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「スタートアップワールドカップ2024」、サンフランシスコで開催、グローバルなつながりが生むイノベーション

世界最大級のスタートアップイベント「スタートアップワールドカップ2024」の準決勝・決勝大会が10月2-4日に米サンフランシスコで開催された。日本を含め世界各地の予選を勝ち抜いた84の新興企業が、シリコンバレーおよびベイエリアの投資家、大企業の担当者を前に、自社の技術やビジネスモデルを強くアピールした。先進国、途上国を問わず、スタートアップがイノベーションや経済成長のカギを握ると見られる中、投資家や事業パートナー探し、それに新たな市場を求めてと、スタートアップの活動もグローバルさを増している。

世界の106地域予選経た84社が参加

「当社はアジアで初めてスペースXのファルコン9ロケットを使って0.5U (5×10×10cm) サイズの超小型衛星の打ち上げに成功した。モンゴルのように通信環境が整っていない国では、衛星コンステレーションが最も公平かつ手頃な価格でモバイル通信網を実現する解決策になると信じている」

スタートアップワールドカップ準決勝のピッチでこう力説したのは、モンゴルのONDO Space (オンドスペース) のNamuun Bold (ナムーン•ボールド) CEO。競合品より通信速度が3.5倍高速でかつ低価格という特徴を持つという。ちなみに同社は宇宙開発事業で九州工業大学と連携協定を結んでいる。

一方、決勝大会で世界2位に輝いたベトナムのAlterno (アルターノ)。「自動車、テキスタイル、食品などの産業は製造工程でいまだに化石燃料に依存し、大量の二酸化炭素を排出している。我々は農業、食品、産業用などで使われる熱を再生可能エネルギー由来に転換するため、大量の砂に再生可能エネルギーを蓄えることができる世界初の砂バッテリーを開発した」。共同創業者のHai Ho (ハイ•ホー) CEOは決勝大会でこうピッチし、胸を張った。

決勝大会でピッチするベトナムAlterno のHai Ho CEO


すでに米ペプシコのベトナムの工場にはこの砂バッテリーが導入され、「ペプシコの他の工場にスケールアップする準備も整っている」という。さらに商談が進行中の顧客として、独メルセデス・ベンツ、食品大手の米モンデリーズ、それに日本のホンダやユーグレナなどの社名も挙げた。

カザフスタン、ガーナ、インドネシア、ドバイ、モルドバ、サウジアラビア、キプロス、タイ、メキシコ、ブラジル、ウクライナ、エクアドル、ナイジェリア…。準決勝ではこのほかにも、通常では一堂に会することが難しい、欧米や東アジア以外のさまざまな国や地域のスタートアップが次々に登壇した。

「世界中の新興企業をシリコンバレーに」

シリコンバレーのベンチャーキャピタル (VC) で主催者を務める米Pegasus Tech Ventures (ペガサス・テック・ベンチャーズ) のAnis Uzzaman (アニス・ウッザマン) CEOは、スタートアップワールドカップ開催の狙いについて「100万ドルの優勝投資賞金に値する優れたスタートアップを讃えるだけではない。世界中のスタートアップをシリコンバレーやベイエリアの投資家、VCにつなげることがより重要だと考えている」と説明する。

とはいえ、米国は世界一のスタートアップ大国でもある。今回の大会でも世界106ヵ所の地域予選のうち米国内の予選は32を占め、決勝に進出したファイナリスト10社でも実に半数の5社が米国企業だった。その中で優勝したのは地元・シリコンバレー予選代表のEarthGrid PBC (アースグリッドPBC、カリフォルニア州) だ。

優勝はプラズマ掘削技術の米EarthGrid

同社は2016年設立の公益法人 (PBC) 。超高温のプラズマを使い硬い岩盤を爆破・破砕する掘削ロボットを開発する。最大で1日あたり1kmのトンネルを掘ることができ、現行の掘削技術に比べ約100倍速く、施工コストも100分の1で済むという。しかも米全土で光ファイバーやグリーン電力網の地下インフラを整備する推定180億ドル規模の一大プロジェクトにこの技術を展開すべく、クウェート投資庁の子会社EnerTech (エナーテック) との共同企業体 (JV) 契約を9月に締結したばかりだ。

これまでに評価額が10億ドルを超えるユニコーン3社を創業し、4社をイグジットさせた連続起業家でもあるTroy Helming (トロイ・ヘルミング) CEOに今回の優勝の影響を聞いたところ、「エンジニアリングチームが次のマシンの開発を加速するための資金が増えると思う。現在1台のマシンを組み立てていて、さらに2台作ろうとしている」と明かした。米国内に限らずグローバルに事業を進める計画で、アイスランドや中東でもプロジェクト実施に向けて協定に署名済み。さらに日本のVCのMonozukuri Ventures (京都市下京区) も出資者の1社だとし、「日本やインドなどあらゆる地域で事業パートナーを探している」と話した。

優勝したEarthGridのTroy Helming CEO

日本代表の3社はどうか。残念ながら3位以内に入れなかったものの、ファイナリストに残ったヘラルボニー (盛岡市) に対する会場の人気は特に高かった。準決勝で松田文登共同CEOが、日本航空の機内で配られる斬新な色使いのポーチや、ファッションブランドの店舗を彩る障がい者アートのイメージを紹介した途端、自分のすぐ前に座っていた審査員の女性2人から「ワオッ」という歓声が上がったほどだ。

