トッテナム対ライプツィヒ_1

まさにナーゲルスマン。ライプツィヒはなぜトッテナムを圧倒したのか?~トッテナム対ライプツィヒ レビュー~[フットボール戦術批評+a]

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先日発売されました「フットボール戦術批評」にて、「戦術クラスタ史上最年少"13歳のサッカー戦術分析"の頭の中」というタイトルでライプツィヒの分析記事を書かせていただいています。ご興味あれば、ぜひご一読ください。

今回題材にするのは、先日発売のフットボール戦術批評にて僕が分析を書かせてもらったライプツィヒ。クラブ史上初めて進出したチャンピオンズリーグ決勝トーナメントの一戦から、「フットボール戦術批評+a」としてさらにナーゲルスマンの落とし込んでいる攻撃戦術を分析していきたいと思います。

ライプツィヒの戦術における基礎の部分や、基盤となるビルドアップの考え方、崩し、クロスの考え方についてはフットボール戦術批評に記述されておりますので、まだ読まれていない方は興味あればそちらもぜひ。ここからの記事がより深く理解できると思います。

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序章 スコア&スタメン

トッテナム0-1ライプツィヒ
ライプツィヒ:58’ヴェルナー

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ホームトッテナムは、ロリス、オーリエ、サンチェス、アルデルヴァイレルト、デイビス、ジェドソン、ウィンクス、ロセルソ、ベルフワイン、ルーカス、デレアリの11人で4-4-2(攻撃時は3-4-2-1に可変)。監督は敵将ナーゲルマンと同じく若い頃からトップカテゴリーで指揮を執っているモウリーニョ。
一方アウェーのライプツィヒは、グラーチ、クロスターマン、アンパドゥ、ハルステンベルグ、ムキエレ、ライマー、ザビッツァー、アンヘリーニョ、ンクンク、ヴェルナー、シックの3-4-2-1(守備時は3-4-1-2に可変)。直近のブレーメン戦では3-3-2-2(5-3-2)を採用していましたが、ナーゲルスマンは違うシステムをチョイスしました。

第1章 モウリーニョの準備したライプツィヒ対策

この記事ではライプツィヒの攻撃戦術にフォーカスを当てますが、ライプツィヒの話をする前に少しだけトッテナムがどのような守備をしたのか、という前提条件について。

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トッテナムは、プレッシングは一切行わず(後半少し行うようになった)、自陣で縦横ともにコンパクトな4-4-2ブロックを形成。まずはとにかく中央を閉める、という意図が感じられました。

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考え方としては基本的にライプツィヒにボールを持たせます。後ろで回される分には全然OK。しかし、2トップのルーカス(27)とアリ(20)が背中でライプツィヒの2CH(ザビッツァー(7)、ライマー(27))を消すことにより、中央からのビルドアップを妨害。

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中央を閉めたことによってライプツィヒがサイドにパスを出すと、「人を決めて選択肢を消す」守備をします。SH(ベルフワイン(23)、ジェドソン(30))が相手WB(22,3)に対して下がって寄せ、SBは内側(HS)に位置取る相手シャドー(18,11)をマーク。相手CH(27,7)にはCH(18,8)を当てるのではなく、CF(20,27)が下がります。そのため2CHは余っている状態。サイドにボールが入ったからといってプレッシングでボールを奪いに行くというわけではなく、サイドに行っても中央を閉めることが優先。
この考えがあったため、相手CHにCHを当てるのではなくCFを下げ、CHは余らせてスペースを埋めることを優先したのだと思います。相手サイドCB(16,23)へのパスコースは空けているので、ライプツィヒからするといつでも中央に戻すことは可能。しかし、ブロック内に侵入するのは難しい。トッテナムはCB→WB、WB→CBという「U字型」のパス回しをライプツィヒにさせることによって焦らせ、無理矢理ブロック内に侵入しようとしてきたところで奪うプランだったのかなと。

第2章 「位置的優位」を最大化


ライプツィヒの攻撃にはいくつかポイントがありますが、最初のポイントは「位置的優位」です。

位置的優位とは、よく「3つの優位性」と呼ばれるうちの一つ。位置的優位以外に数的優位と質的優位というものが存在しますが、位置的優位は、相手のいない位置や、相手にとって嫌な位置に入り、パスを受けることによって、「位置」で優位に立つこと。

