。
 推測ではありますが、NHKの上層部も、2021年、つまり東日本大震災から10年後という節目の年に、東日本大震災を扱う朝ドラを放送することを企画しており、そうした朝ドラの成功のためには、「透明なゆりかご」制作チームの実績が不可欠と考えて、抜擢されたと思われます。

舞台である産婦人科という場所は、目をそむけたくなるような現実に直面する現場でもあります。あまりの苛酷さに、これは沖田さんの筆だから成り立つ世界なんじゃないかと怖じ気づくこともありました。

けれどここに出てくる事柄は、実際にこの世の中のどこかで起きています
なかったことにしてはいけない、透明な存在にしてはいけない、この物語は終始そう訴えかけます。だとしたらこれを表現する責任から逃げてはいけないのだろうと思いました。

 「表現する責任から逃げてはいけない」とありますが「透明なゆりかご」も「おかえりモネ」も、かなりの覚悟をもって作られていることが伝わってきます。「透明なゆりかご」には、毎回、産婦人科にまつわる、見ていてしんどくなる苛酷なエピソードがあります。そして「おかえりモネ」も同様に苛酷なエピソードが描かれています。代表的なものは、及川親子で描かれる、津波による妻であり母の美波の行方不明、喪失感に起因する父・新次のアルコール依存症と息子の亮の苦悩の話でしょう。
 やはりNHKの人たちは「戦争や大規模な自然災害といった出来事を、後世に語り継いでいく」という社会的使命を持っているのだと思います。こうした出来事には、現実に深く傷ついた被害者がいます。前述したバランス感覚でもって作品に落とし込んでいく術とともに、覚悟や使命感といったものが必要不可欠なのでしょう。

この作品を背負ってくださる清原果耶さんの勇気に感謝します。清原さんのたたずまいなくして、この世界は成り立たなかったと思います。素晴らしい俳優の方々にお集まりいただき、ドラマだからこそ描ける人物たちの内面も繊細に表していただくことができました。音楽、美術、緻密な演出の力、すべてが揃わなければ作り得なかった作品だろうと思います。多くの方の心に届きますように。せつに願っています。

 「透明なゆりかご」を傑作たらしめたのは、原作、脚本の力だけではありません。主演女優をはじめとする役者、音楽、美術、演出他、全ての要素が高いクオリティで結集して作り上げられたからです。そして、そのことは「おかえりモネ」にもそのままあてはまります。特に、主演の清原果耶の、唯一無二の素晴らしい演技は、「透明なゆりかご」「おかえりモネ」両作品において、なくてはならないものです。
 「透明なゆりかご」を見ると「おかえりモネ」と同じ雰囲気、世界観があることが分かります。「おかえりモネ」の前提となった作品として「透明なゆりかご」も、ぜひ見ることをおすすめします。

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10年先も君に恋して

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 次に取り上げるのは、「10年先も君に恋して」です。2010年にドラマ10の枠で放送された作品で、大森美香脚本で、ヒロインの出版社勤務の編集者は、上戸彩が演じています。ちなみに、大森美香は、現在(2021年)放送中の大河ドラマ「青天を衝け」の脚本家で、朝ドラ「風のハルカ」「あさが来た」の脚本も手掛けました。

 「おかえりモネ」で意外にも大人気となったのは、ヒロインであるモネの恋人役・菅波先生でしょう。先日放送された「あさイチ」プレミアムトークでも、菅波先生を演じる坂口健太郎をゲストに招き、「 #俺たちの菅波 」のハッシュタグ人気を取り上げたり、菅波先生のモネへの恋心の経過を分析したりといった、楽しい企画が行われていました。

 理屈っぽくて、自分の専門分野だと饒舌になるけれど、恋愛には不器用な理系青年、ただその裏返しで、誠実で浮気はしないし、実は隠れイケメンな男性との、じれったくてムズムズするけどキュンキュンしてしまうピュアなラブストーリー。こういうストーリーで思い出すのは、やっぱり、2016年に放映されたTBSの火曜ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(逃げ恥)です。
 「逃げ恥」には、ヒロインの恋愛相手として、星野源が演じる、恋愛経験皆無の「プロの独身」を自称するシステムエンジニア、津崎平匡が出てきます。Twitterでも、菅波先生登場の当初から「菅波先生は「逃げ恥」の平匡さんに似ているよね」といった感想が散見されました。
 「おかえりモネ」のNHKの制作陣も、最近のヒット作である「逃げ恥」はきっと参考にしているでしょう。「おかえりモネ」は、東日本大震災で被災した当事者と、当事者ではない立場の人との関係を描くことがメインのストーリーです。そのことを踏まえた上で、サブストーリーとしてのヒロインの恋愛をどう描こうかと考えた時にハマるのは、「逃げ恥」のような、ゆっくりと関係を築いていくラブストーリーです。
 ただ、このnoteで取り上げる作品は「NHKドラマ」という縛りを入れているので「逃げ恥」は一旦置いておくことにします。そしてNHKドラマの中に「恋愛に不器用な理系青年が出てくるラブストーリーがあったかなあ?」と改めて考えてみたところ、うってつけのがありました。それが「10年先も君に恋して」です。

