スタートアップワールドカップ、100万ドル獲得へ 世界70地域の代表がピッチバトル

去る7月21日に「スタートアップワールドカップ2022日本予選」が都内で開催され、空飛ぶ車を開発するSkyDrive(スカイドライブ、愛知県豊田市)が見事優勝、9月にサンフランシスコで開かれる決勝大会へと駒を進めた。当日は会場の一番前の席で観戦していたが、登壇した10社ともにレベルが高く、日本のスタートアップの成長ぶりをあらためて実感した次第。とはいえ、次の決勝戦には世界の予選を勝ち抜いた強者(つわもの)たちが一堂に集うわけで…。日本勢はどこまでやれるのか、どんなピッチバトルが繰り広げられるのか、非常に気になるところ。これはもう、サンフランシスコまで見に行くしかない。

スタートアップワールドカップ2022日本予選に登壇した10社。200社以上の応募の中から選ばれた(同予選のウェブサイトより)

「世界のトップ取る」とSkyDrive福沢氏

「超うれしい!」。日本予選でSkyDriveの福沢知浩CEOに優勝した感想を聞くと、文字通り弾けるような笑顔と喜びの言葉が返ってきた。決勝に向けた抱負については、「空飛ぶ車を手がける企業が世界にいろいろある中で、小型さ、乗りやすさが我々の強み。日本はコンパクトカーが得意だし、(空飛ぶ車に使われる)モーターや電池も(日本企業が強い)ロボットのテクノロジーと関係が深い。サンフランシスコで世界のトップを取り、ビジネスにしっかりつなげていきたい」。こう力強く語ってくれた。

実は今年の決勝にはSkyDriveを含めて日本から3社が出場の予定。コロナ禍で2019年を最後に世界大会が順延となっていたためで、前回の東京および大阪予選で優勝した再生可能エネルギー電力小売会社のLOOOP(ループ、東京都台東区)と、洗浄力などに優れた極めて小さい気泡(ウルトラファインバブル)を作り出す水道用ノズルのウォーターデザインジャパン(同品川区)も出場権を持つ。

日本予選で優勝したSkyDriveの福沢CEO(中央)。そのすぐ左がペガサス・テックCEOのウッザマン氏。

第1回は日本企業が優勝

スタートアップワールドカップはもともとシリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)であるペガサス・テック・ベンチャーズ(Pegasus Tech Ventures)と、同社の創業者でCEOのアニス・ウッザマン(Anis Uzzaman)氏が2016年にスタートさせたピッチイベント。

当時シリコンバレーVCとしては後発ながら、何より100万ドルという破格の優勝投資賞金(賞金は投資の形で優勝企業の資本に組み入れられる)で注目された。加えて世界各地で予選を実施。まだ世界に知られてはいないものの潜在力のあるスタートアップを発掘する仕組みを作り上げたことが、次の有望企業を探している投資家やスタートアップ関係者に受け入れられたようだ。

それも2017年の第1回世界大会では、各地の予選を勝ち抜いた12カ国15社の中から日本のユニファ(名古屋市中村区)がまさかの優勝。IoTを活用したICTサービスを保育施設向けに展開するというビジネスモデルの意外性に加え、ほかの先進国市場に展開が可能である点も大いに評価された。ユニファとしては優勝投資賞金の100万ドルを獲得するだけでなく、海外での知名度がぐんと上がり、会社が飛躍する大きなきっかけとなった様子。小生も第1回の決勝を現地で取材していたが、日本代表のアンバサダー役を務めた堀江貴文(ホリエモン)氏が大喜びしていたのを鮮明に覚えている。

【参考記事】
米開催のスタートアップW杯でユニファ優勝、投資賞金100万ドル獲得
世界の起業家の集まるSFで、グローバル化と多様性・独創性を考える

起業家向けワークショップも

そうしたわけで、スタートアップワールドカップ決勝大会は新型コロナによる中断を挟みながらも、規模が年々拡大。通算で4回目となる今回は世界70地域以上で予選を実施しているという。そのため、1日で決勝戦を終えるのは不可能となり、9月28日にまず準決勝を行って10社に絞り込んだ上、2日後の30日に決勝戦およびネットワーキングパーティーという段取り。

ちなみに間の9月29日には、ペガサス・テック主催で現地のスタンフォード大学・カリフォルニア大学バークレー校の関係者やイノベーションに詳しい著名人を講師に招き、起業家やビジネスパーソン向けのワークショップが開催される予定だ。

さて、ニュースでご覧になった方も多いと思うが、萩生田光一経済産業大臣が訪問先のシリコンバレーでスタンフォード大学やグーグル本社を視察した際、日本の起業家をシリコンバレーに派遣するプロジェクトを今後5年間で1000人規模にまで拡充する方針を7月27日に明らかにしたとのこと。これと趣は若干異なるものの、今年のスタートアップワールドカップをきっかけに100人以上の日本在住の学生を無料でシリコンバレーに招待しよう、彼らに起業家意識やビジネス知識を高めてもらおう、というプロジェクトが動き出した。

日本の学生100人をシリコンバレーに無料で

「シリコンバレー勉強合宿スカラーシップ」という名称で、参加を希望する学生とスポンサーとなる企業・個人を募集中。ちなみに対象は、今年度に日本の大学、大学院、短大、高専、専門学校に在籍する学生。日程は9月27日~10月2日。スタートアップワールカップの準決勝・決勝戦およびワークショップに学生を招待するというのだから、なんともうらやましい限り。スポンサーの負担額は学生1人当たり渡航費・宿泊費含め40万円で、ペガサス・テック単独でも25人を派遣するという。

同社にスポンサー企業のメリットを尋ねると、「世界で活躍する意欲や能力を持った優秀な学生の人材育成に関わることができます」との説明。確かに協賛を通して意欲や意識の高い学生に直接コンタクトできるし、協賛に乗じて社名をPRする宣伝行為よりはよっぽど意義深いかもしれない。

コロナ禍で良くも悪くもリモートワークやウェブセミナーが社会に根付いたが、やはり心を揺さぶられるような体験をしたり、人間関係を築いたりするには対面での交流が欠かせない。こうしたシリコンバレーでの経験が、起業に関心を持つ学生の意識を大きく変えるのではと期待したい。

それでは皆さん、サンフランシスコの決勝大会でお会いましょう。


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