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先述のように3-4-2-1で攻撃するライプツィヒに対してトッテナムは4-4-2で守ります。ヴェルナーとアンヘリーニョは頻繁にポジションチェンジを行い、シックは完全なCFではなく、「偽9番」に近い少し低めの立ち位置。このマッチアップに関しては他の記事(天皇杯決勝神戸対鹿島)でも記述しておりますが、攻撃側の3-4-2-1が圧倒的に優位です。なぜなら、上図にも示したように相手のFWラインとDFラインに対して数的優位を獲得しているからです。それに伴って、相手のMFラインは、自分の前にも後ろにも必ずフリーがいる状態ですから、どの選手をマークするのか、という迷いが生じやすくなります。そして数的優位というのは位置的優位に繋がります。数が多ければ、相手のいない場所または相手がマークできない場所に位置取ることが可能になるからです。そのため元からライプツィヒは位置的優位を得ているのですが、それを戦術によって更に生かし、「位置的優位を最大化」します。

第3章 中央の五角形

ではどのように位置的優位を最大化するのか。

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ライプツィヒは、中央から攻撃を行いました。第1章で触れたように、トッテナムはサイドでは人を決めてマークし、前方へのパスコースを消すと同時にCHを余らせ、バックパスのコースは空けておく。こういった守備をしていました。そのため、サイドからの侵入は難しい。しかし、中央であれば、相手の2トップ(20,27)に対して3CB(16,26,23)が数的優位を獲得しており、トッテナムはボールを「持たせてくれる」ので、後ろで奪われる可能性は低く、安定したボール保持が可能。そのため、ライプツィヒは中央から攻撃します。

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中央からのビルドアップで鍵を握ったのが、「五角形」です。その五角形とは、2CH(7,27)+3FW(11,21,18)の5人が中央で形成する五角形のこと。

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ライプツィヒの狙いは、「相手CH(18,8)が危険な場所を埋めた後」。簡単に言えば、「相手CHが誰かをマークしたタイミング」です。なぜなら、相手CHが五角形の一角をマークした時、絶対に他のどこかで「五角形の一角」がフリーになっているからです。このビルドアップの構造と、崩しまでを実際のシーンを参考に解説していきます。

シーン①25:50-

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一つ目のシーンは25分50秒から。右CBクロスターマン(16)がボールを持っている時、トッテナムの左CHウィンクス(8)がライン間右HSスペースに位置取る右シャドーのンクンク(18)をマークしたためCH同士(8,18)の間(中央の門)が開き、そこにシック(21)が下がって顔を出します。クロスターマンはそこに縦パスを通し、シックがワンタッチでザビッツァーヘ(7)へ落とし。
このビルドアップのシーンでは、クロスターマンがボールを持っているときに相手左CHウィンクスが縦パスを警戒して右シャドーのンクンクをマークしました。そのことによって、シックがフリーになったのです。ウィンクスがンクンクをマークしなければクロスターマンはンクンクに縦パスを出していた可能性が高いので、ウィンクスは「危険な場所」を消したわけです。しかし、危険な場所を消したと思ったら、今度は別の場所(HSではなく、中央の門)にスペースが空いて、そこを使われてしまった。なぜでしょう?
これが、位置的優位です。ンクンクがライン間HSに、シックが中央の門に立ち位置をとっていたことで、トッテナム(ウィンクス)にとって危険な場所が二つ生まれました。その二つのうち、どちらをウィンクスが消してももう片方がフリーになりますし、どちらも消さなければ当然両方がフリー。
次に、シックがパスを受けたときにCHのウィンクス、ロセルソはンクンクとシックに対応しているため手前のライマーとザビッツァーがフリーに。シックはライマー(27)へ落とす。
DFラインに対して数的優位で、予め立ち位置の有利を得ているため常に空く場所はある。空く場所というのはライン間へのパスコースもしくはライン間にパスを入れられてしまうパスコース(一見CHに受けられても危なくないように見えますが、トッテナムはDFラインが数的不利なので、フリーで持たれると、縦パスを入れられる可能性が高い)ですから危険な場所。フリーにさせたくない場所です。トッテナムからすればケアしておきたい場所。それを相手CHが埋めに行った時(=他の危険な場所が空いた時)に狙いを定めて攻撃していたのです。
このように相手が埋めた場所を見極めて「後出しジャンケン」で五角形の空く場所に縦パスを通し、前進するのがこの試合のライプツィヒ。ボール保持者(主に3CB)の空く場所の見極めも的確で、高精度なプレーを見せていました。

では、このシーンを用いて崩しについても。

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ライプツィヒの場合、中央から前進したとしてもそのまま中央突破することはあまりありません。相手の守備組織を崩し、フィニッシュに持ち込む過程である「崩し」の鍵を握るプレー原則は「絞らせて大外」です。
このシーンでは縦パスを受けたシック(21)からシック→ライマー(27)→ザビッツァー(7)と繋がり、もう一度シックへ。シックがもらったタイミングで左シャドーのヴェルナー(11)がサイドから中央に向かって斜めにランニング。この動き出しによって右SBオーリエ(24)は絞らざるを得なくなり、大外がガラ空きに。そこへアンヘリーニョ(3)が進出し、シックからスルーパスを受けます。ヴェルナーは合わせることができなかったものの、高精度のグラウンダーのクロスを折り返して決定機を演出しました。