 ヒロインの恋人役である男性は、「宇宙エレベーター」の研究に勤しむ、恋愛には奥手のオタクな研究者、円山博30歳。演じているのは、内野聖陽、つまり、モネの父親、耕治です(笑)。「おかえりモネ」では、菅波先生に対して「うちの娘に手を出しやがって!」みたいな圧をかけまくる父親が、このドラマでは、菅波先生ばりの恋愛に不器用な理系青年役。もうそれだけで可笑しい。
 ちなみに、「宇宙エレベーター」は何かというと、かいつまんでいうと、ものすごく長くて高いエレベーターを作って宇宙=大気圏まで行こうとする技術らしいです。詳しい解説は、下記のリンクを参照してください。

 なお「10年先も君に恋して」はタイムスリップものです。舞台は2010年ですが、その10年後の2020年から、タイムトラベルで2010年の世界にやって来て、ヒロインに「彼氏と別れろ」とつきまとう、グラサンにトレンチコートをまとった怪しいおっさんが登場します。実は将来のヒロインの夫・円山博40歳なのですが、この役も内野聖陽が演じており、30歳と40歳の一人二役を、見事に演じ分けています。
 「おかえりモネ」の中でも、大声で方言丸出しで娘を溺愛しすぎてうざがられる父親、スーツをバッチリキメているデキる銀行マン、トランペットを吹く筋肉ムキムキの大学生コージーと、「えっ、同一人物なの?」と思うレベルの、印象が異なるモネの父親を内野聖陽が見事に演じ分けていますが、この内野聖陽という役者の演技の振り幅の広さは「10年先も君に恋して」でも堪能できます。
 そして、円山博30歳が入り浸る大学の研究室で、タイムトラベルの技術を開発した大学教授役を演じているのが藤竜也、つまり、龍己おじいちゃんです。この役どころは、「おかえりモネ」同様に、好々爺で、いぶし銀の演技です。教え子の円山博に対する台詞も含蓄があり、とても素敵です。

 ということで、「10年先も君に恋して」の「おかえりモネ」との共通点は、永浦家の祖父と父親コンビ出演と、恋愛に不器用な理系青年のムズキュンなラブストーリーです。「菅波沼」にハマった人たちならば、「10年先も君に恋して」もきっと楽しめるのではないかと思います。
 その他にも、あちこちに張られた伏線がきれいに回収されたり、余計な説明台詞等も少なく、視聴者に想像させるような形で描いていたりするので、「おかえりモネ」のような、想像力を求められる考えさせる作品が好きな人であれば、面白く見ることのできる傑作ドラマです。

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あまちゃん

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 最後に取り上げるのは、2013年4月から9月に放映された「あまちゃん」です。岩手と東京を舞台にした、宮藤官九郎脚本、能年玲奈(のん)主演の現代モノの朝ドラです。この朝ドラを見てほしい理由は2つあります。

 1つ目の理由は、「おかえりモネ」と同様に「あまちゃん」も、2011年に発生した東日本大震災を扱っているからです。
 「あまちゃん」を見る際は「おかえりモネ」との東日本大震災の描かれ方の違いを意識して見ると、興味深く見ることができます。「あまちゃん」が放送されたのは、震災から2年後の2013年ですが、2年後のドラマで、被災地、被災者に配慮して描かなかったことは何か、逆に「おかえりモネ」という10年後のドラマで、後世に東日本大震災という出来事を伝えていくため、あえて踏み込んで描いたことは何かを考えながら見ると、両作品の面白さや奥深さを味わえます。
 「あまちゃん」をあげたもう1つの理由は、後の朝ドラにも大きな影響を与えた近年の朝ドラの中での成功作と評価されており、また朝ドラ特有のストーリーのパターンや表現手法等の「朝ドラのフォーマット」を分かりやすく理解できる作品だからです。
「おかえりモネ」も、もちろん「朝ドラのフォーマット」に沿って作られているのですが、その詳細な内容については、以下のnote記事を書きました。こちらの記事もお読みいただけると有り難いです。

 以上、「おかえりモネ」にハマった人にぜひ見てほしいNHKドラマ3作「透明なゆりかご」「10年先も君に恋して」「あまちゃん」を紹介しました。「おかえりモネ」の放送が終わった後の、「モネロス」解消の一助として、これらのドラマを楽しんでいただければ幸いです。

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