見出し画像

米MITの新カレッジ MIT Schwarzman College of Computing、他分野と情報科学・AI組み合わせ 応用研究を推進

歴代のノーベル賞受賞者が101人と世界の工科大学の中で最も多く、世界トップレベルの大学の一つとして知られる米マサチューセッツ工科大学 (MIT) 。最先端の情報科学や人工知能 (AI) をベースに、文系理系問わずさまざまな学術分野との融合による応用研究にも力を入れている。その拠点が2020年設立の「MITシュワルツマン・コンピューティングカレッジ (MIT Schwarzman College of Computing) 」。時に企業と連携しながら、情報科学に加え他の専門分野の知見を持つ「バイリンガル」教員がプロジェクトを主導し、新たなイノベーション創出に取り組む。

「コンピューティング・バイリンガル」がプログラム主導

「我々の使命はハードウェア、ソフトウェア、量子力学、量子コンピューティング、データサイエンス、機械学習などの情報科学研究を教育とともに前進させること。ここには二つの専門分野を持つ教員も多く在籍し、コンピューティング・バイリンガルと呼んでいる」。同カレッジの戦略的産業担当ディレクター (Director of Strategic Industry Engagement) 、Aude Oliva氏はマサチューセッツ州ケンブリッジのMITキャンパスでこう話した。

Aude Oliva氏 (Director of Strategic Industry Engagement, MIT Schwarzman College of Computing; MIT Director, MIT-IBM Watson AI Lab; Senior Research Scientist, CSAIL/ 筆者撮影)

実はOliva氏自身もコンピュータービジョンと情報科学、そして神経科学の専門家。MITが米IBMと共同で設立したMIT-IBMワトソンAI研究所のMIT側ディレクタ―を務め、MITコンピューター科学・AI研究所(CSAIL) の上級科学研究員 (Senior Research Scientist) でもある。

「カレッジ」の位置付けで既存学部の壁越える

MITは建築・都市計画、工学、人文科学・芸術・社会科学、理学、経営(ビジネススクール)の五つの学部(スクール School)を持つ。それに対し、このカレッジはMIT全体にまたがり既存学部と協力して研究を進められる位置付け。「大学の中の大学であり、例えるなら他の学部と結婚して子ども(成果)を産むようなもの。学部を超えた新たな共同研究を作り出せる」と同氏は利点を強調する。

カレッジの名前は世界的な投資ファンドである米ブラックストーン・グループ(Blackstone)共同創設者のスティーブン・シュワルツマン (Stephen Schwarzman) 会長兼最高経営責任者 (CEO) から多額の寄付を受け、命名された。

複数の専門分野を持つ「コンピューティング・バイリンガル」の教員ら(Oliva氏の投影資料から)

情報科学の応用というと日本では理工学分野がまず頭に浮かぶが、「哲学から金融、生物学、化学、機械工学、核融合など幅広い分野を想定し、ある意味すべての人のためのコンピューティングを目指している」 (Oliva氏)。こうした個別テーマのもと、設立から4年で30人以上の教員が同カレッジに新規採用された。

産学連携の場合も、企業が大学に持ちかけるやり方ではなく、バイリンガル教員がプログラムを主導。プロジェクトを立ち上げたり研究成果のデモを行ったりする場合もMITの産業連携プログラム (ILP) に登録する企業会員は優先的に招待される。

Wi-Fiで部屋の中の人の活動をモニタリング

オリヴァ氏が研究事例として紹介したのは、四足歩行ロボットがAIの強化学習でゼロから脚の動きを学び自由に動きまわったり、複数のセンサーとAIで部屋の中にいる人を見守ったりする技術。

様々なセンサーやワイヤレスデバイスを使って部屋の中にいる人の活動状況や病状を見守る技術
(Oliva氏の投影資料から)

後者は電気工学と情報科学専攻のDina Katabi教授のプロジェクトで、同教授がケンブリッジで共同創業したEmerald Innovations (エメラルド・イノベーションズ) が商用化に取り組む。Wi-Fi電波で部屋の中にいる人の位置を特定し、呼吸や歩行速度、歩き方まで分析することでパーキンソン病はじめ疾病の重症度を自動モニターできるという。¶

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?