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ベトナムでの起業時に意識したい6つのこと(スタートアップ、名義借り、M&A関連)

はじめに

大企業からスタートアップまで、幅広く進出時の相談を受けますが
「その会社本当にベトナムに設立するの?」
となることもままあります。

ベトナムの会社設立はたくさんのネット情報が出ていますし、本もしっかりとした法律本が出ています。ただ、そもそも設立するかどうかという観点で、設立にかかるコストやリスクが書いてあることは少ないです。また業界として名義借りの多い分野もありますが、ベトナムで公に認められていないため名義借りに触れたり、そのリスク自体を記載しているものもあまり見かけません。

小規模な事業やスタートアップの場合、これらの情報は非常に重要なことが多いので、このnoteでは主にスタートアップに向けて設立前にしっておいてほしい情報をつらつら書いて行きたいと思います。一般的に重要な知識も書いていますので、スタートアップ以外の方にも役立つ情報はあると思います!

1. そもそもベトナムにおける会社形態とは?

・企業法で定められているのは?
さて、そもそも企業法では、以下のような形態の企業が規定されています。
 ・有限責任会社
 ・株式会社
 ・国営企業
 ・合名企業
 ・私人企業

それぞれ特徴はあるのですが、ベトナムで外資が設立するときに主に検討するのは有限責任会社と株式会社だけですので、この2つに絞って簡単に説明します。

有限責任会社 vs. ■株式会社
日本では有限会社はなくなり株式会社に統一されましたが、ベトナムでは有限責任会社が一般的。その主な違いは以下のようなものです。

有限責任会社    株式会社
□普通はこれ    ■有限責任会社よりレア
□出資者一人でも可 ■3人以上必要
□社員総会     ■株主総会
□取締役会なし   ■取締役会・会計士の社外監査役あり(原則)
□出資者の性質同じ ■配当/議決権優先株など可
□上場不可     ■可

そもそも出資者が少ない場合は有限責任会社のみとなりますし、出資者が3人以上の場合でも組織の複雑さや、社外監査役のコストを考えて90%以上は有限責任会社で設立されています。また、有限責任会社で設立後、株式会社にも組織変更も可能です。

2. 会社ではなく事業をする方法も検討してみる

では、最初から有限責任会社を設立してしまえばいいのでしょうか。
予め会社設立のコストやリスクなどを知っておく必要があります。

・いろいろなコストがかかる
外資で立ち上げる場合、会社設立にも数十万円はかかり、特殊なライセンスであれば数百万円設立コンサルの費用がかかるケースがあります(資本金はもちろん別)。
外資企業はすべて監査を受ける義務があるので、普段の管理にもコストをかけたうえ、監査法人への費用も支払います。また、外資にかかわらず、高い個人所得税や税務調査のリスクに晒されます。
これらの設立・運営のコストだけでなく、撤退しようと思っても厳しい税務調査と煩雑な手続で1年から2年の期間がかかるのがザラです。
一方、ローカル名義で立ち上げるとしても、そこから事業拡大したときの外資移行に苦労します(後述3参照)。

・他の方法の比較検討も必要
小さく始めるなら他の方法も検討できます。
余裕のある大きい企業であればまず法人を設立してから考える、というところもありますが、スタートアップでそれをやっちゃうと予想外のコストで泡を吹く場合もあります。

たとえば、ライセンスを持っている既存の会社に出向させてもらう、提携先を作り営業代行してもらう、現地のディストリビューターと日本法人とで売買する、製造ならOEMする、などなど。もちろん、技術漏洩のリスク、利幅確保など考えることは色々ありますが、最初から設立だけが選択肢ではなく比較検討すべき、というところがポイントです。