シーン② 08:10

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ワンシーンだけだと説得力に欠けますし、3つ載せると長くなって退屈かなと思ったので、二つ目だけ補足で紹介します。
分かりやすさで選んだので時系列が反対になっていますがこのシーンは8分10秒。シーン①と同じく後方でビルドアップをしている場面です。前段階で左CHのザビッツァーがパスを受けたときに、相手右CHロセルソ(18)が食いついたので、そのロセルソ(18)の脇にスペースが空きました。そのスペースのシック(21)にハルステンベルグ(23)が縦パスを打ち込み、ザビッツァー(7)がレイオフを受ける。
このシーンでは相手右CHロセルソが、ザビッツァーに食いついた。つまり手前を消しに行ったので、背後が空きました。シックに対してサンチェス(6)が寄せてはいますがシックのキープ力が勝ち、素早く落としを受けれる位置に移動したザビッツァーに渡してレイオフ成立。

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ザビッツァー(7)が落としを受けた後、ヴェルナー(11)とポジションチェンジをしてHSに位置取っていたアンヘリーニョ(3)が受け、シックへスルーパス。右CBサンチェス(6)はシック(21)が縦パスを受けたときに寄せたためアンヘリーニョには右SBオーリエ(24)がつくしかない。そのアンへリーニョを使うことでオーリエをその場所に釘付けにし、大外がガラ空きな状態を作りました。このシーンでは中央から抜け出したシックがシュートを打っていますが、左大外からヴェルナーもスタートを切っており、パスを受けれる状態でした。
「大外が空いたのにオーバーラップしてこなかったからチャンスが潰れた」。こんなシーンは様々な試合で見ることができます。きっと多くの方が見た経験を持っているはずです。しかし、ライプツィヒは別。紹介した二つのシーン以外も見てもらえるとよく分かりますが、かなりの徹底ぶり。左右両方のWBだけでなく、二つ目のシーンのヴェルナーのようにどの選手もこの意識を持っている。加えてボール保持者もきちんとその場所を見れているため、相手にとって非常に脅威となっています。

第4章 試合を通して

ここまでライプツィヒのこの試合で見せた攻撃戦術を分析しましたが、ライプツィヒはトッテナムを言葉通り圧倒していました。終盤はライプツィヒが逃げ切り態勢に移行したため、トッテナムは攻め込む時間を作りましたが、及ばず。ロセルソ、ラメラの惜しいFKはグラーチがファインセーブ。パウサを作れないライプツィヒにとって一番嫌な「ハイプレッシングをかけられる」展開にならなかったことも大きく影響していますが、2章、3章の内容が非常に高い再現性を持ってピッチ上で表現されており、トッテナムからすれば、「1失点で済んだ」という感覚でしょう。ロリスの好セーブもあって何とか凌いだものの、序盤の2,3分でライプツィヒが量産したチャンスのどれか一つでも決まっていれば、もっと派手なスコアになっていたかもしれません。トッテナムの4-4-2ブロックを操るようにフリーマンを作り、縦パスを通し、SBを絞らせ、大外を使って崩す。言葉が一人歩きしてはいけませんが、「まさにポジショナルプレー」と言うことができる素晴らしいパフォーマンスだったのではないでしょうか。

終章 総括

第1章
・トッテナムは4-4-2
・自陣に構え、縦横コンパクトに。
・中央では2トップが相手2CHを消し、ビルドアップを妨害。
・サイドでは人についてパスコースを消すが、バックパスは空ける。そしてCHを余らす。
第2章
・相手の4-4-2に対して3-4-2-1は絶好の噛み合わせ。
・噛み合わせによって予め位置的優位を得ている。
・位置的優位を最大限に活用。
第3章
・中央から攻撃。
・ポイントは中央の五角形。
・狙いは「相手CHが危険な場所を埋めた後」。
・予め位置的優位を得ており、相手にとって危険な場所を作ってある。
→相手CHがどこかを埋めにいけば、必ず違うどこかが空く。
→五角形で相手を操るように縦パスのコースを作り、前進。
・崩しの鍵を握るのは、「絞らせて大外」。
→中央からの前進で絞らざるを得なくさせ、大外を相手にとって「守れない場所」にする。
→どの選手も徹底。
第4章
・試合を通して圧倒
・開始2,3分で量産したチャンスのどれか一つでも決まっていたら、もっと得点が入っていたかもしれない。
・まさにポジショナルプレーと言える、相手を操る攻撃。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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