共感集めたヘラルボニー、米国進出も模索

同社は共同CEOである松田崇弥・文登の双子の兄弟が2018年7月に設立。創業のきっかけは2人の4つ年上の兄の存在。健常者と同じ感情を持つにもかかわらず、先天性の自閉症のため周囲から「かわいそう」と言われるのをずっと疑問に思い、兄の作り出した「ヘラルボニー」という「謎の言葉」を共通言語に、知的障がいのアート作家による新しい価値観を世界に広げることをミッションに掲げる。

ビジネスとしても成長し、国内外の作家の2000点以上のアートを外部にライセンスする事業の売上高が過去3年で8倍に伸び、同じくアーティストに支払う著作権実施許諾料は15倍に増えたという。

「あなたも会場の声を聞いたと思うが、ヘラルボニーが来場者の一番のお気に入りだった」。Pegasus Techのパートナー兼チーフ・エバンジェリストのBill Reichert (ビル・ライカート) 氏はこう話した上で、「素晴らしいストーリーで、しかもそれが本物のビジネスになっている。彼らのビジネスは地球上のどこでも通用する」と太鼓判を押す。

ヘラルボニーは5月に開催されたフランスのスタートアップイベント「Viva Technology 2024」で部門賞を受賞するなど、欧州での評価が高まっている。パリにある世界最大級のスタートアップ拠点「Station F (スタシオン•エフ)」に海外初の現地法人も設立し、活動を開始した。

会場の人気を集めたヘラルボニーの松田文登共同CEO

そこで米国展開について松田文登氏に尋ねると「今回サンフランシスコの福祉施設を訪問したところ、障がい者というだけでアートが安く見られるといった共通の課題を抱えていることがわかった。パリの次 (に進出するの) は米国だと思っているので、当社としてはその (プロデュース役となる) 『箱』を目指したい」と語った。

ビジネスチャンスと意識改革のきっかけに

他の日本からの参加者も決勝大会を機に決意を新たにしたようだ。

東京予選を勝ち抜いたデジタル•エンターテインメント•アセット (DEA、シンガポール)。ブロックチェーン技術を活用し、参加者がゲームでトークン (ブロックチェーンを使って発行された暗号資産) で報酬を得ながら、社会課題の解決につなげるGameFi (ゲーミファイ) プラットフォームを運営する。国内では東京電力パワーグリッド (東京都千代田区) などと共同で参加者に電力関連インフラの写真を撮影してもらう参加型社会貢献ゲームを実施し、電柱のカラスの巣を発見するといった成果につなげている。

登壇した山田耕三共同CEOは準決勝および決勝大会での1分ピッチの波及効果について「米国の大手石油会社からもアプローチが寄せられている」と笑顔で答えた。吉田直人共同CEOも「インフラ設備の監視など国内外のインフラ企業と話を進めている」と今後の連携拡大に期待する。

九州予選代表のStapleBio(ステープルバイオ、熊本市中央区)は「Staple核酸」という塩基配列が短い核酸を使って細胞内の特定のたんぱく質の発現量を増加あるいは抑制するコア技術を保有し、希少疾患などの標的遺伝子に合わせて設計する核酸医薬品の研究開発に取り組む。

取締役最高科学責任者 (CSO) の勝田陽介氏(熊本大学准教授)は、「現在、希少疾患で苦しんでいる人たちに我々のような会社が存在するということが伝わり、それが彼らの希望につながればいい。ただ決勝に進めなかったので詳細なことを伝えられなかったのは残念だが、StapleBioという会社を頭の片隅に置くきっかけにはなったと思う」と振り返る。

加えて学びもあったようだ。「研究開発レベルが同程度でも米国のバイオベンチャーは投資額が桁違いに大きい。つまり物量作戦で研究ができ、その中で一つでも成功すればうまくいくという戦略が立てられる。日本では大勢がそうした環境にはないが、自分たちの技術をどういう戦略で上市していくか、真剣に考える大きなきっかけにもなった」(勝田氏)

「非常に刺激的で勉強になった。これを受けて来年の熊本市での九州予選をしっかり盛り上げ、レベルアップしていきたい」。こう話すのは、九州予選にプラチナスポンサーとして協賛した肥後銀行の笠原慶久頭取(九州フィナンシャルグループ社長)だ。

登壇したスタートアップに記念品を渡すプレゼンターを務めた肥後銀行の笠原頭取(左から5人目)

笠原氏は決勝大会後のネットワーキングパーティーの盛況ぶりに感心しつつ、「シリコンバレーに駐在員事務所を開いてくれ、という声もずいぶんいただいている。事務所開設はともかく(シリコンバレーや海外との)しっかりした人のつながりを維持できる体制が重要になる」とし、スタートアップ支援も含め、金融機関として継続的に海外との人脈づくりに力を入れていく考えを強調した。

ビジネスもイノベーションも要は人とのつながりから。つながりを生む、つながりたくなる仕掛けがスタートアップの成長にも求められる。




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