3. 名義借りの場合に頭に入れておきたい外資化の苦しみ

・スタートアップがベトナムで外資企業を立ち上げる難しさ
ベトナムでは元々法律上明確ではない(政府担当者の解釈によっても分かれるような)グレーな領域もまだ多いです。特に、ベトナムにまだない新事業の場合、ベトナム法規制の中で更に新しい分野なので、必要なライセンスが明確でなかったり行政側も明確な回答をしてくれなかったり事業を作っていくこと自体非常に難しいことがあります。
そのため、法律上・事実上規制が少ないベトナム人(ローカル資本)の名義借りが選択肢に上がってくることがあります。

・名義借りと調達・エグジットの難しさ
このように新しい分野や、特に外資の規制が多い分野などは、まだ名義借りを多くみかけますし、それが出資者個人のリスクで行っている限り(ベトナム法で明確に認められている形態でないとはいえ)すべてを否定すべきものではないと思います。

しかし、スタートアップが成長・拡大し、最終的に資金調達やエグジットをする場合、名義借りのままだと困難なケースが多くなります。実際、投資検討をする際にローカルの企業買収では、「そもそも外資でできる分野なのか、実務上の制約はないか」ということが一番大きな問題となることも多いです。最初から外資であればライセンスの問題は基本的に生じないので通常の投資判断で済むことになります。また、ローカル企業として運営してきた場合、行政当局からの調査等も入りにくい、監査も行っていないことから管理がきっちりできておらず、企業として法律・会計・税務上のリスクを抱えていることも多いです。

・外資で設立することのメリット
このように外資で設立しておくことで
 ・外資規制をクリアしている(法律上&実務上)
 ・会計監査が必要になるので最低限の帳簿の信頼性がある
 ・投資/買収時の手続がスムースになる
という点によりスタートアップ側からすると交渉がしやすい場合が多いということはいえるでしょう。ライセンスや組織管理を外資でやってきたこと自体で、こうした場面においては非常に価値があるということです。

・途中からの外資化の難しさ
もちろん、ローカル→外資に転換するということはありえますが、ライセンスを維持できるか、持分譲渡対価の設定・送金をどうするのか、これまで管理でてきていない問題をどう調整するか、という多々の問題が出るケースが多いです。そうなると、結局外資化できない、できたとしてもかなりの費用がかかる、ということになります。そのため、最初はローカル企業として設立し、その後外資化をする場合は、最初から外資化を見据えた管理をすることが重要です。

・重要ポイントを踏まえて判断を
これらを踏まえた上で、最初は知人のベトナム人等の名義で起業する、という判断をするという方もいるのは事実です(もちろん自己責任で)。ただ、ベトナムでは名義借り(ノミニー)は明確に認められていないので、名義人がその会社の所有者になりますし、名義人との間でなにか合意をしていたとしても反故にされた場合それが法律上保護されるかは明確ではありません。そうした一般的な名義人との関係のリスクは当然取ることになります(そもそも信頼関係のない方をノミニーに据えることはないと思うのですが、その関係が常に続くとは限らないです。)

4. ローカル出資者名義での設立のほうがライセンスを取りやすいのか?

外資で出資するつもりでも、「最初はローカルで設立し、その後外資化します」という話をよく耳にします。これは3で記載した途中で外資というのではなく、ローカルで設立した後すぐに外資化するという話です。

この理由として挙げられることが多いのが
 ①そのほうが設立が早く設立できる
 ②手続が簡単
 ②ライセンスの取得がしやすい
という理由です。

これは一部あたっており、一部間違っていますので注意が必要です。
たしかに設立だけなら早くできます。しかし、その後外資化する場合、持分(株式)譲渡の手続が必要となりM&Aで必要になる手続(後述5参照)を行うことになります。これは外資で設立するのと同じくらいの期間と手間がかかります。
また、ライセンスの取得についても、外資化をする際に外資設立時と同様の審査が入るため、最初ローカルでその後買収すれば外資規制がかからないというものではありません。

そのため、多くの場合は新規設立のほうが手続も1ステップで良いということになります。直近で新法人で受けなければならない仕事があり、「ハコだけでも早く作りたい!」というケースでは最初ローカルですぐ作る、という意味はあるでしょう。

5. M&A vs.新規設立

・外資での新規設立の場合
新規設立の場合の手続概略は以下のとおりです。

①IRC(投資登録証明書)取得:提出から15日以内(外資のみ)
②ERC(企業登録証明書)取得:提出から3営業日(内外共通)
 ・会社の「設立」は②時点
 ・日本で登記簿謄本や代表者のパスポート等の公証・認証書類が必要
 ・提出書類の不備で「提出」と認められるのに時間かかることも多い
 ・提出してからも上記日数より実務上時間がかかること多数

上記に加え、各省が管轄する業種については以下も必要となります。
③各省からのサブライセンス(例:小売、教育、防犯etc)
 ・サブライセンスに係る業種はこの取得をしてから当該事業開始可能
 ・多くのサブライセンスは取得に時間がかかるものが多いので注意

実態として、①②で書類準備を入れると3ヶ月くらいかかっているケースが多いです。また、合弁事業等で複数の出資者がおり、書類準備に時間がかかるケースもあります。③については、業種によるが1ヶ月程度のものから半年以上かかるものまで様々。提出する地域によって対応が異なることもあることもあるので注意が必要です。

・M&Aの場合
M&A(持分・株式譲渡)の場合、新規設立と異なるプロセスとなります。

①株式譲渡契約の作成・締結
②M&A承認(Transfer Approval)の取得
 ※制限のない業種かつ51%未満の出資であれば不要
③出資者変更手続(ERCの出資者名変更)
(④IRCの変更手続:必須ではない)

M&Aの場合、②③が、新規設立のIRC取得・ERC取得と同じくらいの時間がかかります。

・新規設立とM&Aどちらがいいのか。
ベトナムでの事業開始の方法として、既存のベトナム企業を買収するというのは一つの選択肢であり、最近非常に増えています。

M&Aの場合手続が早く済むという話を聞くこともありますが、実際は同じくらいの期間がかかります。そのため、本当にM&Aでの取得が必要なのかは慎重に検討が必要です。また、ライセンスの取得についてもM&Aであっても外資の制約はかかります。

もちろんM&Aにより既存の設備や土地使用権を取得できるため、それが必須であればこの方法によらざるを得ないケースはあります。
しかし、工業団地以外の土地使用権の取得以外であれば、資産だけの売買は可能ですので新規設立したうえで資産のみ購入ということも可能です。

ベトナムローカル企業は、運営面について厳しい管理がされておらず法務・税務リスクの塊であるケースはよくみますので、もしM&Aを取る場合でもデューデリジェンスなどでしっかり調査することが必要となります。その調査期間や費用、また譲渡条件の交渉の期間を考えると、新規設立したほうがよいという結論になるケースも多くあります。

6. 合弁 vs. 単独資本

今回は起業したいという方対象なので、日本とベトナムのジョイントベンチャーとなるケースは少ないと想定しています。そのため、合弁か単独資本かについては簡単に触れるのみにします。

合弁企業は、50:50の公平な割合で設立される場合もあり、ずっと仲が良い関係であればそれで問題ないかもしれません。しかし、経営がうまくいかない、両者の役割に差が出てくる、等により意思決定が統一できないケースも出てきます。その際、50:50ですと普通決議すらできないということになりかねません。また、その他の比率でも特別決議(有限責任会社の場合原則75%、株式会社の場合原則65%)が単独でできないという場合も多く出ます。

そのため、ほとんどの事業を自らやる場合は単独または圧倒的多数を取るべきですし、合弁にするのであれば双方の役割を明確化したうえで、上述したケースを想定し、きっちり合弁契約や定款を作り込むことが必要です。

終わりに

上記のとおり、単純にベトナムで事業の運営を開始するとしても、考えなければならないことは多数あります。設立してから困らないよう、予めこの記事に書いたことを頭に入れてもらえれば嬉しいです。

さらに、実際に運営するときの法律上、税務上の注意点についても知識としてもったうえで起業するのが望ましいのですが、この記事では長くなったので労務や税務等の最低限の知識は別記事にしたいと思います。



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